永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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57.それぞれの戦い、一。

 上空から行われた黒の守護者(ガーディアン)の強襲。それに逸早く気付いた祐の警告により退避した皆の中で、ヤツィータは今窮地に立たされていた。

 とは言え彼女が逃げ遅れたと言う訳ではない。言うなれば、逃げた先が悪かった、と言うところだろうか。

 

「よりにもよって2匹目とはね……」

 

 彼女の眼前に広がるは緑色の壁。そう、彼女の前には、緑の守護者が立ち塞がっていた。

 

「ゴァァァアアアアアアアアアアア!!!」

 

 後方から聞こえて来た黒の守護者のものだろうと思う咆哮に応える様に、目の前の緑の守護者が吼える。

 その視線の向く先は──

 

「はぁ……やっぱり私よね。それにしても緑って事は、物理特化かしら? まったく、お互い相性最悪よね!」

 

 そう言いつつ、ランタン型永遠神剣・第六位『癒合』を構えるヤツィータ。そんな彼女に向かって振るわれた緑の守護者の腕を避けると、『癒合』の炎の一部を切り離して外部へと顕現させると、守護者に向けて解き放つ。

 

「コラコラ、せっかちなのは女性に嫌われるわよ! 『フレアカラドリウス』!」

 

 『癒合』の炎は鳥の形を取り、猛烈な勢いで守護者へと突き進む。

 攻撃直後の隙を突いて放たれた炎の鳥は、緑の守護者にぶつかると共に炸裂し、爆発する。

 

「ついでにコレはどうかしら!? 『ファイアボール』!」

 

 次いで放たれた神剣魔法は緑の守護者の顔面に炸裂し、その視界を爆炎に包んだ。一方の緑の守護者は、続けざまのヤツィータの攻撃を喰らいながらも彼女へとその鉤爪を振るう。

 『ファイアボール』にて視界を塞がれた状態で振るわれた攻撃であったからか、ヤツィータは狙いの甘い豪腕を余裕を持って躱すことができた。

 とは言えそう何度も同じ事ができるわけでもない。このままではジリ貧だと歯噛みした彼女は、背筋にゾクリとしたものを感じて、咄嗟に地面に身を投げ出すように転がり、その場から無理矢理距離をとる。

 次の瞬間、それまで彼女が居た場所を、雷鳴と共に赤き雷撃が撃ち抜いた。赤属性の神剣魔法『ライトニングファイア』だ。

 どういうこと、と周囲を見たヤツィータは、いつの間にか緑の守護者のみならず、ミニオンに──その実はエヴォリアが連れてきたミニオンなのだが──囲まれている事に気付いた。

 

「……まずったわね」

 

 ちっと舌打ちしたその時、周囲にその意識を向けてしまったために疎かになった、尤も注意しなければいけない存在からの攻撃が彼女を襲う。

 はっと気付いたときには、猛烈な風切り音とともに、眼前にその巨大な腕が迫って──

 

「くっ!」

 

 咄嗟に顔を覆うように腕を交差させ、防御の姿勢を取ったヤツィータだったが、予想した衝撃が来ることは無かった。ミニオンの壁を割って飛び出した少女が、その身を盾に緑の守護者の一撃から彼女の身を守っていたからだ。

 その少女──ポゥの張った障壁(ディバインブロック)は、守護者の猛烈な一撃に押されはしたが、強固な壁となってヤツィータを叩き潰さんとした脅威を防ぎ切る。

 

「ヤツィータさん、大丈夫ですか?」

「ええ、ありがと、ポゥちゃん」

 

 ポゥへ礼を言ったヤツィータは、鉤爪を防がれ、一端距離を開けた守護者がその(あぎと)を大きく開けたのを見て、咄嗟に神剣魔法を撃ち放った。

 放たれるは巨大な火球。それは先ほどの一撃と同じように、望外にも守護者の顔面へと直撃し爆発を起こす。そしてその爆発のダメージと衝撃によって、直後放たれた緑龍の息吹(ネイチャーブレス)は、ヤツィータとポゥを逸れてミニオンを薙ぎ払うに終わった。

 ほっとするのも束の間、ブレスによって薙ぎ払われたミニオン達の一角から、ヤツィータに向けて緑ミニオンが迫る。

 緑の守護者のブレスであるネイチャーブレスは、その属性に違わず完全な物理(マテリアル)属性の攻撃だ。故に、防御が物理特化になっている緑ミニオンには効きが弱かったのであろう。

