永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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38.連戦、激戦。

 咄嗟に動けた者と動けなかった者。その違いは、以前に彼女と出会った事が有るか無いか、だったのではないだろうか。

 動けなかった者のうち、サレスとナーヤはこのタイミングで、と言わんばかりの苦い顔で。他の旅団メンバーはまさか、と言った驚きの表情で。そして残る世刻、永峰、カティマ、ルプトナは状況が掴めていない様子だった。

 

「はああああああ!!!」

「…………──っ!」

 

 そして動けた者のうち、ミゥが右側から裂帛の気合と共に、ゼゥが左側から音も無く斬り込んでいく。

 対するスールードは、ミゥの攻撃を舞う様に、彼女の『皓白(こうはく)』の流れに逆らわず、その動きに合わせる様に身体を回してかわし、その間に右手に現した剣でゼゥの刀型永遠神剣『夜魄(やはく)』の一撃を受け止める。

 

「やあああ!!」

 

 その一瞬の硬直の隙を突き、ポゥが槍型永遠神剣『嵐翠(らんすい)』を突き込んだ。

 スールードはそれを数歩下がる事で躱し、お返しとばかりにポゥに斬り付けようとした所で、その刃の目的を飛来した炎弾──ワゥの神剣魔法『ファイアボルト』だ──を打ち払うことに変えた。

 俺はルゥと一瞬目配せし、頷き合うと同時にスールードへ向けて駆け出す。

 上がる爆炎。そして立ち込める煙。それを目くらましに、スールードへ肉薄するまでの間に『観望』の形を成し、オーラフォトンを巡らせる。

 

「せいっ!」

 

 先に近づいたルゥが、その愛剣である『夢氷』を煙の向こうに居るスールードへ打ち込んだ。

 ミニオンであれば、間違いなく真っ二つに断ち切っているであろう一撃。だが、煙が晴れたそこにあったのは、スールードの眼前に展開された障壁に阻まれ止る『夢氷』の姿。

 

「ちぃっ!」

「ルゥ!」

「──っ!」

 

 掛ける声は一言。だがそれで充分。俺の声に反応し、ルゥがその場に屈む様に姿勢を低くする。

 そんな彼女の頭上を横切らせるように、俺は『観望』を一閃する!

 

「──神剣『フラガラッハ』!!」

 

 本体がナノサイズである『観望』。それを活用して創りだした、刃先が単分子の厚さしか持たない、ひたすらに鋭さのみを追及して形成した片刃の剣だ。例え格上の存在の障壁と言えど、断てぬ道理はない!

 巡らされたオーラフォトンと障壁が火花を散らし、その刀身を削り取り、撒き散らしながらも『観望』はスールードの障壁を切り裂き、その白い首へと迫る。だが、彼女はそれをスウェーする様にかわし、直後下から突き上げる様に突き込まれたルゥの剣を、大きく後ろに跳んでかわして距離を空けた。

 と、その時スールードが何かに気が付き、手に持つ剣を頭上へ掲げる。

 その視線の先には、今の攻防の間に支えの塔への転送装置に向かおうとしたのだろう、サレスとナーヤ、タリアの三人。

 

「っ! サレス、下がれ!」

 

 俺の叫びに反応したサレスとタリアが、ナーヤを抱えて後ろに跳んだのとほぼ同時に振り下ろされるスールードの剣。そしてその軌跡をなぞるようにして、一筋の烈光──光の刃が三人の眼前を横切るように走った。

 

「残念ですが、通す訳にはいきません」

 

 そう言って悠然とたたずむスールードの姿に、思わず舌打ちしてしまう。

 サレス達を支えの塔に向かわせるには、やはりこちらに彼女を引きとめておかねばならない。ならば……攻めきるのみ!

