永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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85.二度目の、初陣。

「えーと……」

 

 何ともグダグダな状況に陥ってしまった現状に、さてどうしたものかと呟いたところで、はっと気が付いた時深が「ゴホンッ」と一つ咳払いをし、改めて俺に対して向き直る。

 

「と、とにかく、私と一度勝負をしましょう。それで全てが解る、とは言いませんが、刃を交えて見えてくるものもあるでしょう」

 

 ただし、やるからには本気で来て下さい。と、今度は角が立たないように言う時深さん。

 だが、対するアネリスは「くふふっ」と不適な笑みを浮かべる。……っておい待て。

 

「……良いのか、娘? こちらが本気になれば、ぬしが勝てる可能性は万に一つも無うなるぞ?」

「っ! ……いいでしょう。そこまで言うのでしたら、私が勝ったら貴女……アネリス、と言いましたか。貴女には先程からの暴言、誠心誠意を持って謝っていただきます!」

「ふむ……良かろう。では祐が勝ったら……ほれ、祐、何か望みは無いか?」

「……は?」

「は? では無いわ、阿呆。あちらが勝った時の褒美を提示しておるのじゃ。此方も何か求めねば割りに合わぬであろうが」

 

 えー……。

 何を当たり前のことをと言うように、半眼で言ってくるアネリス。いやいや、自分から喧嘩吹っかけてそれはどうなのよ? ……と思ったところで、ふと時深の横に居る綺羅と目が合った。

 ふむ。

 

「よし、じゃあ、俺が勝ったら、俺の気が済むまで綺羅の尻尾をもふる」

「何ですかそれはっ!?」

「良いでしょう」

「良くありません!」

 

 確か綺羅は、余り感情の発露が激しく無いタイプだったはず。にも関わらず、「何でそんな簡単に了承するのですか!」と勢い込んで時深に詰め寄る。それに対して時深は、「私が勝つから大丈夫ですよ」と受け流していた。

 

「それに、仮に万が一もしものことが有ったとしても、そんな貴女の姿を見るのも面白いですし」

「うー……」

 

 こちらに恨みがましい視線を向けてくる綺羅。ちょっと可哀想かもしれない。

 そんな不憫な綺羅に時深が「では、下がっていなさい」と声を掛けると、それと共に、神社の境内にピンと張り詰めた空気が満ちていく。

 そして俺の前に佇む戦巫女は、その手に提げた剣を静かに構え、告げる。

 

「カオス・エターナルが一員にして『出雲』の戦巫女。『時詠のトキミ』……参ります」

 

 ひたとこちらを見据えて来る彼女の視線は、さあ貴方も構えなさいと雄弁に語っていて……どうやら逃れられないらしい。

 やれやれ……余り気乗りはしないけれど、仕方ない、覚悟を決めよう。

 

「……アネリス」

「うむ」

 

 短い返事と共に俺の隣へ進み出るアネリス。

 対して時深は、なぜ彼女が? と一瞬訝しげな表情を浮かべ──キンッと、光と共にアネリスがその姿を真なるものへと変えた瞬間──その表情を驚きのものへと変えた。

 背後からも、ざわざわとした気配。

 フィア以外は、アネリスが神剣としての姿に変わるのを見たものは居ないから、きっと驚いているんだろう。そう、その正体が神剣だと知らされていたとしても、こうして実際に目にしなければ、中々実感できるようなことではないから。

 俺の横に浮く、一振りの『鞘』。それをそっと掴み取り、腰に佩びる。

 

「……そんな、まさか……彼女は、神剣の化身……?」

「……だから先程、あの時と同じ質のマナが感じられたのですね……」

 

 時深の言葉に続いて漏れた綺羅の声に、首肯して返す。

 ……さて。本気で来いとは言え、どこまで見せたものか。そう思った所で、直ぐ側に慣れ親しんだ気配が二つ。

 

「さて、マスター。参りましょうか」

「この際だ。出し惜しみなしで行こうではないか」

 

 そんなナナシとレーメの言葉に続き、アネリスの“声”が脳裏に響く。

 

<二人の言う通りじゃ。さあ、我が主様。我等の力、存分に魅せ付けてやろうではないか>

 

 やる気満々な三人の様子に、やれやれと苦笑が漏れた。

 まあ、殺す殺されるって言うような勝負でもなし、やれることをややってやろうか。

 

