永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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58.それぞれの戦い、二。

「我が力、侮るな……えぇい!」

 

 ベルバルザードが手にする薙刀型永遠神剣『重圧』へとマナが集い、燐光を発する。

 唐竹に振り下ろされるそれを身体を捻って躱し、逆袈裟に斬り上げられた刃を屈んで避け、袈裟懸けに振るわれた暴風の如き凶刃を『黎明』で受け流す望。

 右薙ぎに払われた『重圧』を一歩下がって躱した望は、振り抜いた直後のベルバルザードへ再接近して『黎明』を振るい反撃に転じた。

 

「……いくぞ、『デュアルエッジ』!」

 

 双剣である『黎明』。その左右の剣を連続で振るう連撃。

 ベルバルザードはそれを『重圧』と、闘気によって物理(マテリアル)の防御能力を高める『アイアンスキン』で受け止めると、お返しとばかりに『重圧』を再度横薙ぎに振るい、咄嗟に『黎明』を交差させて受けた望を、そのまま力任せに吹き飛ばした。

 そしてそのまま、追撃とばかりにマナを集め、解放する。

 

「マナよ……万物を従わせる力に変われ。……全身の骨を砕いてくれるわっ!」

 

 その直後、吹き飛ばされ、起き上がろうとしていた望を襲う重圧。重力を操り、膨大な圧力を掛けて敵を押し潰す、ベルバルザードの魔法『グラビトン』だ。

 大地に押さえつけられ、動きを封じられた望へと踏み出すベルバルザード。だが、望の後ろにある路地から、2つの神剣反応が近づいているのを感じ、一歩踏み出したところで足を止めた。

 その直後、ベルバルザードの予想通り路地から飛び出す人影が2つ。

 その内1つ──希美は、這い蹲る望を見て彼が置かれている状況を瞬時に判断すると、急制動をかけて止まりながらその神剣──槍型神剣『清浄』の切っ先をベルバルザードへと向けた。

 一方で希美と共に路地から飛び出したもう一人──絶──は、そのまま駆け抜け、望の直前で彼を飛び越す様に高く跳躍。

 そして望の上空に達した所で『グラビトン』の圏内に捕まり、地上へ向けて加速する様に落下する。前方への慣性は生きたまま。そう、ベルバルザードへと向けて。

 

「ものべー、力をかして……貫け! 『ペネトレート』!」

「避ける事は不可能……受けきってみせろ! くらえっっ!!」

 

 砲撃の如く撃ち込まれる希美の緑マナと、閃光の如き絶の連撃。しかしベルバルザードは先に二人の出現を予測していただけあり、その連撃を『アイアンスキン』によって受けきった。とはいえ、その衝撃はベルバルザードを大きく後退させ、『グラビトン』を解除させる事には成功したのだが。

 『グラビトン』から解放された望は、希美と、一端下がった絶に合流すると、ふぅ、と一度大きく息を吐いた。

 

「助かった。有難う、希美、絶」

「ううん、望ちゃんが無事で良かったよ」

「ああ、気にするな」

 

 声を掛け合い、それぞれ油断無く、武器を構え直してベルバルザードへと向き直る三人。

 それに対して、ベルバルザードはその手にした『重圧』を大きく一振りすると、

 

「面白い……よかろう、貴様等纏めて相手をしてやる。掛かってくるが良い!!」

 

 その覆面に隠された口角を上げた。

 

 

             ◇◆◇

 

 

 黒の守護者の強襲に咄嗟に飛び込んだ路地を、その後現れたミニオン達を倒しながら駆けるカティマは、行く手に見えた左へ曲がる道から、神剣反応を感じ取った。

 恐らくは待ち伏せか、と、己が神剣である『心神』を持つ手に力を籠め、更に一段、駆ける速度を上げる。

 神剣により強化された脚力が生み出す速度は、飛ぶように周囲の光景を流しながら曲がり角へと迫り、先手必勝とばかりに『心神』の峰を肩に乗せるように構える。

 行うは振り下ろしの斬撃。

 重量のある大剣である『心神』が、もっとも威力を発揮する一撃。

 そのまま速度を落とす事無く、曲がり角の反対の壁へと跳躍。三角飛びの要領で壁を蹴り、振り下ろしの斬撃にさらに速度と落下の威力を加え──

 

