永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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5.説明と、協力。

 あの後、斑鳩に問答無用で生徒会室まで連行された俺。

 ここに来るまでの間、斑鳩達も無言だし、恐らく校舎のすぐ近くで戦ったせいだろうか、それを見ていたと思われる生徒達からの──斑鳩達のような『神剣』と言う明確なファクターもなく、不思議な力で敵を排した俺に対する、形容しがたい視線に晒されて、非常に居心地が悪かった。

 考えすぎか、とも思うけど、何となく、な。

 そして今、目の前には、ジトーっと半眼で睨んで来る……ああ、不審なものを見る目と言うよりは、怒ってるな、あれは。うん。怒りの生徒会長の姿があった。

 

「さて、説明してもらえるかしら?」

「説明って言うと…………神剣組が取りこぼしたのか、侵入してきた敵を、不思議パワーでやっつけた?」

「そ、それは悪かったっていうか、感謝してるって言うかだけど! そう言うことじゃなくて! その不思議パワーがなんなのかと、なんでそう言うのがある事を黙ってたのかってことでしょーが!」

 

 おいおい余り興奮するなよ。後ろの二人もビビッてるぞ?

 話している内にヒートアップしてきた斑鳩に、内心そうツッコミつつ、うーんと唸る。一体どこまで話したもんだかね。

 正直こいつらになら全部話しても……とは思いもする。何と言っても“主人公”達だし。

 けど……なぁ。いや、やめておこう。

 俺がこの『神剣宇宙』の“外”から転生してきたこと。転生の際に『神様』に『異能』を授けてもらったこと。そしてそこでは、この世界の出来事をゲーム……とは明言しないとしても、“外側”から“観測”することが出来て、これから起き得る可能性のある出来事を知っていること。

 こうしてざっと上げてみただけでも、普通に考えて信じられるようなものじゃないのは考えるまでも無い。……何よりも、俺の言う事を信じてもらえるだけの信頼度が、俺には決定的に不足している。

 そう、何もかもを話すのは、俺がもっと彼等と、仲間としての絆を深められたら、だ。

 そう結論付けた俺は、とりあえず話せるところだけ話しておくかと口を開く。

 

「そうだな……さっきのをどこから見てたのかは知らないけど……」

 

 言いながらオーブメントを起動、アーツを選択、範囲を固定。……集中。

 

「『ラ・ティア』……ま、簡単に言えば、よくゲームとかに出て来る魔法みたいなもんだわな」

 

 RPGとかやったことあるなら、何となく想像できるだろ?

 そう続けながら使用したのは、小範囲回復アーツ。

 俺が放ったそれはすぐに効果を表し、光が俺たち四人を包み、先程の戦闘で付いた小さな傷などを治していく。

 彼等の身体は神剣に目覚めた時から『マナ』によって構築される『マナ存在』になっているわけだが……アーツでもちゃんと傷は治るんだな。恐らく失ったマナを補充するってことは出来ないだろうけど。

 そんな感想を使ってみてから頭に描いて、そんな自分に内心苦笑を浮かべる。

 三人はその光に一瞬警戒していたが、その効果に今度は驚きの目を俺に向けていた。

 

「あの……先輩も神剣使いなんですか?」

 

 どこか期待するような目で訊いて来る永峰だったが、「期待に応えられないようで申し訳ないが」と言いながら俺が首を横に振って否定すると、直ぐにがっかりしたような顔になる。

 そんな顔するなよ。俺だってさっきの戦いの最中、神剣があればって思ったんだから。

 

「残念ながら。こうしてなし崩しのうちにバレるまで言わなかったのは、今の俺じゃ大して役に立てないからってのがあるな。……もうちょい形になってから、こっちから話そうって思ってたんだが」

「でも、さっきはミニオンを一人倒したじゃない? ……って言うか、形になってからって言う事は、青道君がその力を使えるようになったのは最近なのね?」

 

 そう言って来る斑鳩だが、俺は少し考えてからもう一度首を横に振った。ああいや、力を使える様になったのが最近ってのは当たってるが。

 今のは少々口が滑っただけだが、そこから察してくるとは抜け目ない。

 

