永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
それを聞いたのは、丁度ナーヤの執務室に集まっている時。世刻による全校集会召集の翌日、彼がサレスに参戦の意を伝えに言った日から3日後のことだった。
ザルツヴァイ全土に警報が響き渡る。
──『光をもたらすもの』の襲撃だ。
「……ふむ、来たか」
「今度の敵の数は、お前たちが今まで戦って来たどれよりも上回る。逃げるなら今のうちだぞ?」
そんな挑発とも取れるサレスの言葉にも臆する者は誰もおらず、それどころか、逆に気合を入れていく仲間たち。……何とも、頼もしいものだ。
「では、行こうか」
世刻のレーメのそんな言葉を皮切りに、決意を篭めた眼差しで出て行く皆に続き、周りに居るクリスト達と頷きあってから、俺も執務室を後にした。
…
……
………
戦場となるのは、『支えの塔』上層部を中心に、周囲を幾つかの『プラント』と呼ばれる浮島が取り囲み構成されている、ザルツヴァイ上空。
敵は精霊回廊を通じて一気に奇襲してきたらしく、俺達が『ミレステ・プラント』に登った時には既に多くのプラントを占領された後だった。一応事前にサレス達には、上空のプラントに対する警戒網を敷くことを伝えてはあったのだが……。
「どうやら、ベルバルザードが自ら先陣を切って攻めてきて、抑え切れなかったらしい。折角の忠告を無駄にしてしまってすまないな」
そう言われてしまっては返す言葉もない。……ま、獲られたのなら獲り返せばいいだけだ。
プラント間の移動はエーテルジャンプ装置によるジャンプ──要するに、空間転移のようなものだ──のみ。そのため、中々思うように進めない事が予想されるのが厄介な所だ。
とりあえずは次のジャンプ先である『リゼリア・プラント』を取り返し、次いでベルバルザードの待ち受ける『セレスタイン・プラント』へと向かうのである。
「よし、じゃあ行こうか」
「はい!」
「おう!」
それじゃあ、先陣を切らせてもらいますか、と進み出た俺に続いて出てきたのは、永峰と世刻。俺は2人と頷き合い、エーテルジャンプ装置に乗り込む。
──一瞬の浮遊感。次いで、瞬転する視界。
ミレステからジャンプした先の『リゼリア・プラント』は前述の通り既にミニオンに占領されている。と言うことは、当然の如くミニオンが出迎えてくれるわけで。
「くっ、行き成りか!?」
転移直後の俺達を纏めて狙ったんだろう、上空から降り注いでくる炎の雨。それを受け止めるために、咄嗟にオーラフォトンバリアを展開する。
隣を確認すれば、世刻達も同じように防御しようとしている……けど、永峰の防御魔法は
「世刻!」
声を掛けながら永峰を背後に庇う位置へ移動すると、世刻も俺の言いたい事を理解したのだろう、俺の横に並び立つと、俺の防御に重ねるようにマナの盾を展開する。
着弾。そして上がる炎と煙。
閉ざされた視界に嫌な予感がして、『観望』を通して周囲を探れば、案の定煙を眼くらましに襲い来る刃が『視え』た。
「次、左右から来るぞ!」
「任せてください!」
俺の声に反応し、永峰が
マナ障壁と拮抗するミニオンの剣。次の瞬間、俺と世刻はほぼ同時に左右のミニオンへと斬りかかった。
長剣の形にした『観望』を袈裟懸けに振り下ろし、ミニオンが剣を横にしてそれを受け止める。
次いで横薙ぎ。ミニオンはそれも剣を縦に構えて受けるも、ザリッと数歩後ずさった。
その隙に『観望』を
「『ボルカニックレイブ』!」
次の瞬間、そこを狙って放たれたレーメのアーツ。
敵の足元から膨れ上がる様に広がった灼熱の光は、瞬時に大爆発を起こし、固まっていた5人のミニオンを根こそぎ炎で包み込んだ。
その間に後ろに生まれる複数の気配。……残りの皆も転移してきたのだろう。
世刻の方は……丁度斬りかかって来ていた青ミニオンを倒したところか。さすがだなと思いつつ、体制を立て直そうとしている残りの5人のミニオンへと向かう。
『観望』は刀に。思い描くは月の輪。早く、速く、疾く!
