永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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49.不安、悪寒。

 あれから2日が経ち、この世界に着いて3日目に入っている。今も何人かのメンバーが街に降りている所だろう。

 世刻とミゥは一昨日、昨日に続き今日も行っているはずで、昨日の時点で既にその表情は優れなかった。──いや、表情が優れないのは世刻やミゥだけじゃなく、殆ど全員……それこそ、一般生徒も含めて、なのだが。

 

 “同じ1日を、否、1日に満たぬ時間を繰り返す”

 

 暁のこの言葉にどうやらピンと来ていなかったようで。

 昨日、すなわち2日目に実情を目にし、そこでようやく──俺もまた、ではあるが──実感を伴って理解したようだ。この世界の“歪み”を。

 連続で地上に降りた世刻とミゥにとっては、その歪みは恐ろしく明白だったようだ。なにしろ、昨日知り合ったばかりの人間が、自分たちの事を「知らない」と言うのだから。

 昨日彼らと一緒に街に降りたタリアに聞いたが、世刻とミゥは随分と混乱していたらしい。まあ、俺も暁も細かくは説明していなかったから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 この世界の住人は、ある一定の時間になると元の常態に“リセット”される。つまり、ある定められた時間の状態へ記憶や立ち位置が戻されるのだ。

 そして、俺達の様な“外”からの介入者が無い限り、全く同じ行動を延々と、ただ只管(ひたすら)に繰り返し続けるだけ。

 1日前に会ったばかりの世刻達の事を『知らない』と言うのも、そのためだ。

 繰り返す、というのは、正にそう言う、文字通りの意味。

 そしてそれは、人のみに非ず、世界全てがそう。そしてそれによって、街に降りていない一般生徒達も、この世界の“歪み”を実感した。

 この世界が繰り返すのは、“1日に満たない一定の時間”。つまりは、この世界は──夜が、明けない。

 

 

 

 空には星は無く、月の光は校舎の陰に隠れて届かない。校舎の壁は丁度窓の無い面であるために中の光が漏れることはない。

 周囲にある光源は、校舎の壁にに張り巡らされたものべー由来の木の根が発する、薄ぼんやりとした光のみであるが故に、俺の側に居るフィアの姿も、ふとすれば淡いシルエットに見えてしまうような、頼りない明るさしかない場所。

 そんな場所で、校舎の裏手にある芝生に横になって夜空を──校内の時計は昼日中を指しているにも関わらず、見える景色は夜空な辺り、その内調子を狂わす生徒も出てきそうな所が不安だ──見上げる。

 この2日は、ミゥ達クリストの皆とは、彼女達の宣言通り何となく距離が開いており、どこか物足りない空気を感じていた。彼女達の心境を考えるなら、それも仕方の無い事なんだが。……そう言えば、昨日はルゥが物凄く疲れた様子を見せていたが……何かあったんだろうか。

 ちなみに、今俺がこうしてぼおっと空を眺めているのは、別にミゥ達が構ってくれなくて寂しいから……なんてワケでは決してない。“何か”を忘れているような気がするなぁと引っ掛かっているのだ。で、それを思い出そうとしてるわけなんだけど。……そしてこう言った時には、大抵大事な事を忘れているのがお約束なわけだったりするんだよな。

 『完全記憶能力』があるので、思い出せれば以降は忘れたりしない……と言うのが解っているだけに、その“何か”を思い出せないのがもどかしい。まあ、現状において思い出せなくてもどかしいって時点で、所謂“今後の展開”において忘れている部分なんだろうが。

 

「そう言う時は、順を追って考えてみると良いかと」

 

 どうにもスッキリしないもどかしさに唸っていると、お腹の上のナナシにそう言われ、うん、それもそうだなとそのアドバイスに従ってみることにした。

 枕にしているノーマの腹の感触を感じながら、自信の思考の中へ埋没するために眼を閉じる。ちなみにノーマを枕にしようと呼び出した時に、フィアが「言って下さればそれぐらい良いんですよー?」と言いながら、座って自分の太ももをぽんぽんと叩いた時は……とてもすごく迷った。まぁ、せっかく呼び出したんだしと、当初の予定通りノーマに枕になってもらっているが。今度は是非ともフィアに頼もうと思う。

 それはともかく。

 “原作”において、最終的にこの世界では、旅団とこの世界のショウを筆頭とした防衛機構と戦闘になっている。じゃあ、この世界と戦闘に入るに至る理由は、何だった? 原因としては何がある?