 ナナシとレーメにはアーツをいつでも放てる様に準備してもらう事にし、俺は一人『観望』を構え再度スールードに向かって駆け出す。

 振り下ろされる剣。そしてその軌跡に沿うように走る光。それを右にステップしてかわした直後、眼前に半身ほどもあるマナの弾丸が迫っていた。

 

「ちっ!」

 

 『観望』を振るい、それを切り裂く。一度、二度、三度。その度に削られる『観望』の刀身。……やはり切れ味重視のためか、頑丈さにおいては一段劣るな。

 再度、今度は横薙ぎに振るわれる剣。同時にやってくる閃光の斬撃を姿勢を低くしてかわす。そして案の定眼前に迫るマナ弾。それを再度打ち払おうとしたところで、横合いから撃ち込まれた紅蓮の炎に相殺された。感じるマナの残滓はワゥのものか。恐らくは炎を収束して打ち出す『スレッジハンマー』だろう。

 ちらっと横を見ると、予想通り併走しつつニカっと笑ったワゥの姿。それに内心感謝しつつ一歩。再度撃ち込まれたマナ弾は、闇色の爪撃に打ち落とされる。今度はゼゥの『ランブリングフェザー』か、有り難い。と、さらに一歩。ようやくスールードの眼前へと迫る。

 

「ふっ!」

「おおおお!!」

 

 右から斬り払い、袈裟懸けに斬り降ろし、逆袈裟に斬り上げ、唐竹に振り下ろす。その度に剣戟を鳴り響かせる互いの神剣。右肩から斬り込んだ俺の剣と、左下から斬り上げられたスールードの剣が、鈍い音を立てて交差した。

 互いに押し合う鍔迫り合いの中、更に一歩力を篭めた瞬間──鈍い音を立てて『観望』が半ばから折れ、剣先は地に落ちる前に粒子へと還った。

 その隙を突いて振るわれる剣。それを残った根元の部分で受け止めるも、やはりバランスが悪い……じわじわと押し込まれてくる。

 

「ふふ……さあ、どうしますか?」

「……こうする……さ!」

 

 試す様に言うスールード。……剣を使い出して日の浅い俺の攻撃に的確に合わせて来た事といい、「俺がどう抵抗するのか」を楽しんでる節が垣間見えのが悔しい。……その余裕を崩してやる!

 奴の言葉に答えつつ、手に残る『観望』を通して、粒子状のまま周囲に漂わせている『観望』へとマナを流しながら一歩スールードから離れ、距離をとった。

 そして次の瞬間、注ぎ込まれたオーラフォトンが唸り、弾け、雨の如く四方から降り注ぐ!

 

「オーラフォトンレイン……『バロールの魔眼』!」

「なっ……くっ!」

 

 流石にこれは予想外だったのだろう、驚愕の声と共に周囲に張り巡らされた彼女の障壁(ブロック)に、『観望』から放たれた無数のオーラフォトンの光線が叩き込まれ、軋みをあげる。

 簡単にブロックを抜けるなんて思っては居ない。だから、やる事は只一つ……ぶち抜けるまで叩き込むのみ!

 マナを練りながら周囲の様子を伺うと、俺達の様子を見守るミゥ達の姿。目が合うと、コクリと頷く彼女達。

 

 ──今はお任せします。

 

 彼女達の視線にそんな意思を感じた気がした俺は、仕上げは任せる、と想いを篭めて、頷き返す。伝わったかな? ……ま、伝わらなくても彼女達なら機を逃さずに動いてくれるだろう。

 

「まだまだああああ!!」

 

 気合を入れ、マナを練り、オーラフォトンと化して『観望』へ注ぎ込み、注ぎ込み、注ぎ込む!

 連続で打ち込まれる数多の閃光に耐えるスールードの表情は、ここにきてようやく多少の歪みを見せた。

 

「くぅっ……! ああああ!!」

 

 もう少しか、と思ったその時、スールードが吼えた。

 次の瞬間、瞬時に凝縮し、弾ける膨大なマナ。

 ゴゥ、と言う音が聴こえそうなほどに渦巻くマナは、『観望』へとマナを練りこんでいた俺を、周囲に展開していた粒子状の『観望』ごと吹き飛ばした。

 ──まだだ。

 

「ナナシ! レーメ!」

「イエス、マスター!」

「うむ、行くぞ!」

 

 飛ばされながら指示を出す。俺の身を案じる様な気配が伝わって来るけれど、今は守るよりも攻める事だと解っているのだろう。力強く答えてくれる二人。いつも思うが、俺なんぞにはもったいない、出来た二人だ。

 そして駆動する戦術オーブメント。結晶回路(クォーツ)から導力を引き出し、導力を現象へと変換し、現象を世界に現す。

 

「『テンペストフォール』!」

 

