永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
神社を後にし、街中へ向かうために住宅街を抜けている最中、一瞬小さな“気配”を感じた。
「っ!?」
隣を歩いているユーフィーも何かを感じたか、ぴくりとした後訝しげな表情を浮かべている。
その直後、後ろから「うわっ」と言う声が聞こえたので振り返と、そこに居たのは、二人組みの少女。
一人は青髪を後頭部でまとめた、活発そうな子。驚いた表情を浮かべているので、今の声はこの子か。
もう一人は肩口までの髪をツーサイドアップにした、大人しそうな雰囲気の子。
目に付いたのは、その首から下げられ、胸元に光る小さな石。それから感じるのは──
「……小さいけど……神剣反応……? なんだろう……
ぽつりと漏らされたユーフィーの声。それに「え?」と、他の皆が反応した処で、もしかしてと思い至る。
その間の大人しそうな子は「小鳥ってば……失礼だよ?」なんて、隣の活発そうな子を
先程感じた小さな“気配”。それは、佳織が首から提げた石──彼女の兄たる
本来、永遠神剣が砕かれたなら、それはマナへと還っていく。にもかかわらず残った『求めの欠片』。
……高嶺悠人がエターナル『聖賢者ユート』になった後も、消えずに残った絆の欠片。
それは紛う事無く『
だからこそ──聖賢者ユートの娘たるユーフィーがそれに気付いた。……今こうして俺達が出会うことが出来たのも、永遠神剣の──否、“絆”の導きか。
まあ折角逢えたのだし、どうせならと思い、とりあえず驚いた声を上げた子──小鳥──の方に「どうかしましたか?」と声を掛けてみる。
「あっ! その、ごめんなさい! ちょっとびっくりしちゃって」
そう言う彼女の視線を追ってみる。
そこに居たのは……フィア?
うん、いつもどおりのフィアが……って、あ。
「?」
俺の視線を受け、きょとんとした風に小首を傾げるフィア。
そんな彼女に、小鳥がぽつりと一言。
「……メイドさんって初めて見た」
「あ」
その一言で自分の服装を思い出したのだろう。しまった、と言う顔をする彼女。
その視線がこちらを向いて、目が合って互いに苦笑い。
「……余りにも慣れすぎて気付かなかったな」
「……はい。私も我が事ながら、もう何の違和感も感じてませんでした」
慣れって怖い。
はははと乾いた笑いを上げる俺達。一方でミゥ達やユーフィー、エヴォリアなんかは、「この世界」の常識がまだないために、どこか変なの? と言った顔をしているが。
うむ。少なくともこの国では、特殊な場合を除いてメイド服など着ないのですよ。
とは言え今現在フィアがメイド服を着ている事に変わりないわけで。さて……何と言えば良いものか。
「あー……これは……」
「これは!?」
なんでメイドさんなんて連れてるの!? と言わんばかりに聞き返してくる小鳥。そんな興味津々な顔をされても、気の利いた答えは返せないぞ。
「彼女の趣味?」
「よりによって出てくる理由がそれですか」
「むしろ趣味と言うなら
元はと言えば彼女の師匠の趣味なんだが。って言うかおい、俺が言うのもなんだが、発言には気をつけてくれ。
「……きゃーっ! ご主人様だって、ご主人様! 何かすっごいね、佳織!?」
「ちょ、ちょっと! 小鳥ってばっ!」
……ほら、言わんこっちゃ無い。
その後、何故だか興奮冷めやらぬといった雰囲気の小鳥を宥めるのに、しばしの時を要したのは言うまでも無い。
その間にユーフィーに、目の前の彼女──佳織が、ユーフィーのお父さんの妹だよ、と耳打ちしてやると、本当に?! と驚いた表情を浮かべた後、嬉しそうに破顔する。