「よし。……ノーマ、来い」

「──グルァアアア!!」

 

 言葉に続いて背後に顕現するは、双尾の雪豹。

 発せられた咆哮が響き渡り、ノーマに後ろで“視て”いるように指示すると共に、ズグリと俺の“中”の『観望』が鳴動し、俺の視界は微細なマナの動きを映し出すモノへと変わる。

 

「──待たせた」

「……いえ。では、貴方の本気──見せていただきましょう」

 

 その言葉に答える代わりに、腰に佩びた『調和』へと左手を添え、構えたところで脳裏に響く、アネリスの声。

 

<祐よ──“肝心なこと”を忘れておるぞ?>

 

 ……何だ? と思った所でふと、そういえば未だ自分が“名乗って”居ないことに気付いた。

 やれ、気付いたか。と、少し咎めるような雰囲気のアネリスへ、ごめんと返し……いやはや、“俺達”の“初陣”だと言うのに、ダメだなこんなんじゃ。

 

「……改めて、名乗らせてもらおう」

 

 『青道祐』ではない、もう一つの名を。そう──永遠存在(エターナル)としての、己が名を。

 

「俺の名は、『ユウ』……『鞘』の護り手たる永遠神剣第一位『調和』が担い手。“調律の守護者”。エターナル『調和のユウ』だ」

「…………え?」

 

 俺の名乗りに対して返って来たのは、そう、まるで、「信じられないことを聞いた」と言わんばかりの表情と、そんな声。

 次いで、若干の間。

 

「な……何ですか、第一位って! 聞いてませんよ!?」

「まあ、今初めて言いましたから」

 

 さっきの反応から予想ぐらいはしてるかと思ったが、流石に『第一位』は聞き捨てならなかったらしい。まあ、彼女の周りの第一位と言えば、“あの”ローガスやナルカナだからなぁ……。そんな彼女の反応も頷けるのだが。

 とは言え、前述の二人のような傍若無人な強さを見せれるか、と言われると困るが。

 時深は一度小さく息を吐くと、次の瞬間にはその視線を、今まで以上に鋭いものに変えて、此方に向けてくる。

 ……動揺したのは最初だけ、か。流石だな。

 やれやれと溜息を吐きたくなる気持ちを抑え、『調和』へと静かにオーラフォトンを流し込んでいく。

 さて──。

 

「……行くぞ! イン・フェル レイ・ウィル インフィニティ……『()《カントゥス ベラークス》』」

 

 神剣を構え、ただ静かに此方を見据える時深に対し、一歩踏み出しながら、口中にて『力ある言葉』を紡ぎ、解き放つ。

 瞬間、身体の隅々まで満ちゆく魔力(マナ)。そしてそれを感じた身体中へ散った『観望』が歓喜の声を上げ、喰らい、劇的な化学反応を起こすかの如く、爆発的な力を俺の身体へ与えてくれる。

 

「『セイント』!」

「『シルファリオン』!」

 

 そしてそれに被せるように、ナナシとレーメによって発動される強化アーツ。

 踏み込む二歩目は疾風(かぜ)の如く。踏み抜く三歩目は、迅雷の如く──彼我の距離を一息に零にし、その懐へ飛び込む!

 右手は『調和』の鯉口へ。抜き放つは居合いの剣。脳裏に描くは『暁天』の一撃。『調和』に籠めたオーラフォトンを──解き放つ!

 

「生者、必滅!」

(はや)い! ですがっ!」

 

 一気に懐に飛び込んだ俺の動きに驚きつつも、きっちり俺の攻撃に合わせて『時詠』を繰り出してくる時深。

 その攻撃の軌道を“視”て取り、流石に無理かと判断。振り抜く右手の軌道を無理矢理変えて、時深のカウンターへと攻撃を合わせる。

 互いの攻撃を互いの武器が受け止め、生まれるは一瞬の膠着。

 

「……なるほど、その形状の神剣からどのような攻撃を繰り出してくるかと思いましたが……オーラフォトンで出来た剣ですか」

 

 自身の『時詠』の刃と鍔迫り合う俺の“剣”を見て、時深がそう漏らした。

 それに答えることなく、俺は一度ぐっと押すように力を籠め、それに抵抗して時深が押し返して来たのにタイミングを合わせ、今度は逆に力を抜きながら刃を傾け、受け流す。

 そしてそのまま流れるように時深の後ろへ回り込み──ズンっと、異常な感覚。そう、まるで、時間の流れが零に近くなったかのような。

 次の瞬間、俺の眼前から時深の姿が掻き消えた。

 瞬間移動……じゃない、時間を削り飛ばす『タイムリープ』か!

