永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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理想幹1
73.襲撃、離脱。


 時間樹の“幹”たる『理想幹』。ここは、エトル達が居る中心島の周囲を六つの浮島が取り囲んだ構造をしている。

 浮島と言っても、浮いているのは“空に”なのだが。

 サレスの説明によると、南西に“緑の島”、北西に“赤の島”、北に“枯れた島”、北東に“青の島”、東に“黒の島”、南東に“白の島”がある。実際突入時に上空から見た光景を思い浮かべても、確かにその名に相応しい雰囲気の島が6つあったのが思い出される。ものべーが着陸したのは、その浮島のうち、南西にある“緑の島”だ。

 各島間はエーテルジャンプ装置によって結ばれている……のだが、現在は南東への道は塞がれているようだ。

 とは言え、サレスの案内によれば、ここから北西の“赤の島”と“枯れた島”を経由すれば、中心島へと行けるそうなので問題はないそうだが。

 その説明を聴き終え、世刻達は進軍を開始する。

 俺はそれを見送った後、彼等の後を追って中枢へ行き、ログ領域へと入るためにしばしの時間を置き、頃合を見計らって周囲の警戒を兼ねて見送りに出てきていたミゥ達に声を掛けた。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「はい……祐さん、くれぐれも気をつけてくださいね?」

 

 ミゥがそう言って、心配気な表情を浮かべる。……ありがたいものだ。

 俺としても、別に自殺願望があるわけじゃないので無理をするつもりは無い。慎重に行くさ。

 ……いや、まあ、皆が先行してくれているとは言え、神剣も無いのに単身中枢まで行こうとする時点で無茶だってのは言うまでもないんだけどさ。

 だからと言って「行かない」って選択肢は無いんだけどな。

 ……さて、そろそろ行くか。先行した皆の後を追う様に『理想幹』へと足を踏み出そうとした、その時だった。

 

「──っ! 神剣反応! 祐さん!」

 

 ミゥの警告の声に続き俺達を取り囲むように現れるミニオン達。

 ミゥとポゥが直ぐに迎撃体勢を整えるのを横目に見つつ、俺はルゥの側へ向かうと、ミゥ達と同じ様に神剣を構えようとし、そして失っていた事を思い出したか、歯噛みするルゥの姿が眼に入る。

 ものべーに入るには……ミニオンが邪魔か。

 恐らく先に脅威になる者を排除しようとしているのだろう、ものべーではなくこちらを狙って来ているのは、不幸中の幸いだろうか。とは言え、まずい事には変わりないのだが。

 何はともあれ、今の俺とルゥに出来る最善の手段は、ミゥとポゥの邪魔にならないことだろう。

 

(ナナシ、レーメ、頼む)

 

 念話を飛ばしてすぐに、俺とルゥへ掛けられる身体強化のアーツ。そしてそれを合図とするかのように──戦闘が始まった。

 

 

……

………

 

 

 どれほどの時間が経っただろうか。いや、きっと然程経ってはいないのだろうが。それでも数十分にも、それ以上……数時間にすら感じられる時が経った。

 その間俺とルゥは、アーツによって強化された身体能力のみで、何とか生き延びていた。

 それもこれも、ミゥとポゥが俺達を守ってくれながら戦っているからなのだけれど。そうでなければ、アーツで強化しているとは言え、神剣の加護の無い俺とルゥが、降り頻る神剣魔法の雨を潜り抜け、四方から遅い来る刃を切り抜けて、五体満足に生きているわけが無い。そう思えるほどに敵の攻撃は苛烈だった。

 けれど……このままじゃジリ貧か。

 神剣の恩恵を受けられないルゥと、神剣の力を使う訳にいかない俺。今まで以上に死と隣り合わせの戦闘に、俺とルゥの気力と体力はいずれ尽きるだろう。

 戦況は乱戦の様相を呈し始めており、このままいけば、今まで以上に俺とルゥの存在が、ミゥ達にとってネックになるに違いなく……俺達のせいで二人が危機に陥るのではないか、そんな思いすら過ぎる。

 かといってものべーに戻ろうにも、敵の包囲は厚く、あそこを抜けるのは至難の業だろう。

 包囲の薄い、抜けれそうな場所は……前、しかないか?

 

(イエス、マスター。最も敵の包囲が薄く、かつ抜けられそうな箇所は、マスターから見て左前方です)

(……そっか、ありがとう。そのまま状況を見ててくれ)

(了解しました)

 

 そう思った所で、上空から敵の様子を見てくれていたナナシから念話が入り、その内容から、やはりこれしかないのかと、思わず溜め息が漏れる。

 危険に過ぎる……けど、やるしかない、か。

 その時、手を握られる感触と同時に、俺の中の『夢氷』を通して、『解ってる、大丈夫』と言う、ルゥの想いが伝わってきた気がして……それでようやく、決心が着いた。

 

「……ミゥ、ポゥ」

 

 声をかけると、彼女達は敵を牽制しながらこちらへ一瞬視線を向け、同じ結論に達していたのだろうか、俺の言いたい事を察して頷いて返して来た。

 

「祐さん、場所は?」

「左前方」

「解りました。……ルゥをお願いします」

 

 敵から眼を逸らさずに言葉を紡ぐミゥへ、「ああ」と頷き、「ミゥとポゥも気をつけて」と返した。

 ポゥがマナを練り込んでいくのを感じると共に、緊張が高まる。そして──。

 

「風よ、守りを! 『ウィンドウィスパー』!!」

「行くぞ!!」

 

 紡がれた魔法が俺とルゥを包みこみ、この身に風の守りが掛けられると共に、ルゥと頷き合い、同時に駆け出す。

 目指すは左前方、敵の包囲の薄い部分。そこを一点突破する──!

