永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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41.乱戦、終戦。

「──見つけた!」

 

 通路にひしめくミニオン達。その只中から聞こえる剣戟と、気力を振り絞る声。間違い無い、世刻だ。

 近づくにつれそこに見えたのは、群れの中心部へ向けて神剣を構えている大量の赤ミニオン達。世刻は……ちっ、気付いてないか?

 ──あれはまずい。そう判断し、さらに加速して駆け出そうとしたところで、後ろから稟とした声が掛けられる。

 

「任せてください!」

「おう、任せた!」

 

 赤ミニオンの対処はユーフォリアに任せ、『観望』を大剣状にして世刻の元へ駆け出す。

 そんな俺達にミニオン達が気付き、こちらに対して武器を構える姿が見える中、後ろからユーフォリアの明朗な声が聴こえてきた。

 

「塵は塵に、灰は灰に、声は事象の地平に消えて! 『ダストトゥダスト』!」

 

 その直後、背後に膨れ上がる膨大なマナ。チラリと見てみれば、そこに顕現する青い巨体と白い巨体。……彼女の神獣たる二頭の竜『青の存在、光の求め』。

 その2頭の口から、眩いばかりのブレスが放射された。それはマナを溜めていたミニオンのみならず世刻も、そして俺をも飲み込み、空間を満たす。ブレスによる衝撃はない。その代わり、と言えばいいのだろうか、ブレスに包まれた瞬間、一瞬がくりと力が抜ける。

 

「なっ……今のは!?」

 

 世刻の困惑した声が聴こえた。突如ミニオンごと自分達を襲った膨大な力と光。その割に無傷な事に戸惑っている様だ。ミニオン達にいたっては、世刻へ向けて溜めていたマナが全て霧散したために狼狽しているのが手に取るようにわかる。

 『ダストトゥダスト』。その効果は、“原作”では敵味方もろとも戦闘マナをゼロにする、だったか。そして副次効果として、ユーフォリアのステータスの大幅上昇──!

 

「ゆーくん、一気に行くよ! 全速前進、突っ切れーーーーー!!!」

 

 『ダストトゥダスト』の影響で一瞬動きの鈍った俺の横を、先程のものに比肩……いや、それ以上のマナに包まれたユーフォリアが、『悠久』に乗って追い抜く。乱戦になるだろうってことで『観望』を通して動体視力を強化していた俺ですらようやく解った程度。ミニオン達に至っては、一体何が起こったかわからないだろう程の一瞬。

 そんな速度で駆け抜けたユーフォリアが通った跡は、ごっそりと、大量のミニオンが文字通り“消滅”し、世刻へ向けてぽっかりと道を作っていた。

 そこを通り、困惑する世刻と、その横に着地したユーフォリアへ合流する。その間に空いたスペースは他のミニオン達が埋めて再び包囲されたが、その密度は外から見ていた先程よりかなり薄い。

 

「すごい威力だな……」

「はい! ゆーくんの力を解放して次元の彼方から一直線に突撃する必殺技です!」

 

 にぱっと言う効果音が聞こえそうな笑顔でとんでもない事を言うユーフォリア。でもちょっと辛そう……かな?

 ……多分、普段の力の感覚でやったはいいけど、神名(オリハルコンネーム)で力が制限されているのを失念してたとか、そんなところだろうか?

 そんな彼女の頭を「無理するなよ」と、ぽんぽんと撫でてから、世刻の様子を見る。

 

「……うん、随分ボロボロだけど、生きてるようだな」

「ははっ……何とか生きてますよ。先輩、来てくれたんですね」

「当然だ。それに、ナーヤにはナナシが着いて行ってるしな。俺達が来ないなんて無えよ」

 

 そう返しつつ、ここに来るまでにある程度エネルギーの回復したオーブメントで、世刻に単体上位回復アーツ(ティアラル)を掛ける。

 次いで、自身の内側へと意識を向ける。

 先程の『ダストトゥダスト』の影響で、直ぐに戦闘用に練りこめるマナは多少心もとない。『魔法』は殆ど使っていないからか、魔力はある。……よし。

 『魔力』を練り『マナ』に戻す。大丈夫、前は身体を構成するマナを魔力に変換できたんだ、魔力からマナへの逆変換も可能なはず。

 ……うん、いける。そしてそれを二人に流す様にイメージし、それと同時に頭に浮かんだ言葉をそのまま言い放つ。

 

