永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
「我が力、侮るな……えぇい!」
ベルバルザードが手にする薙刀型永遠神剣『重圧』へとマナが集い、燐光を発する。
唐竹に振り下ろされるそれを身体を捻って躱し、逆袈裟に斬り上げられた刃を屈んで避け、袈裟懸けに振るわれた暴風の如き凶刃を『黎明』で受け流す望。
右薙ぎに払われた『重圧』を一歩下がって躱した望は、振り抜いた直後のベルバルザードへ再接近して『黎明』を振るい反撃に転じた。
「……いくぞ、『デュアルエッジ』!」
双剣である『黎明』。その左右の剣を連続で振るう連撃。
ベルバルザードはそれを『重圧』と、闘気によって
そしてそのまま、追撃とばかりにマナを集め、解放する。
「マナよ……万物を従わせる力に変われ。……全身の骨を砕いてくれるわっ!」
その直後、吹き飛ばされ、起き上がろうとしていた望を襲う重圧。重力を操り、膨大な圧力を掛けて敵を押し潰す、ベルバルザードの魔法『グラビトン』だ。
大地に押さえつけられ、動きを封じられた望へと踏み出すベルバルザード。だが、望の後ろにある路地から、2つの神剣反応が近づいているのを感じ、一歩踏み出したところで足を止めた。
その直後、ベルバルザードの予想通り路地から飛び出す人影が2つ。
その内1つ──希美は、這い蹲る望を見て彼が置かれている状況を瞬時に判断すると、急制動をかけて止まりながらその神剣──槍型神剣『清浄』の切っ先をベルバルザードへと向けた。
一方で希美と共に路地から飛び出したもう一人──絶──は、そのまま駆け抜け、望の直前で彼を飛び越す様に高く跳躍。
そして望の上空に達した所で『グラビトン』の圏内に捕まり、地上へ向けて加速する様に落下する。前方への慣性は生きたまま。そう、ベルバルザードへと向けて。
「ものべー、力をかして……貫け! 『ペネトレート』!」
「避ける事は不可能……受けきってみせろ! くらえっっ!!」
砲撃の如く撃ち込まれる希美の緑マナと、閃光の如き絶の連撃。しかしベルバルザードは先に二人の出現を予測していただけあり、その連撃を『アイアンスキン』によって受けきった。とはいえ、その衝撃はベルバルザードを大きく後退させ、『グラビトン』を解除させる事には成功したのだが。
『グラビトン』から解放された望は、希美と、一端下がった絶に合流すると、ふぅ、と一度大きく息を吐いた。
「助かった。有難う、希美、絶」
「ううん、望ちゃんが無事で良かったよ」
「ああ、気にするな」
声を掛け合い、それぞれ油断無く、武器を構え直してベルバルザードへと向き直る三人。
それに対して、ベルバルザードはその手にした『重圧』を大きく一振りすると、
「面白い……よかろう、貴様等纏めて相手をしてやる。掛かってくるが良い!!」
その覆面に隠された口角を上げた。
◇◆◇
黒の守護者の強襲に咄嗟に飛び込んだ路地を、その後現れたミニオン達を倒しながら駆けるカティマは、行く手に見えた左へ曲がる道から、神剣反応を感じ取った。
恐らくは待ち伏せか、と、己が神剣である『心神』を持つ手に力を籠め、更に一段、駆ける速度を上げる。
神剣により強化された脚力が生み出す速度は、飛ぶように周囲の光景を流しながら曲がり角へと迫り、先手必勝とばかりに『心神』の峰を肩に乗せるように構える。
行うは振り下ろしの斬撃。
重量のある大剣である『心神』が、もっとも威力を発揮する一撃。
そのまま速度を落とす事無く、曲がり角の反対の壁へと跳躍。三角飛びの要領で壁を蹴り、振り下ろしの斬撃にさらに速度と落下の威力を加え──
「っ!? くっ!!」
その曲がり角の先に居た相手に斬撃を
対して曲がり角の先にいた人物もまた、飛び出してきたカティマを斬ろうとした武器を押し留めようと、踏み出していた足に急制動を掛けており──ごすっと、鈍い音が二人の頭に鳴り響いた。
「~~~~……っ」
「い…………ったぁ……」
「……えっと……何かすごい音がしたけど、大丈夫? ゼゥ、それにカティマさんも」