 緑ミニオンは多少の傷を負っているものの、その動きに些かの翳りも無く、

 

「雷光の一撃……当たって……」

「やばっ」

 

 バチリ、と、ミニオンがその手にした槍に籠められたマナが紫電を発し、ヤツィータがそれを喰らう事を覚悟した、その瞬間。何処からともなく飛来した、炎に包まれた円盤状のバズソーが、その一撃を振るわんとした緑ミニオンに激突し、弾き飛ばした。

 そしてバズソーの後を追うように、ヤツィータの背後から駆け抜け、ミニオンに接近する影。

 

「ヤツィータ、油断しすぎよ!」

 

 緑ミニオンに斬撃を加えながらそう声を掛けたのは、ネイチャーブレスによって出来た穴を抜け、ミニオンを斬り伏せながら駆けつけた沙月だった。

 そんな沙月へ「まったくよね」と苦笑しつつ返しながら、沙月の前に自らの窮地を救ってくれたバズソー──永遠神剣『剣花』──の担い手であり、沙月に続いて自分達の下へ追いついてきたワゥへと、「ワゥちゃんも、ありがとね」と声を掛ける。

 そして、ポゥが守護者からの攻撃を受け止める中、『癒合』の力を高めていくヤツィータ。

 その間、沙月は己の神剣『光輝』を光の槍として飛ばし、時に神剣魔法をバニッシュし、ワゥは敵陣の中を縦横無尽に駆け抜けながら、両手の『剣花』を巧みに操り、ミニオンを攻撃していく。

 そして、二人が幾人かのミニオンを倒した時、『融合』の力が臨界に達した。

 

「二人とも、下がって! どかーんと、派手にいきましょうか!」

 

 解放される高められた『癒合』のマナ。それは一つの形を無し、ヤツィータの背後に顕現させる。

 守護者に匹敵する巨体。その姿は雄々しき赤き火竜。

 

「バラスターダ……焼き尽くしちゃって!」」

 

 ヤツィータの神獣、『レッドドラゴン・バラスターダ』。その身より繰り出されるは炎熱の咆哮たる『アークフレア』。それは守護者諸共、その周囲に居るミニオン達をも飲み込み、マナの塵へと変えていく。

 そしてそこに、追撃とばかりにワゥがその己が内に秘められたマナを解き放つ。

 

「行っくよーー! 『メテオフレア』!!」

 

 ワゥの切り札とも言うべき一撃は、守護者の真下から巨大な火柱を吹き上げて包み込み、次いで天空より隕石にも似た多量の炎弾が、守護者に、そしてミニオン達に降り注いでいく。

 『アークフレア』と『メテオフレア』。単発においても必殺に近い、二重の炎熱の乱舞は世界を焼く。

 そしてそれが収まった時、数多居たミニオン達は尽く滅せられ、そこにあったのは満身創痍の守護者の姿のみであった。

 

「沙月、今よ!」

「オッケー! ……これで止め、喰らいなさい! 『エアリアルアサルト』!!」

 

 『光輝』は定型の形を持たない神剣だ。故にその形は、所有者である沙月の意を受けて様々に変化する。

 その『光輝』は今、その形を光の翼へ変え、そして沙月の全身を包み込んだ。

 ふわりと、神剣の力場に支えられて彼女の身体が宙へ浮く。零からトップスピードへ、一瞬にして加速した沙月は、その『光輝』に包まれた身を弾丸とし、守護者へ向けて突撃した。

 沙月と守護者が交差した瞬間、『光輝』が反応し、轟音を立てて炸裂する。

 そして守護者は、小さなうめき声を残してその身体をマナの塵へと変えていった。

 

「……ふぅ。これでここらは片付いたわね。……さて、それじゃあ他の皆の援護に行きましょうか」

「はい」

「うんっ」

 

 それを見送り、発したヤツィータの言葉に、ポゥとワゥが応え、彼女達は沙月の元へと駆けて行った。

 

 

             ◇◆◇

 

 

「一発でおわりになんかしてやらないっ! ランサーーーー!!」

 

 靴型永遠神剣『揺籃』の力を解放したルプトナが、瞬時にその間合いを詰め、黒の守護者の胴へと三連の蹴りを叩き込む。

 一瞬怯んだ様子を見せた守護者であったが、その直後、彼女目掛けて拳が振り下ろされる。それを後方へ跳んでかわすと、

 

