永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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56.救うもの、救われるもの。

 ベルバルザードを世刻に、黒の守護者(ガーディアン)をルプトナに任せた俺は、未だ周囲を取り囲むミニオンと切り結びながら、エヴォリアの位置を確かめる。

 肝心なのは彼女を倒す事ではなく、上空から地上の様子を観戦している南天神の亡霊たちを倒す事だ。無論、出来るならばそれを実際に行う前に、エヴォリアと話をつけねばならないだろうが。

 そんな事を考えながら、突き込まれた緑ミニオンの槍を回避し、エヴォリアへと詰め寄ろうとした時、その彼女が両手に填めた『雷火』を打ち鳴らす。

 この戦いが始まってから既に幾度も聴いた、シャンッという鈴の音の様な音が鳴り響き、次いで収束するマナ。

 

「貴方に避けられるかしら? 『オーラショット』!!」

 

 ミニオンの間を縫う様に撃ち込まれる光弾。それを咄嗟に屈んでかわし、次いで上から突き降ろされた緑ミニオンの槍を、起き上がり様に振り上げた『観望』で打ち払う。

 返す刃は薄く、鋭く!

 

「邪魔だ、どけ! 神剣『フラガラッハ』!!」

 

 緑ミニオンの張った、圧縮された竜巻と緑マナで構成された障壁『デボテッドブロック』を切り裂き、その身へ刃を突き立て、再び撃ちこまれた『オーラショット』を切り払う。

 

「やるじゃない……これならどう? 『ギムス』よ、聖なる光により浄化を! 『ライトブリンガー』!!」

 

 再度打ち鳴らされる『雷火』。収束したマナは光となって上空へと打ち上げられ、そして幾条もの光の槍となって降り注いで来る。

 それを後ろに跳んでかわし──

 

「『ソウルブラー』!」

「『アセンション』!」

 

 その先に居たミニオンを、ナナシとレーメのアーツが打ち据えた直後、振り向き様に斬り倒す。

 と、そこを狙うように、炎に包まれながら飛んで来た、赤ミニオンの神剣である、柄を中心に両端に刃のついた双刃剣(ダブルセイバー)を、咄嗟に盾に変えた『観望』で受け止めた。

 撒き散らされる炎熱と、重く響く衝撃。

 

「……『ディクリーズ』」

「今度こそ喰らいなさい、『ライトブリンガー』!」

 

 受け止めたはいいが、その衝撃に大きく後ろに下がらせられ、動きを止められた一瞬。そこを突いて、白ミニオンとエヴォリアの攻撃が襲い来る。

 確かディクリーズは、標的の上空から雷撃を加える攻撃だったはず。

 何にせよ、この一撃は仕方ないか。

 

「くっ……おおおおおおお!!!」

 

 喰らう覚悟を決めると、頭上に向けてマナを練り上げ、オーラフォトンバリアを展開する。

 直後、『ディクリーズ』による電撃の一撃に続き、『ライトブリンガー』の衝撃が連続で俺を叩く。

 この上から連続で撃ち下ろされる攻撃……あー……なんか『魔法の世界』でのスールード戦を思い出すわ。とは言え、あの時はミニオンは居なかったけどな。

 その時、背筋にゾワリとした悪寒。何とか障壁を展開しながら周囲を伺えば、こちらに向かって神剣魔法を放とうとしている赤ミニオン達の姿が。

 ……流石に数の暴力はキツイ。これはヤバイかな。

 そして放たれる複数の神剣魔法……だったが、それらが俺に届く事は無かった。

 エヴォリアと白ミニオンの攻撃を凌ぎ、来るであろう神剣魔法に備えようとした時、

 

「ルゥちゃん! 今です!」

 

 そんな言葉と共に、数体のミニオンを斬り倒し、俺の側へ飛び込んで来たユーフィーと、彼女に続いて、ユーフィーが斬り開いた道を駆け抜けたルゥが、その身に溜めたマナを解き放ったからだ。

 

「任せろ! 『メガバニッシャー』!!」

 

 爆発的に広がったルゥのマナは、ミニオンの神剣魔法を打ち消(バニッシュ)しつつ、大気を、大地を、世界を凍らせる。

 

「そう言うわけで、露払いはまかせるがよい。何か考えがあるのじゃろう?」

 

 そう言ったのは、ユーフィーやルゥと共に来ていたのだろう、いつの間にか横にいたナーヤ……って言うか、良く解ったな? 俺が何かしようとしてるって。

 そう言うと、彼女はうむ。と頷き、

 

