永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
ショウを追ってスラムを駆け抜ける事しばし、俺達はスラムとシティを隔てる壁、そこに作られた門へと辿り着いていた。
ここまでの間に『セントラル』からの妨害行為はまるで無く、それどころか永峰が「ものべーが動きやすくなったって言ってます」と報告してきた。
その一方で、先程から細かに地面が振動しているのが、気に掛かるところであるのだが……“この感覚”に、嫌な予感がぬぐえない。
それに加え思い出したが、“原作”ではこの辺りで、俺達の周囲の時間をピンポイントで巻き戻し、先へ進めないようにするトラップがあった……ような気がするのだが、そんなそぶりも一切無かった。……と言う事はやはり『セントラル』自体に重大な何かがあったと考えるべきなのだろう。
そのまま門を駆け抜け、シティへと突入する。
そこに待ち受けて居たのは、流石にショウが置いていったのだろう、幾許かのミニオンと赤と青の
こちらの消耗は激しい。とはいえ、流石にショウも余裕は無さそうだったし、恐らくはコレが向こうにとっても残存兵力の全てだろうってのが救いか。……まあ、断定はできないのだけど。
先手は敵、ミニオンの神剣魔法だった。
雨霰と降り注ぐ炎弾をかわし、赤のミニオンへ接近したところで、カウンターの如く再び練りこまれる赤マナと、次いで放たれる神剣魔法
「燃え尽きろ……『ファイアーボール』」
「させるかっ! 『アイスバニッシャー』!!」
俺の至近距離から放たれんとした敵の神剣魔法は、咄嗟に紡がれたルゥのアイスバニッシャーで打ち消された。その瞬間に『観望』を一閃。その一撃はブロックに弾かれるも、ミニオンの体勢を大きく崩す。そしてその隙を突いて繰り出されたゼゥの斬撃が、赤のミニオンを塵に還した。
そこで背後と左に気配を感じ、振り返りつつ『観望』を構える。視界に入ったのは、背後から俺に斬りかからんとしていた青のミニオン。そしてそいつと俺の間に割って入り、敵の剣を受け止めているユーフィー。そのまま敵の剣を押し返し、体勢が崩れたところをワゥの『剣花』が切り裂く。
一方で左から来ていた黒のミニオンは、ミゥがその巧みに『皓白』を操り、杖術で攻撃を捌いている間に、ポゥの『嵐翠』が刺し貫いていた。
その時点で一度体勢を立て直し、敵を見据える。と、青の守護者と対峙する斑鳩に槍を投げようとしていた緑のミニオンが居たので、振りかぶったところで接近、大剣状にした『観望』をフルスイングして叩き込む。
流石にロクにマナの込められていない攻撃じゃ、物理特化の防御を誇る緑のミニオンへは効果は薄い。が、それでも体勢を崩し、斑鳩への攻撃をカットする事はできたので上々だろう。
どうやら音でこちらに気付いたらしい斑鳩へ軽く頷き、ミニオンへ追撃……しようとした時には、既にルゥの一撃が敵を沈めていた後だった。
仕方が無いので周囲を見回し、次の敵を……と思ったのだが、どうやら俺の周囲に居たミニオンは今のが最後だったらしい。……となると守護者かな。なんて思った所で、くいっと袖を引かれたのに気付く。
そちらを見ると、俺をじっと見つめるポゥが。
「駄目です」
「祐、あなた今かなり消耗してるでしょう? ミニオンならともかく、アレはやめておきなさい」
……どうやら顔に出ていたらしい。
きっぱりと一言で言い切ったポゥの言葉に続いたゼゥの言葉に、思わず苦笑する。いや何というか、こう気に掛けて貰えられるってのは、幸せなことなんだろう。まあ今の状態じゃ加勢しても大して役に立てないってのは確かなんだけれど。
実際ゼゥには「今の戦闘も、いつもより動きがかなり鈍かったわよ」と続けられ、まったくもうと言いたげに溜め息をつかれた。面目ない。
そんな折、背中をぽんっと叩かれたので振り向くと、
「ってわけで、ここはボク達に任せてよ!」
にぱっと、太陽のような、と言う表現が良く似合う笑みを浮かべてワゥが言ってくれる。
……ここまで皆に言われてしまっては、意地を張っても仕方が無いだろう。わかったよと言いながら頭を撫でてやると、えへへ、と小さくはにかむワゥ。
「何というか……敵わないな」
「……ですが確かに、マスターは少々独りで無茶をしすぎますから」
「まぁ、お言葉に甘えて、今の内に少しでも回復に努めるのがよかろう」
守護者に向かっていく彼女達を見やりながらつい口をついた言葉に、両肩に座ったナナシとレーメが苦笑するのが解った。やれやれ。
…
……
………
ミニオンと守護者を下し、シティを駆け抜けることしばし、俺達の目の前に一際威容を誇る建物が現れる。……この世界の中枢である、セントラルタワーだ。
そして、タワーへと辿り着いた俺達の耳に、激しい爆発音が響く。
一体何が起こっている?
