永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
この世界を守護するガーディアンたる龍。その姿は、エターナルである『知識の呑竜「ルシィマ」』が、様々な世界へ送り込んでいる眷属の姿を模して創られている。恐らくかつてこの世界にも居て、それをモデルにしたのだろう。
その姿はよくあるファンタジーに登場する様な『ドラゴン』とは少々異なる。無論、ドラゴンと形容する様に、蝙蝠の様な翼に太く長い尾を持ち、顔も爬虫類のソレであるのだが、その身体は滑らかで、それでいて硬質な鱗──否、皮膚に包まれ、筋骨隆々にして腕は長く、脚もまた然りである。
つまりその胴体は人のそれに近く、言うなれば……“人と竜のハイブリッド”。そう言えばしっくりくるであろうか。
その
その2体が強襲してきたのは、青の守護者とミニオン達を退け、しばらく進んだ時の事だった。
俺達が進む先、道の向こうから飛来した2体の守護者のうち、白の守護者が着地と同時にその口腔を開けて身構えた。
撃ち放たれるは白き閃光。
出会い頭に、不意打ち気味に放たれた白の守護者のブレスに対し、俺と世刻が前に出ると、二人同時に
と、それを撃ち終えると同時に、白龍はその翼をはためかせ、地面すれすれを滑空する様に一気に距離を詰めてくる。
「ゴァァァァアアアアア!!」
「甘いわ!」
大気を震わす咆哮と共に振るわれた、その白き豪腕を掻い潜り、ゼゥの『夜魄』が閃いた。──
正にその名に違わぬ神速の抜刀術からの目にも留まらぬ速度の連撃は、彼女に向けて敵の
そしてそれに合わせる様に、白の守護者の背後に忍び寄る影。
「我が刃の塵と消えろ……
一閃。
ゼゥへ攻撃を掛けようとしていた白の守護者に気配すら悟らせる事なく、背後に接近した暁が振るった一太刀は、白の守護者の背に痛烈な一撃を喰らわせた。
前と後ろから挟み込むように浴びせられた攻撃に、白龍はたまらずその場から飛び退る。
攻め時は逃さないとばかりに追撃を掛けようとしたゼゥと暁だったが、その二人を抑えるように、白の守護者の背後に控えていた赤の守護者がブレスを放つのが視界に入る。
放たれたブレスは大気を焦がし、二人と、その後ろに居る俺達に向け、世界を紅蓮に染め上げながら迫り来る。
「下がって! 『イミニティー』!」
その言葉と共に前に飛び出したのは、ヤツィータだった。
彼女の張ったマナの障壁は、理力へ重点を置かれた赤の守護者のブレスを受け止める。
ドンッっと言う爆発音にも似た音を立て、拮抗する障壁と炎熱のブレス。
「くぅっ!」
一瞬苦しそうに顔をゆがめた彼女だったが、その表情は一瞬にして柔らかなものへを変わった。彼女の横に、小さな赤い影が並んだからだ。
「手伝うよ!」
「ありがと、ワゥちゃん!」
二重に張られた理力の結界は、赤の守護者のブレスを防ぎきった。
それを後ろから見ながらタイミングを伺っていた俺は、その衝突の余波が消える前に、ブレスを放ち終えたばかりの赤の守護者へ駆け出す。
「『シルファリオン』!」
直後響いたレーメの声と共に俺の周囲を風が取り巻き、その加護を俺へと与えてる。
「『観望』!」
<承知>
俺の声に応えて、周囲に展開していた粒子状の『観望』から、赤の守護者をフォローするように俺に向かおうとしていた白の守護者へ、光線のように圧縮されたマナが撃ち放たれ、牽制する。
あちらは後は他の誰かが引き受けてくれるだろう。
その間に俺の手の中にある『観望』は
『北天星の太刀・偽』。
「喰らえ、剣神の一撃!」
掬い上げる様に、振り上げる!
それに対し赤の守護者は、懐に潜り込んだ俺を叩き潰さんとその腕を無理な体勢ながらに振り下ろしてきた。
次の瞬間、ズガンッと、凡そ剣と拳のぶつかった音とは思えない音を立てた互いの一撃は、俺をその衝撃によって数歩後ろへ下がらせ、対する守護者は振り下ろした腕を後方へとはじき返され、それに流されるように、その上半身の姿勢を僅かに崩す。
その瞬間、響くはナナシの一声。
「『ゲイルランサー』!」
アーツによって生み出された指向性を持った激風は、下から抉る様に、体勢を崩した赤の守護者の上半身へと叩き込まれた。
先ほどの攻撃のぶつかり合いでバランスを崩していた赤の守護者は、“敵を吹き飛ばす”ことを特徴とするアーツに押され、その身を大きく仰け反らせた。
それは赤の守護者にとって、致命的とも言える隙である。俺自身は先の奴の攻撃で下がらせられ、体勢を崩されてしまったけれど、俺の目的は奴にこの隙を作ることだったので問題はない。
次の瞬間、俺の脇を駆け抜けたユーフィーが、守護者の懐へと潜り込んだ。
「氷晶の青、輝閃の白! その完全なる調律よ!」
彼女は、マナを光の刃へと変換し、顕現させた大剣状の『悠久』を袈裟懸けに一閃。返す刃で掬い上げる様に斬り上げながら高く跳躍し──
「『パーフェクトハーモニック』!!」
巨体を誇る守護者の更に高高度より、一気に撃ち降ろす!
