永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
皆が集まっての会議中に現れた、ミニオンと思わしき神剣反応。「光をもたらすもの」であろうそれを迎撃するためにものべーから飛び出した俺達の目に映ったのは、予想に違わぬ、何処からともなく現れたミニオン達と、それと交戦するスバルとショウの二人の姿だった。
思ったよりもミニオンの数は多い。スバルとショウの二人に任せるって訳には、やはりいかなさそうだ。
「俺達も行くぞ!」
「応よ!!」
「任せて! 行っくぞおお!!」
ミニオンへ向けて駆ける世刻と、それに応えて世刻に並び、追い抜く様に突っ込むソルラスカとルプトナ。
ってかあいつ等、勢い良く突っ込み過ぎだ。これでスバルやショウだけで片付く程度の敵の数だったらどうするつもりだったんだ……ったく。ここ数日この世界の異常の中に居たから、フラストレーションでも溜まっていたのだろうか。
ちなみにヤツィータとポゥ、暁はものべーに居残りである。
ものべーの護衛ってのもあるが、暁の場合はその存在が「光をもたらすもの」にバレているのかが明確ではないためってのが一番の理由だな。
……さて、仕方ない、覚悟を決めるか。俺も他の皆と共に世刻達の後に続いてミニオンへと向かいながら、スバル達の様子を見やる。
「くそっ! 何なんだよ、こいつらは!」
そんな言葉と共に放たれた、ショウの弓型永遠神剣の一撃は、およそ弓から放たれたとは思えない様な規模のマナの弾丸と化し、3人程のミニオンを纏めて吹き飛ばす。
「解らないけど、兎に角やるしかないよ!」
そう言いつつ放たれたスバルの弓形永遠神剣の一撃もまた、ショウと変わらぬ威力を持ってミニオンを蹂躙していく。
……2人とも『浄戒』の力を分け与えられて強化されてるのは解ってたが……コレほどとは。改めて『浄戒』の強力さと、今後の戦闘の厳しさが窺い知れる。
「このあとアレを凌がないといけないのか……なあ『観望』、あれ防げる?」
<……多少であればともかく、幾度も連続で防ぐとなると厳しいであろう>
「やっぱりそうかぁ」
「逃げるのも一苦労だな」と、向かってくる青ミニオンを捌きながら、思わず口をついたそんな愚痴に対し、ナナシが「それなのですが……」と声を掛けてきた。
「どうした?」
「はい。確か、ショウはともかくスバルがこちらに敵対的行動を取るのは、『セントラル』からの干渉のせいでしたよね?」
確認するようなその問いに頷いて返す。と、彼女は予想だにしなかった提案をしてきた。すなわち──。
「その干渉、私が
「出来るのか?」なんて愚問はしない。彼女がやるというからには出来るのだから。……いや、そもそもセントラルにしろスバルの身体にしろ、ソレが機械である以上、ナナシに干渉出来ない道理はない。……である以上、俺がすべき返事は只一つ。
「……うん、頼む」
「イエス、マスター」
さて、そうと決まれば俺に出来る事は、長引かせずにさっさとこの敵を倒すことか。そう思い、次のミニオンへと向かおうとしたところで、その前に永峰がこちらに駆け寄って来るのが見えたので足を止める。彼女には事前にものべーに何かあったら教えてくれるよう頼んであったからだ。
「先輩」
「向こうに何かあったか?」
「えっと、ものべーが近くにミニオンが来たけど、暁君達が倒したって教えてくれました」
永峰の言葉を肯定するように、彼女の肩辺りに浮いていたちびものべーが「ぽえー」と鳴く。
……ふむ。この段階の「光をもたらすもの」の攻撃は、あくまでこの世界と俺達の戦いを促すための呼び水である、という予想を立てたのは記憶に新しい。……では、その段階でものべーにちょっかいを出してきた理由は……?