全員思ったことは同じなのだろう、顔を見合わせた俺達は、そのままセントラルタワー内へと突入した。
……内部は酷い有様だった。
崩れ落ちた壁や天井。その有様は、小規模な爆発が連続して起きたかのような……否、入る前に聴こえた爆発音、アレから察するに、事実その通りなのだろう。
周囲の様子を見ながら慎重に進むことしばし。幾つかの階層を上がったそこに、彼は居た。
壁にもたれる様に座り込んだ、白い鎧を着込んだ青年……スバルだ。
「スバル!」
「待て、望」
思わず、と言った雰囲気で声を挙げ、駆け寄ろうとした世刻をサレスが止める。……まあ、状況によっては戦闘になり得るのだから、不用意な行動は控えるべきだろう。
一方でスバルは、今の世刻の声でこちらに気が付いたか、臥せていた顔を上げ、こちらを見る。
その瞳には、以前『セントラル』によって支配されていた時の様な様子は見られず、確かに理性の光がある……ようにみえる。
「……やあ、望君、皆さん……よく来てくれましたね」
そして予想に違わず、しっかりと“意志”の篭った声を掛けてきた。とは言え、その口調には明らかな疲労が見えるのだが。そんなスバルへ、今度こそ世刻は駆け寄っていき、「何があった?」と声を掛けている。
スバルは答える。世刻のみならず、俺達全員に対して語りかけるように。「この世界が、あるべき姿に戻るだけですよ」と。
スバルは、あの時……俺達との最初の対峙の際に正気を──ナナシの力によって──取り戻し、俺に向かった放たれたショウの一撃を庇って重症を負い、ずっとここ、セントラルタワーにて修復を受けていたらしい。
そして大まかに修理を終え、再び気が付いた時、『セントラル』に問われたのだと言う。「貴方は、どうしたいですか?」と。
「恐らくセントラルは……僕が、祐君、貴方を庇ったのを見て、気付いたんだと思います。本当に大切なものは何なのか、って」
「本当に……大切なもの?」
ぽつりと聴こえた世刻の声。スバルはそれにコクリと頷くと、言葉を続ける。
「はい。……この世界は一度滅びました。それは変えようの無い事実なんです。それを……他者を殺して、心を殺して、自分自身すらをも殺して……そこまでして事実を捻じ曲げ、続けることに意味はあるのでしょうか。それは最早、この世界も、僕達も、“生きている”とは言えないんじゃないでしょうか。
だから、僕はセントラルに答えました。『ショウを止めたい』と。『ショウを止めて、この世界をあるべき世界に戻す』と。
そしてセントラルは、それに応えてくれました。……そう、僕はこのセントラルの機能を止めたんです。この世界を、終わらせるために」
スバルのその言葉に驚愕する俺達。
曲がりなりにもこの世界を維持していたセントラルの機能を止めた。そしてショウを追っている時からずっと続いている、この細かな振動……それが示すのは──。
「……そうか、“原因”が見えないから結びつかなかったけど、この“振動”と“予感”が何なのか、やっと解ったよ」
シティに突入する前から感じていたコレに得心が行き、発した俺の言葉に、先を促す様に見てくる斑鳩達。表情から察するに彼女達も解ってるんだろう。少なくとも、『精霊の世界』での戦いを経験した者達は。
「似ているんだよ。暴走しかけた“剣”が……『空隙』が引き起こしていた振動と。これは、世界が崩壊する予兆だ」
俺の言葉に「やはり」と厳しい顔をする皆。
そして、頷くスバル。