「違うよ、斑鳩。“ミニオンを一人倒した”じゃなく、“ミニオンを一人倒すのでやっとだった”だ。……さっきも言ったが、俺は神剣使いじゃない。身体能力的には一般人レベルと大差ないのさ。だからぶっちゃけ、複数でかかって来られたら、生き残る自信はないぞ。それと力が使える様になった時期は最近。そうなった経緯は……まあ、今は秘密ってことにしとくよ。多分、信じられないと思うから」

 

 そう言うと、あからさまに落胆した様子になる三人。

 なんつーか、こうまでしょんぼりされるとなぁ……。さっき彼等にも言ったことだけど、俺としてはもう少し自分に力がついてから、と思っていたんだが。……やれやれ。まだ力不足で不安だけど、仕方ないか。

 

「……けどまぁ、一人ぐらいなら相手取れる事は確かだし、後方支援ならもう少し役にたてるだろうから……これからは俺も手伝わせてもらうよ」

「ホントに? 人手は幾らでもほしいから、助かるわ」

 

 俺の言葉に、斑鳩は途端に笑顔になってそう返してくる。……現金というか何というか。

 思わず苦笑を浮かべた俺に対して、斑鳩は「何笑ってるのよ?」と一言。

 

「いや、むしろ俺のほうが驚きだと思ってさ。斑鳩達にしてみれば、正直言って怪しい事この上ないだろうに」

「まぁ、余り付き合いがあったわけじゃないけど、クラスメイトだしね。……手伝ってくれるお礼と言っては何だけど、神剣使いでも無いのにそんな魔法が使える理由とか、そんなあなたは一体何者なのかとかは今は訊かないでおいてあげる」

 

 そしてそう続けると、一度、静かに、しかし深く息を吐く。

 

「最後に、訊くわ。貴方は私達の……いえ、この学園の、味方なのよね?」

 

 一言一言を区切る様、ひたと俺の目を見据えて言う斑鳩の表情は、俺の言葉の真贋を見極めてやる、と言っている様に見えた。

 ……俺には、『この世界』において確固たる『居場所』がない。それは、俺が『この世界』とは別の世界から転生してきて、その『俺』の意識が強いというのが最たる理由なんだけど、それに加えて『青道祐』そのものが、この世界においてはすでに親類縁者の居ない上に、人と深く接する事もなかった、と言うのもあって。

 だからだろうか。まだ今の『俺』がここで過ごして数日しか経っていないにも関わらず、フィアやナナシやレーメの傍、そして自身が所属するこの『物部学園』と言うものが、自身が居るべき『居場所』になりつつあることを自覚していた。

 だからこそ、やると決めた以上、俺にとってこの学園を守ることはむしろ望むところな訳で。……何度も言うようだけど、まだまだ全然力不足なのは否めないのだけど。

 そんな想いを篭めて──流石に口に出す訳にも行かないが──俺もしっかりと彼女を見据え、言ってやる。

 

「当然だ。俺だってこの学園の生徒だしな。……どこまで出来るかはわからないけど、俺も全力でここを守ると誓う」

 

 そのまま、互いに目を逸らす事無く見つめていると、斑鳩は不意にふっと表情を緩めた。

 

「……信じてあげる。期待してるわ、魔法使いさん?」

 

 魔法使い……ね。確かに、現状アーツ……魔法しか使えない俺には、ぴったりの呼び名かもな。

 

「……善処しよう、リーダー?」

「……そこは見栄でもいいから『まかせろ』とでも言いなさいよ」

「……出来ない事はしない主義なんだ」

 

 そう軽口を言い合ってから、同時に「ぷっ」と吹き出した。

 本当に、俺にどこまで出来るか……なんて思うけれど、やれるだけやってみますかね。

 ……思っていたよりも早く首を突っ込んでしまったが……ま、なるようになるさ。

 

(…………楽しそうですね、マスター)

(……まったくだ)

 

 拗ねるなよ。

 

