永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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7.出逢い、黒衣の少女。

7.出逢い、黒衣の少女。

 

***

 

「お、居た居た……斑鳩、無事か?」

 

 ものべー内に侵入してきたミニオンを倒し終えた俺と世刻は、途中で撤退して言ったミニオン達を追ってものべーの外へと出た。

 それからしばしの間森の奥へと索敵と追撃を掛けたのだが、結局撤退していった敵に俺と世刻は追いつく事が出来なかった。

 とは言え、世刻が言うには敵の神剣反応自体が感じられないため、どうやら斑鳩と永峰で対処できたのだろうとのこと。

 どうやら二人は途中で別れてミニオンに対処したらしく、それぞれの神剣反応は離れた場所にあるとのこと。そんなわけで合流するために、世刻と別れて俺は斑鳩、世刻は永峰の方へと向かうことにした。

 で、森の中で一息付いていたらしい斑鳩を見つけ、声を掛けたわけで。

 彼女は一瞬驚いた様子で、瞬時に警戒しつつバッとこちらに振り無くと、声を掛けたのが俺であることを認めたのであろう、息を吐いた。

 

「ええ、こっちは無事よ。青道君は……何と言うか、制服、ボロボロね?」

 

 そう苦笑しながら言って来る斑鳩に、「しょうがねーだろ」と言いながら肩をすくめて返す。

 実際、先のミニオンとの戦闘で最早制服の上着は無残な姿になっている。けど、体の傷はアーツで直せても、服の傷はアーツで直せないのだから仕方が無い。

 

「替えの制服も数少なそうだしなぁ……どっかで服を調達するか、修繕するしかないだろうな……ったく」

「……修繕……できるの?」

「なんとも微妙なニュアンスで訊いてきやがる。それはあれか、裁縫できるの? って意味か? それとも修繕できるレベルの状態じゃないって意味か?」

「…………」

「逸らすなよ」

 

 眼を逸らしやがった。失礼な、これでも一人暮らしの苦学生やってたんだ。裁縫ぐらいできる。それなりに。

 それに最近は、“思い出して”『多才』スキルが開放されたせいか、家事が以前より上達していたりする。いやまあ元々人並み程度だったから、上達しているって言っても推して知るべしって程度だし、正直言ってこの制服の状態も修繕できるようなレベルの損傷度じゃないんだが。

 

「……お前等のその戦闘時に鎧姿に変身する力が俺も欲しい。くそぅ、一瞬裸になるとかのサービスカットも無く行き成り鎧姿になりやがって。いっそ敵の永遠神剣でも強奪してやろうか」

 

 そうなのだ。斑鳩達神剣使いの連中は、戦闘時になるとあっという間に鎧姿になるのだ。

 詳しい原理は知らないが、恐らく神剣使いの肉体はマナで構成されているから、それを利用してマナで戦闘服を構築しているんだろうけど。

 彼等は神剣のマスターになった時、既存の肉体からマナで構成された体になる……はず。ミニオン達が死ぬ時、光の粒子──マナの粒子となって消えていくのも同じ理由で、体がマナで構成されているからなんだよな。

 

「なに無茶なこと言ってるのよ、まったく……ところで望君は?」」

 

 そんな俺の不穏当な発言に、やれやれとため息を吐いた斑鳩は、世刻の姿が見えないのに気づいたのだろう、そう訊いて来た。

 それに対して「世刻なら永峰のほうへ向かったよ」と応えると、途端にがっかりした表情を浮かべる斑鳩。

 

「……むぅ。希美ちゃんが心配なのは解るんだけど……ちょっと寂しいわね」

「……まぁ、斑鳩なら大丈夫だって信頼されてるってことだろ」

「うん、そう言う事にして……てっ!」

 

 ほんと、世刻のやつ愛されてるなぁ……なんて思いつつ、一応フォローの言葉をかけておいた。

 それに対して斑鳩が何か言わんとした、その時、途中で言葉を切ったかと思うと、突如森の奥の方へ振り向いた。

 

「多数の神剣反応……! まずいわ、急ぎましょう!」

「っ! ああ!」

 

 そういって駆け出す斑鳩に続き、俺も駆け出す……って速えよ!