「その通りです。とは言え、直ぐに崩壊するって訳じゃありません。今はショウが、『浄戒』の力を使って崩壊を食い止めているようですから」
「ショウが? ……どう言う事だ?」
「実は、セントラルの機能を止めた時に、セントラルからこの世界の維持に使っていた『浄戒』の本体を受け取ったんです。ですが……申し訳ありません。ショウにそれを奪われてしまいまして」
スバルの説明に、なるほどなと納得する。
ショウにとって、この世界は全てだ。この世界を維持し、復活させて、変わらぬ日々を、在りし日の想いを実現する事こそが彼の願い。だとすれば、この世界が崩壊するのを防ぐのに力を割くのも当然なのだろう。
「……望君、君は言っていなかったけれど、恐らく『浄戒』は本来君の力ですよね?」
「解るのか?」
「ええ。『浄戒』が自分の中にあるとき、君が側に来ると『浄戒』が活性化するのが感じられたんです。……多分、貴方達がこの世界に来たのは、『浄戒』の力を取り戻すため……違いますか?」
問と言うよりも、確認するかの様に訊いて来るスバルへ頷いて返す世刻。
実際そこまで解っていて、こんな事態になってしまっている以上、最早隠す様な事でもない。
「本当は、こんな戦いしたくなかった。出来れば話し合いで解決したかったんだけどな」
そう言う世刻へ、スバルは「全くですね」と苦笑を返し、
「……あつかましいお願いだと言うのは解っているのですが……けど、僕にはもう選択肢は無い。だから、頼みます。……ショウを止めたい。力を貸して下さい。……あいつは……もう、力に呑み込まれてしまっている……」
頭を下げて頼み込んでくるスバルへ、世刻達は「勿論だ」と頷いて、スバルはそれに「ありがとう」と返した。
そんな中、ミゥ達、クリストの皆は、複雑な表情で彼らを見ていた。
彼女達が今どのような心境なのか……それを推し量る事などできはしなく、掛けられる言葉もまたある訳じゃないけれど、ただその表情を見ている事も出来なくて。つい、彼女達の頭を順番に、軽く撫でていた。
子どもじゃないんだから、なんてゼゥの呟きが聞こえたが、まあたまには良いだろう。
不安とも、辛い……ともまた違うだろうが、そんな気持ちの時に、多少なりともそれを解ってくれる第三者が居るというのは、思っているよりも随分と心が救われるものだと思う。だからせめて……俺がその第三者になれればいいんだが。
「状況が違う、と言うのは解っているのだが……中々に複雑なものだな。この世界に住む者が、この世界の存続を諦めるのを見る、と言うのは」
苦笑交じりのそんなルゥの言葉に次いで、彼女達の頭から離した手を握られる。
どうした? と顔を向けると、ルゥは握った手を、両手で包み込む様にして、そのまましばし瞠目した後、
「……祐、ありがとう」
そう、思わず見惚れ双な微笑みを浮かべて、言った。
次いで、今度は腰の辺りにしがみつく誰か。視界の端に移るのは、赤い髪と特徴的な角。そしてこちらからも聴こえて来る、「ありがと」と言う言葉。そんな彼女へ、空いていた左手で頭を撫でてやりながら、「どういたしまして」と返した。
俺が彼女達の気持ちを、十全に解っているなんて事は思っては居ないけれど……それでも少しでも力に慣れたら。そんな想いを込めて。
……結局俺は、この世界に対して何もする事が出来なかった。
自分が世界の流れを変える……そんなおこがましい考えを持っている訳ではないけれど。だけど、もっとやりようがあったのではないか。そんな風に思ってしまう。……思ったところで、どうしようもないと言うのに。