互いに相手に武器を当てないようにと身体を逸らし、それが丁度同じ方向だったために見事にぶつけ合った頭を、両手で抱える様に抑える二人──カティマとゼゥ──へと、ミゥが苦笑しながら声を掛けた。
「は、はい、姉様。カティマもごめんなさい。敵かと思い込んでしまってたわ」
「いえ、私も少々焦っていた様です。……ミゥ殿とゼゥ殿も、ご無事なようで何よりです」
そう言って、互いに苦笑を交わす二人。
そんなカティマへ、ミゥは「ところで」と話を切り出した。
「他の人たちとは会いませんでしたか?」
「……いえ。ミニオンとは戦ったのですが、他のメンバーとは会えませんでした。どうやら随分と入り組んだ路地に入ってしまったようですね」
「……みたいね。とりあえず、あっちに……」
今現在、彼女達が居るのは、T字路の交差部分。その内、両者が来た方ではない、残った方へ行こうかとゼゥが提案しようとした、その時だった。
「見つけたぞ、異分子どもめ!!」
最悪の声が響いたのは。
◇◆◇
『重圧』を構えたベルバルザードへ、望と絶が同時に駆ける。
望は双剣の内の片方、陽剣に値する一振りへとオーラフォトンを籠め、それと同時に加速し、弾丸の如くベルバルザードへと突貫する。
「まっすぐに……貫く! たぁぁぁぁぁ!!」
本来左右に別けて籠められるマナを片方に集中させ、“斬る”ではなく“突く”事によって、相手の防御を貫く威力を得る技、『オーバードライブ』。
それに追随する様に絶が駆け、肉薄すると同時にその刃を振るう。
「俺の刃を、避けられるか? 雲散、霧消!」
ベルバルザードが望の攻撃を『重圧』によって防御した隙に、望の影から現れた絶が繰り出す連撃は、ベルバルザードの
剣を振り姿勢の絶に対し、ベルバルザードは『重圧』を石突で穿つように振るうも、『オーバードライブ』で駆け抜けた望が、ベルバルザードの横合いから斬りかかってその攻撃を防ぐ。
更に、望の攻撃に合わせて斬撃を重ねる絶。
幾重にも折り重なる二人の攻撃に一瞬顔をしかめたベルバルザードだが、傷も、痛みも、受けたものを全て意識の外に排し、その刃を望と絶の二人へ振るう。
攻撃動作後は、大なり小なりの隙が出来る。それは人の形をしている以上、神剣使いであろうと変わる事は無い。そこを突き、二人まとめて薙ぎ払わんと、大振りの避けられぬ一撃を見舞おうとした、その瞬間。
「この一撃は、雷光の力! 『ライトニングフューリー』!!」
二人への攻撃に意識を割いていたベルバルザードを、衝撃が襲う。
槍のリーチの長さを生かした、高速の刺突。マナを爆発させる様に弾けさせ、推進剤として突貫する雷光の一撃。
希美の放ったそれは、望と絶を襲わんとしたベルバルザードに、攻撃に回すためのマナを防御に使わせる。
『清浄』の穂先とベルバルザードのマナ障壁が火花を散らし、衝撃派を伴うほどの激突は、希美の突進を押しとどめた。次の瞬間、『重圧』を希美に叩きつけようと振り上げたベルバルザードと、『清浄』を両手で把持する希美。
『清浄』の穂先が二股に別れ──咄嗟に『重圧』を身体の前で構えて防御に回すベルバルザード。
「貫け、『ペネトレート』!!」
ズドンッと言う大気を震わせる音と共に放たれたマナの砲撃は、ベルバルザードの巨体すら弾き飛ばし、大きく後退させ、その間に二人は体勢を整え、再びベルバルザードへと相対していた。
よもや後衛と侮っていた小娘までもこれほどとは。中々やってくれる。
フン、と、忌々しげに、それで居て楽しげに嗤うベルバルザード。そしておもむろにその腕にマナを集めると、地面に叩きつける様に解放した。
「眼前に在る者全て……断つ! 滅びろ!!」
「ぐぅっ!」
「きゃあ!」
「くっ……!」
ベルバルザードによって放たれた赤マナは波動となり、望達には衝撃を、対して術者たるベルバルザードには、その身に活力を与え、力を増させる。
『バーサークチャリオット』。その技の名にふさわしき、
ベルバルザードは、湧き上がる力のままに、『重圧』へとマナを溜め、そしてそのまま、波動によって一瞬動きの鈍った望達三人へと一気に距離を詰めた。
「抵抗など無意味……思い知るがいい!!」
マナを爆発させると共に、下方から一気に斬り上げる!
