永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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52.撤退、そして。

 スバル達から離れ少し行った所で、待っていたらしい皆と合流し、先程あった──ナナシの力で一瞬正気を戻したスバルが、ショウからの攻撃を庇って撃たれた──事を説明した。

 それを聞いて「恐らくショウはスバルの治療に退くだろう」とサレスが予測し、そうして話している間にも俺達に対する追っ手が無い事から、おそらくその考えで間違っていないだろうと肯定する。

 その間に永峰が何とか場所を移動させたものべーへと帰還し、今後の行動を決める事となった。

 現在ものべーは『浄戒』の力で押さえつけられ、上手く動く事が出来ないため、低空飛行で移動させるだけで精一杯だったようだが。

 ものべーに帰り着き、生徒会室へ集まった面々。この世界ではすっかりお馴染みになってしまったが、俺と暁による補足から始まる。

 今回話すことは、スバルとショウの異常な強さについて。すなわち、彼等二人が『浄戒』の力を宿している、と言う事なのだが。

 

「じゃあ、『浄戒』を得るには彼らを倒すか、説得するのは必須ってことか……」

 

 そう結論付けた世刻に頷いて返す。

 恐らく、セントラルの支配から抜けさえすれば、スバルは説得に応じてくれるだろう。問題はやはりショウだな。……彼はもとよりセントラルに支配されている訳でないからなぁ。

 

「では、それを踏まえて状況を整理するぞ」

 

 そう言って生徒会室に集まる面々の顔をぐるりと見回したサレスが言葉を続ける。

 

「まず、我々の最終目的である『浄戒』は現在3つに分けられ、それぞれ世界の維持、スバルとショウの力の源に使われている。この世界の維持管理は『セントラル』が行っている。この世界の住人全てが『セントラル』の支配下であるアンドロイドであるため、住人達の中に味方は居ない、という事だ」

 

 淡々と現状を述べていたサレスがそこで言葉を区切る。

 「何と言えばいいものやら……ほんと、最悪一歩手前って感じよね」とはヤツィータの言。それには皆も同意せざるを得ない様であるが。

 

「後は作戦ね。どうしたものかしらね……」

「それなのですが……一つ、良いでしょうか?」

 

 そう声を上げたのは、暁のナナシ。

 彼女は「作戦と呼べるようなものでもないのですが」と前置きし、

 

「こちらの持てる全戦力をもって、『セントラル』への一点突破。これが最善かと思われます」

「ちょ、ちょっと待って! 全戦力って……ここが襲われたらどうするのよ!?」

「……落ち着け、斑鳩。ナナシ、もちろんそう提案する理由があるんだろ?」

 

 思わずと言った風に声を荒げた斑鳩を抑え、ナナシにそう問いかけると、彼女は「はい」と頷く。

 

「まず、この世界の他の住人は、世界に掛かる『浄戒』の力と、セントラルによって外されたリミッターによって強敵ではあるでしょうが、そのの中に、スバルやショウ程の力を持つものは居ない事が挙げられます。そして、向こうの守りの要になるであろう、スバルやショウ、ガーディアンと呼ばれた龍、そして居るのであれば、ミニオンのような存在。それらは私達の迎撃に向かわざるを得ないでしょう」

「……成るほど。神剣に対抗できるのは神剣のみ、ですか」

 

 ぽつりと言われたカティマの言葉に、「その通りです」と頷くナナシ。……それにしても、『剣の世界』でそれに散々苦労しただけあって、流石に今のカティマの台詞には実感が篭っていたな。

 ……と思っていたら、顔にでも出ていたか、ふと目が合ったカティマに案の定と言うか、「私も苦労しましたから」と苦笑された。

 

「……そのような訳で、現状ものべーが素早い立ち回りが出来ないのを考えると、今回に限っては我々と共に来ない方が安全と言えるでしょう」

 