「廻る命の流れよ、友へと捧ぐ力となれ……『マナリンク』!」

 

 ズズッと自分の中の力が、側の二人へ流れて行く様な感覚。

 ……うん、初めてやってみた割には上手く行ったような気がする。それにしても成程。同じ神剣魔法でも個々人によって詠唱が違うのはこういうことかと納得した。

 要は使いたい魔法に即した言葉が、今のように頭に浮かんで、それが魔法として魂に固着されるんだろう。浮かんでくる言葉は、きっと神剣によって変わるんだと思う。多分今後は特に詠唱しなくても使えるだろうと、感覚で何となく解る。まあ言葉に出した方が明確にイメージしやすいから良いんだろうけど。

 

「あ……ありがとうございます!」

「なんか、先輩の神剣魔法って初めて見た気がします」

 

 世刻の言葉に苦笑で返す。

 実際、まともに神剣魔法を使ったのなんて今のが初めてだからな。

 

「さて……それじゃあ行こうか」

「はい!」

 

 言葉と同時に『観望』を構えて駆け出した。他の二人はそれぞれ別方向へと向かう。

 最初に相対するは青ミニオン。迎え撃つ青ミニオンが振り下ろしてきた剣を右下に受け流し、空いた胴を一閃。返す刃で袈裟懸けに、青ミニオンとその横にいた緑ミニオンをまとめて斬り飛ばす。

 直後撃ち込まれた炎弾を、地面に大剣を突き立てて盾にして防ぎ、横合いから突き込まれた槍を身体を回転させてかわす。手を離した剣がザァっと砂が崩れる様に粒子へ変わるのを横目に、引き戻される槍に合わせて前へ出る。背後で盾にしていた剣が消えたために、先程まで俺のいた場所に炎弾が着弾する音がした。

 肉薄した緑ミニオンへ『観望』を刺突剣(エストック)にして突き立てる。刺突に特化した形状は、緑ミニオンの強固な障壁を突き貫き深手を負わせる。それを引き抜いてすぐバックステップ。目の前を青ミニオンの剣が通り過ぎた。

 剣をやり過ごして、それを振り下ろした青ミニオンへ一突き。直ぐに『観望』を薙刀へ変え、横薙ぎにして寄って来ようとしていたミニオン達を牽制し、次いで上から叩きつけるように振り下ろしの一撃。刃は白ミニオンを斬り払い、そのままの勢いで地を叩く。

 その隙に寄って来ようとした緑ミニオンへ、刃先のみを槍の穂先へ変えて刺突。それは敵のブロックに阻まれるが、かまわず再び穂先を薙刀の刃先へ変えて横薙ぎの一閃。緑ミニオンを力ずくで弾き飛ばした。

 その直後、首筋にチリっとした気配。次いでバリッという、帯電する様な音。

 

「ユウ、上だ!」

 

 レーメの声に振り仰いだ俺の視界に映ったのは、赤く光り渦を巻く電撃──!

 “帯電する様な”じゃなく、本当に帯電してる音かよ!

 

「……散れ。『ライトニングファイア』」

「くっ……おおああああ!!」

 

 赤ミニオンの声が聴こえるのと、俺が咄嗟に障壁(オーラフォトンバリア)を張るのはほぼ同時だった。

 耳朶を叩く轟音と身体を突き抜ける衝撃。

 

「がっ……はぁ!」

 

 ──効いた。

 障壁が間に合わなかったらと思うとぞっとする。

 

「後ろっ!」

 

 息つく間も無く掛けられたレーメの声に、振り向き様に張った障壁に、黒の刃が数度連続で斬りつけられた。

 あっぶねえ!

 レーメに内心礼をいいつつ、刀を振りぬいた直後の黒ミニオンを切り払う。

 

「──っ!」

 

 黒ミニオンの障壁を抜いて『観望』で斬りつけたのと同時に、俺の身体の、敵に斬りつけたのと同じ箇所に、敵よりも小さいが似たような切り傷。

 ……カウンタータイプのブロックか!