「っ!? くっ!!」

 

 その曲がり角の先に居た相手に斬撃を当てない(・・・・)ように、身体を捻り、『心神』を逸らす。

 対して曲がり角の先にいた人物もまた、飛び出してきたカティマを斬ろうとした武器を押し留めようと、踏み出していた足に急制動を掛けており──ごすっと、鈍い音が二人の頭に鳴り響いた。

 

「~~~~……っ」

「い…………ったぁ……」

「……えっと……何かすごい音がしたけど、大丈夫? ゼゥ、それにカティマさんも」

 

 互いに相手に武器を当てないようにと身体を逸らし、それが丁度同じ方向だったために見事にぶつけ合った頭を、両手で抱える様に抑える二人──カティマとゼゥ──へと、ミゥが苦笑しながら声を掛けた。

 

「は、はい、姉様。カティマもごめんなさい。敵かと思い込んでしまってたわ」

「いえ、私も少々焦っていた様です。……ミゥ殿とゼゥ殿も、ご無事なようで何よりです」

 

 そう言って、互いに苦笑を交わす二人。

 そんなカティマへ、ミゥは「ところで」と話を切り出した。

 

「他の人たちとは会いませんでしたか?」

「……いえ。ミニオンとは戦ったのですが、他のメンバーとは会えませんでした。どうやら随分と入り組んだ路地に入ってしまったようですね」

「……みたいね。とりあえず、あっちに……」

 

 今現在、彼女達が居るのは、T字路の交差部分。その内、両者が来た方ではない、残った方へ行こうかとゼゥが提案しようとした、その時だった。

 

「見つけたぞ、異分子どもめ!!」

 

 最悪の声が響いたのは。

 

 

             ◇◆◇

 

 

 『重圧』を構えたベルバルザードへ、望と絶が同時に駆ける。

 望は双剣の内の片方、陽剣に値する一振りへとオーラフォトンを籠め、それと同時に加速し、弾丸の如くベルバルザードへと突貫する。

 

「まっすぐに……貫く! たぁぁぁぁぁ!!」

 

 本来左右に別けて籠められるマナを片方に集中させ、“斬る”ではなく“突く”事によって、相手の防御を貫く威力を得る技、『オーバードライブ』。

 それに追随する様に絶が駆け、肉薄すると同時にその刃を振るう。

 

「俺の刃を、避けられるか? 雲散、霧消!」

 

 ベルバルザードが望の攻撃を『重圧』によって防御した隙に、望の影から現れた絶が繰り出す連撃は、ベルバルザードの防御(アイアンスキン)を抜いてその身に確かな傷を与える。

 剣を振り姿勢の絶に対し、ベルバルザードは『重圧』を石突で穿つように振るうも、『オーバードライブ』で駆け抜けた望が、ベルバルザードの横合いから斬りかかってその攻撃を防ぐ。

 更に、望の攻撃に合わせて斬撃を重ねる絶。

 幾重にも折り重なる二人の攻撃に一瞬顔をしかめたベルバルザードだが、傷も、痛みも、受けたものを全て意識の外に排し、その刃を望と絶の二人へ振るう。

 攻撃動作後は、大なり小なりの隙が出来る。それは人の形をしている以上、神剣使いであろうと変わる事は無い。そこを突き、二人まとめて薙ぎ払わんと、大振りの避けられぬ一撃を見舞おうとした、その瞬間。

 

「この一撃は、雷光の力! 『ライトニングフューリー』!!」

 