 それを認識した瞬間に、俺は視界を、後方から戦場を視るノーマとリンクさせる。

 

「甘いですよ」

 

 その声が聞こえたのは、俺の真後ろから。

 けど大丈夫。ちゃんと“視”えている──!

 

「これで──なっ!?」

 

 時深の声と共に、振りぬかれる『時詠』。俺はその軌道に合わせて屈んで躱し、完全な死角からの攻撃を躱され、驚く時深に対し、立ち上がり様に振り向きながら、オーラフォトンブレードを横薙ぎに振るう。

 

「『スパイラルフレア』!!」

 

 俺の攻撃に合わせて放たれるレーメの声。

 指定地点を中心に、白熱した炎熱の矢を乱舞させる範囲アーツであるそれは、定められた効果の通り、幾条もの炎の矢を時深に向かって降り注がせる。そのすぐ側に居る俺もろとも。

 

「っ!?」

 

 時深は俺とレーメの攻撃を咄嗟に飛び退って躱し、それを追って駆け出す俺。

 降り注ぐ『スパイラルフレア』のアーツは大地を穿つも、俺に当たった物だけは煙も残さずに掻き消えていく。

 それに構わず時深に追いすがりながら、手に持ったオーラフォトンの剣を──。

 

「解放、『ライトバースト』!」

「この程度っ!」

 

 炸裂させる!!

 その瞬間生み出される、強烈な閃光と衝撃。それによって時深を怯ませて──なんて考えていたのに、彼女はそれに構わず、その手にする『時詠』を振るってくる。俺が武器を失ったのを見て、だろうが……なんとまあ気丈な。

 それを迎え撃つために、再度『調和』から“剣”を引き抜き、時深の攻撃を受け止めた。

 “剣”を手放した後も、間髪入れずに再度新しく“剣”を生成したからだろう、「厄介な」と言うような表情を浮かべる時深。

 そんな彼女に向け、再度、俺の手の中の“赤熱する剣(・・・・・)”を──

 

「解放、『スパイラルフレア』!」

 

 解き放つ!

 瞬間、“炎剣”の消失と共に、超至近距離から時深に向かって放たれる数条の炎の矢。

 だが、そこには既に(・・)時深の姿は無い。

 ……確か、『タイムリープ』はそうそう使えないはず。それにさっき感じた異常な感覚は無かった……となれば今時深が瞬時に移動したのは、彼女自身の時間を加速させる『タイムアクセラレイト』だろうか。

 

(……アネリス。さっきの異常な感覚、あれは……)

<うむ。祐の考えている通りで合っている。くふふっ……流石は滅多に無い『時』を司る能力。まあ、妾の力が不完全なせいと、対象が不特定であったからでも有るのじゃがな。完全には取り込めなかったわ>

 

 念話に答えるアネリスの言葉に、なるほどなと頷く。……それはそれとして、アネリスと契約したからだろうか……『スパイラルフレア』の威力が上がってるような気がする。

 それにしても流石は『時詠のトキミ』。まともにやりあってみて解るけど、強い強い。どうやって勝ちをもぎ取ったものか。

 なるべく穏便に、かつ確実にとなると……やはりアレ(・・)かなあ。そう思った所で、不意に観客に徹していたフィアから念話が飛んできた。

 

(……ご主人様……その、死にますよ?)

(……やっぱり?)

(うむ)

(はい)

<まあ、そうじゃろうな>

(ガゥ)

 

 レーメにナナシのみならず、アネリスに、更にはノーマにすら肯定されてしまった。いやまぁ解ってるんだ。ただ他に思いつかないしなあ。

 そう、本当なら俺だってこんなものは使いたくないんだ。そうとも、仕方ないんだよ。

 そんなやり取りの最中、時深の口から「成程」と言う声が聞こえ、そちらに意識を向ける。

 

「……貴方の能力(ちから)、厄介ですね。流石は第一位と言うべきでしょうか」

 

 今の口ぶりからすると、どうやら俺の……『調和』の保有する能力に関して、大体のアタリをつけたのだろう。「……もう解ったんですか? 流石ですね」と言うと「隠す気も無いくせに、よく言います」と、ジト目で返してくる時深。確かにそうだけどさ。