 

「この世界の有り様から考えるとするなら、挙げられるのは『禁句とされているであろう、キーワードを言った』、『敵対的行動を見せた』、あとは……『神剣の力』ぐらいであろうな」

 

 レーメの言う3点のうち、“原作”において当て嵌まるとするなら……神剣、だろう。

 暁は「自分を追って来い」とは言っても、『浄戒』の事は言っていないはず。『浄戒』の名が出たのは、この世界で『旅団』にナナシが合流した時──既にショウ達と戦闘に入っていたはず──だったような気がする。そして旅団の性質からすれば、敵対的行動を見せる……つまり、この世界の住人に暴力を振るう等と言った事はしないだろう。自衛以外では、だが。

 とするならば、残る3つ目、神剣の力を見せたになるわけだが……。では、なぜ神剣を抜いた?

 

「『光をもたらすもの』しかないですよね」

 

 ……だよなぁ。この世界の『シティ』と呼ばれる部分を守るガーディアンを相手取った、と言う可能性もあるが、初日にガーディアンに遭遇してからは、確かなるべくシティには近づかないようにしていたはず。事実、昨日今日と下りているメンバーにも、そう言った通達が出ているし。となると、フィアの言うように『光をもたらすもの』の干渉だろう。

 …………そうだ、確か、突如ミニオンがこの世界に降りて来て、それを相手取るために剣を抜いたんだったか? そしてその神剣の力に『セントラル』が反応した。

 けど確か、『光をもたらすもの』のこの世界への干渉は、それで終わりだったはず。後は戦闘が終わったあと…………ああこれも頭の痛い問題だな。ショウの身体を回収されるはずだ。ダラバのように。

 俺達が歩んだ歴史においては、ダラバの身体の奪取は阻止する事が出来た。けど……ショウは無理だろうなぁ。ショウの身体が回収されるのは、この世界の崩壊が始まって、すぐにでも脱出しなければいけないような状況のときだから。

 ……まあいい。それは今考えても仕方の無い事だ。とにかく、『光をもたらすもの』が最初にちょっかいを掛けてきたのって……ようは遅々として進まない展開を進ませるための切欠、だよな。

 ……じゃあ、なぜ展開を進ませる必要があった?

 

「旅団をこの世界から出させるため、ですね」

 

 そう。ものべーはこの世界に来てから、『浄戒』の力によって押さえつけられ、満足に動く事ができなくなってしまった。確か、無理をすれば動けない事はない、って感じだったか。そしてそれを何とかするためにも、『セントラル』から『浄戒』を奪わなければならない。

 それは今現在……俺達においてもものべーが上手く動けないようなので間違いは無い。念のため永峰に確認もしたし。

 じゃあ何故、『光をもたらすもの』がそれを促す必要があるのか?

 えーっと。

 ………………ああそうだ、思い出した。

 確か、エヴォリア達は暁の居場所を知らない。けど暁は世刻達に自分の居場所への行き方を示した。

 エヴォリア達は旅団もそうだが、暁の事も始末したいと思っていた。彼の力は強い。その上、いつ自分たちの敵に回るか解らない奴だから。けど、居場所が解らない。……となれば、話は簡単だ。

 

「旅団に水先案内をさせる……ですね」

 

 そう。だから奴等は、次の『枯れた世界』において、『旅団』を待ち受け、決戦を行う事が出来たんだ。

 それを踏まえて……今の俺達の状況ではどうだ? まだこの世界に来たばかりだからかもしれないが、今現在、『光をもたらすもの』は何も干渉してきていない。

 もしその理由が、暁が俺達と共に行動している事を知らないから、としたら?

 もしこれで、暁が俺達と共に居る事を知ったとしたら?