「中々近づけないまでも、様子は解ったからのう。ベルバルザードをのぞむに、守護者をルプトナに完全に任せ、お主はエヴォリアに集中したい様子であったからな」

 

 そう言いつつ、彼女の神剣である、モーニングスター型の神剣『無垢』を構えるナーヤ。

 そう言う事なら、と、俺も『観望』を長剣に変え、構える。

 見据えるは一点。お言葉に甘えて、他の雑事は全て皆に任せよう。

 

「……行くぞ! 『シルファリオン』!」

 

 踏み出しつつ放たれたアーツ。俺の身体を風が取り巻き、駆ける速度を押し上げる。

 

「簡単に近づけると思わないでね! 『オーラレイン』!!」

 

 そんな俺達の様子を見つつ、力を溜めていたエヴォリアが、そのマナを天空へ撃ち放った。その直後、先程の『ライトブリンガー』を遥かに超える量の光の槍が、正に雨の如く降り注いでくる。

 どうするって? ……決まっている、進むのみ!

 

「ナナシ、レーメ、しっかり捕まってろよ! 行くぞ、『観望』!」

<承知!>

 

 俺に併走して飛んでいたナナシとレーメが、俺の肩に捕まるのを感じる。

 そして俺の声に応えた『観望』の力をもって、俺は降り注ぐ『オーラレイン』の、光の槍の一条、否、それを構成するマナの一つ一つの動きを“視”る。

 軌道を見切り、避け、逸らし、隙間に飛び込み、構成の薄い部分を打ち破り、ただ前へ!

 

「なん……ですって!? ……けど、これなら!!」

 

  避けきれなかったものや、強引に突破したものが幾つか当たったが支障はない。流石に今の『オーラレイン』の只中を、ほぼ無傷で抜けられるとは思わなかったのだろう。焦った様なエヴォリアの声がした。

 いやまあ俺もここまで上手く抜けられるとは思わなかったんだけどな。正直言って。

 「我等が力を持ってすれば当然だ」なんて『観望』の声が聞こえて、それに苦笑しつつエヴォリアを見る。彼我の距離は約10メートルってところか。もう目の前と言っていいだろう、神剣使いである俺達にっとは、零に等しい距離。

 その零に等しい距離を零にすべく、踏み出した俺に対してエヴォリアが行うは、彼女にとって最大にして最強の一撃だろう。

 

「『ギムス』よ、凍てつく輝きにより敵を薙ぎ払え」

 

 彼女の言葉と共に、彼女の背後に顕現する白銀の巨体。……エヴォリアの神獣『ゴーレム:ギムス』。その全身にある砲門が開き、急速にマナがチャージされていく。

 避けるには近すぎる距離。だけど、大丈夫。そんな確信が有った。……後ろに頼りになる気配を感じたから。

 俺はそれを信じて、タイミングを窺うべく身構えた。

 

「……遊びは終わり。これで最後よ! 『アイスクラスター』!!」

「面白い、力比べといこうか! 『クロウランス』よ、おぬしの力を見せてやるのじゃ! 『フレイムレーザー』!!!」

 

 エヴォリアに応えるは、ナーヤの声。

 直後、俺の背後に、目の前の『ギムス』に匹敵する存在感──ナーヤの神獣『クロウランス』であろう──が出現したのを感じる。

 そして『ギムス』より放たれる、全てを凍らす白き極光。それに対し、俺の頭上を掠めて灼熱の閃光がその白き極光へと飛ぶのが見えた。

 赤と白、炎と氷。相反する二つの閃光は、轟音を上げてぶつかり合い、物理的な威力を伴った衝撃波を撒き散らす。

 それを合図に俺はエヴォリアへと一気に駆け出した。とは言え先に行うのは“確かめる”事だ。そう、亡霊共が俺の攻撃に対して、どんな反応を示すか。

 

「魔法の射手!! 連弾・光の10矢!」

 

 姿勢を低く、密着するように肉薄した俺は、近づきつつ唱えてあった魔法を、下から打ち上げる様に放つ!