 

 

「ええいもう!『シルファリオン』!」

 

 飛ぶように駆けて行く斑鳩を追いかけるのに、アーツで移動力強化しても着いていくのがやっととかもうね。

 

 

……

………

 

 

「ハァ……ハァ……はぁ……あーやっと追いついた……っていうかまた多いなおい」

 

 森の中をすっとばす斑鳩を追いかけ、遅れること少し。ようやく追いついて三人と合流すると、そこには多数のミニオンがひしめいていた。

 その光景に思わずごくりと喉が鳴る。胸に去来するのは恐怖心。けど、なるべくそれを悟られないように小さく頭を振って、思考の中から追い出す。

 

「遅いわよ、青道君」

「無茶言うな……こちとら魔法を使えるだけの一般人だ……」

 

 神剣使いみたいな超人と一緒にするんじゃない。

 そんな事を言った俺に対して、永峰が「あはは」と小さく苦笑を漏らした。

 

「魔法を使える人は一般人って言わないんじゃ……」

「そこ、うるさい」

「えええ!?」

「……何か皆余裕あるな」

「うむ。頼もしいと言えばいいのか何と言えばいいのか……」

 

 そんな緊張感の無い会話をしつつも、俺たちはそれぞれに戦闘態勢を整えていく。

 それと世刻、俺の場合は余裕じゃなくて強がりだ。……んなことは口が裂けても言葉には出せないけどな。

 俺達が臨戦態勢になるのに習うかのように、ミニオンたちもまた剣を構えだした。

 

「……せめて後一人ぐらい居ればな……」

 

 高まる緊張感の中、ぽつりと漏らしたのは世刻で。まったくだ、俺もそう思う。

 それで思い出したんだが、確かこのタイミングでこの世界で仲間になる最初の一人──カティマ=アイギアス──が駆けつけてくるはず、なんだが……あまりそれを前提に考えすぎると、もしもの事態に反応できないな。

 そう内心で反省して、とりあえずカティマの存在は頭から追い出した。

 来ればラッキー、来なくて当たり前。そう思っておけばそれ以上悪い方向には進むまい。

 

「そうは言っても居ないものは仕方ないであろう? 何、ユウも加わって四人。何とかなる」

「待てレーメ。接近戦に俺を数えるなと」

「それじゃ、皆、行くわよ!」

 

 複数のミニオンを相手取るのはきつい、そう言ってるにも関わらず俺を“まともな”戦力に数える世刻のレーメにツッコミを入れる間もなく、斑鳩が戦闘開始の合図をだそうとしてくれた。……絶対わざとだ。

 無駄だと思いつつも話を聞けと突っ込もうとした時だった。

 

「むっ……待て!」

 

 俺が言葉を発する前に上がった、世刻のレーメの静止の言葉に、飛び出そうとした斑鳩の動きが止まった。

 レーメは何かを感じるのか、目を閉じ集中している。

 

「来た!」

 

 次いで出た言葉の直後に、敵の一角が後方から崩れた。

 聞こえるのは剣戟。そしてその直後、黒の鎧に身を包み、大剣を持った金髪の少女がミニオンの中から俺達の前に飛び出してくる。

 

「貴方たち!大丈夫ですか!?」

「誰だ!?」

 

 その少女は、俺達の姿をぐるりと見回すと安否を問い、対して上げられた世刻の誰何の声に、彼女はミニオン達への警戒はそのままに名乗りを上げた。

 

「我が名はカティマ。カティマ=アイギアス。異変を察して駆けつけました! 火急の事態ゆえ、まずはこの状況を打破しましょう!」

「助かる! 皆、一気に行くぞ!」

 

 頼もしい援軍。この世界における神剣使い。そして、初めて出会う異世界人。

 突然の事態に驚き、一瞬固まる斑鳩達の変わりに応えた俺の声に、はっと我に返ったような斑鳩達は、異口同音に応答の声を上げ、次いで敵へと突撃した。……俺? 俺は大人しく後方支援です。前衛も増えたしね。

 

 

……

………

 

 

「『ラ・フォルテ』!」

(『ラ・ティアラ』!)

