永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
……とまあ、それから箱舟内時間で7日間、ずっと体力作りに励んでいたわけだが……正直飽きた。けどこう言うのは続けないと意味が無いし、何より続けないときっと俺が死ぬ。死亡フラグ的な意味で。
そして昨日の夜、とうとう戦術オーブメント──形状は、少し大きめの懐中時計のような形だ──が出来上がった。そのため、本日からは
……そう、魔法だ。
どうやらクォーツが杖等に代表される魔法発動体の簡単な代わりになるらしく、レーメの見つけたお勧めの中から、『ネギま』の魔法も練習していく事にしたのだ。
……まぁ、攻撃魔法から武装解除まで汎用性は高いからなぁ、あそこのやつは。
べ、別に男の理想、脱げ魔法が欲しかったわけじゃ……すまん、正直期待している。ぜひ欲しい。むしろそれが決定打になったと言っても可笑しくはない。
……ごほんっ……と、言うわけでさらに7日後、久しぶりに外に出てみる事にした。その際に箱舟時間を外界と同期させておくことを忘れない。……いや、だってフィアを一人で何日間も放置はできないしさ。ちなみに、本来は中に人が居ると時間の再設定は出来ないのだが、フィアだけならば問題はないらしい。
流石に一週間程度じゃ、魔法は初歩の初歩……『火よ灯れ』ぐらいしか使えるようにならなかった。レーメの補助があれば、『魔法の射手』を1発ぐらいは撃てるが。理想まで先は長い。
フィアは「『多才』スキルもありますし、すぐに使いこなせる様になりますよー」なんて言ってくれたが……まあ結局の所、根気良く続けるしかないわけで。
体力作りと共に、魔法の練習やオーバルアーツの習熟もしっかりと続けていかなければ、と改めて心に決める。
──そういや、つい中に長居してしまったが……考えてみれば、14時間ほど行方不明になってたことになるんだよな。『箱舟』自体もその場に放置になるわけだし……うん、今度から入る場所には気をつけよう。
とは言え恐らくはあのミニオン襲撃の混乱に加え、別の世界に移動してしまうというゴタゴタで、誰も正確な人数なんかを把握しているとは思えないけど。
ってわけで外に出ると、いつの間にやら『剣の世界』に着いていたようで。
折角なので風景を見るために、屋上へ上がってみることにする。あ、勿論ナナシとレーメも一緒だ。姿を消してるけど、俺の両肩に乗ってる。
屋上に出ると、そこには何ともいえなく雄大な景色が広がっていた。
眼下に広がる森林は深く、濃く。はるか遠くに連なる山並みは雄大にして壮大。遠くて判りにくいが、城も見つけることができた。
日本に住んでいては、決して見ることはないであろう光景。
「これはまた凄いな……」
そう思わず独り言ち、しばし景色に見入っていると、後ろでガチャリとドアが開く音がする。
首だけで振り返ってみると、そこにあったのは1つの見知った顔と、2つの見知らぬ顔。
そのうち、見知った顔の方が俺の姿を認めたらしいので、軽く手を挙げておく。
「よ、斑鳩。こりゃまた何ともいい景色だな?」
見知った顔──生徒会長でもある、クラスメイトの
そう、そして何よりも、彼女もまた神剣使い。ミニオンが学園を襲撃した際、月光の下、赤い髪を靡かせて、光り輝く剣を手に戦っていた姿は、今もはっきりと眼に焼きついている。
いや、その時の俺はまだ何も“思い出して”いない状態だったからな。普段と全然違う斑鳩の姿が、インパクトが強すぎたみたいなんだ。
「あっはは、青道君は随分と余裕ね? 望君なんて絶句してるのに」
望……って言うと、あの左右に斑鳩と見知らぬ少女を侍らせているうらやましいのが、“主人公”の世刻望か。……ってことは、もう一人の見知らぬ少女は永峰希美かな。
我等が生徒会長、斑鳩沙月が、下級生の男子に熱を上げているのは実は結構有名な話である。
その男子がまぁお察しの通り、世刻望であり、その幼馴染である永峰もまた世刻の事が好きだと言う……何と言うハーレム主人公。
つまり何が言いたいかと言うと、ここに俺が居るのはお邪魔以外の何者でもないと言う事である。
……大人しく退散するか。
「こう見えて結構興奮している。……ま、別の世界で大冒険! ってのは、オトコノコの夢の一つだろ?」