 ──ナナシとレーメの声が唱和したその瞬間、“空”が歪んだ。

 歪みは光をも捻じ曲げ、世界を赤く染め、地に堕ち、膨れ上がり、弾け、驚異的な破壊力を持って空間を圧搾する。

 それはまるで、“空が大地に落ちる”かのような光景。

 “失われたアーツ”とも称される、数ある攻撃用導力魔法(オーバルアーツ)の中でも最高の威力を誇る、空属性全範囲攻撃アーツだ。幾らスールードとはいえ、無傷とはいかないだろう。

 

「ぐぁ!」

「……はっ、はぁ、はぁ」

 

 十メートルほどだろうか、吹き飛ばされて、結果に気を取られて受身も取れずに地に叩き付けられ、痛む身体に顔をしかめつつ起き上がった俺の視界に入ったのは、予想を裏切る光景。

 荒い息を吐き、身にまとう服や鎧に有る程度の損傷はあるものの、その身はほぼ無傷のスールード。

 その時、周囲5方向から、クリストの皆がその手に神剣を構えてスールードへと迫った。

 ワゥのバズソーが上空から振り下ろされ、それを半身になって躱したところに打ち込まれるミゥの打突。それを障壁で受け止めたところにポゥの刺突が繰り出され、それを神剣で受け止めるスールード。

 そうしてスールードの動きを止めたところに、ゼゥとルゥが斬りこんだ。

 

「すげ……」

 

 ……長年共に戦い続けている彼女達ならではの見事なコンビネーションに、思わず感嘆の声が漏れる。

 そういえばサレス達は、と思い出し、周囲を見ると、いつの間にか支えの塔への転送装置へ続く道を塞ぐように現れた、ミニオン達と戦闘を始めていた。あちらはあちらで乱戦……すぐに突破ってわけには行かなさそうだ。特にあのミニオン達が、『精霊の世界』の『剣』の中で遭遇したようなミニオン達だったなら、尚更。

 その時不意に、ざわりと、背筋が粟立つ感覚。

 視線をミゥ達の方へ戻すと、その翼をはためかせて空に舞い上がったスールードの姿。そして彼女が剣を掲げた瞬間、

 

「光よ、降り注げ!」

 

 天空から地上──俺達へ向けて、幾条ものレーザーの様な光線が降り注いでくる。

 それを見た瞬間、咄嗟にオーラフォトンバリアを張る。それとほぼ同時に猛烈な衝撃。それも、何度も、何度も、何度も、だ。……くそっ、さっきの『バロールの魔眼』の仕返しかよ。

 ガンガンと叩き付けられる衝撃を堪えつつ、マナを練り続ける。

 

「『クレスト』!」

「『A-クレスト』!」

 

 ナナシとレーメの声が続けて聴こえたその次の瞬間、かかる圧力が少し和らいだ。……防御力向上アーツ……それも物理と魔法の両方か、ありがたい。……とは言え現状のままじゃ反撃もできやしない。

 そう思った時だ。不意に視界に飛び込んできた人影と、その直後に俺に掛かっていた圧力が無くなった。

 改めて自分の前に立ち、スールードの攻撃を受け止める人物へと意識を向ける。

 

「……永峰?」

「約束通り、来ちゃいました」

 

 俺の声が聞こえたか、ちらっと振り返り、クスリと笑う永峰。……まったく、本当に助けに来てくれるとは。

 『リゼリア・プラント』に渡ったときの何気ないやり取りを思い出し、思わず頬が緩む。

 

「っ! おう、助かる!」

 

 折角永峰が作ってくれたチャンス、無駄にするわけには行かないと、俺は『観望』を粒子状のまま一箇所に集め、マナを注ぐ。

 

「オーラフォトンレイ! いけええ!!」

<承知!>

 

 俺の声に『観望』が応え、集められたその身から注がれたマナを撃ち放った。

 それは一条の光線となって、上空のスールードへと迫る。

 

「くっ!」

 

 スールードの張った障壁に阻まれる光線。俺はそれに構わず、第二射、三射と連続して撃ち続ける。

 

「ならばこれならどうですか? ……喰らいなさい。二つの刃が、全てを切り裂く!」

 

 スールードの声に続き、その言葉の通りに2条の斬撃が、俺が放ったオーラフォトンレイを打ち破り、俺の前に立つ永峰に襲い掛かった。

 

「きゃあ!」

 

 永峰の強固なマナ障壁とスールードの斬撃が相殺され、勢い良く吹き飛ばされてきた永峰を咄嗟に受け止める。

 「大丈夫か?」と声を掛ける俺に、気丈に頷く永峰。

 その時感じた迫り来る気配に顔を上げれば、見上げたそこに見えたのは、翼をはためかせ、再び天空から降り注がせた閃光と共に、俺に向かって一直線に急降下してくるスールードの姿。

 くそっ! 『観望』を形成するには時間がない。受け止めるしか!