 二人への攻撃に意識を割いていたベルバルザードを、衝撃が襲う。

 槍のリーチの長さを生かした、高速の刺突。マナを爆発させる様に弾けさせ、推進剤として突貫する雷光の一撃。

 希美の放ったそれは、望と絶を襲わんとしたベルバルザードに、攻撃に回すためのマナを防御に使わせる。

 『清浄』の穂先とベルバルザードのマナ障壁が火花を散らし、衝撃派を伴うほどの激突は、希美の突進を押しとどめた。次の瞬間、『重圧』を希美に叩きつけようと振り上げたベルバルザードと、『清浄』を両手で把持する希美。

 『清浄』の穂先が二股に別れ──咄嗟に『重圧』を身体の前で構えて防御に回すベルバルザード。

 

「貫け、『ペネトレート』!!」

 

 ズドンッと言う大気を震わせる音と共に放たれたマナの砲撃は、ベルバルザードの巨体すら弾き飛ばし、大きく後退させ、その間に二人は体勢を整え、再びベルバルザードへと相対していた。

 よもや後衛と侮っていた小娘までもこれほどとは。中々やってくれる。

 フン、と、忌々しげに、それで居て楽しげに嗤うベルバルザード。そしておもむろにその腕にマナを集めると、地面に叩きつける様に解放した。

 

「眼前に在る者全て……断つ! 滅びろ!!」

「ぐぅっ!」

「きゃあ!」

「くっ……!」

 

 ベルバルザードによって放たれた赤マナは波動となり、望達には衝撃を、対して術者たるベルバルザードには、その身に活力を与え、力を増させる。

 『バーサークチャリオット』。その技の名にふさわしき、狂戦士(バーサーカー)の如き猛々しき力。

 ベルバルザードは、湧き上がる力のままに、『重圧』へとマナを溜め、そしてそのまま、波動によって一瞬動きの鈍った望達三人へと一気に距離を詰めた。

 

「抵抗など無意味……思い知るがいい!!」

 

 マナを爆発させると共に、下方から一気に斬り上げる!

 迫り来る『重圧』の刃──ベルバルザードにとっての最大の一撃たる、『ライアットスタンピード』──に対し、望と希美は咄嗟にそれぞれオーラフォトンバリアとディバインブロックによって、三人を包み込んだ。

 襲い来る衝撃は、先程の『バーサークチャリオット』の比ではなく、二重のブロックの上から三人へ無数の傷を与え、体力を著しく削る。

 そこに追撃とばかりに行われるは、暴君の一撃。

 

「マナよ、灼熱の炎に変わり敵を薙ぎ払え。……苦しみにのた打ち回り、死ね!」

 

 ベルバルザードによって放たれた赤マナに触発され、顕現するは彼の神獣たる赤き暴君『レッドドラゴン・ガリオパルサ』。その身より放たれる、灼熱の咆哮『ハイドラ』。

 だが、それが着弾するより早く、望達の身体をマナが包んだ。

 

「神剣の主が命じる。マナよ、癒しの風となれ。『ハーベスト』!」

「好き勝手やられてたまるか!」

「防げ!」

 

 希美が放った緑のマナは、癒しの風となって三人を包み、その身に受けた傷を一気に癒す。

 そして望と、それに応えたレーメが練り上げた白きマナは、『レジスト』の神剣魔法となって三人の理力に対する抵抗力を上昇させた。

 

「ナナシ、マインドブレイク発動!」

「闇の帳、展開します!」

 

 そこにさらに、ベルバルザードとガリオパルサへと放たれる神剣魔法。

 絶の練り上げた黒マナは、ナナシの導きのままに対象へと降り注ぎ、理力を激減させ、魔法による攻撃力を大幅に減らす。

 そして着弾する『ハイドラ』。

 だが、絶によりその威力を下げられ、望により上げられた抵抗力によって、その威力は十全足るものを発揮する事はなく、希美によって癒された望達は、即座にベルバルザードへと反撃に転じる。

 