「恐らく、ゼツの事はばれていて、それの最終的な確認、であろうな」
レーメの推測に、「だよなぁ」と同意する。……となれば、「光をもたらすもの」のことも注意を払わないといけないのか。
報告を聞いて考え込んでしまった俺に、「どうしました?」と疑問の表情を浮かべる永峰。その彼女に「光をもたらすもの」が動く気がする、と言う俺の予想を告げると、「えー」と何ともいえない顔をされた。俺にそんな顔されても困る。
兎角今は目の前のミニオンだ。まぁ頑張ろうやと、何となく目の前の永峰の頭に手をやって礼を言い、次の敵へと向かった。
……やれやれ、物事そう上手くは行かないもんだな。
…
……
………
ミニオンの最後の一体をスバルの弓が射抜いた。そして次の瞬間──ひしひしと、今度は俺達に対して打ちつけられる、殺気。
ピリピリと肌が粟立つような感覚に、否が応でも緊張感が高まっていく。
「……おい、どうなってやがる?」
「この殺気……これは一体?」
ソルラスカとカティマの疑問に答える様に、スバル顔から表情が、瞳から光彩が消え──弓を引き絞り、マナを集め出した。
「え、ちょっと!?」
「どうしたんだよ、スバル!」
斑鳩と世刻の叫びにもスバルはその弓を降ろす事は無く、ただ静かに、ポツリと、ソレで居て通る声で呟く。
「……上位の神剣反応を確認。異世界よりの『敵』と認識。セントラルは厳戒態勢に移行……スバル、ショウ、両ユニットは、敵を排除します」
やはり皆、どこか半信半疑な部分はあったのだろう。けど、目の前の彼はそう、確かに、“人”と言うよりも“機械”のようで……そのスバルの様子に、全員が息を呑み、動きが鈍る。
その隙を今のスバルが逃すはずもなく、放たれるは濃密なるマナの一撃。
俺はそれが着弾する前に皆から一歩先へ飛び出す。『観望』は剣に。マナを巡らせ、漲らせ──放たれたスバルの一撃に合わせ、ぶつけるように、思い切り振り抜く!
「ハアア!!」
気合一閃。振りぬいた『観望』から放たれたマナと、スバルが放った砲撃の如きマナの弾丸がぶつかり合い、ゴゥッと奔流となって周囲に吹き荒れた。
「……敵を、排除します」
続けざまに放たれたスバルの第二射。流石にそれに対抗するにはマナを練り上げる時間が無い。
僅かに焦る俺だったが、『観望』を構える俺とスバルの間に飛び込んできた人物を見て、ほっと息を吐いた。
「このおおおお!!」
どうやら先ほどの俺とスバルの攻撃のぶつかり合いで眼が覚めたのだろう、マナを篭めて振るわれた世刻の一撃は、迫り来るスバルの凶弾を相殺する。
ぶつかり合った力の余波は、再び嵐のように吹き荒び、その直近に居た俺達やスバルを打ちつける。
……いや何て言うか、こっちの渾身の一撃と同じ規模の攻撃を乱発できるとかねーよ。
思わず愚痴りそうになった俺の耳に飛び込んできたのは、攻撃同士がぶつかり合う炸裂音だった。
咄嗟にそちらを向けば、ショウの攻撃を防いでいるユーフィーの姿が。
加勢が必要かと注視してみるがは……うん、流石に俺達より遥かに余裕があるな。
目が合ったユーフィーはニコリと微笑むと、逆に攻め込むように前に出る。
無理をするなよ、と想いを込めて彼女の顔を見ると、解ってますと言う様な感じに見返して来た……気がする。まあユーフィーなら大丈夫か。
それにしてもセントラルめ、交渉の余地無く問答無用かよ。
「スバル! おい、スバル!! ……くそ、やっぱり駄目なのか……?」
こちらではスバルに対して世刻が呼びかけていて。
……ああそうか、さっきの世刻との力のぶつかり合い、それで一時的にセントラルからの干渉が途切れるんだったか……? だったら。
「世刻、スバルに呼びかけ続けろ」
「けど……」
「……記憶ってのは、表面的なのは結構簡単に忘れたりするもんだけどな。印象に残ってるような事ってのは、案外覚えてるもんだ。……例えリセットされてループしていたとしても、どこかに消えきらずに……そう、例えば魂に、記憶は残る」