迫り来る『重圧』の刃──ベルバルザードにとっての最大の一撃たる、『ライアットスタンピード』──に対し、望と希美は咄嗟にそれぞれオーラフォトンバリアとディバインブロックによって、三人を包み込んだ。
襲い来る衝撃は、先程の『バーサークチャリオット』の比ではなく、二重のブロックの上から三人へ無数の傷を与え、体力を著しく削る。
そこに追撃とばかりに行われるは、暴君の一撃。
「マナよ、灼熱の炎に変わり敵を薙ぎ払え。……苦しみにのた打ち回り、死ね!」
ベルバルザードによって放たれた赤マナに触発され、顕現するは彼の神獣たる赤き暴君『レッドドラゴン・ガリオパルサ』。その身より放たれる、灼熱の咆哮『ハイドラ』。
だが、それが着弾するより早く、望達の身体をマナが包んだ。
「神剣の主が命じる。マナよ、癒しの風となれ。『ハーベスト』!」
「好き勝手やられてたまるか!」
「防げ!」
希美が放った緑のマナは、癒しの風となって三人を包み、その身に受けた傷を一気に癒す。
そして望と、それに応えたレーメが練り上げた白きマナは、『レジスト』の神剣魔法となって三人の理力に対する抵抗力を上昇させた。
「ナナシ、マインドブレイク発動!」
「闇の帳、展開します!」
そこにさらに、ベルバルザードとガリオパルサへと放たれる神剣魔法。
絶の練り上げた黒マナは、ナナシの導きのままに対象へと降り注ぎ、理力を激減させ、魔法による攻撃力を大幅に減らす。
そして着弾する『ハイドラ』。
だが、絶によりその威力を下げられ、望により上げられた抵抗力によって、その威力は十全足るものを発揮する事はなく、希美によって癒された望達は、即座にベルバルザードへと反撃に転じる。
「ナナシ、離れろ。一気に喰らわせてやる。……生者、必滅!」
「ものべー、狙いはお願い! ショットブレイカーー!!」
「同時に行くぞ、レーメ!」
「クロスディバイダーーー!!」
ほぼ同時に放たれた三連撃。それはベルバルザードの防御を貫き、さしものベルバルザードもその場に膝を突き、荒い息を吐いた。
「ぐぅ……やってくれる……!」
その時だ、やや離れた場所の空に、光の矢が乱舞したのは。
それから僅かの時を置き、その空が赤く染まり、歪み、その歪みが大地に落ちて望達の場所まで轟音を響かせた。
互いを警戒しつつもその光景を見ていた望達とベルバルザードは、その意識をそれぞれ相手に向けた時点で気付く。ミニオン達がその動きを止めて居る事に。
その瞬間、ベルバルザードは悟った。エヴォリアに何かがあったのだ、と。
「仕方が無い、か。ここは勝ちを譲っておこう」
ベルバルザードはその場に立ち上がると、遠方の空に一瞬気を割いていた望達から離れて距離を取ると、望達を振り切り、一気にその場を離脱する。自分も少々手痛いダメージを受けた。それに確かめねばならぬ。エヴォリアに何があったのか、と。
だが彼は、その実気付いていたのかもしれない。エヴォリアに起こったのは、決して悪い事ではないと。
なぜなら──南天神の転生体であり、その存在を知っている彼には見えていたから。光の矢に翻弄されるように追い立てられる、『奴等』の姿が。
◇◆◇
走る走る走る。
ミゥとゼゥがマナを弾丸として撃ちながらも、そのことごとくを強烈な一撃で吹き散らされる中、三人は路地を駆けていた。
何とか隙を突き、反撃しなければ。
そう思いつつも敵の力は強大で、中々反撃の糸口が掴めない。
それに歯噛みしつつも、チャンスを求めて彼女等は駆ける。
「しぶとい奴等め、死ね!!」
そして再び放たれる『疑氷』の一撃。
それを何とかかわしたが、その一撃は近くの建物を跡形も無く破壊した。
防御すれば防御の上から消し飛ばされるような、身も蓋もない威力。
何という威力か、と、カティマは思う。この威力はあまりにも異常だ。そう、前回会った時よりも明らかに強すぎる。と。その内に彼女達は、少々開けた場所に出て──
「……あっ」
しまった、と言う風な、ミゥの声が響いた。
彼女達の視線の先──そこには、集まった仲間たちの姿。……何故かエヴォリアが居るのだが。
そして彼等の姿を認めたのは、ミゥ達だけではなく。
「見つけたぞ……!」
そんな、憎しみの篭った声。
それを発した人物──ミゥ達を、散々追い回していた、ショウ──は、目の前のミゥ達を無視して飛び出した。
その視線の向かう先は──。
◇◆◇
「祐さん!!」
「祐!」
そんな、悲鳴にも似た声が聴こえた。
「見つけたぞ! 貴様のせいで、スバルは!!」
そしてそれに続いて、聞き覚えのある、憎しみの篭った声。
そちらの方を向けば、こちらに弓を──弓形永遠神剣『疑氷』を──構える、ショウの姿。その弓には既に多量のマナが集まっていて──。
油断した。
エヴォリアの件が何とかなったと、僅かでも気を抜いてしまった。
迫り来る閃光の如きマナ。
範囲よりも威力を重視したかのような、濃縮に凝縮された、弾丸の様なマナ。
かわせない、と、防げるかも解らないが障壁を張ろうとした、その時。
とん、と、軽い衝撃。
何故か、微笑んでいるエヴォリア。
そして閃光は、彼女を──。