「あの、青道先輩、これからよろしくお願いします」

「頑張りましょうね、先輩」

 

 俺の頭にナナシとレーメの念話が響いた、丁度それとタイミングを同じくして、俺と斑鳩の会話がひと段落着くまで待っていたのだろう、世刻と永峰がそう声を掛けてきた。

 俺も二人に対して「よろしくな」と言葉を返した。

 

「ところで、これからのことなんですけど……」

 

 とりあえず俺に関しては一段落着いたのを受けて、永峰が今後の事に関して話を切り出す。

 何でも今回は、殲滅する前に敵が撤退していったらしく、そのため彼女が言う「これから」とは、すなわち再びミニオンに襲われた場合、どうするのかと言うことらしい。

 

「もちろん、撃退あるのみ! 今回は撤退に終わったが、今後は倒すべきだ。そうでなければこの場所が危険になる」

 

 その永峰の問いに斑鳩が口を開きかけ、言葉を発するよりも早く、世刻のレーメの声が響く。

 それに対して斑鳩も「えっと……その通りね」と苦笑しながら頷いた。どうやら考えている事は同じだったらしいな。

 まぁ確かに、ミニオンを操る者が──俺はミニオンの背後に居る存在を知っているが──居るかどうか解らないとは言え、むざむざこちらの情報を相手に渡す理由はない。そしてそのためには、攻めてきた相手を逃がさずに殲滅するしかない訳で。

 

「ふむ。……ではなんにせよ、今後は油断せず、敵対する者に出遭い次第、倒していく方向でいいな?」

「ええ、それでいきましょう」

 

 敵に関してはそう決めた後は、襲撃前に話していたらしい、見回り等の事を決めて解散になった。

 ……俺も当然の如く見回りに組み込まれたのは言うまでも無い。ちなみに時間帯としては夜中から明け方にかけて。……容赦ねえな。まぁいいけどさ。

 

 

◇◆◇

 

 

 見回りの予定を立て終えた後、祐は既に生徒会室を辞し、この場に残った沙月、望、希美、そしてレーメの四人は、しばしの間無言で顔を突き合わせていた。

 それぞれの胸中にあるのは、つい今しがたこの場にいたもう一人のこと。

 そんな中、望の肩に座っていたレーメが、ふわりと浮いて沙月の前に浮かぶと口火を切る。

 

「よかったのか、サツキ? あんなにあっさりと信じる事にして」

 

 その問いによって、自然と望と希美の視線も沙月に集まり、沙月はそれぞれの顔を順番に見回してから、こくりと一つ頷いた。

 そしてなぜ自分が、祐のことを──例えそのほとんどの事情を語っていないにも関わらず──信じる事に決めたのか、その胸中を語りだす。

 

「うん……私としては、まぁクラスメイトだし、詳しくはなくてもある程度は彼のことも知っているしね。それに……この学園を守るって言ったときの眼。それと……あの時見た、戦い終わった後の表情、かなぁ」

 

 あれを見たら、信じていいかなって思ったの。我ながら甘いとは思うけどね。

 そう苦笑しつつ続けた沙月に対して、レーメはふぅ、と小さく息を吐く。

 彼女とて、沙月の言ったことは感じていた。だからこそ、本当にその感覚を信じてみてもいいものかどうか、自分以外の者の意見を聞きたかっただけなのだが。

 

「……そうか。まぁサツキがそう言うのであれば、吾には異存はない」

「俺達も、青道先輩に会ったのは今日が初めてだし……先輩の判断を信じます」

 

 そう言ってレーメは再び望の肩の上に戻り、次いで望が沙月に対して自身の意見を述べた。

 希美もまた、望の言葉に同意するように、うんうんと頷いている。

 それに対して沙月はもう一度苦笑を漏らすと、

 

「うん、解った。……もしも何かあった時は、私が責任を持ちます」

 

 そう言ってしっかりと頷いた。

 

 ──とは言え、きっと大丈夫。そんな予感がするんだけど、ね。

 

 そう内心で呟きながら。


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