腹を斬られた事によってその姿勢を僅かに前傾に戻した赤の守護者の、その後頭部へと炸裂した一撃は、先程の俺と守護者の攻撃の相殺時よりも派手な音を立て、巨龍の巨体を地に叩き伏せた。
流石に不利を悟ったのだろう、起き上がりつつ飛び立とうとした赤の守護者が大きくその翼を広げ──
「逃がしません! 『イミネントウォーヘッド』!!」
僅かに身体を浮かせたところで、その背にまるでミサイルの様な、幾本もの岩石の群れが突き刺さり、それらはその直後、連続した爆発を起こして再び守護者を地に叩き付けた。
そしてその瞬間、一気に距離を詰めるミゥとルゥ。
「これで──」
倒れながらにブレスを吐こうと、大きく口を開けた赤龍のその顔を、閃光と衝撃が包みこんだ。
更にミゥは、彼女の神剣『皓白』を──先端にマナが収束し、巨大な光のハンマーの様に変化したソレを、下から掬い上げるように振るってかち上げ、
「終わりだ!」
完全に浮き上がったその首を、ルゥの『夢氷』が叩き落した。
断末魔の声を上げ、ザァっと、崩れるようにマナの霧へ変わっていく赤の守護者。
それを見やりながら振り返ると、どうやら白い方も片付いた様で、向こうと戦っていた皆がやってくる。
「こっちも終わったか。大きな怪我をした物は無いな?」
サレスの問に各々頷いて返したところで、隣に居た斑鳩が苦笑を漏らした。
「ないけど……流石にちょっと疲れたわね」
「全くだな。こうデカイのばかり来られるとな。一撃一撃が重過ぎるから、ミニオンを相手にするより精神的にキツイ」
「うんうん、そんな感じ」
と、そんな俺達の会話が耳に入ったか、サレスはふむ、と一つ頷き、
「……そうだな。ここで一度休息するか。とは言え、然程時間を取れるわけではないが」
その言葉に了承の意を返し、やはり皆も結構きていたんだろう、小さく安堵の息を吐く声がいくつか聴こえた。その一つは俺だったりもするのだが。
…
……
………
「……なあ、祐。この戦いが終わったら俺と勝負しろよ!」
何事かを考えていたソルラスカがそんな事をのたまったのは、休息に入ってから10分程経った後、俺が先ほどの戦いにおいて振るった『北天星の太刀・偽』に関して、カティマと話していた時の事だった。
『完全記憶能力』と『多才』と言うスキルを持つ俺は、それらの併用によって『見覚えの習得』と名づけられたスキルを持っている。……まぁ、この辺のスキルに関しては俺とフィアにしか解らない裏情報みたいなもんだ。
言ってしまえば『他者の技を見て覚える』ってことなんだが、使いこなすにはやはり要練習なわけで……少しでも上達するために、本家本元のカティマにアドバイスをもらっていたわけだ。
「嫌だ」
「即答かよ!?」
その話が丁度良いところに差し掛かっていたせいだろう、話の腰を折られた俺の口は、殆ど無意識に拒否の言葉を吐いていた。
そんな俺に対して苦笑を浮かべつつ、「まあまあ」と宥めてくるカティマ。
俺は仕方ないと嘆息しつつ、改めてソルに向かい合い、改めて「嫌だ」と一言。
「何でだよ? 良いじゃねえか」
不満気にそう言うソルだが、俺としては無茶言うなと言いたい。
だって考えてみろ、俺がお前に勝てる訳がない。そして何より面倒くさい。
そう言ったところ、上がった声はソルのものではなく、俺の後ろからだった。
「待て、祐。やる前から諦めてどうする。……私の見たところ、君は決してソルラスカに負けては居ないぞ?」
「ルゥ姉さんの言う通りです。祐さんは、ソルラスカさんなんかに負けません!」
「そうそう。ソルラスカごときに負けるわけないんだから、この勝負、受けなさい」
「…………なんか……ごとき……」
待て、ルゥはともかくポゥにゼゥ。そう言ってくれるのは嬉しいが、ソルのダメージが甚大だ。
「えっと、その、ごめんなさい、ソルラスカさん! あの娘達も決してソルラスカさんが弱いと言っているわけではなくてですね……」
「……ソル……アンタあいつより彼女達と付き合い長いはずなのに…………無様ね」
……うわぁ……せっかくミゥがフォローしたのに、問答無用で斬り捨てるタリア……ひでぇ。
何て声をかけたものかと思っていると、がっくりと俯いていたソルが顔を挙げ、睨んできた。
「くそぉ! 絶対勝負しろよこの野郎! ちくしょー!」
……いや、俺に当たるなよ。
結局この状況で断れるはずもなく、勝負の約束をするハメになってしまったが。……はぁ。
……そんな溜め息を吐きつつも、残りの休息の間、ソルとの勝負のシミュレートをしている自分に気付いて苦笑が漏れた。いやはや、俺も何だかんだ言って俺も負けず嫌いだな。
「何を言う。やるからには勝つ。当然であろう」
「大丈夫です、マスター。マスターならば必ず勝てますから」
はは、ありがとう。まぁ、レーメの言う通り、やるからには勝つつもりでやってやるさ。
……その為にも、まずはこの世界での戦いを、しっかりと終わらせないとな。