だから、最後まで見届けよう。この世界の行く末を。眼を逸らす事無く。
…
……
………
スバルの先導で、セントラルタワーの中心を目指す。恐らく、そこにショウが居るだろうとの予想の元に。
道中に最早妨害は無く、程なくして俺達は、セントラルタワーの中枢へと辿り着いた。
破壊され、すでに只の穴と化した扉をくぐると、そこには、大きく崩れ夜空を除かせる壁を背に、泰然と立つショウが待ち受けていた。
「……来たか、異分子ども!」
開口一番にそう言い放ったショウは、ぐるりと俺達を見回し──そこにスバルの姿を認め、驚きに眼を見開いていた。
「スバル! スバル、そんなところで何をやってるんだ? こっちへ来い。安心しろよ、直ぐにこいつ等を片付けて、またいつもの日々に戻るからな」
そんなショウの言葉に、スバルはその場から数歩進み出て、そんな彼へショウは破顔した後、その表情を驚愕のものへと変える。……スバルが、その手にした、弓型永遠神剣第六位『
「スバル……おい、何の冗談だよ。何で俺に向かって武器を構えるんだ、スバルッ!」
「……ショウ、もういいよ。もう終わりにしよう……この世界を、あるべき姿に戻すんだ」
「何を言ってるんだよ、スバル! 約束しただろう!? スラムとシティの壁を取り払い、俺達の手で一つにするって!! ……それが、それこそがこの世界のあるべき姿だ!!」
スバルの言葉に声を荒げたショウはその視線を彷徨わせ、スバルの後ろに控える俺達で止めると、その表情を憤怒へと変える。
「…………ああ、そうか、そうなのか。貴様等だな? 貴様等がスバルに吹き込んだんだろう!? 貴様等さえ居なければ!!!」
「……ショウ……君は……」
話しながら、激昂していくショウ。その瞳には憎しみの色。毒々しいまでの殺気を撒き散らすショウへ、スバルは深い悲しみの色を湛えた顔を向けた。
「皆さん、僕が負けた時は……あいつを、お願いします。……行くよ、ショウ!」
「くっ……スバルッ!!」
力を溜めながらショウへと駆け出したスバルに対し、ショウもまた覚悟を決めた様に、その表情を険しくし、己が神剣『疑氷』へと力を籠める。
既に傷つき、十全たる力を出せないスバルと、その力の大半を世界の維持に傾けているショウ。故に互いに賭けるは、一撃必殺か。
両者共に、相手の射線を定めさせない様に動きまわり、牽制の一撃々々は壁を抉り、大気を乱し、相殺してマナを撒き散らしながら、同時に、深く静かに真なる一撃のために、その力を溜めていく。
予兆はじわりと。切欠は唐突に。
『浄戒』の力のバランスが、攻撃へとシフトしていっていたせいだろう、ショウがその神剣へと力を溜めるにつれ、世界を襲う振動は徐々に大きく成っていっていた。
そして、傍から見ても互いの神剣に掛かる力が臨界に達したと見て取れた、その瞬間、一際大きな揺れがセントラルタワーを襲う。
「しまっ……!」
それによってスバルがバランスを崩した。
致命的な隙。
俺達の誰もが、スバルがやられると身構えた、その瞬間。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「っ! ああああああああ!!」
ショウの裂帛の声に反応し、咄嗟に撃ち出したのだろうスバルに対し──ショウはただ、その力を放つ事無く──静かに微笑み、その一撃に、腹部を大きく撃ち貫かれていた。
「…………え?