 無論、その為にも我々が出来るだけ派手に、敵の目を引き付ける必要はありますが、と加えて言葉を締めたナナシに、斑鳩は納得した様である。

 そんな中、世刻が永峰に話しかける声が聴こえた。

 

「……意外だな。希美は反対するかと思ってたんだけど。『皆が危険になる』って」

 

 丁度話が途切れた瞬間であったために室内に響いたその台詞に、他の皆も同意する様にうんうんと頷いて、そんな皆の様子に永峰は苦笑を浮かべる。

 

「ん……そう言う気持ちは勿論あるよ。けど……」

「けど?」

「……この世界に来る前に、青道先輩が集会を開いて、学園の皆は危険があるかもしれない事を承知で一緒に来たでしょ? 『剣の世界』で戦うことを選んだ時も、『魔法の世界』で戦う事を選んだ時もそうだけど……そうやって、“自分で”選んだ時の学園の皆なら、大丈夫だって思うから」

 

 それを受け、サレスはひとしりきり考えると、

 

「ふむ……確かに、今のナナシの案が最善か……もし他に何も無いのであれば、今の案で行こう。どうだ?」

 

 そう皆に向かって問いかけた。

 ──さて、どうだろうか。……いや、まず十中八九は今の案で問題は無いんだろうが……気になるのはやはり、『光をもたらすもの』だろう。

 とは言え、動くかどうかすら定かではない連中だからなぁ。警戒しないわけには行かないが、それに警戒しすぎて目の前の敵に遅れをとっては、それこそ本末転倒だ。かと言え、動くかもしれないと言う恐れが有る以上、何も備えずに居て手痛いダメージを受けるってのも愚の骨頂って感じだし。…………どーしたもんか。

 ……いやまあ、どうするもこうするも、間をとって『警戒しすぎずに警戒する』しかないのだろうが。

 一応それは言っておいた方がいいだろう、と思った所で、皆の視線が俺に集まっている事に気付いた。

 

「……えっと……?」

「いえ、何か考え込んでいらっしゃったので、何かあるのかな……と」

 

 ああ、そう言う事か、と、ミゥの言葉で納得する。

 そして今しがた思い至った、『光をもたらすもの』の事を告げる。──もしかしたら連中が動くかも知れない、と。

 

「……ふむ。今回の開戦の切欠になった、ミニオンの襲撃、か。私が予想するに、アレはこの世界の者達と我々を戦わせる為に行われた事だろう? ……その上で、さらに『光をもたらすもの』が攻撃を仕掛けてくる……その可能性が?」

「ああ。さっきの戦闘中、ものべーにミニオンの小隊が接近して、暁たちが迎撃しただろ?」

 

 ルゥの言葉に頷き、先の戦闘中に気になった事を問うと、それを知らせてくれた永峰と、実際に撃退した暁とポゥ、ヤツィータが頷く。

 

「俺の予想では、アレは恐らく威力偵察。暁絶が俺達と共に行動しているかどうかの、最終確認ってところだろうな」

「……成程。『光をもたらすもの』にとって、今現在障害と成り得るのは、我々旅団と絶ぐらいだった。その両者が行動を共にしているのであれば……この世界において、我々がこの世界と戦闘に入る時というのは、奴等にとって攻撃の絶好の機会と言う事になる、か」

 

 俺の言葉を聞いたサレスがそう推測する。

 俺は“原作”の知識があるから思い至れる部分が多いのだが、そんな俺のちょっとした言葉から、直ぐに同様の見解に達するサレスは流石としか言いようが無い。

 

「そう言う事。まぁ、恐らくものべーを人質に取る様な事はしないとは思いたいけどな」

「けど……かといって戦力を残す訳にはいかないと思うけど。……エヴォリア達を撃退できる戦力を残すのならともかく、下手に少数を残すのは、ものべーに攻め込む理由を与えるだけで、ピンチを招く結果になってしまうでしょう?」

 

 ヤツィータの意見に頷く。……そう、そこが考えどころなんだよな。

 結局の所、戦力を残すのならしっかりと。残さないのなら思い切って……ってするしかないんだろう。あと出来る事は、有事の際に直ぐに駆けつけられる体勢を整える、ぐらいだろうか。