 

 この世界において、“決戦”を挑んでくる可能性がある──。

 

「あ、祐兄さん」

「先輩、こんなところに居たんですか」

 

 そんな結論に至り、とりあえず暁に地上に降りないように言っとくかと思ったのと同時に、ユーフィーと永峰の声と、近づいて来て、頭の横の辺りに立つ気配がした。

 目を開ければ、俺の頭の側に立って、覗き込むように見下ろす二人が。

 ……それにしても、年中夜の世界で、こんな暗い場所だから良いものの、昼間とか別の場所だったら丸見えだ。何が、とは言わないが……なんて事を考えてしまったせいだろうか。無意識のうちに『観望』の力を通して“視て”しまった。暗視するように。

 流石にユーフィーはダメだろうと視線は永峰に……じゃない、目を背けて、ぶんぶんと頭を振る。ノーマがちょっと唸った。ごめん。落ち着け俺。眼を閉じる。暗視オフ。眼を開ける。暗くて見え辛い。よし。見え辛いだけで見えない訳じゃないけど、これはこれで……いやいや。

 

「……二人とも、よく聞いてくれ」

 

 神妙な雰囲気で言った俺に対して、ユーフィーは「はい?」と小さく小首を傾げ、永峰は黙ってコクリと頷く。

 

「俺の永遠神剣『観望』は“視る”ことに特化した神剣だ」

「はい」

 

 いきなり何だろうと言うような雰囲気で返事をした二人に、俺は更に言葉を続ける。

 

「その力は動体視力の強化とかだけじゃなく、暗視のような視力の確保ってのも有ってだな」

「……っ!」

「はい?」

 

 と言ったら、何を言わんとしているのか気付いたようで、瞬時にスカートを抑えて、少し後ずさってペタンと座る永峰。対するユーフィーは……「それがどうかしましたか?」と再び小首を傾げる。

 何という純真無垢。

 なんて思っていると、やおら永峰がユーフィーに手招きし、ユーフィーが永峰の側に座るとごにょごにょと何事かを耳打ちする。

 「そうなんですか?」と言うユーフィーに頷いた永峰が、さらに何かを言ったところで、ユーフィーが気まずげにチラッと俺を見た気配がする。何を言った永峰。

 

「えっと、祐兄さん」

「ん?」

「……エッチ」

 

 グサッときた。

 永峰め、一体何を吹き込みやがった。

 「余計な事を言うからですよ」と言うフィアに、「だからと言って黙ってみてるわけにもいかないだろ」と反論しつつとりあえず身体を起こして、ユーフィーに向かい合うように座る。

 

「えーっと……ごめんなさい」

 

 とりあえず謝る俺に対し、「はいっ」と満足気な声を上げたユーフィーは、一度立ってから俺の側に来て座り直した。

 やれやれと思いつつ彼女の頭を撫でると、えへっと相好を崩すユーフィー。

 先程俺の心にクリティカルヒットを喰らわせた時の表情とは打って変わり、にこにこと笑う姿が可愛らしい。髪の毛が柔らかくて撫で心地が良い。ナナシやレーメといい、ユーフィーといい……何と言うか、癒される。こう言うの。

 

「って先輩、私には?」

「ユーフィーに変な事を教えたから言わない」

「えー」

「ちなみに言っとくと、いくら俺でもユーフィーの無垢さに付け込むような真似はしないぞ」

「……ちなみに私だったら?」

「……諦めろ」

「えええ!?」

 

 「ひどい! 差別だ!」とぶーぶー文句を言ってくる永峰をまあまあと宥めつつ、ひとしきり反応を楽しんだところで、不意に横合いからクイッと袖を引かれる感触。

 そちらの方を見ると、若干呆れた様子のレーメの姿があった。

 

「……ユウ、和んでいる所なんだが、折角だからゼツの居場所を訊いてみたらどうだ?」

「…………そういやそうだな」

 

 レーメに言われて、悠長にしている場合じゃない事を思い出した。危ねぇ。

 撫でていたユーフィーの頭から手を離し、「ところで二人とも」と改めて声を掛けると、俺の雰囲気が変わったのを察したか、居住まいを正すユーフィーと永峰。

 

「暁は中に居たか?」

「……えっと、暁君だったら、今日は望ちゃんと街に降りてるはずですよ。望ちゃんってば酷いんですよー。暁君だけならまだしも、沙月先輩も一緒に連れてっちゃうんだもん」

 