 黒ミニオンや赤ミニオンの張るマナの障壁(ブロック)には、『カウンター』と言う効果が付いたものがある。その名の通り、与えられたダメージをその攻撃者にも与え返すと言うものだ。俺が今受けた傷もそれだろう。

 

「チッ!」

 

 ズキリと痛む傷に顔が歪む。落ち着け、大丈夫、所詮カウンターダメージ、致命傷には程遠い!

 『観望』を片手半剣(バスタードソード)にして横薙ぎにし、向かって来ようとした青ミニオンを牽制、軽く後ろに跳んで一度距離を開けると、ドンと背中に誰かが当たる感触に咄嗟に振り向き、同時に一歩踏み出し剣を突き出す。

 そこにあった見知った顔に剣の起動を逸らし、更に一歩踏み込みんで位置を入れ替え、その相手──世刻に向かって振り下ろされていたミニオンの剣を受け止めた。

 それと同時に、背中越しに武器を交差しているのであろう音を聴きつつ、敵の剣を受け止めていた『観望』を斜めに逸らして受け流し、空いた胴へ両手持ち(ツーハンデッド)で叩き込んだ。

 敵のブロックと『観望』が交差し、互いに籠められたマナが炸裂し、地面を擦る音を響かせながらミニオンを後方へ弾き飛ばす。その直後、弾き飛ばしたミニオンと入れ替わる様に、ミニオン達の壁を抜けてユーフォリアが姿を現し、横に並び、次いで敵を倒したか、背中越しに感じていた、世刻が敵と戦う気配も一度止まった。

 三人共に背中合わせになり、周囲を囲む敵を牽制しつつ息を整えていると、世刻の声が聴こえてきた。

 

「……先輩、気付いてますか?」

 

 その問いにふむ、と頷き、周囲を見渡す。……感じた違和感に、もう一度見渡して確信する。

 

「敵の数……か?」

「そう言えば、全然減ってないですね……」

 

 俺の問いに同意するように、ユーフォリアが漏らす。そう、先程から、三人合わせれば随分と敵を倒しているはずなのに、敵の密度が減っていないのだ。……いや、むしろユーフォリアがごっそり削った直後よりも増えているかもしれない。

 

「うむ。間違いなく送り込まれてきているな」

「……恐らくは『支えの塔』のどこかに、精霊回廊と通じている箇所があるのだろう」

 

 そんなレーメ達の言葉に、記憶を掘り返す。

 ……確か“原作”では『支えの塔』の真下を精霊回廊が通っていたんだったか。この増援っぷりを見てると、それは変わらんだろうな。いや下手をすると、この段階においても増援が現れてくる辺り、事態は悪いのかもしれない。

 

「……まぁ何にせよ、今の俺達に出来るのは、増える以上の速度で倒すって事だけか」

「……ですね」

「じゃあ、行きましょうか」

 

 言葉を掛け合い、武器を構える。そう、結局の所、やれる事をやるしかないのだ。

 その間に、形状変化に使用していない分の『観望』を空間へ漂わせる。

 

「神の威光、唯一無二の輝きよ! あたしたちに力を! 『ホーリー』!」

 

 ユーフォリアが言葉を紡ぎ、彼女のマナが俺達を包み込む。それと同時に、身体に力が満ちるのを感じた。

 そしてそれを合図とするかのように、ミニオン達が前に出てくる。そのミニオン達を迎え撃とうとした世刻とユーフォリアを手で制した俺は、一言だけ、レーメの名を呼ぶ。

 それに対して応える言葉もまた、ただ一言。

 

「『コキュートス』」

 

 俺達を中心に、周囲の空間を凍気が満たす。それは瞬時にミニオン達を包み込み、その足元から突出した幾本もの氷柱は、ミニオン達を貫き、あるいは包み込み、凍らせ、砕け散る!