 

「そうだろうなぁ……ってわけで、ものべーには……そうだな、俺のノーマと斑鳩のケイロン、ソルの黒き牙を残して、何か有ったら時間稼ぎと俺達への即時連絡をしてもらうってのはどうだ?」

 

 俺の言葉にふむ、と考え込むサレス。

 そして、「その3体を選んだ理由は?」と問いかけてきた。もちろん、理由はある。

 

「ケイロンと黒き牙は、まずその主以外に対しても話す事ができるだろ? 何か有った時に、生徒達の避難誘導なんかもしてもらえるし、どちらも脚が速いから、少数でも広範囲をカバーできるだろう。そしてノーマなんだが……ノーマは俺と視界の共有ができる。つまり、ノーマが見ている光景を俺も見る事ができるんだ。てわけで、何か有ったらそれで状況の把握ができるから……だな。この3体を選んだのは」

「……ふむ。良いだろう。沙月もソルもそれで良いな?」

「ええ

「ああ、俺もいいぜ。……にしても祐、よくクロが喋れるって知っていたな?」

 

 ……ソルラスカの言葉に、確か黒き牙は喋れないと思っている相手に話しかけて、驚かせるのが好きなんだったか。

 『精霊の世界』で町を捜した時や、地上で物資調達をした時の様に、『観望』を粒子状にしてものべーの周囲に貼り付けておくのも考えたんだが……それだと下手をすると、「神剣反応がするところに敵が来たら、ものべーが居た」なんて事になりかねないからなぁ。

 

「それで、本当に青道君はこっちにエヴォリア達が来ると思う?」

 

 話がひと段落したところで、斑鳩にそう問われる。

 サレスに了承の返事をした後に訊いてくるってことは、先ほどの提案や決定に異論はないけど、単純に気になったってところだろうか。それに対して俺は首を横に振り、「正直思わん」と答えた。

 

「恐らく『光をもたらすもの』……エヴォリアにしろベルバルザードにしろ、俺達を直接狙ってくるだろうから、無駄な備えになるんだろうけどな……ここに残る学生達を少しでも安心させるって意味じゃ、やらないよりは良いだろ?」

 

 そんな俺の説明に、斑鳩は「なるほどね」と頷いた。どうやら納得してくれたようである。

 

「それじゃあ、早苗さんに報告してくるわね。流石に何も知らせない訳にはいかないでしょう」

「頼む。各自はそれぞれ休憩に入れ。説明が終わり次第集発するぞ」

 

 そして、ヤツィータが生徒会室を出て行き、サレスのその言葉を合図にして、その場は解散となった。

 

 

……

………

 

 

「いいか、これより我々はシティを攻略し、『セントラル』へと向かう。但し、一切の隠密行動はするな。あくまでも我々に敵を引き付けなければ、それだけものべーが危険に晒されると思え」

 

 30分程後、グラウンドに集まった俺達は、サレスの言葉に頷き合う。

 軽く目を瞑って精神を高め、息を深く吸い、吐く。

 これから行われるのは、互いにとって“守るため”の戦い。俺達にとってはものべーに残る学園の皆を。そして、『浄戒』を手に入れて暁を助けるため。

 ショウやセントラルにとっては、この世界や、“今まで”を守るための戦い。

 セントラルの指令やショウの様子からすると……話し合いの目は無いのかもしれないな。

 そんな考えが浮かんで……頭を振って否定する。

 そうだ、少なくとも、正気にさえ戻ればスバルとは理性的な話しができる。そうなれば……ショウだって、説得されるとは言わなくても、話し合いのテーブルに着くぐらいはしてくれるかもしれない。

 まだ何も終わっていないんだ。だから、諦めるな。

 

「……よし、行くぞ!」

「応!」

 

 ──願わくば──誰もが笑って終えられる結末を迎えられるように。


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