本当だよ、とは言っても、それを本人に確認するわけにはいかないのが辛いところだけどな。だって彼女は──『何も知らない』のだから。そう、自分に兄が居たと言う事も、無かった事になっているのだから。
それはユーフィーも解っているからだろう、今度は少し寂しそうな顔で、コクリと一つ頷いた。
その後、小鳥が落ち着くのを待って、互いに簡単に自己紹介。
どうやら彼女達は、俺達の格好を見て──フィアを除いて全員、物部学園の制服姿だ──どこかの学校の修学旅行だと思っているようで。
……うん、まあ、当たらずとも遠からずってところか。
佳織には、「それにしてもこんな何も無い街に来るなんて」と言われてしまったので、笑って誤魔化しておいたが。
…
……
………
結局、佳織と小鳥の二人にしてみれば、俺を除いて全員外人の女の子ばかりと言うこの集団に興味を持ったか、「良かったら暇なんで案内しますよ?」と申し出てくれた小鳥に甘えて、この似て非なる世界の『探索』に付き合ってもらった。
ユーフィーも嬉しそうにしていたし、良いかなと言うのが一番の理由ではあるけれど。
別れ際にはすっかり皆仲良く──特に小鳥とワゥ、佳織とユーフィーとポゥが──なっていたな。
『探索』と言っても、俺達にしてみればもう目的は達しているのだけど。
明くる翌日の朝、「いい加減帰るわね」と言い、前日に買い込んだ──無論、俺の奢りである──土産を抱えて『門』をくぐるエヴォリアを見送って、その日も探索と言う名の観光にいそしんだ。
去り際にエヴォリアが「今度は妹も一緒に遊びに来るわね」なんて、悪戯っぽく笑って言ってたのが印象的だったが。
……何と言うか、彼女なら本当に来そうだな。なんて思ったけど……でも、きっとその頃には──。
……これ以上は、今はいいか。
そしてその日の夕方。街から帰って来た世刻と永峰が、『出雲』の情報を持ってきた。
とは言え流石に今日これからだと遅くなりすぎるだろうと、その更に翌日の朝に『出雲』へ向けてものべーを発進させる。
巡航速度で西北西に飛ぶこと一時間。
「ねえ、あそこじゃないかな!?」
ルプトナが指し示す窓から見える場所、山間の谷間が淡く光って見えている。恐らくあれは……『出雲』を一般人から隠す結界か。
その結界は、ものべーが近づくに連れて薄くなり、解除されていく。
それに連れて見えてきたのは、『出雲』に在する大社。
そこから伸びてきた光に沿って、ものべーは静かに降下していった。
「皆、何が起こるか解らん。戦闘の準備は怠らぬようにな」
注意を促すナーヤの声に応え、各々その身を戦装束へ包み込み──
「あれ、祐ってば、ちゃんとした格好になったのね」
おもむろにそんな事を言ってきたのはゼゥである。
人聞きの悪い……と言うか、誤解を招きそうな言い回しは止めてくれ、と言ったところ「永遠神剣を手に入れてからも学園の制服で戦ってたくせに何言ってるのよ」と言われてしまった。いいじゃないか。どうせマナで造ってるんだし。
ちなみに今の俺の服装は、黒字に白いラインで、円と線を組み合わせた文様の入った、膝下あたりまである長さのトレンチコートっぽい外套に、腰周りや胸部等と金属っぽいプレートで補強した濃いグレーのインナー、補強材と同じような材質のブーツである。硬くて歩き辛そうに見えてそうでもない辺り、謎金属である。まあマナで出来ている以上はそう言う物なのだろう。
ちなみにこの外套に入った文様、アネリス──『調和』の本体に入っている文様の、白黒逆転バージョンである。『調和』は白地に黒いラインだからな。
アネリスが言うに、白色と黒色は『天位』と『地位』を、線と円は『剣』と『盾』を表しているのだとか。
そんな会話をしながらものべーを出て、俺達は『出雲』へ足を踏み入れる。
さて──いよいよナルカナの登場、か。……何事も無く済めば良いんだろうけど……無理、だろうなあ。