「──月輪」
一閃。同時に崩れ落ちたもう一人の青ミニオンを見届け、後ろに飛んでその場を離れる。これで間違ってもバニッシュされる恐れは無い。
「『スパイラルフレア』」
耳元で聴こえたナナシの声。直後、残った連中に乱舞する様に赤く燃える光が降り注いだ。
幾条もの灼熱した光に打ち抜かれ、マナの霧と化して行くミニオン達を見送って、一息吐く。これでこのプラントの入り口は確保、と。
そのまま皆と共にプラントの中心部へと向かう。
「あの、先輩。さっきはありがとうございました」
その道すがら、隣に並んだ永峰がそう声を掛けて来た。
一瞬何のことか解らず「ん?」と首を傾げる俺に対して、「ジャンプした直後の……」と言葉を続ける永峰。
「ああ……別にわざわざ礼を言うようなことじゃないだろ。気にするな」
「けど……」
「じゃあ、今度俺がピンチの時に助けてくれ」
俺のことだから、きっとすぐ危なくなるから。そう続けると、彼女はくすりと笑って「はい」と頷いた。
それからしばし、このプラントの中心部と思われる場所に着く。そこにはこちらの約三倍程のミニオン達が待ち構えていた。
「よし、行くぞ」
「おう!」
サレスの言葉を合図に、再び戦端を開く。
…
……
………
今の戦場の状況を言葉にするならば、「乱戦」って言葉がピタリと当て嵌まるだろうか。敵味方入り乱れ戦ううちに、まるでミニオンと言う名の濁流に翻弄される小船の様に、気がつけば周囲をミニオンに囲まれ、一人引き離されてしまっていた。
別に突出したつもりは無いんだけど……参ったな。
(こちらを各個撃破するつもりなのかも知れぬな)
(……なんとか皆と合流しないとな)
レーメの念話に内心頷きながら、突き込まれる槍を身体を半回転させてかわし、引き戻されるのに合わせて距離を詰める。
そのままの勢いで剣を振り抜くと、鈍い音を立てて、敵のブロックと『観望』が火花を散らした。
「っ! 『ブルーアセンション』!」
戦いの喧騒の中でもよく通るレーメの声に続き、背後で起こる爆発音と、頬にかかる水しぶき。相対していた緑ミニオンを蹴り飛ばし、振り向き様に今ので弱った黒ミニオンを斬り捨てる。
「『エアロストーム』!」
次いでナナシによって生み出された中規模の竜巻は、俺を中心に渦を巻き、距離を詰めようとしていた敵との間に数瞬の壁を作った。
その間に『観望』を
「一点突破する!」
アーツとマナによって高められた脚力による突破力を高めた一撃は、エアロストームによって身動きの取れぬ敵を突き抜け、周囲を取り囲むミニオンの壁に穴を開ける。
後ろには一筋の道。
包囲を抜けられた事に焦ったのか、ミニオン達の気配が俺の背後に一気に集中するのが感じられた。
「レーメ!」
「うむ、任せろ! 『ラグナブラスト』!!」
振り下ろされるは轟雷の一撃。
俺を基点に一直線に突き進むアーツの雷の奔流は、俺の背に迫っていたミニオン達を蹂躙し、薙ぎ払う。
俺はレーメによるアーツが放たれるのと同時に反転し、アーツの雷に続いて、再びミニオン達の只中へと飛び込み、槍状にした『観望』で二人のミニオンをまとめて刺し貫いた。
直後、満身創痍ながらも斬りかかってきた青ミニオンの斬撃を、
そしてその後ろで魔法を唱えようとしていた赤ミニオンへと詰め寄った、その時だった。
「……痛いよ? ……ククッ『ダークインパクト』」
耳朶を叩くその声に続き、足元に広がる黒いマナ。次いで襲い来る悪寒、衝撃、浮遊感。
咄嗟に周囲を『観望』で観測すれば、自身の体が二メートル程上へ吹き飛ばされているのが解った。
「ぐっ……おおお!!」
遅れてきた、身体を駆け抜ける苦痛。黒マナ特有の、怨嗟を孕んだその一撃に思わず漏れ出そうになった苦鳴を飲み込み、斜め下へ盾を翳してマナを流し込み、
そして襲い来る爆裂音と衝撃。熱や炎は防げたものの、更に三メートル程吹き飛ばされた。
叩き付けられる衝撃に続いて地面と空が交互に視界に映し出され、やがて地面のアップで動きを止める。
……ああくそっ、全身痛え。
警戒を怠ったつもりはないんだけどな……。きっと我ながらどこか油断していたんだろう。不用意に飛び込んだ結果がこれだよ。
(──マスター!!)