 アーツの影響が消えた空間に残ったのは、ダメージを受けたミニオン達。その総数の三分の一程は、氷像の如く凍りついている。

 流石にそれ一撃で倒すことは出来ないが、それでも充分に手傷を負わせることは出来、ある程度で動くであろうが、3分の1はアーツの効果で動きを封じる事も出来た。

 次いで俺は、追撃とばかりに『観望』に送り込んだオーラフォトンを炸裂させる。

 

「撃ちぬけ、『観望』!」

 

 俺の言葉に応え、ミニオン達の頭上に漂う『観望』から放たれるオーラフォトン。それは幾条もの光となって、ミニオン達に襲い掛かった。

 

「今だ、行くぞおお!!」

 

 数を減らすなら、緑ミニオンに回復される前の今が好機。

 それを感じ取った世刻達も同時に動き出していた気配を感じつつ、俺は武器を構えてミニオン達の中へと突っ込んだ。

 斬り、突き、薙ぎ払い、打ち払う。

 どれほどを斬っただろうか。袈裟懸けに切り裂いた幾人目かのミニオンがマナの霧となった時、不意に『支えの塔』の鳴動が止んだ。そして、サブ管制室へ続く扉を開けて、中からナーヤと、ナナシが顔を出した。……どうやら上手く行ったみたいだな。

 目の前のミニオンを牽制し、一度彼女達の元へ下がる。世刻とユーフォリアも、状況の確認の為かナーヤの所へ下がった様だ。

 

「マスター!」

 

 合流して早々飛びついてきた心配顔のナナシを受け止め、「大丈夫」と返してやる。

 

「ナーヤ、状況は?」

 

 世刻の問いに、ナーヤはうむ、と一度頷いた後、満面の笑みを浮かべた。

 

「完璧じゃ! もう崩壊の危険はないぞ!

「本当か!?」

「本当じゃ、のぞむ。こんな事で嘘を言ってどうする。それと祐。その者……ナナシを付けてくれて助かったぞ。正直わらわだけだと、こうまで上手く行ったかは解らん」

 

 ナーヤの言葉に、俺も、世刻もユーフォリアもレーメも、揃って安堵の息を吐く。大丈夫だとは思っていても、やはり実際に結果を聴くまでは、我ながら不安があったのだろう。

 張り詰めていた空気が若干揺らいだ。だからだろうか。

 

「……まさか、とは思ってギリギリまで待ってみたけど……本当に崩壊を止めてしまうなんてね」

 

 背後に生まれたその気配と、掛けられた声に、反応が致命的に遅れてしまったのは。

 腹部にドンッっと言う衝撃。遅れてくる激痛。

 

「スールードが執着しているって聞いた時はまさかと思ったけど……こんなことなら、貴方を先に始末しておくべきだったわ。もう遅いけれど……これはせめてもの私の抵抗。悪く思わないでね? 私も必死なのよ、これでも」

「──~~~~っ!!」

 

 上げそうになる悲鳴を噛み殺して一歩前へ。振り向き様に『観望』を構えると、そこに炸裂するナニカ。

 衝撃に吹っ飛ばされ、近くに居た誰かにぶつかって受け止められた様な感じ。

 

「きゃっ! ……だ、大丈夫ですか!?」

「マスターー!! し、しっかりしてください!! マスター!?」

「あ……」

「レーメ、レーメはやく!!」

「っ!! ま、まってろユウ、いま!」

「……エ……ヴォリアアアア!!」

「の、のぞむ、落ち着け! くっ……ええい!!」

 

 飛び交う悲鳴と怒号がいやに耳に残る。

 どう……なってる? 状況が掴めない。く……そっ……まず、意識が……。

 

「く……ああがああああ!!」

 

 身をよじり、走る激痛で無理やり意識を覚醒させる。

 ダメージは……腹か……くそっ……でかい風穴空けてくれやがった……っ!

 

「マスター!? 無理をなさらないで下さい!!」

「この……バカ者! 無茶をするな! ……『ティアオル』!!」

 

 レーメの声と共に身体が温かいものに包まれ、次いで傷が急速に塞り、痛みが退いていくのを感じる。

 周囲を見回し、現状を把握しようと努めると、どうやら世刻がエヴォリアと戦闘、ナーヤがミニオンを牽制している……のか?