 

「で、どんな能力だと?」

「そうですね。恐らくは……自身に向けて放たれた魔法(・・)を吸収し、その効果を付随させた剣と成す、でしょうか?」

 

 そう言った後、最初のオーラフォトンブレードを思い出したか、「自分で意図的に籠め、生み出すことも出来るようですが」と付け加える時深。

 ふむ。今の一連の攻防だけでそこまで把握する、か。流石だなあ……けど──。

 

「……惜しい。もう一息でしたね」

 

 そう言って、“時深の背後に回り込もう”と駆け出しながら、『調和』の中に収められた時深のスキル(・・・)である『タイムリープ』を解放する。

 次の瞬間、俺の身体は最初に意図した通り既に時深の真後ろに有った。……なるほど、これが時間を『遅くする』でも『止める』でもない、『削り飛ばす』って感覚か。

 そう、アネリスが……『調和』がその内に収められるのは、魔法に限ったことではない。

 その力は、『調和』とその契約者たる俺に対して放たれた、「物理攻撃以外の特殊攻撃」をその内に収め、任意に解放、もしくはその属性や能力を持った“剣”を生成すること。そしてその“剣”を“解放”することによっても、その効果をいつでも発現させることができる。それこそが──『鞘』の神剣たる存在の能力。

 先程時深が『タイムリープ』を使った時に感じたあの異常な感覚。あれは、『調和』の中に収め切れなかった(・・・・・・・・)『時間を削り飛ばす』と言う力の余波。故に、異常に時間の流れが、それこそ止まっているに等しく感じられたんだ。

 先にアネリスも言っていたが、『タイムリープ』の効果を『調和』に収め切れなかったのは、アネリスが本調子じゃないってのもあるが、『タイムリープ』自体が俺達に直接作用するものじゃなく、俺達の時間に作用するものだからだろう。

 

「なっ、まさか!?」

 

 そして、突如背後に俺が現れたことによって──否、普段自分が使う力であるからこそ理解できたのだろう。今俺が使ったのが『タイムリープ』であることに驚愕の声を上げる時深。

 

「吸収できるのは魔法のみに非ず、と言うことですか……」

 

 してやられたと(ほぞ)を噛む時深へ、「そういうこと」と言いながらその背に軽く手を当てる。放つはこの戦いを一気に終わらせられるであろう魔法。……その後死んでも後悔はすまい。うむ。

 

「イン・フェル レイ・ウィル インフィニティ……」

「何だかとても凄く嫌な予感がします!?」

 

 ちっ! 何だその超直感は!? けどもう遅い! 一気に勝負を決める!

 

「くぅっ! 『時詠』よ、お願い! 『タイムアクセラレイト』!!」

「『氷結(フリーゲランス) 武装解除(エクサルマティオー)!!』」

 

 残念ながら、行動は時深の方が一歩早かったらしい。

 俺の手から放たれた冷気の奔流は虚空を薙ぎ、対して俺から5メートル程離れた場所に移動した時深の巫女服は、それでもタイミング的には本当にギリギリだったのだろう、完全には躱しきれなかったか、右袖が全損。胴の所々にも小さな穴が空いているようだ。

 そんな自分の姿に、ひくりと時深の頬が引きつるのが見て取れる。

 

「……掠っただけでこれですか」

 

 おや? ……なるほど、時深は今の『武装解除』が、単に威力の高い攻撃だと認識しているのか。

 そう判断した、その時だ。

 

「時深さん、と言ったかしら?」

 

 俺から見て左手側、勝負の行方を見守っていた皆の中から、不意に時深に声が掛けられた。発したのは……エヴォリアか。

 それに対して時深は、こちらに注意を向けながらも「何でしょう?」と言葉を返す。

 

「一つ、忠告しておこうと思って」

「忠告……ですか?」

 

 この勝負の最中に? と、訝しげな声を上げる時深。そしてこちらに「良いんですか?」ちらりと視線を向けてきたので、首肯して返す。まあ、『武装解除』、『エヴォリア』、『忠告』とくれば、何を言うのか大体予想がついているもの。

 

「先程の祐の『魔法』。貴女の右袖を吹き飛ばしたアレ(・・)。アレは決して喰らわないことをお勧めするわ」

「……理由を聞いても? 態々『忠告』として言ってくるということは、単に威力が高い、と言うことではないのですよね?」

 