 

「うおおおおお!!」

「はあああああ!!」

 

 永峰を背後に庇い、目一杯マナを練り、眼前にオーラフォトンバリアを展開し、マナを流し込む。その次の瞬間、落下による勢いを乗せたスールードの剣と俺の障壁がぶつかり合った。

 互いの精霊光が弾け、先程までの光の雨を受けて居た時に勝るとも劣らぬ衝撃が走る。

 

「祐さん!」

 

 聞こえるミゥの声と共に、皆が駆けつけてくるのが見え──。

 

「邪魔を……するなあぁ!」

 

 スールードが吼えた次の瞬間、俺達の周囲……クリストの皆へと降り注ぐ光の刃。

 それを喰らった皆が吹き飛ばされ、そこにミニオン達が襲い掛かり、何とか体勢を立て直したミゥ達がミニオンとの戦闘に入るのが見えた。

 周囲からは剣戟。今の様子じゃ、他の皆も精一杯だろう。アーツは……もうEPがオーブメントに残っていないのが感じられる。……自力で何とかするしかない、か。

 押し込もうとするスールードと、押し込まれんとする俺のせめぎ合いが続く中、不意に目の前のスールードの顔が緩んだ。

 

「ふふ……青道祐。以前対峙した時からまだ僅かしか経っていないにも関わらず、よくぞここまで成長しましたね。……まるで、こうして戦っている側からそれを血肉にし、成長しているよう。……何があっても足掻いて、足掻いて、諦めず、その命を燃やし、絶望にすら立ち向かう……ああ。私は、そんな貴方が愛おしい」

 

 押し込まれる圧力は変わらず、俺はそれを堪えることに精一杯で、何も言い返す事が出来ない。そしてそれでも構わぬとばかりに、スールードの言葉は続く。……なんつーか、こっちが必至なのに向こうが余裕なのが悔しいんだよくそっ!

 

「愛していますよ、青道祐。だから、もっと、もっと、その愛おしい姿を私に示しなさい!」

 

 さらに練りこまれるマナ。流し込まれるオーラフォトン。一際輝く精霊光。……徐々に押され始め、彼女も持つ刃が俺の障壁へ食い込み始め、何とか打開策を計ろうとした、その時だった。その声が聴こえたのは。

 

「──、──!」

 

 その声は、“上”から聞こえた。

 それは目の前の少女にも聞こえたようで、俺とスールードの意識が一瞬上に逸れる。

 そして再び、今度は明確に聴こえた、声。……って言うか、近づいてきてる?

 

「──そのまま、動かないで!」

「くっ!」

 

 次の瞬間、俺と、咄嗟に俺から跳び退ったスールードの間を断ち切る様に、盛大な破砕音を立てて大地に光の刃が突き立て、降り立つ誰か。

 俺の目に飛び込んできたのは、綺麗な蒼銀の髪と、白い羽の髪飾り。

 澄んだ、けれども力強い、どこか──感じたことのある気配。……ああそうか、あの“夢の少女”と似ているんだ。

 目の前の少女(・・)はスールードに向かって戦装束をはためかせがら駆け、その手に持ったものを振りかぶる。その姿はまるで、多少幼さは残るものの、北欧神話に出てくるヴァルキリーの様で。

 それは、長めの柄の先に、先端が二股に分かれた三角形のパーツがついたもので、そこから光で出来た大剣状の刃が伸びていた。

 あの剣、あの姿、間違いない。彼女は──

 

「お願い、ゆーくん! 『プチニティリムーバー』!!」

 

 一閃。

 スールードを障壁ごと弾き飛ばし、その手に持った永遠神剣を構えながら、少女はこちらを見て、微笑む。

 

「──永遠神剣第三位、『悠久』が担い手、『悠久のユーフォリア』! 故有って助太刀します!」


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