俺の言葉に、斑鳩は「なるほどね」といいつつ苦笑で返した。
……さて、景色も堪能したし、戻りますかね。
俺は隣の三人へ「じゃあまたな」と声をかけつつ、屋上を後にした。
……あ、二人を紹介してもらうの忘れてた。
◇◆◇
ミニオンによる物部学園の襲撃。
親友である
そして永遠神剣の覚醒と言う、世刻望にとって──否、当時学園に残っていた者たちにとって──衝撃的な事件から一夜が明けた。
その襲撃時に意識を失った望が目覚め、付き添っていた沙月が彼に現状を──『世界』を移動してしまったこと──説明し、やはり口頭では今一理解してもらえなかったために、その証拠を見せるためにも屋上へ出る事にした彼女達。
ここが現代日本ではない、と言うことをハッキリと理解してもらうためには、屋上からの景色を見てもらうのが一番だろうという判断からだ。
望の看病疲れで寝ていた希美も起き、まだ足元の覚束ない望を二人で左右から支えながら、屋上へ向かう。
沙月は内心、「望君、驚くだろーなー」などと、若干彼の反応を楽しみに思いながらドアをくぐると──見知った顔の、先客がいた。
「あれ、誰か居る?」
「青道君?」
沙月と希美の声が重なる。と、沙月達に気づいたらしい先客が手を挙げたので、沙月も手を振り返したところで、隣の望が沙月に声を掛けた。
「知り合いですか、先輩?」
「え? うん、クラスメイトなの」
そんな会話をしながら、屋上の縁へと近づく。そのうちに眼前に広がる雄大な光景に、望が目を見開いて驚いている事を沙月が感じ、くすりと小さく笑った。
そんな折、彼女達の様子を眺めていたらしい、青年──祐──が声をかける。
「よ、斑鳩。こりゃまた何ともいい景色だな?」
「あっはは、青道君は随分と余裕ね? 望君なんて絶句してるのに」
その何とも緊張感のない、落ち着いた雰囲気の台詞に沙月が思わず笑みを漏らす。実際のところ、沙月は内心驚いていた。望に限らず、今は大分落ち着いているが、大半の生徒は現状に理解が追い付かないのか、かなり混乱していたからだ。……まあそれもそうだろう。普通に生活していればまずあり得ない事態なのだから。
だと言うのに、彼のこの落ち着きっぷりはどうなのだろうか?
そう沙月が思っているとも露知らずか、
「こう見えて結構興奮している。……ま、別の世界で大冒険! ってのは、オトコノコの夢の一つだろ?」
そんな彼の言葉に、沙月は「なるほどね」と納得したように返すに留める。
と、祐はもう一度ぐるっと景色を見渡した後、「じゃあまたな」と言って、校舎内へと足を向けた。
その背中を見送りつつ、沙月は思う。
──まあ確かに、うちの学校の皆は何気に逞しい部分もあるし……彼みたいな順応の高い人もいてもおかしくはない。けど、暁君の前例もあるし……一応、頭の隅に入れておきましょうか。
そんな、当たらずとも遠からずなことを。
◇◆◇
屋上を後にして校舎内の様子を見ながらぶらぶらと歩いていると、学校に残っていた唯一の教員である
俺達がミニオンに襲われ、元の世界を脱する事になったのは、間近に迫った学園祭の準備に追われて遅くまで学園に残っている時だったからだ。
……まぁ、それを踏まえても、この学園施設において、居残りの監督していたのが椿先生だけってのは……大丈夫なのか、この学園。……いや、大丈夫じゃないからこんな状態になってるのか? ……まぁいい。うん、なるべく迷惑かけないようにしよう。
それはともかく、なんでもこれから体育館で現状の説明があるとのこと。それを聴きたい生徒たちに伝えるために、走り回っているらしい。……先生ってのも大変だな。
一応俺も聴いておくかと、とりあえず体育館へ向かいながら、すれ違う目ぼしい生徒に、説明の事を話しておく。
んで、体育館に着。壁際に寄りかかって待っていると、徐々に生徒達が集まりだす。
「……ふぁ……」
……この待ち時間が何とも恨めしい。ぶっちゃけて言ってしまえば眠いんだ、凄く。
ここのところ慣れない訓練に力を入れすぎていたせいか、疲れが溜まってるのかもしれない。魔法の訓練に没頭してたり、何だかんだで睡眠時間も少なかったしな。
……まあ、箱舟から出る前に1日休養に当てればよかったんだけど。
(将来戦う側に回ることになるのだとしたら、体調管理も必須だぞ?)