「あーもう! 鬱陶しいなあ!!」

 

 そう悪態をつきつつ、己を目掛けて飛んで来たミニオンの神剣魔法をバニッシュする。

 守護者と戦う間に目に入った、ベルバルザードと戦う望の姿。その姿に、援護に行きたいと思いつつも、祐にこの守護者を任された以上、放っておくことも出来ないために、彼女の心には若干ながらも焦りが生まれていた。

 戦場において、焦りは窮地を招く。特に現在の様な、一対多の乱戦では。

 

「命を削る、閃き……じわじわくるでしょ……」

 

 ルプトナが神剣魔法をバニッシュした隙を突き、黒ミニオンが瞬時にその距離を詰める。

 そして神剣を居合いの様に振りぬこうと、さらに速度を上げてルプトナと交差しようとした、その時。

 

「お見通しだっての! ジョルト!!」

 

 カウンターの様にルプトナの蹴りが叩き込まれた。

 三連の蹴りを、まるで一撃と見紛う程の速度で叩き込む技、『グラシアルジョルト』。

 それは黒ミニオンを吹き飛ばし、吹き飛ばされたミニオンは、更に2、3体のミニオンを巻き添えにしてようやく止まった。

 

「へっへーん、どんなもん…………あ」

 

 そのミニオンの様子に、得意げにニヤリと笑った時だ。黒の守護者が一度距離を取り、その顎を大きく開いているのに気がついた。

 そして放たれる、黒龍の吐息(ダークブレス)

 ルプトナは咄嗟に冷気を青マナによって練り上げ、周囲に空気の断層を形成する。

 

「くぅぅぅぅぅ……っ!」

 

 自らを飲み込む黒の奔流の中を必至に堪える。

 それが止んだ瞬間、目を見開いた彼女が見たのは、追撃とばかりに迫る黒の守護者の姿。

 ブレスに呑まれて痛む身体を叱咤し、それを避けようとしたところで、一瞬ふらりと足がもつれた。

 ──流石にまずい……けどっ。

 そう内心焦りながらも、それでも黒の守護者の動きを見逃さぬように見据えるルプトナの耳に、その声は届いた。

 

「マナよ。慈愛持つ神々の息吹となれ。『アースプライヤー』!」

 

 その声と共に、ルプトナを柔らかな生命の光が包み込み、その傷を癒していく。

 ふらついた四肢に力が戻る。

 その直後、彼女の眼前に迫る黒の守護者。対してルプトナは、己が傷を癒してくれた人物──サレス──に「ありがと!」と声をかけつつ振るわれた鉤爪を跳躍してかわし、そのまま空中で反転、大気を凍らせ、『揺籃』の力で足先から鋭利な氷塊で包み、抉りこむ様に蹴りを放つ。

 そのルプトナの目には、反対側、守護者の背後から迫るは、サレスと共にミニオンを倒しながら駆けつけてくれた、タリアとソルラスカの姿が映っていた。

 

「行くよじっちゃん! はぁぁぁあああ!! ルプトナキーーーック!!」

「マナの飛沫になりなさい! これで、終わり!」

「隙間無く、くれてやる! 耐えてみろ! 獣牙断!!」

 

 3人によってほぼ同時に叩き込まれた連撃。

 それは着実に黒の守護者の防御を抜き、傷を負わせ、その命の炎を削っていく。

 

「これで止め! てりゃあああ!!!」

 

 そしてルプトナが、再び氷刃の一撃を蹴り込んだのを最後に、黒の守護者は断末魔の咆哮を残し、その身をマナへと変えて散った。

 それを見送り、ふぅ、と一息吐いたルプトナ達は、少し離れた空に大量の光の矢が飛ぶのを見る。

 

「あれは……」

「ありゃ、祐の『魔法』みたいだな」

 

 ぽつりと呟いたサレスにソルラスカが答える。と、ルプトナがそれに「だと思うよ。今の守護者は、あっちから引き離してきたからね」と続けた。

 

「……にしても、何であんなに空に打ち上げてんだ?」

「アイツの事だから何か理由はあるんでしょうけど。サレス様、どうしますか?」

「……恐らく他の皆も、今のであそこに集まるだろう。我々も向かうぞ」

 

 サレスの言葉に首肯する三人。

 そこでふと、周囲にミニオン達の姿が無い事に気付き、多少の疑問を抱きつつも、サレス達はその場を後にした。


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