 エヴォリアは後ろに下がりつつ身体を逸らし、俺の狙い通り(・・・・・・)避けられた光の矢は、上空に居た南天神の亡霊へと飛んで行く。

 流石に神剣魔法ともまた違う、奴等にとっては得体の知れない魔法に撃ち抜かれるのは嫌だったか、慌てた様にそれを避ける南天神の様子を、『観望』によって拡大された感覚で“視”つつ、エヴォリアを逃がさないように再び距離を詰める。

 確かめたい反応は見れた。後はエヴォリアを何とかするのみだ。

 シャン、と『雷火』が打ち鳴らされ、エヴォリアの手から『オーラショット』が放たれた。

 極至近距離から放たれたそれを彼女の右側へ回り込む様に躱し、その勢いのままに、エヴォリアの張った障壁を斬り付ける。

 二度、三度と、オーラフォトンを巡らせた刃を叩き付け、わざと大振りにして隙を見せたその一瞬。

 反撃しようとしたのだろう、エヴォリアが『雷火』にマナを集め、防御から攻撃へと意識が移った、今!

 

「イン・フェル レイ・ウィル インフィニティ 氷結・武装解除!!」

「しまっ……くぅ!」

 

 俺の言葉と共に放たれた冷気は、エヴォリアの手から『雷火』を弾き飛ばし、それに籠められたマナを霧散させる。

 俺はそのまま身体ごとぶつかるように、一瞬“やられた”と言う顔で動きの止まったエヴォリアを押し倒し、抜け出ようと暴れるエヴォリアを抑えつつ、彼女の顔の横へ『観望』を突きたてた。

 剣を付き立てた勢いのままに顔を寄せた俺と、悔しげに歪むエヴォリアの視線が絡む。これなら流石に、俺達の会話は上空の南天神には聞こえないだろう。

 

「……一度ならず二度までも裸にした挙句、今度はそのまま押し倒すなんて、最低ね」

「俺も我ながらそう思わなくは無いけどな。まあそう言うなよ。……提案だ、エヴォリア。お前の憂いを除いてやる」

 

 俺の言葉に「何を?」と言った表情のエヴォリア。

 そんな彼女へ一言「南天神の亡霊たち」と言ってやると、ビクリと身体を震わせた。

 

「…………仮に……それが出来るとして、貴方に何のメリットがあるのかしら?」

 

 そう言って、じっと、ただひたすらに真っ直ぐに、俺の瞳を見つめてくる。

 その視線は口調とは裏腹に、俺の言葉の真意を探ったり、真偽を確かめると言うよりも、まるで、一縷の望みに縋る視線のようだと感じてしまったのは、俺の気のせいだろうか。

 ……まあ、気のせいでもいいさ。エヴォリアを救うのは、俺がそうしたいから。ただそれだけなんだから。

 

「そうだな。……せいぜいが、この先余計な戦いをしなくて良いってだけで、別に大きなメリットなんか無いさ」

「じゃあ……何故、こんなことを……?」

「強いて言うなら自分のためさ。大まかにでも事情を知っていながらこのまま放置すれば、俺はきっと後悔する。ただ、それが嫌なだけ。それだけだ」

 

 そう、エヴォリアのためなんかじゃない。俺が、後味が悪く無いように、自分のためにやるってだけの、これもただの俺の身勝手なんだから。

 

「……っつーわけで悪いな、エヴォリア。さっきは提案だなんて言ったが、こうやって詰み(チェックメイト)な段階で、お前に選択権は無いわ。だからまあ──大人しく、救われとけ」

 

 俺の台詞を聞いたエヴォリアは、信じられない言葉を聞いたと言わんばかりに、驚いた顔で俺を凝視し──そんな様子に思わずと笑みが漏れる。

 ……なんて、笑ってる場合じゃないか。

 気持ちを引き締め、エヴォリアから離れて彼女を解放し、再び対峙した。

 エヴォリアは直ぐに起き上がると、弾き飛ばされた『雷火』を呼び戻し、服をマナによって再構築して身に纏うと、キッと睨みつけてきた。

 

「……いいわ、やれるものならやってみなさい!」

「──くっ」

 

 あくまで強気なその態度に、苦笑が漏れる。

 まあ、ああやって“敵対している”と言う態度を貫いてくれた方が、仮に失敗したとしても、彼女が被害を受ける可能性が減るからいいだろう。

 ……って、失敗する事を考えていたらいかんな。……大丈夫。上手く行く。

 

「祐、何をする気じゃ? 折角チャンスであったろうに」

 

 俺がエヴォリアに接近してる間、ミニオンを押さえてくれていたユーフィー達が、周囲を警戒しつつ一度合流したところで、ナーヤが問いかけて来た。

 まぁ、折角拘束して無力化したエヴォリアを解放したからな。疑問に思っても仕方ない。

 

「なに、只の“人助け”さ」

「あれは……」

 

 前世が同じ南天神のナーヤなら、亡霊共の姿も見えるだろうか何て思いつつ、答えながら、上空を示しす。

 

