永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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理想幹2
92.『理想幹』、再突入。


 分枝の海を泳ぎ、ものべーが進む。

 その背に乗せられた学園の校舎、その屋上に集まった俺達の視線の先に、この時間樹の中心たる地、理想幹と、それを覆う障壁が姿を現す。。

 怪しくも美しく七色に輝き、されど招かれざる者を頑なに拒む、強固な障壁。

 今から俺達が行うのは、その障壁に穴を開けて内部へ進入することだ。

 攻撃の始点となるは世刻。まずは彼の一撃により、次に続くユーフィーや俺、そして内部に居るサレスへ、タイミングと攻撃を当てる場所を示す重要な役割だ。

 障壁を一睨みし、『黎明』を構える世刻。それに合わせてユーフィーも『悠久』を構え、マナを篭めていくのが感じられる。

 俺もまた、既に肘まで生身となった『観望』で出来た左手をアネリスと繋ぎ、ナナシとレーメにサポートをうけつつ、アネリスを通して魔力を練り上げ、ただ“一撃”を創り上げていく。

 

「よし、行くぞ!」

 

 先ずは世刻による合図になる一撃。

 練り上げられ、気合の声とともに撃ち放たれた世刻による『浄戒』の力が乗せられた攻撃は、確かに障壁へと突き刺さり轟音を上げるも、残念ながら障壁に変わった様子は無いようだ。

 さて、俺達の出番は僅か60秒後……ってわけで、俺は創り上げた“力”をいつでも放てるよう、形として顕現させる。

 俺の手の中へと現れた、赤黒く輝く『槍』から感じる力は、今までのものよりも遥かに強く、重く感じられた。

 

「最初はただの合図とはいえ……今の一撃でもこうもびくともしないと嫌になるな」

 

 世刻の攻撃による光景を見ていた暁がぽつりと漏らし、同意するように「まったくですね」と頷くスバル。

 そんな折、時間を計っていたナーヤが声を上げた。

 

「55、56…………今じゃ!」

「はいっ! 祐兄さん、行きます! てりゃあああああああ!!」

「ああ。続くぞ、アネリス! ……撃ち貫け!」

 

 カウントに合わせて力を練り上げていたユーフィーは、そのマナを解放し、砲撃の如き一撃を撃ち放ち、それにワンテンポ遅らせ、俺もまた創り上げた一撃を解き放った。

 そして俺達の攻撃と時を同じくして、障壁の向こうにも光が膨れ上がり──ユーフィーとサレスが放ったであろう攻撃が、先に世刻が一撃を与えた場所へと寸分違わず突き刺さり、轟音と共に衝撃を生み出し、分枝の海が大きく揺れた。

 それに続き、ユーフィーとサレスによって大きく負荷を掛けられた障壁に着弾する、俺の一撃。

 “破壊と消滅”の性質を持つ魔力の塊となったそれは、まるで染み入る様に障壁へと消え──その直後、鮮烈な魔力光を発し、マナの嵐が吹き荒れる。

 それが収まった時には、砕けるでも割れるでもなく、ぽっかりと、丸い“穴”が障壁に空いていた。

 そして次の瞬間、その穴を基点とするように放射状に皹が入り、まるでガラスが砕けるように、障壁が崩れていく。

 一連の現象が収まった頃には、理想幹を囲む強固な結界であったそれには、ものべーが悠々と通れる程の大穴が開いていた。

 ……ふむ。今回行ったのは今までの創り方ではなく、ナナシとレーメのサポートがあるのは当然だが、そこに更にアネリスの『鞘』を加えたやり方。ある種実験にも近かったけれど……恐らく、もう一段階上に行けそうだ。

 

「よし、突入じゃ!」

 

 そして放たれたナーヤの号令により、ものべーは障壁の穴へ飛び込み、俺達は再び『理想幹』の地を踏む事となる。

 

 

……

………

 

 

 突入時にものべーの上から全体が見える間に、ノーマを呼び出して『観望』の力を活性化。強化した視界でマナの流れを視れば、各島間は繋がっているが、中心島が隔離されているのが解った。

 そしてそれぞれの島に一つずつ、マナ溜まりの様な場所──恐らくは拠点であろう場所が在る事も。

 そこまで視て漸く思い出した、“原作”における、ここでの作戦の記憶。確か、全ての島の拠点を占領しないと、中心島に飛ぶ事が出来ないようにされているんだったか。

 視えたマナの流れと、恐らくそう言う仕掛けだと思う、と言う話をナーヤにすると、それを踏まえて作戦を立てた方がよかろうと、今回の臨時隊長であるユーフィーにアドバイスしていた。

 とは言え、あまりそれにこだわってしまうと奴等の思う壺であろうから、あくまでユーフィーの感覚をメインにするように、と付け加えていたが。

 それはそれとして、やはり『観望』の能力は便利だなーと改めて思う。

 けれど不思議なことに、『観望』それ自体は俺の中に有るのだから、普段から何とか使えないかと思っても使えないのだ。恐らくではあるが……一度“核”を著しく損傷し、“自我”と呼べる物を失ってしまったからだろう。

 だからだろうか、ノーマを出していればノーマを介してその能力──『視る』と言う力を使う事が出来るんだけどな。

 だったらずっと出しておけばいいじゃないかと思うだろうが……ノーマの図体は結構でかい。故に目に付きやすく、戦場に連れて行けばミニオンに狙われる可能性がある。

 いや、ノーマ自体もそこそこの戦闘力はあるんだが。その姿──双尾の雪豹──の通り、動きは俊敏だし、爪や牙の一撃は人であれば容易く戦闘不能に出来る。だが、ミニオン達が相手となると、やはり辛いと言わざるを得ない。