 

 俺と、俺のレーメのアーツが続けて発動し、皆の攻撃力を炎の力で底上げし、傷ついた体を癒していく。

 

「デュアルエッジ!」

「インパルスブロウ!」

「リープチャージ!」

 

 皆の様子を見ても、順調に敵を倒していくのが見える。

 世刻が双剣による二連撃で青ミニオンを屠り、斑鳩が敵との距離を瞬時に詰めて黒ミニオンを斬り払い、永峰が高い跳躍の後、上空からの降下攻撃によって赤ミニオンを刺し貫く。

 そんな中、カティマの戦いは圧巻だった。

 正当な剣術に裏づけされたその実力は高く、ミニオンの只中に飛び込み振るわれる斬撃をことごとく紙一重で交わしながら、身の丈ほどもあるその大剣を軽々と振るって敵を屠る。

 

「……っと『スパイラルフレア』!」

「っ! 有難う御座います! ……ハァ!」

 

 その光景に思わず見惚れそうになりながら、カティマの背後から切りかかろうとしていた敵に範囲アーツをぶち込み、礼を言ってきた彼女へ片手を挙げて返す。

 いえいえ、礼を言うのはこっちですよ。うん。

 ……彼女の加勢のお陰で、どうやら問題なく行きそうだ。

 ちなみに敵の撃破数でいうならば、カティマが1番、斑鳩2番、世刻と永峰が僅差で、越えられない壁を挟んで俺である。

 ま、俺は所詮は一般人……よりちょっと強い程度だからな、うん。くやしくなんてないさ。

 

(……マスター、マスター今はサポートに徹しているのですから、撃破数にこだわる必要はありません)

(その通りだぞ、ユウ。それに、吾等はちゃんと気づいているぞ? サポートに徹しながら、皆の体捌きを観察しているだろう?)

(……ばれたか。まぁ吸収できるもんはしとかないとな。それと、あー……うん、ありがとう)

 

 慰められた。だがやはり俺の思考が読まれているような気がするのは……お約束ですね。うん。

 

 

……

………

 

 

 その後どれほどの時間戦い続けていただろうか。最後に出てきたくそ強い白ミニオンを倒し終えた時には、辺りは既に茜色に染まっていた。

 そこでようやく一息吐く事が出来た俺達は、助けに来た少女──カティマに話を聴く事が出来た。何でも彼女は、数日前にものべーが空に現れた所をバッチリ見ていたようで、そのお陰でここに来れたらしい。そのせいか、何故か俺達を『天使』などと呼ぶにいたった。……何でも、天空を裂きて現れしは、天よりの使い……みたいな、『天使』に関する伝承があるんだとか。

 

 

『天裂きて現るは、神の使者なり。

 かの天使、信念を抱きし者の元へ、姿を現す』

 

 

 そんな大層なもんじゃないんだけどな、と苦笑する俺達だったが、カティマの計らいで彼女の住む村に招待してもらう事になったのだが……。学園の皆を呼びにものべーに戻った際、出発の前に、何故か学園の皆とカティマで写真を撮ることになった。……やれやれ。

 言いだしっぺはまあ阿川なんだが。こんな状況なのに逞しいのな。……いや、こんな状況だからこそ、か。

 

「……世刻、お前も入って来い。俺がシャッター切ってやるから」

「いや……でもですね」

「いいから行けって! ……息抜ける時に抜いておかねーと、後々潰れるぞ?」

 

 渋る世刻の背中を軽く蹴って押してやる。

 あいつはただでさえ、永遠神剣と前世──この世界の神剣の担い手達の殆どは、かつて『神』と呼ばれた者の転生体だ──に振り回され、悩んでいたはずだしな。

 世刻が入ったのを見て、シャッターを切ろうとして……気づいた。自分の手が小刻みに震えてる事に。……世刻のやつには気づかれなかっただろうか?

 先程までの戦闘が思い出されそうになり……頭を振って、止めた。

 震えを無理やり押さえつけるように、声を出す。

 

「よーし!じゃ、行くぞー! ……チーズっ!」

 

 いつの日か、これも懐かしい思い出となる様、想いを篭めて。

 それからは、カティマの村に行きたい希望者を調べたり、永峰がものべーの(ウィル)を分離させ、手のひらサイズのちびものべーを生み出したりと、やはり、何だかんだで騒がしい皆だった。


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