 

「『ラグナブラスト』!!」

「『ゲイルランサー』!!」

 

 レーメと共に放った、指向性を持つアーツが敵陣を駆け抜け、それによって空けられた“穴”を突きぬけようと、掛ける速度を上げる為に足へ力を踏みしめた、その瞬間を見計らっていた様に、ミニオン達がそれまで薄かった場所を埋める様に動くのが見えた。

 

「駄目です、マスター! 罠です!!」

 

 悲鳴にも似た、ナナシの制止の声が聴こえ、この状況はまずいと、焦燥が心を埋める。

 ──抜けられるか? ダメだ、敵が厚い。

 ──ならば戻るか? ダメだ。ここで脚を止めれば、間違いなくやられる。

 一瞬にして脳裏を過ぎる自問自答。進退窮まった俺とルゥに対し、敵が神剣を構えるのが見えた、その時だった。

 俺達の向かう先、その空間が割ける様に“穴”が開き、そこから現れる、見覚えの有る人物。

 彼女(・・)は、その手を振り上げると共に、練りこまれたマナを解放する。

 

「一気に駆け抜けなさい! 『オーラレイン』!!」

 

 そんな声が響き、打ち鳴らされた『腕輪』が、シャンッと涼やかな音を奏でると共に、俺達の向かう先にいたミニオン達へ降り注ぐ、オーラフォトンの雨。

 それが止むのを待たず、さらに追い討ちを掛ける様に、顕現し、にミニオン達を蹂躙する、白銀の機械兵(ゴーレム)──!

 

「ギムス! 貴方の力、見せてあげなさい! 『アイスクラスター』!!」

 

 そして放たれる白き極光。

 それは俺とルゥの前に道を作る様に、ミニオン達を薙ぎ払った。

 俺達はその道を一気に駆け抜け、敵の包囲を突破すると、そのまましばし行った所でようやく脚を止めた。

 窮地を脱した事によって思わずへたり込みそうになるのを堪えて、俺達に着いて来た彼女へ向き直ると、声を掛けた。

 

「エヴォリア、助かったよ。けど、何でここに?」

「あら、『また逢いましょう』って言ったじゃない。それを果たしただけよ?」

 

 彼女は驚きを隠せない俺達へクスリと微笑むと、

 

「……なんてね。貴方達の“現状”を教えてくれた人が居るのよ。だからもしかして、と思って来てみただけ」

 

 そう言ったあと、ほっと一息つき、「でも来て良かったわ」と続けた。

 「それで、これからどうするのかしら?」と問いかけて来るエヴォリア。……これから、か。正直、彼女が居てくれるのは心強い。……けど。

 

「エヴォリア、頼みがある」

「……大体予想はつくけど、何かしら?」

「ミゥ達の方を助けてやってくれないか? あれだけのミニオンを二人で相手するのは辛いだろうし、何より彼女達、俺達をかばいながら戦っていたから、消耗が激しいんだ」

 

 俺の言った言葉に、「やっぱりね」と苦笑しながら言う彼女は、

 

「まあ良いわ。他ならぬ貴方の頼みだもの、引き受けてあげる。……これなら、ベルバにも来てもらえばよかったわね」

「エヴォリア、恩に着る。……ありがとう」

 

 それでも小さく笑みを浮かべて、頷いてくれた後、ものべーに向かって歩き出した。

 そんな彼女の背中へ、ルゥが声を掛けると、エヴォリアは一度振り返り、「気にしなくて良いわ」と首を振った。

 再び歩き出そうとした彼女へ、最後に気になった事を訊いておこうと思い、「ところでその、俺達の状況を教えてくれた人物、と言うのは?」と問いかけると、彼女は思いもかけない人物の名を挙げた。

 

「貴方も知ってる人物。スールードよ」

「…………は? ……えーと、何でまた」

「知らないわ。本人は『ただの気まぐれです』って言ってたけれど」

 

 何故、彼女が。

 ミゥ達によれば、スールードは理想幹神が永峰を連れて行くのを手助けしたらしい。かと思えばこうしてこちらの助力をする。……何を考えてるんだ、一体?

 聴いた話では、理想幹神の手助けをした時は、“渋々”と言った雰囲気だったらしい。“法皇”に頼まれた、と言う言葉が聞こえたとも言うし……当然と言うか、皆はその“法皇”が示す言葉が何かは解らなかったようだが、俺とユーフィーだけは、それを聴いた瞬間に思わず固まってしまったものだ。

 『法皇テムオリン』。『ロウエターナル』に属する第二位の神剣使い。……だとしたら、スールードが理想幹神の手助けをしたのは“ロウ”側の狙いってことになる。

 そうなってくると、その“ロウ”側の狙いってのは何なんだ? と言う疑問が出てくるわけだけど……ここまで来ると正直言ってサッパリだ。

 ならばこちらに対しての助力はどうなんだろうか、と言う疑問に対しても……正直解らん。あのスールードである以上、“純粋な好意”とは思えない辺りが何とも。

 ……そんな事を考えてしまい、「祐」と名を呼ばれつつルゥに腕を引かれて我に返った。……そうだ、今はこんな事考えている場合じゃないな。

 とりあえず浮かんだ疑問は頭の隅に追いやり、エヴォリアへ顔を向ける。

 

「それじゃあ、悪いけど向こうは頼むよ」

「ええ、任せておきなさい。それより貴方達も、気をつけて」

 

 そしてそんな言葉を交わし、俺達はそれぞれの方向へ駆け出した。

 ……こうなったら、出来るだけ早く『ログ領域』へ向かわないと。


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