 一対一ならばいい。だが、ミニオンは大概集団で襲い掛かってくるからな。ノーマの長所である『速度』が生かせない場合もあるだろう。

 つまり、乱戦で有れば有る程、ノーマを出すとノーマが危険。だが、『観望』の力の真価が発揮されるのはむしろその乱戦であると言う悪循環。

 ではやはり戦闘時に『観望』の力を使うのは無理なのか。

 そう思った矢先、俺は不意にその問題の解決策を思いついた。ヒントはものべーである。すなわち──

 

 ……俺達が降り立ったのは、『理想幹』南東に浮かぶ白の島。

 どうやらサレスはここには居ないようで、タリアが不安そうにして、ソルに励まされている。俺としては“原作”を鑑みずとも然程心配はしていない。だってサレスだし。大丈夫だろう。

 ものべーから降り立った直後に会敵したミニオンの一部隊を一気に殲滅した俺達は、周囲を警戒しつつ集まり、これからの行動を話し合う事にする。

 今居る場所は、サレスの手紙と共に残されていた彼の手書きの簡易マップによると、『理想幹』を構成する7つの浮き島の中で南東に位置する、白の島『セネト・フロン』。辺り一面雪に覆われた、白銀の島だ。

 そうなると当然気温は低く、じっとしていると結構寒い。敵と戦って動いている間は気にならないんだけどな。そうなるとだ、肩に座っていたナナシとレーメが、じっと訴えるように見てくる訳で。

 ……はぁ。

 仕方ないなぁと苦笑しつつ、懐に入れてやる。まぁ、これはこれで俺も暖かいから良いんだけどな。

 と、その時、俺の懐に既に入っていた先客(・・)が、ナナシ達がもぐりこんだせいで居心地が悪くなったのだろう、文句を言う様に「ぐるる」と小さく喉を鳴らしたので、我慢しろとひょこっと出した頭をぽんぽんと撫でてやる。

 その俺達の様子を、カティマが恍惚とした表情で視ているのは……ちょっと怖い。

 

「…………はぁ……ちびノーマ……可愛い」

 

 ──そう。先に挙げた解決策。それがこれ、(ウィル)の分離である。

 ものべーが魂の分離によりちびものべーを産み出して永峰と一緒に居るように、ノーマもまた魂を分離させて常に顕現させておけばいいんじゃないかと思った訳だ。

 その結果出てきたのが、仔猫状態のノーマ……カティマ命名ちびノーマである。そのまんまだな。

 試しにその状態で『観望』の力を使ってみれば、流石に本体ほど強力ではないが、ある程度の『視』力の強化が可能だった。

 「ある程度」とは言え、それはあくまで精度や強さの問題であり、その種類は変わらず、マナの流れを見極める視界から、純粋な視力や動体視力の強化等多岐に渡る。となれば、これは使わない手は無いだろう。

 そんな訳で、それこそ全力を出す時には本体を顕現させるが、それ以外のときは分離体を俺の側に置いておこうと言う事になったのである。

 ……それはさておき。

 周囲の敵を殲滅した俺達は、自然とユーフィーを中心に一箇所に集っていく。

 全員が揃った直後、

 

「さて、これからどうするよ? 一日隊長さん」

 

 ソルがそうユーフィーへ声を掛けると、彼女は「んー……」としばし唸る。

 皆が固唾を呑んでユーフィーの言葉を待つことしばし、やおらぽんっと手を打って、「よしっ、決めました!」と言い放つユーフィー。

 

「それで、どうするのじゃ?」

 

 問いかけたナーヤに対し、ユーフィーは「えっとですね」と前置きし、

 

「部隊を2つに別けて、時計回りと半時計回りに同時に進軍します!」

「うんうん、それで?」

 

 それからどうするの? とワクワクしながら問いかけるルプトナ。そんな彼女に、ユーフィーは一瞬「ふぇ?」と戸惑って、

 

「えーと、その、あの、そ、それぞれ全軍突撃です!」

「──っはは」

 

 その余りに豪快な作戦に、思わず噴出しそうになって、それに気付いたユーフィーが「もう、笑わないでくださいよぉ」とむくれてしまった。

 

「じゃあ、祐兄さんならどうしますか?」

「俺? ……そうだな……」

 

 問われて考える。二手に別れるなら、戦力は均衡していたほうが良いだろう。となると……。

 

「まず、時計回りはユーフィーとナルカナが、半時計回りは俺とアネリスが先行して、敵を引き付けつつ混乱させ、その隙に『全軍突撃!』だな」

 

 最後の部分をユーフィーの真似っぽく言ってやると、「もぅっ」といいつつ笑みを浮かべるユーフィー。

 

「ん……祐兄さんと一緒に行けないのは残念ですが……よしっ。じゃあ、その作戦で行きましょう!」

「おいこら」

「うぅ……だって良い作戦だなって思ったんですもん。良いじゃないですか。ね?」

 

 ユーフィーがそう言うと、周囲の皆も同意しやがった。

 ……いや、別に良いけどさ。

 その後、残りのメンバーがどっち回りに行くかを決めて、俺達は行動を起こす。

 時計回りで行くのは、世刻と永峰、暁、ルプトナ、カティマ、ナーヤ、スバル、ヤツィータ。反時計回りで行くのは、ミゥ、ルゥ、ゼゥ、ポゥ、ワゥ、タリア、ソルラスカ。

 メンバーも決まった。さあ──いざ、『理想幹』攻略と行こうじゃないか。


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