「ナナシ、離れろ。一気に喰らわせてやる。……生者、必滅!」

「ものべー、狙いはお願い! ショットブレイカーー!!」

「同時に行くぞ、レーメ!」

「クロスディバイダーーー!!」

 

 ほぼ同時に放たれた三連撃。それはベルバルザードの防御を貫き、さしものベルバルザードもその場に膝を突き、荒い息を吐いた。

 

「ぐぅ……やってくれる……!」

 

 その時だ、やや離れた場所の空に、光の矢が乱舞したのは。

 それから僅かの時を置き、その空が赤く染まり、歪み、その歪みが大地に落ちて望達の場所まで轟音を響かせた。

 互いを警戒しつつもその光景を見ていた望達とベルバルザードは、その意識をそれぞれ相手に向けた時点で気付く。ミニオン達がその動きを止めて居る事に。

 その瞬間、ベルバルザードは悟った。エヴォリアに何かがあったのだ、と。

 

「仕方が無い、か。ここは勝ちを譲っておこう」

 

 ベルバルザードはその場に立ち上がると、遠方の空に一瞬気を割いていた望達から離れて距離を取ると、望達を振り切り、一気にその場を離脱する。自分も少々手痛いダメージを受けた。それに確かめねばならぬ。エヴォリアに何があったのか、と。

 だが彼は、その実気付いていたのかもしれない。エヴォリアに起こったのは、決して悪い事ではないと。

 なぜなら──南天神の転生体であり、その存在を知っている彼には見えていたから。光の矢に翻弄されるように追い立てられる、『奴等』の姿が。

 

 

             ◇◆◇

 

 

 走る走る走る。

 ミゥとゼゥがマナを弾丸として撃ちながらも、そのことごとくを強烈な一撃で吹き散らされる中、三人は路地を駆けていた。

 何とか隙を突き、反撃しなければ。

 そう思いつつも敵の力は強大で、中々反撃の糸口が掴めない。

 それに歯噛みしつつも、チャンスを求めて彼女等は駆ける。

 

「しぶとい奴等め、死ね!!」

 

 そして再び放たれる『疑氷』の一撃。

 それを何とかかわしたが、その一撃は近くの建物を跡形も無く破壊した。

 防御すれば防御の上から消し飛ばされるような、身も蓋もない威力。

 何という威力か、と、カティマは思う。この威力はあまりにも異常だ。そう、前回会った時よりも明らかに強すぎる。と。その内に彼女達は、少々開けた場所に出て──

 

「……あっ」

 

 しまった、と言う風な、ミゥの声が響いた。

 彼女達の視線の先──そこには、集まった仲間たちの姿。……何故かエヴォリアが居るのだが。

 そして彼等の姿を認めたのは、ミゥ達だけではなく。

 

「見つけたぞ……!」

 

 そんな、憎しみの篭った声。

 それを発した人物──ミゥ達を、散々追い回していた、ショウ──は、目の前のミゥ達を無視して飛び出した。

 その視線の向かう先は──。

 

 

             ◇◆◇

 

 

「祐さん!!」

「祐!」

 

 そんな、悲鳴にも似た声が聴こえた。

 

「見つけたぞ! 貴様のせいで、スバルは!!」

 

 そしてそれに続いて、聞き覚えのある、憎しみの篭った声。

 そちらの方を向けば、こちらに弓を──弓形永遠神剣『疑氷』を──構える、ショウの姿。その弓には既に多量のマナが集まっていて──。

 

 油断した。

 エヴォリアの件が何とかなったと、僅かでも気を抜いてしまった。

 

 迫り来る閃光の如きマナ。

 範囲よりも威力を重視したかのような、濃縮に凝縮された、弾丸の様なマナ。

 かわせない、と、防げるかも解らないが障壁を張ろうとした、その時。

 

 とん、と、軽い衝撃。

 

 何故か、微笑んでいるエヴォリア。

 

 そして閃光は、彼女を──。


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