「だから、世刻がスバルと話してきたことも、今語りかけていることも決して無駄じゃない」。そう続けた俺に世刻は「解りました」と強く頷き、スバルに向けて言葉を続けた。
「……何で俺達が戦う必要があるんだよ、スバル! 今まで俺達を助けてくれて、この世界を出てみたいとか、色々話してくれた事も全部本当に忘れちまったって言うのかよ!?」
世刻が叫ぶ様に訴える。その叫び対して、スバルは苦しそうに顔を押さえていた。
「……この世界を、出る……?」
「そうだよ! 異世界から来たって言う俺達の話を聞いて! それも覚えて無いのか!?」
「……異世界からの、旅人…………そうだ……望君、貴方は……」
一瞬、スバルの瞳に光が戻り、その表情に正気を取り戻そうとした、その時だった。
「ちっ! スバル、そいつらは敵だ! セントラルの指令を思い出せ!!」
ユーフィーと交戦しているショウの張り上げた声に反応し、再びその武器──永遠神剣『蒼穹』だったか──を構えるスバル。
「……脅威レベル、最大と確認。セントラルの指令に従い、全力で排除します」
その上げた顔。押さえていた手が離されて、視線に晒された頬は、先程の世刻との攻撃のぶつかり合いで出来たのだろう、皮膚がはがれるように裂け、そこから赤褐色の
「……あれは……」
「ふむ。この世界の住人が機械の身体と言うのは、これで確定のようじゃな」
ナーヤの言葉に、ピリピリと、皆の緊張が高まるのを感じる。俺の言った「セントラルの命令があれば、世界の住人すべてが敵に回る」と言うのが、今実際に確定し……いや、もう既にその状況になっているのだから。
こうなった以上、最早この世界に安息の地は無いと言っても過言では無い。
「……状況を整理する必要がある、か。ここは一旦退くのが賢明だな。全員、ものべーまで走れ!」
「了解っ」
「望、お前も早く行け!」
「……無茶言うなよ!」
サレスの言葉に皆がものべーに向かう、そんな中、スバルに神剣を向けられた世刻は動けずにいた。
確かに先程、スバルは世刻に対し「脅威レベル最大」と言った。そんな対象の世刻が動けば、恐らく即座に攻撃をしかけてくるだろう。
……それはつまり、スバルの注意は世刻に向けられていると言うわけで。つまり、やるなら今ってことだ。
「ナナシ!」
「はい!」
俺の合図に瞳を閉じ、集中したナナシの全身が、キンッと淡い光を放つ。
光は瞬時に弾け、周囲の空間に拡散するように広がっていく。
そして次の瞬間──。
「あ……ああ…………ああああああ!!!」
「スバル!!」
頭を押さえ、苦しむようにスバルが声を上げ、そしてふらりと俺達の方へと向けた視線。……その瞳には確かに理性の色を取り戻していた。
どうやら上手く行ったようだ。流石は俺のナナシ。
「……望……君……行ってくれ……!」
「あ、ああ……けど……」
「世刻。……申し訳ありませんが、そう長くは彼を今の状態にしていられません」
「……解った」
ナナシに促されて、その場に背を向ける世刻とサレス。
ショウを抑えてくれていたユーフィーを窺えば……うん、大丈夫そうだ。ショウの攻撃を逆に弾き返して、怯ませてからものべーに向かったようだ。それを確認し、俺もその場を後にしようと背を向けたところで、背後からショウの声が聞こえた。
「……クソッタレが! させるかよ!」
振り向いた俺の視界に迫る、苦し紛れに放ったであろう、ショウの一撃。
あ、やばい。躱さないと──
「ショウ、駄目だ!」
喰らったかと思ったその一撃は、俺と攻撃の間に飛び出したスバルにぶつかり、盛大な爆発と濛々たる粉塵を上げていた。
……俺の気のせい、かも知れないけど、一瞬、ちらりとスバルの苦しそうだけれど、それでも笑顔が見えた気がして……「ありがとう」と小さく呟き、俺は急ぎ、その場を後にした。