「やるぞ、レーメ! ナナシ!」

「うむ、任せよ!」

「イエス、マスター!」

「イン・フェル レイ・ウィル インフィニティ……光の精霊202柱!!  集い来たりて敵を射て  魔法の射手 連弾・光の202矢!!」

 

 紡がれた“力ある言葉”に呼応し、顕現される202条の光弾。無論、これの狙いはエヴォリアではなく、上空の亡霊共。

 『ネギま』に登場する魔法の中で、『魔法の射手』は尤も基本的な攻撃魔法だ。

 そして基本的であるが故にその汎用性は高く、魔法の軌道すら、ある程度のコントロールが可能である。

 そして今必要とするのは、その軌道のコントロール。

 

「レーメ! 狙い通り、上手くやれよ!」

「解っておる! ユウこそしくじるではないぞ!」

 

 撃ちだされた光の矢は、レーメの意思を受け、遠くに居る3体の南天神の亡霊達──ウル、ゴルトゥン、ロコだったか──の動きを阻害する様な軌道を取り、俺の意思を受けた光の矢は、エヴォリアの上空に居る亡霊──イスベル──を遠くの3体の方へと追い立てる軌道で飛んでいく。

 そして全ての矢を撃ち終えた後には、4体の亡霊達は、狙い通りほぼ一塊になっていて──

 

「ナナシ!」

「はい! 喰らいなさい、『ダークマター改』!!」

 

 そこにナナシが準備していたアーツを解き放つ。

 『ダークマター』は、圧縮された空間が、指定した一体の対象を締め付け、押し潰すアーツだ。それに対して今使われた『改』は、その名の通り、『ダークマター』の上位版。

 対象指定の単体型から範囲アーツへ。そして最大の特徴、それは、範囲に巻き込んだ相手を、その圧縮される空間の中心へと引き寄せる!

 

『くっ……あああぁぁあああああおおあおおおあ!!』

 

 『魔法の射手』に続き、『ダークマター改』による攻撃にその存在の隠蔽すら解けたか、苦悶の声を上げながら、アーツの中心──地上へと引きずり降ろされる南天神達。

 そこを狙って放たれるは、レーメのアーツ。

 

「いくぞ! 『シルバーソーン』!!」

 

 それと共に、南天神達を取り囲む様に、10の白銀の刃が円を描いて突き立った。その直後、先端についた宝玉が赤い閃光を発した、その瞬間──

 

『ぎゃあああああぁぁああぁぁあああああ!!!』

 

 正に怨念のごとき叫び声が響いた。

 『シルバーソーン』。幻属性に位置する攻撃アーツで、その最大の特徴は90パーセントと言う高い確率で混乱の状態異常をもたらす事。

 この高い混乱の効果と、『幻』と言う属性、その攻撃が地面に突き立つ刃ではなく、突き立った後に発せられる赤い光によるものである事から、俺達は『シルバーソーン』が肉体ではく精神に作用するアーツであり、肉体を持たない怨念──精神体の様な存在──である南天神の亡霊達には効くんじゃないかと判断した。蓋を開けてみれば正にってやつだ。

 

「マスター、今です!」

「応! ……これで終わりだ! 『テンペストフォール』!!」

 

 『空の軌跡 the3rd』において、主人公であるケビン=グラハムの使う技の中に、『魔槍ロア』と『聖槍ウル』と言うものがある。

 『魔槍ロア』は時属性、『聖槍ウル』は空属性であり、そのうち『聖槍ウル』は、作中に登場した“悪魔”と言われる存在に、絶大な効果を上げた。

 つまり空属性は悪魔や怨霊の様な存在に対して特攻を持つと言う事で、先に使われた『ダークマター改』、そしてこの『テンペストフォール』もまた空属性のアーツである。要するに、これもまたこいつらには良く効くだろうって事だ。

 

『────! ─────!!!」

 

 天空(そら)が墜ちる。

 俺がその名を発すると共に、戦術オーブメントの駆動は臨界へと達し、現象を現実へと及ぼした。

 世界は赤く染まり、歪み、圧搾され、南天神の声すら飲み込み、撒き散らされるは破壊の衝撃。

 吹き荒れる破壊の奔流の中、『観望』の力を最大限に高め、南天神の行方を見逃さぬように“視”続ける。

 押し潰され、削り取られ、霧散するように消滅していく怨念達。

 そしてそれが全て収まった時、そこに有ったのは、破壊の跡たるクレーターと、“かつて南天神であった”マナの残滓だけだった。


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