 ……マジかよチクショウ。

 俺の問いに答えてくれた永峰の言葉に、思わず思い切り溜め息を吐いてしまった。

 そんな俺に、「絶さんがどうかしたんですか?」と訊いて来たユーフィーへ、どこまで説明したもんかと考える。

 ……掻い摘んで説明しておけばいいか。

 

「えーっとな……暁のやつが俺達と一緒に居る事を『光をもたらすもの』に知られたら、連中は間違いなく、タイミングを見計らって──それこそ、例えばこの世界の人たちとの戦闘中とかに──攻撃をしかけてくるだろうから、暁にはものべーから出ない様に言おうと思ったんだが……思い至った時には既に遅しだった、ってわけだ」

 

 ……参ったね、と続けた俺に対して、二人は神妙な表情で「なるほど」と頷く。

 けど、もしかしたら気付かれてない可能性もあるしな。戻ってきたら話を通しておこうか……そうでも思わんとやってられん。正直嫌な予感しかしないけど。いやまあ、暁が悪いって訳じゃないってのは解ってるんだけどさ。

 やれやれと肩をすくめ、改めて二人に視線を送ったところで、そう言えばと思い至る。

 

「ところで二人は俺に何か用だったか?」

 

 そう言えば、わざわざこんな校舎の裏手にまで来てくれたので、何かあったかと訊いてみると、ユーフィーはは「あ、別に何か有ったわけじゃ無いんですけど」と前置きした後、

 

「お昼、一緒にどうかなって思って」

 

 にっこり笑って言うその言葉に、もうそんな時間かと思い「永峰は?」と問いかけると、「私も特に用事は無かったんですけど」と返って来た。

 

「さっきたまたまユーフィーに会って、先輩を食事に呼びに行くって言うから、なんとなく着いて来たんです」

「……そっか。んじゃあ飯でも食いに行くか」

 

 立ち上がって軽く伸びをすると、若干凝り固まった身体が音を立てた。

 ……まぁ、こうなったらもう、あとはなる様になれ、だ。とは言え、何でも行き当たりばったりって訳には行かないけれど。取りあえず、今は考えるのは止めておこう。

 そう腹を括ると、皆で連れ立って、校舎の中へと向かった。

 

「あ、祐兄さん」

「ん?」

「……後でまた、頭撫でてくださいね」

「……喜んで」

 

 やったと笑顔を零すユーフィーに、やはり癒されるなぁと思いつつ。

 

 

◇◆◇

 

 

 クリスト族は、同族間において“同調”と呼ばれる行為を行う事により、記憶や経験等をある程度共有する事が出来、互いに心の繋がりが深い程に、その効果は高まる。

 それは旅団に属するクリストの巫女達においても然りであり、姉妹同然に育った彼女達にとって、心の繋がりの深さは言うまでもないだろう。

 

 これは、『未来の世界』に着いた初日の夜の事である。

 

 ものべーの上に鎮座する物部学園、その中の一室は、クリスト達が過ごすのに必要な特殊な波長のマナで満たされた、通称『クリスト部屋』と呼ばれるものになっている。

 尤も今は、彼女達は祐に贈られたチョーカーの効果によって、クリスト部屋でなくとも生身で過ごす事は可能であるのだが。

 それはともかく。

 そのクリスト部屋に、巫女達全員が戻ってきていた。あとは定例の会議を行い、就寝するのみである。

 集まった皆をぐるりと見渡した後、長女であるミゥが口を開いた。

 

「第3675回、夜のクリスト会議ー。……今回の議題は、『この世界について』です」

 

 議題は彼女達にとって重要な案件であるのだが、そのノリは何とも軽い。それもこれもこの場に居るのは、気心の知れた姉妹たちのみであるからであろうが。

 とまれ、ミゥはそう言って再び皆の顔を見渡すと、「承知している」と言うように各々がこくりと頷くのを受け、更に言葉を続ける。

 

「それじゃあまずは、私とゼゥが見てきた地上の事だけど……ん~……ここは素直に、同調して共有してもらった方がいいかな?」

「……そうですね。言葉にしてしまうと『いい人たちだった』で終わってしまうし」

 