 俺はというと……ユーフォリアに抱きかかえられる様に支えられているみたいだが……いまいち身体の感触が無い。

 自力で立とうとして、がくりと膝が落ち、慌てた様子のユーフォリアに支えられた。

 

「動いちゃだめですよ。受けた傷が大きすぎたせいで、傷が塞がっても身体にマナが足りていないんです。……ゆーくん、お願い。『マナリンク』!」

 

 彼女の言葉に続いて、柔らかなマナに包まれ、それが流れ込んでくる感覚。

 マナが四肢に染み込んで行く。『マナリンク』それ自体によるマナの譲渡量は然程多くは無い。それでも何とか一人で立てる程度には……と思い、ユーフォリアに礼を言って離れたところで一瞬ふらりとし、再び彼女に支えられる。

 ああ、やっぱりそう上手くは行かんか。……けど、こうしていても埒が明かない。今必要なのはここでの戦いを終わらせることだ。その為にも、こちらの最大戦力であるユーフォリアを、俺に付きっ切りにしておくわけにもいかない。

 そう思って、彼女へ世刻達の援護に向かう様頼もうとした時だった。殲滅速度が落ちた分、また若干増え気味になったミニオン達の壁の向こう側から聞こえる剣戟。

 一体なんだと思う間も無く、ミニオン達の壁を越えて、黒い影が飛び出してきた。

 

「祐、生きてる!?」

 

 開口一番そう言い放ったのは黒の巫女。

 俺の前で急ブレーキをかけて立ち止まり、ふわりとその長いツインテールが揺れる。

 

「……ゼゥ?」

「私だけじゃないわよ」

 

 ゼゥの言葉に同意するかのように、俺達の身体を新緑のマナが包み込み、戦いで負った傷を癒していく。

 魔法──ハーベスト──の効果に遅れて飛び出してきたのはポゥ……だけじゃなく、ミゥも、ルゥも、ワゥも居て。

 

「望ちゃん、無事……って、先輩、大丈夫ですか!?」

「望、祐、大丈夫か!?」

 

 そんな声に振り向けば、永峰とソルラスカ、その後ろにルプトナとカティマが続いてきているのが見て取れた。

 永峰は俺がユーフォリアに支えられてるからか、心配してくれているらしい声音で駆け寄ってくる。

 

「……ちょっとヘマした。他の皆は?」

「俺達は先行だ。直ぐに来るぜ」

 

 俺の問いに答えたソルラスカの言葉に、思わず安堵の息が漏れ、その拍子にがくりと力が抜ける。

 まだ戦いは終わっていないのだから、しっかりしろと自分に言い聞かせるも、一度力の抜けた身体は言う事を聴いてくれない。どうやら自覚していないだけで、そうとう精神的にも肉体的にも来ていた様だ。

 そんな事を考えると、ナナシに「下手をすれば死んでいたのですから、当然です」と(たしな)められた。うん、ごめん。せめて意識だけは保っておかないと。

 そう思い、もう一度気を張ろうとした時だ。しゃらんという音が聴こえ、次いで世刻とやり合うエヴォリアから、こちらにむけて放たれる光弾。

 先程自分の身を貫いたのと同じものだろうか。そんな考えが頭を過ぎり、一瞬、そう、ほんの一瞬だが身体が上手く動かず、『観望』を構えるのが遅れてしまった。

 結果としてそれは俺に届く事は無かった。咄嗟に『観望』を構えようとした俺と、迫り来る光弾の間に、ミゥが立ち塞がってマナ障壁(オーラフォトンバリア)で防いでくれたからだ。

 

「ちっ……ここは退いてあげる!」

 

 その様子に、流石にこちらに援軍も来て、潮時だと思ったのだろう。エヴォリアはそんな捨て台詞を吐いてミニオンを世刻にけしかけ、その隙に溶ける様に消えて行く。

 『観望』の力を最大限に引き出し、気配を探る。……うん、流石にもう一度奇襲はなし、か……?

 

「先輩、大丈夫ですか!?」

「祐、生きておるか!?」

 

 エヴォリアを撃退したからか、こちらの方へ駆け寄ってくる世刻とナーヤ。

 心配かけて悪かったな……なんて返そうとした所で、一瞬目の前が真っ暗になる。……あ、やべ。気が抜けたら一気に来た……。

 

「……あーうん、皆のお陰でなんとか……生きてるよ。……けど、悪い……」

「構わぬよ。後は任せて休むがよい」

 

 ナーヤの言葉に頷き、途端に押し寄せる疲労と脱力感。それに逆らわず、流されるように意識を手放す。まだ周囲にミニオンは残っているのだけれど。それでも、俺がこの時感じていたのは不安ではなく安堵感だったのは、周りに皆が居てくれるからなんだろう。

 『魔法の世界』における俺の戦いは、こうして幕を閉じた。


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