永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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93.進軍、開始。

 二手に別れて進軍を開始した俺達の内、ユーフィーとナルカナ、俺とアネリスは、それぞれ現在居る『理想幹』南東に位置する白の島『セネト・フロン』のミニオンを後続の皆に任せて、先に転送装置へと向かう。

 ユーフィー達はここから西、『理想幹』南西に位置する緑の島『セネア・エラシオ』へ、俺とアネリスはここから北、『理想幹』東に位置する黒の島『ミスルト・ネフィア』へ。順当に行けば、恐らく再会するのは北西にある枯れた島『ミスルテ・グリム』だろう。

 ちなみにこの島にある拠点は、西に行くのと、この島のミニオンを殲滅するついでに、世刻達が占領する予定だ。

 

「頑張れよ……って言っても、無理しないようにな」

「はいっ! 祐兄さんも、気をつけてくださいね」

 

 互いの無事と健闘を祈ってユーフィーと軽く拳を突き合わせると、その時、俺の前に永峰……ファイムが近寄ってきたので、「ファイム、どうした?」と声を掛けると──一瞬表情を綻ばせたような気がした──拳を突き出してくる。

 ……これはあれか、今の俺とユーフィーのやり取りを見てたからか。

 しょうがないなあと思いつつ、ファイムとも拳を軽く突き合わせる。

 

「ファイムも頑張れよ。世刻のことも頼むな」

「……ん」

 

 コクリと頷くファイム。

 最初は懐かれたことに当惑もしたが、だんだん小動物みたいで可愛く思えてきた……って言ったらファイムに失礼か。

 

「むぅ……望! 希美ですらあんなことやってるのに、あたしに何か激励の言葉は無いの!?」

 

 どうやら俺達のやりとりを見ていたらしいナルカナの、その矛先が世刻に向いた。

 そして俺の視線に気づいたのか、世刻が恨みがましいとも助けを求めるとも取れる視線を向けてくるけど……悪いが知らん。頑張れと肩をすくめて見せる。

 

「えー……えっと……やり過ぎないようにな?」

「ひっどっ!?」

 

 そんなやり取りにひとしきり笑った後、気を引き締めて、共に行く──とは言え、俺とアネリスは先行するのだが──メンバーの顔をぐるりと見回す。

 

「……よし。じゃあ、行こうか。後ろは任せる!」

 

 そう言い放った俺に返って来たのは、ルゥの「ああ、任された」と言う頼もしい言葉。それに片手を挙げて応えつつ、北へ向けて駆け出した。

 進むことしばし、島の北にある転送装置へ向かう最中、道中に配されたミニオンを前方に見つけた。

 

「祐!」

 

 併走するアネリスの声に「解ってる!」と応え、差し出された左手に右手を重ね、そこ──『鞘』──からオーラフォトンを剣として引き抜くと、その頃には向こうも既にこちらを補足しており、赤ミニオンが詠唱に入っているのが見えたが、俺達は速度を緩める事無く突っ込んでいく。

 

「赤きマナよ、牙を剥け……イグニッション」

 

 放たれたのは、高速詠唱によって展開される、敵全体を爆発にて包み込む先制攻撃魔法の『イグニッション』か。

 ノーマによって強化された視界に、俺とアネリスに向かって解放された赤マナが迫るのが見えるも、その理に従い俺達を爆発にて包み込む……はずであったそれは、何も起こらずただ消え去るのみ。

 困惑するミニオン。

 それも当然かと思いながら、通り過ぎ様に一閃。赤ミニオンに致命傷を負わせたのと同時、少し離れた場所に居た緑ミニオンが、その手に持つ槍を投擲する体勢に入っているのが視界に入ったが、そのままその部隊を置き去りに駆け抜ける。

 別にここで足を止めてまで無理に俺とアネリスで敵を殲滅する必要は無い。後ろには頼りになる仲間たちが続いているのだから。

 

「……突き通す……その魂までっ……」

 

 次の瞬間、背後から飛来する槍。

 周囲に風を纏ったそれは、空気抵抗によって減速する事無く超高速で迫り──ノーマによって常時発動している『観望』の力によって射線を見切り、僅かに身体を捻って躱すと、そのまま敵を無視して転送装置へと向かう。

 

「よっしゃああ! 行っくぜええええ!!」

 

 その直後、背後から聞こえる声。

 ちらりと振り返れば、俺達を追撃しようとしたミニオンの部隊が、そのさらに後ろからソルの強襲を受けたところだった。

 流石ソル。こう言う時は頼もしい。

 それからすぐに、前方に次の黒の島への転送装置と、その前に陣取るミニオンの一部隊が見えた。……あれは流石に倒さないと、次の島に飛ぶことも出来ないか。

 この島に残っているミニオンの残党だろう、左方からは別に神剣反応が近づいているが、そちらはミゥ達に任せて良いだろう。

 そう判断し、剣を構えて敵に向かって突っ込む寸前、轟音を立てそのミニオン達が三体まとめて爆発に包まれた。

 先にその身に納めたイグニッションを解放したのだろうアネリスとちらりと視線を交わし、彼女にマナを流しつつ、爆炎に紛れて敵に肉薄する。

 振りぬいた剣は眼前の青ミニオンを切り飛ばし、俺はそのままその後ろに居た黒ミニオンへ。そして俺の横では、アネリスがオーラフォトンで創られた、大剣状の『悠久』に似た形状の剣を持って、白ミニオンと対峙していた。