 問いかける時深へ、エヴォリアは真剣な面持ちで頷く。

 それを見る他の皆は……まあ全員言いたいことを察しているのだろう、揃って苦笑いだ。

 

「……脱げるわよ?」

「…………は?」

「つまり、アレを喰らうと、問答無用で裸にされるの。私の神剣は腕輪型だって言うのに弾き飛ばされるしね。文字通りの意味で丸裸、よ」

「なっ…………何ですか、その、はしたない攻撃は!?」

 

 「ちなみに私は二回やられたわ」と、凄まじく実感の篭った声で言うエヴォリアから目を切って、俺を睨みつけるように問い詰めてくる時深。

 何ですか、と言われてもなあ……別に俺が考え出した訳でもなし。

 

「えっと……傷つけること無く相手を無力化出来る人道的な魔法?」

「問答無用で丸裸にされる時点で非人道的です!!」

 

 そうとも言う。

 だが俺は既に覚悟を決めた。使うことに躊躇わぬ。

 と言うわけで、「とりあえずそれは止めて下さいお願いします」と言う時深を他所に、俺は再び(しゅ)を紡ぐ。

 

「イン・フェル レイ・ウィル インフィニティ……」

 

 って言ってもなあ。流石にまともに撃っても当たってはくれないだろう。

 そう判断し、先程とは違った意味で頬を引きつらせる時深を見つつ、俺は『武装解除』を『調和』に籠めた。

 

<……流石の妾もこの魔法を剣にするのは少々抵抗があるが……くふふっ、妾が姿を戻した時に裸になっておったら如何(どう)するかの?>

 

 からかうように言ってくるアネリス。

 魔法を取り込むときには一度喰らわないといけないから……ってか? その時はじっくり鑑賞するよ。と返してやりながら、武装解除を“剣”として引き抜いた。

 俺の手の中に顕現する、氷で出来た剣。見た目は中々に格好良い。

 

「うむ、上出来。斬った相手の装備を破壊する、『武装解除の剣(エンシス・エクサルマティオー)』ってところか」

 

 そう言って軽く一振り素振りし、時深へ向けて剣を構える俺。俺と彼女の間は約五メートル。この程度の距離ならば、俺達にとっては零に等しい。ま、一撃必殺とは行かないだろうが、多少は当てることはできるはず。

 『タイムアクセラレイト』も二度は使っているはずだし、あれも早々何度も使えまい。

 そんな俺と自分の服とを交互に見やり、時深はニコリと俺に微笑み掛けて来た。その頬は矢張り引きつってはいたが。

 

「えっと……あ、貴方の実力と人となりは充分解りましたし、ここで終わりにしません……か?」

 

 ふむ、そう来たか。ならば、

 

「それは、俺の“勝ち”ってことでいいんですか?」

 

 そう問いかけたとたん、うっと詰まる時深。

 そんな時深へ、綺羅が「時深様!?」と悲痛な声を掛ける。

 ……ここは一つ、畳み掛けるか。

 俺は「良くないようですね」といいつつ、一気に接近。彼女の左袖に軽く剣を突き刺す。無論、身体には当てないようにだが。

 

「しま……っ!」

 

 時深が咄嗟に動こうとするも既に遅く、瞬時に凍り付いて砕け散る彼女の左袖。

 斬った部分の服のみが的確に破壊されるという異常な性能を目の当たりにしたからか、思わずぺたんと尻餅をついた時深。

 俺はそんな彼女へと剣の切っ先を突き付け──

 

「ふっ……ふふふふっ……さあ、どうします?」

「ひぅっ……」

 

 ツツッと服に触れないように剣先を滑らせると、頬を引きつらせて後ずさろうとする時深さん。なにこれめっちゃ楽しい。

 時深はそんな綺羅と、自分の服と、俺……と言うか剣を見て、

 

「い、致し方ありません。了承しましょう……」

「時深様、酷いです!!」

「ゴメンナサイ、綺羅。頑張ってね?」

 

 ……そっと綺羅から、眼を逸らした。ぅゎぁ。

 とまれ、こうして俺の『トキミの試練』は終わったのであった。とな。

 

「何と言うか……どこからどうみても祐が悪役だな」

 

 そんなルゥの感想に、一同揃って頷かれたが。ほっとけ。


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