脳裏に響いた悲鳴に近いナナシの念話にとっさに横に転がり、地面に金属を打ち付ける様な音を聴きながら飛び起き、跳び退る。
見えたのは、先程まで自分が居たであろう場所に剣を突き立てている黒ミニオンの姿……って、あぶねえ。よく身体が反応したもんだ。
(……助かった、ナナシ)
(いえ。それよりご無事ですか?)
(ああ、何とかな)
敵と少しと距離をとりつつ、剣を構え直して体制を立て直す。現在、俺と戦闘状態の敵の数はざっと見て十人。さぁもう一度。今度は慎重に行くか、と気合を入れた時だ。
ミニオン達の身体を緑色のマナが包み込むのが『視え』た。……全体回復魔法の『ハーベスト』かっ!
完全に回復されたやっかいだと、思わず一歩踏み出したその時、
「『アークプロミネンス』」
静かに、けれど強いレーメの声が響いた。
同時にミニオン達の頭上に舞う炎。集い、増幅し、それは小型の太陽もかくやと言わんばかりに白熱する。
そして──一瞬の閃光と共に撃ち降ろされ、極大の爆発を起こす!
──火系攻撃アーツの中でも最上位に位置する全体攻撃アーツ『アークプロミネンス』。静かだと思ったらこんなん準備してたのか。
……炎の治まったそこにあったのは、マナとなって消えて行ったのであろう、光の粒の残滓だけだった。
「マスター」
「ユウ」
戦闘の最中は俺の頭上に浮いていたナナシとレーメが、ふわりと降りて来る。
と、レーメは俺の右肩に降り立った途端に、頭に抱きつきながらバシッバシッと殴って来た。……地味に痛い。
「なに……」
「……あまり無茶をするな、このばか者」
なにするんだ、と言おうとした所に聴こえた、か細い声。……そんな事言われたら殴られても文句も言えねえだろうが、まったく。
だから、代わりに俺が言えたのは、
「ごめん。……それと、ありがとう」
そんな事だけだった。
…
……
………
その後無事に皆と合流し、このプラントの敵を殲滅させた事を確認した俺達は、傷を癒してから次の『セレスタイン・プラント』へとジャンプする。
今の『リゼリア・プラント』と同様に、ジャンプアウト地点にて待ち構えていた敵を倒した後、中心部へ向かった俺達を待ち受けていたのは、黒い甲冑に身を包み、赤いマントをなびかせながら薙刀を構える巨漢の偉丈夫。
「……あれが……ベルバルザードか」
「青道君は初めて見るんだっけ。……そう、あいつがベルバルザード。かなり強いから、気を引き締めてね」
俺の問いに答えた斑鳩の言葉に頷き、武器を構えながら近づく俺達に対し、その手に持った薙刀──永遠神剣『重圧』──を一振りし、突きつけてくるベルバルザード。鼻から下を覆うマスクでその表情は見えないが、眼光は鋭く、一瞬も逸らすことなく、ひたとこちらを見据えてくる。その視線の向かう先は──。
「待ちかねたぞ、ジルオル。いや、世刻望! そして旅団よ! あの時の借り、返させてもらおう!」
「……何と言うか、完全に眼を付けられてるな」
「…………ははは……はぁ……」
苦笑してからため息を吐く世刻に「がんばれ」と声をかけつつ、戦闘態勢を整える俺達。それを合図にしたように、俺達を囲む様に現れるミニオンの群れと、ベルバルザードの直近にも、いつの間にか四小隊、十二名のミニオンが現れ、武器を構えていた。……実際に戦闘態勢を整えているのはベルバルザードの近くに居る連中のみの様で、その数が少ないのはやはり、少数精鋭ってやつなんだろう。
「よし、行くぞ!!」
「おうよ! うおおおおお!!!」
世刻の言葉にソルラスカが威勢よく応え、それを合図に俺達も各々敵へ向けて駆け出していく。
ベルバルザードの左側に布陣している6名のミニオン。俺とクリストの皆はそちらへ。
「『ゾディアック』!」
敵との距離を詰める間に発動されたナナシのアーツは俺を中心に皆を包むように広がり、その力と身体に加護を与える。
「ミゥ!」
「はいっ!」
返事と共に放たれた光球は敵の眼前で炸裂し、閃光と衝撃を生み出して敵の視界を塞いだ。
それに合わせてルゥが青マナを集積、氷へと変質させて撃ち出し、ワゥが神剣魔法を追撃で放ち、その隙に敵へ突撃する、俺とゼゥ、ポゥの三人。
俺の前には青と白のミニオン。
『観望』を
そのまま押し込もうと力を篭め、相手がそれを返そうとしてきたタイミングで『観望』を一瞬粒子状に還し、左右二対の双剣にして再構築。
押されまいと力を篭めた時にその力の掛け所を消され、たたらを踏んだ二人を左右の剣で斬りつける。