 接近する俺に合わせて抜刀してくる黒ミニオンの刃の軌道を視切り、紙一重で躱す。その際に黒ミニオンの背後へと回り込み、振り切った体勢のミニオンへ刃を突き立てるも、身を捻られて浅く入るに終わった。

 

「解放、『ライトバースト』!」

 

 何とか躱した、とミニオンがほんの少しだけ油断したらしい気配を感じ、その瞬間にオーラフォトンブレードを構築していた神剣魔法を解放し、炸裂させる。

 極至近距離で産み出された閃光と衝撃は黒ミニオンを直撃し、体勢を整えて反撃に転じようとしていた青ミニオンを巻き込んで吹き飛ばした。

 そのまま踏み出し、俺の生み出した閃光によって大きな隙の出来た白ミニオンを斬り捨てて居たアネリスの横を通り過ぎ、俺自身を通じてアネリスの『鞘』から再びオーラフォトンブレードを抜き放ち、体勢の崩れている青と黒のミニオンへ。

 ……んー……やっぱり、アネリスから直接引き出した方が、オーラフォトンの密度が濃い気がするな。

 この分だと、納める場合も俺を通した場合はロスが多く出ていそうだ。……ま、アネリス個人が居る分戦力が増えているから問題ないんだが。

 

「黒の衝撃……耐えられる? カオスインパクト……」

 

 俺が懐に潜り込む直前、体勢が崩れたままに放たれた神剣魔法は、しかして俺を通じてアネリスの中へと納められ、その範囲から外れた僅かな部分のみが、怨恨のマナの衝撃波に包まれた。

 驚いた顔のミニオン。それに構わず懐に飛び込み、切り伏せる。

 その隙に青ミニオンは一端距離を開けようと飛び退り──。

 

「『ダークマター』!」

 

 レーメの放った超重力の一撃によって押し潰され、マナの塵と消えた。

 とりあえず一息。

 アネリスを見ると、今しがた使っていたオーラフォトンブレードを己が内へと再び納めているところで。

 

「……それにしても、武器の形まで似せなくてもいいんじゃないのか?」

 

 そう訊くと、「其れがのぅ」と少々困った様に答えるアネリス。

 

「如何やら姿に引き摺られておるのか、妾としても無意識に此の形になっておったわ」

 

 まあ、使えるし問題は有るまい。そう続けたアネリスへ、「それもそうか」と返し、

 

「さ、次の島に行くぞ」

 

 そう促して、転送装置へ足を踏み出した。

 

 

                  ◇◆◇

 

 

 ここ、『理想幹』への再突入を果たし、進軍する『旅団』を見やる二対の目がある。

 その内の一人、スールードの冷厳な、それでいて鈴を転がすような声が、静かに響く。

 

「さて……期待通り彼等は再びこの地に足を踏み入れてくれましたね。あとは、首尾よくあの二人を追い詰めてくれると良いのですが……」

 

 そしてその視線をちらりと隣に立つイャガへ向けると、彼女は「そうね」と小さく頷く。

 

「尤も、そうでなくてはこちらが困るのだけれど。……それにしも、まさか『叢雲』が出てくるとは思わなかったわ」

 

 イャガは困ったような、それで居て楽しそうな口調で言う。「流石にまだ(・・)アレは食べられないわよね」と。

 そしてその視線をつと、たった今『黒の島』へ足を踏み入れた青年へと向けた。

 

「ところで──彼は一体“何”なのかしら、ね」

 

 この(・・)イャガが彼を見たのは、以前彼等がこの『理想幹』から脱出する時のみ。だと言うのに、はっきりと解る。あの時とは全くの別人だ、と。

 あの時の彼から感じた気配、力……いや、“マナそのもの”とは、明らかに違っているのが解る。そう、彼から感じるマナの気配。それは、まるで、自分達の様な──

 

「まったく……」

 

 そこまで考えたところで、スールードのポツリと漏らされた声に思考を中断し、彼女の顔を見る。

 そこでイャガは、予想外なモノを見た。

 イャガが認識する限り、スールードは随分と彼に執着していたはず。

 彼の状態が自分の想像通りであるならば、彼女の性格や好みを考えるならば、きっと激怒している事だろうと思ったのだが──そこにあったのは、

 

「貴方は……そう言う決断に及びましたか。……仕方ない、のでしょうね。あの時(・・・)の貴方の状態を考えるならば」

 

 少しだけ怒った様な、残念がっている様な、困った様な、寂しそうな。

 

「それにしても、貴方と言う人は……一体何処で“パートナー”を見つけたのやら。……ふふっ本当に、楽しい人です」

 

 でもどこか嬉しそうな。そんな、複雑な表情をした『少女』の姿。

 そんな彼女へ、つい「意外ね」と声を掛けてしまい、スールードはそれで自分の考えが口に出ていたのを悟ったのだろう、こほんっと小さく咳払いを一つ。

 

「何が意外、でしょうか?」

「くすくす……いえ、もっと激怒するかと思っていただけよ」

 

 そのイャガの答えに、なるほどと頷くスールード。

 

「……確かに、私が『スールード(わたし)』である以上、そう思って当たり前でしょうね。とは言え──」

 

 ──『鈴鳴(わたし)』としては、これで良いとしか思えないのですが。

 

 その呟きはイャガに届く事は無く。風に流れて、溶けて消えた。


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