 ミゥの提案にゼゥが同意し、それを受けて皆が座っていた椅子から立ち上がり、円になるように集まり、それぞれが隣に居る者と手を繋ぐ。

 クリスト達が同調するためには、互いに触れていなければいけない為だ。

 

「それじゃ、行くわよ」

 

 そのミゥの宣言に合わせて皆が目を瞑ると、彼女達の脳裏にキンッと、『ミゥが地上にて経験した出来事』が流れ込んでいく。

 

 

◇◆◇

 

 

 望と希美、沙月、ユーフォリア、ソルラスカ、そしてゼゥとミゥがものべーから街に降りると、そこは整備された道路や、高層の建物が立ち並ぶ都市であった。

 望は言う、「絶の言った通り、まるで俺達の世界が発展したみたいだ」と。それを聞いてミゥが思ったのは、『祐さんの世界って、こんな感じなのか』だったのだが。

 しばしの間その場にて少し雑談を交わし、これからどうしようかと相談に移る彼らであったが、不意に強烈な気配を感じて口を噤んだ。

 

「ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 その直後に耳朶を叩く猛烈な咆哮。それに対して戸惑いの声を上げる一行の前に現れたのは──緑色の巨大なドラゴンの様な生物だった。

 それを見たユーフォリアの「……『守護者』……? ううん、似てるけど違う……」と言う呟きが聞こえたところで、神剣を構えようとしたのを遮るように第三者の気配が現れた。

 

「あんたらそんな所で何やってるんだ! 早くこっちへ!!」

 

 ドラゴンに警戒しつつ視線を巡らせたところ、ビルの陰に一人の男が手招きしていた。

 そう叫ぶ男の声に頷きあい、駆け出す望達。だが、ドラゴンがそうはさせじと追うように迫り──その行く手を阻むように現れる、二人の男。

 一人は望達にとって近未来的とも言えるこの世界の雰囲気に、あまり似つかわしくなく感じる、濃紫の胴当に手甲や袖、足を守る佩楯(はいたて)……望の世界で言うならば、当世具足の様な鎧を来た、黒髪をオールバックにして後ろで一つに縛った、他者を寄せ付けない雰囲気の、目つきの鋭い男。

 もう一人は、腹部に梵字の様な模様の描かれた白い鎧と黒い胸当てに身を包み、赤いバンダナを巻いた、柔らかな雰囲気の青年。

 二人とも武器は弓を構えており、そのどちらも、強い力を放っていた。

 ──オールバックの青年がショウ=エピルマ。バンダナの青年がスバル=セラフカである。

 

「ここは僕たちに任せて、皆さんは先に逃げてください!」

 

 そう言ってドラゴンへ挑むスバルと、それに続くショウ。

 繰り出される攻撃は、凡そ弓から出るとは思えぬ程に重く、強く、激しく。逃げながらもそれを見やる望達にとって、驚愕に値するものであった。

 

「あの壁を越えれば安全です!」

 

 先導する男のその声に続いて壁を越えていく望達。そして希美が慌ててものべーをそちらのほうへと動かし──その後、スバルたちからこの世界の事を有る程度聴いた望達は、ものべーに戻ってきたのである。

 話をする中で、スバルが望達がこの世界の“外”から来たと聴いて、凄く羨ましがっていたのが印象的であったろうか。

 

 

◇◆◇

 

 

「……ふむ、“あの時”ものべーが突然動いたのはこれか」

 

 同調によってその時の状況を知ったルゥが思わず呟いた言葉は……しっかりと、皆に聴こえてしまった様である。

 あっと思ったルゥが繋いでいた手を離そうとした──次の瞬間、がしっと、逃がさないとばかりに両手を掴む、ミゥとポゥ。

 

「……そう言えばルゥ姉さん、ミゥ姉さん達が行ったあと、祐さんを呼び出してましたよね?」

 

 そんなポゥの一言に、ミゥがにっこりと微笑む。

 

「じゃあ、次はルゥの番ね?」

「え、えっと……ミゥ?」

「ね?」

 

 ──結局押し切られてしまったルゥである。

 

「……ルゥってば……祐さんといい雰囲気……」

「……さっきのドラゴンの時よりも、どきどきしました……」

「むぅ~……」

「私は、別に、そんな……ふんっ」

「あはは……はぁ」

 

 何とも、仲が良い。


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