「……ショ……ウ?」
余りにも、意外すぎる結末。
誰かが漏らした驚愕の声に、スバルの愕然とした声が重なる。
「ショウ……ショウ!」
駆け寄ってきたスバルに対して、ショウは静かに笑みを浮かべる。憤怒でも、憎悪でも、悲哀でもない、凪いだ湖面のように静かな笑みを。
「……本当は、解ってた……スバル……行け、よ……この鳥篭を出て…………遥かな世界、へ」
「……ショウ……君は……」
「はは…………まったく……やって、らん……ねぇ、ぜ……」
──それが、俺達が聞いたショウの最後の言葉だった。
スバルは言う。
「幾百、幾千の言葉を交わす以上のものを、今の戦いでショウから感じ、受け取った。だから、大丈夫です」
と。
きっとショウもなのだろう。だからこそ、最後の一撃を放つことなく、スバルの攻撃を受けて終わることを選んだ。
その時、ぽぅ、と、倒れ伏したショウの身体から光の塊が浮かび上がり、中空で制止した。
恐らくは、あれが……。
「……望君」
スバルが世刻を促し、複雑そうな表情をしていた世刻がそれに頷いて返す。
恐らく、スバルとショウの二人に、自分と暁の姿を重ねてしまったか。……もしかしたら、これが自分達の辿る未来だったのかもしれない、と。その予想が正しかったか、ちらりとこちらを見た世刻が、小さく頭を下げたのが解った。
そして、光に向かって手をかざすと、その手を伝い、光の塊は世刻の身体へと溶ける様に消えていった。
ふと気になって、世刻に声を掛けた。「『支えの塔』での俺の言葉、覚えているか?」と。
それに対してしっかりと頷く世刻。……うん、大丈夫そうだな。「ならいいんだ」と言うと、「いえ、ありがとうございます」と返って来た。
そして、光──『浄戒』──が世刻の中へと消えると同時に、大きくなる振動。
……あぁ、さっさとこの世界を出ないとな。……反省も、何もかも後回しだ。
「……すぐに脱出するぞ。希美、ものべーをこちらへ回せ」
「あ、はい。……あの、この世界の他の人たちは……?」
永峰が気に掛けた事に、スバルが小さく首を横に振って答えた。
「……彼等の存在は『セントラル』に依存していましたから。多分もう、皆その機能を停止しているはずです」
「…………はい」
スバルの言葉に永峰が頷いたのを受けて、俺達はものべーへと向かった。
◇◆◇
スバル達がこの場を去ってから、如何ほどの時が経っただろうか。
ズンッと身体の芯に響く大きな振動に眼を覚ます。……どうやら、ある程度の自己修復で機能が復活してしまったようだ、と、目覚めたショウは自己分析した。
まったく、世界の終わりをその眼に焼きつけながら死ね。そういうことかと、独り哂う。
まぁそれも、自分の末路には相応しい。そう思った時だ。
「こんにちは。ひどい揺れね?」
そんな場違いな声が聞こえたのは。
動かない身体を無理矢理に動かし、顔だけをその声が聴こえた方へと向け──何だ、こいつは。それ以外の感想が出なかった。
女だった。
前の開いた純白のローブに身を包み、白いフードと、流れる様な赤髪によって顔の右半分が隠されているが、それでも尚解る美貌。除く瞳は鮮血の赤。
だが、そのローブの下に覗くのは、陰部のみを辛うじて隠したのみで、後は
──何て格好してやがる。
そう思ったショウだったが、次にその女から発せられた言葉に、頭の中が真っ白になった。
「この世界の人たちは、どうにも美味しくなかったわ。……ああでも、緑色の
コイツは今何て言った? この世界の人達を──スラムの皆を、そして緑の
自分の聞き違いか、と、己の耳を疑った、その時。
あーんと口を開けた女が、その口を閉じた、その瞬間。
ショウの下半身が消滅した。
ぼりん、と、固いものを噛み砕く様な音が響く。
「ん~……貴方もやっぱり食べ辛いわ。あ、でも、貴方は中々
理解が追いつかなかった。
何を言っている、こいつは? 何を喰っている、こいつは!?
ショウの困惑と怯えを感じ取ったか、女は小さく、そして柔らかく微笑む。
「ふふふっ。そんなに怯えないで。大丈夫よ、私が全部赦してあげる」
──さあ、私と一つになりましょう?
それが、ショウが聞いた最後の言葉だった。