確かな手ごたえ、と同時に視界の端に移る鈍色の光。
一歩身体を引き、反撃のために降ろされた敵の刃をやり過ごし、お返しにと左の剣を青ミニオンへと突き出すが、横合いから差し出された白ミニオンの錫杖に阻まれた。
ならばと、白ミニオンの胴を狙って右の剣を横薙ぎにするも、敵が身体を退いた事によってかわされ、体勢の崩れた俺へと一歩踏み込む青ミニオン。その剣は強いマナが篭められ、淡く発光している。
「喰らえ、ヘブンズスォード!」
「させません!」
左の剣をガードに回そうとしたところで、俺と青ミニオンの間に飛び込んできた白の巫女。
俺に肉薄しようとしていた青ミニオンを、錫杖型神剣『皓白』を突き出して抑え、突き出された剣を回す様に打ち払った『皓白』で撥ね上げる。そのままがら空きになった胴を石突で突き、返す頭部で肩口から打ち払い、
「はぁっ!!」
更に敵の胴へと突き込んだ瞬間、気合と共に篭められたマナが炸裂する!
膨れ上がるように炸裂した白マナは、青ミニオンと共に、今の攻防の間にこちらにマナのエネルギー弾を放とうとしていた白ミニオンを吹き飛ばした。
一瞬ミゥと目配せして頷きあい、同時に青ミニオンへ向かって駆け出す。
先の衝撃をまともに喰らったせいだろう、ふら付きながらも立ち上がり、剣を構えようとしていた青ミニオンへ一気に肉薄し、その胴を長剣にした『観望』で刺し貫いた。
と同時に横合いから聞こえるマナとマナがぶつかり合い弾ける音。撃ち込まれた白ミニオンのマナ弾をミゥが防いでくれた音だろう。
俺は青ミニオンから剣を引き抜くと、
(任せた!)
(任された!)
レーメに念話を飛ばして白ミニオンへ。
「『ダークマター』!」
直後、まだ息があり、俺を攻撃しようとしたであろう青ミニオンの気配は掻き消えた。
その間に、挟み込むように白ミニオンへと接近した俺とミゥ。突き出した俺の剣を、身体を半回転させる形でかわしたミニオン。その背をミゥの『皓白』が打ちつけ、体勢が崩れたところを逆袈裟に『観望』で斬り上げる。
その一撃は違うことなく刃がその身を裂く嫌な感触を俺に残しつつ、白ミニオンをマナへと還した。
──さて、次だ。と思って周囲を見渡せばそこに既にミニオンの姿は無く、ベルバルザードと切り結ぶクリストを除く皆の姿。
ソルラスカが先陣を切り、世刻がその後に続いて猛攻を仕掛ける。
サレスとナーヤ、タリア、カティマは周囲の警戒と危なくなった時の交代か、その様子を眼を逸らす事無く見つめている。
「見事なコンビネーション……と誉めるべきなのか、あれを一人で受けるベルバルザードが恐ろしいと見るべきなのか」
「……その両方……と言いたいが、悔しいが後者じゃろうな」
サレス達の元へ行きながら漏れ出た俺の呟きに、ナーヤが答える。参戦するのを余程堪えているのだろう、その手はきつく己の神剣『無垢』の柄を握っていた。
いや、ナーヤだけじゃない。他の皆もやはり表情は固い。……それだけ微塵の油断も出来ない相手だと言う事だろう。
「……祐、解っているとは思うが──」
「解ってますよ。……俺達はベルバルザードには手を出さない。出すとしても、第二陣がピンチになったら、でしょう?」
俺の返事に満足したのか、「そうだ」と頷くサレス。
まあ実際、ここまで来るまでのミニオン戦でも充分消費してしまったのだ。未だ出てこない奴のことを考えると、今はこれ以上消耗するわけにはいかない。ベルバルザードを相手にしてくれている皆には悪いけど……な。
……大丈夫。あいつらなら、大丈夫さ。
皆と共に固唾を呑んで見守る中、ベルバルザードとの戦いは佳境を極めて行った。
…
……
………
横薙ぎにされる『重圧』を、ソルラスカが跳んでその上を、世刻が姿勢を低くし、その下をくぐるようにかわし、ベルバルザードへ肉薄しようと踏み込む。が、次の瞬間、二人はまるで見えない手に押し付けられるかのように、地面に叩きつけられた。
ベルバルザードの神剣魔法、相手に加重を加えて攻撃する『グラビトン』だろう。そして続けて、動けない二人に飛び掛る様に接近し、大上段から『重圧』を振るう。
と、その前に永峰が飛び出し、『重圧』と彼女のマナによる
「ものべー、狙いはお願い! ショットブレイカー!」
永峰がそう叫ぶと、『清浄』の穂先が真ん中から二つに割れ、その根元に埋まっていた宝玉へと急速にマナが収縮していく。そして──撃ち出される極光!