俺の様子を見かねたか、レーメからそんな念話が飛んできた。
……ご尤もです。反論のしようもないそれに、周囲から不自然に見られない程度に頷いて返して、ウトウトしつつも説明の開始を待った。
…
……
………
……説明自体は、そう予想外な事を言われるでもなく終わった。
いや、他の生徒達にとっては予想外と言うか、想像だにしないようなことばかりだったと思うが。すなわち、自分達が学校施設ごと『別の世界』に来てしまった、などと言うことは。
──皆のことは、必ず『元々の世界』に帰してみせます。だからそれまでの間、皆で一丸となって頑張っていきましょう。
そんな斑鳩の言葉で締めくくられた今回の説明に、学園の皆も一応の納得はしているようだ。
まぁ、屋上に上がればここが間違いなく現代日本ではないことは一目瞭然なので、疑う余地もない。である以上、自分達がこれから生活していくためには、皆で協力しないとやっていけない、ってことは子どもにだって解ることだしな。
そんなことをぼうっと考えていると、いつの間にか体育館には斑鳩と椿先生、それに屋上で見た二人──世刻と永峰、あと知らないもう二人──確か、世刻のクラスメイトだったか。名前覚えてねえや──だけがいて、話し込んでいた。
このまま眺めていても仕方無いので、寄りかかっていた壁から離れ──そのまま立ち去ってもいいんだけど、斑鳩も居る事だしと思い、近づいてみることにする。
「よぅ」
「あぁ、青道君、屋上で会った以来ね。それで、貴方はどう? さっきの私の説明で納得してれた?」
そうそう、いまさらだが、ナナシとレーメ、それにフィアは俺と『念話』で話す事ができる。
『念話』とは、言ってしまえばテレパシー……言葉を発さず思念だけでできる会話みたいなもんだな。
最初は中々慣れなかったが、慣れてしまえば便利な代物だ。
「そりゃな。この状況で『納得できない』とは流石にいえないよ」
苦笑を浮かべながらそう返しつつ、「ところで」と言ってから、斑鳩と椿先生以外の四人へと向き直る。
「そこの四人とは初めてだよな? 俺は青道 祐。斑鳩のクラスメイトな」
「世刻 望です」
「私は、永峰希美です」
「
「
俺の言葉に続く様に、他の四人もそれぞれ名乗る。
「で、今はどんな話をしてたんだ?」
「うむ、次に問題になるのは食料だな、と話していたのだ」
俺が発した疑問に答えたのは、この場に居る七人の、誰でもない声だった。
聞こえてきたのは世刻が居る場所。
そのため、全員の視線が世刻へ集中した。
それを合図にしたように、世刻の目の前にふわりと、青と白を基調とした服の、妖精のような小さな少女が浮かび上がった。
見た目はうちのレーメにそっくりである。うちのレーメが彼女をモデルにしてるんだから当然だが。
「望、何、その小さいの?」
(こやつが吾のモデルになった『レーメ』か)
椿先生の疑問の声に続き、“うちの”レーメのそんな念話が聞こえてくる。
(……ふむ、うちのレーメの方が可愛いな)
(う、うむ! 当然であろう!)
(……マスター、それは贔屓目と言うものです)
(なんだとー!?)
「──うむ。吾はレーメ。ノゾムの神剣『黎明』の神獣だ。敬うように」
俺たちが念話で会話している間に、“世刻の”レーメの紹介が終わった様だ。
どうやら椿先生や阿川、森にも受け入れられているようである。……まぁ、レーメは見た目が可愛いからってのもあるんだろうが、何とも懐の深い連中だよな、この学校の皆って。
その後、斑鳩たちは話し合いの末に有志を募って食料調達に行く事を決めたようだ。……俺は一歩退いてみてただけだけど。
ここに居るメンバーで決めちゃっていいいのか? なんて思わなくもないが、基本的にリーダーである斑鳩が居るグループであるし、戦える──今のところ敵が確認されているわけじゃないけど──者が全員居る以上、仕方の無いことなんだろうけど。
それでその場は解散。その後の食料調達には俺は不参加。
もう一度箱舟に入ってゆっくり休んでから、少し鍛錬の続きでもするさ。