それはベルバルザードを撃ち抜き、その身体を十メートル程後退させる。そしてそこに、『グラビトン』の効果から逃れた世刻とソルラスカが踊りかかった。
体勢を立て直される前に一気に肉薄したソルラスカが、『荒神』での一撃の後、左手をベルバルザードの腹に当てる。
「攻めるが勝ちだぜ! 裂空衝破!」
その瞬間、ソルラスカによって打ち込まれ、膨れ上がった“気”が爆発するように炸裂した。
がら空きになった胴。そこに飛び込む世刻の手には、交差する様に振りかぶられる黎明。
「いくぞ! クロスディバイダー!!」
その一対の刃が打ち付けられた瞬間、互いの刃が共鳴し、凄まじい衝撃を生み出す!
それが収まった時、そこには膝を付くベルバルザードの姿があった。
「……ぬぅ、我に傷を付けるとは……侮っていたか!」
荒い息をつきながらそう言うベルバルザードではあったが、その眼光はいささかも衰えてはいない。
周囲にはまだまだミニオンも居るし、これからか……と思ったのだが。
「……退くぞ」
ふらり、と立ち上がったベルバルザードはそう一言呟くと、一気に俺達から距離をとり、俺達を囲んでいたミニオン達と共に退いていった。
「……敵が退いていく……? 勝った、のか?」
実際ベルバルザードがこの場を退いたのは事実なのだが、その事実が信じられないと言う風に呟く世刻へ、「罠と言う可能性もある」と言いながらも一息つく皆。
そんな中、俺は頭を悩ませていた。……『原作』での細かい流れは覚えていない、と言うのはもう何度も自覚しているのだが、コレに関してもそうだ。だから、今このタイミングでベルバルザードが退く事の意味。それを、今実際に起こっていることを踏まえて、考えなければならない。出来得るなら、『原作』においての展開も思い出せると最高なんだけど。
俺が覚えているのは、結果的に『支えの塔』がエヴォリアに落とされる事。その方法──フィロメーラさんの姿に扮したエヴォリアが、ニーヤァを誘惑して『支えの塔』に侵入すること。
……そこまで考えて思った。それらを踏まえれば簡単じゃないか、と。そう、この撤退は布石だ。エヴォリアがそれを行うための時間を稼ぐための。
「……サレス! ナーヤ!」
それに思い至った俺は、二人を呼ぶ。すぐに支えの塔に戻って防備を固めるぞ、と。
「やつらの狙いが『支えの塔』である事は間違いない。である以上、このアッサリとしたベルバルザードの撤退はその布石だと見ていいはずだ」
「……いかな手段を使うかは知れぬが、我等トトカ一族がいなければ入れぬ『支えの塔』への侵入を試みるはずだ、と?」
「そうだ。……有り得ない、と思うかもしれない。けど、事態は最悪を想定して動いた方がいい」
俺の言葉に二人は顔を見合わせ、二、三言葉を交わすと頷きあい、
「よかろう。市街などを放って置くことは出来ぬ以上、全員と言う訳にはいかんが……幾人かを連れて塔へ向かおう」
そうナーヤが言った、その時だった。
──膨れ上がる気配。沸き起こる悪寒。そして、濃密なマナ。
「……やはり、貴方は油断の出来ない人の様ですね」
しゃらん。
そんな鈴の音が聞こえた気がして、振り返った俺達の前には──
「こうして出てきてしまっては、貴方達の予想が正しいと言っている様なものですが……まぁ、通さなければ問題はないでしょう。──次は、私がお相手しましょう」
その背に鳳凰を思わせる翼を携えた少女が、立ち塞がっていた。