永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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2.予想外、でも助かる。

 さて、フィアの事も一段落したので――

 

「……って、ええ!? ご主人様って呼ぶので確定ですか!?」

「うん」

「即答された……うぅ」

 

 一段落したので──ちなみに、彼女の主な仕事は、箱舟の維持管理だ――今度は現状の確認と、今後の予定を決める事にする。

 いやまぁ、本来のメイドさんだったら、呼び方は『旦那様』や『名前に様付け』になると思うけど、そこはそれ、男のロマンということで了承していただきたい。

 それはともかく。

 

「とりあえず、ここは『聖なるかな』の世界で、今は学校にミニオンが襲撃した後。『剣の世界』に向かっている最中ってとこだな。そして俺の立場は、物部学園の3年生、現状なんの力も無い一般生徒……ってわけだ」

 

 「ここまではいいか?」と訊くと、ナナシとレーメの二人はコクリと頷く。……ちなみにナナシとレーメは、俺の知識とある程度リンクしているらしく、大体の所は解っているみたいだ。

 とは言え「解っているだろう」で進めてしまって、いざと言うときに解らないことが出てきたら困る事になるからな。こういった刷り合わせはしっかりしとかなければ。

 実際フィアはその辺の知識は無いらしく、きょとんとしているし。

 

「あの……ここが『聖なるかな』というものの世界と言うのはいいのですけど、『剣の世界』と言うのは?」

「えーっとな、ようするにこの世界って、いくつもの世界が寄り集まって、大きな世界を象ってるんだよ。で、その寄り集まってる世界の事を分枝世界、その分枝世界を内包している大きな世界を時間樹って言うんだ」

「……成る程、つまり今は、その分枝世界の中で言う『ご主人様が転生した世界』から『剣の世界』に移動している最中……と言う事ですか」

 

 うむ、理解が早くて助かる。

 フィアの言葉にうんうんと頷いていると、ナナシが「それでは」と切り出してきた。

 

「では今後の予定ですが……リンクしている知識ではあやふやな部分も多いのですが……マスターはこの先の展開はご存知ですか?」

「いや、言う通り一応大まかな流れは覚えてるけど、細かい部分は結構忘れてるなぁ……。この感じだと、大まかな流れもどれだけ合ってるか判らんな」

 

 さしもの完全記憶能力とはいえ、現状で覚えていないものはどうしようも無い。まぁ、今現在覚えてる事と、今後思い出した事は忘れ無いんだろうけど。

 そんな事を考えたところで、不意にレーメが俺の眼前まで飛び上がり「ところでユウ」と声を掛けてくる。

 

「確認しておきたいのだが、ユウはこの先、『この世界』に対してどうしたいのだ?」

 

 この世界に対してどうしたい、か。

 そう問われて、まず思いつくのは2つの選択肢。原作に関わる道と、関わらない道。

 関わらないのは簡単だ。このまま何もせず、ただの一般生徒として周囲の決定に迎合して、漫然と過ごせばいい。そうすればそのうち“主人公”である世刻達が、何もかも丸く治めるだろう。

 けど、俺は。

 

「……そうだな。今すぐは無理だろうとは思うけど、出来るなら……この世界に“何か”を残したい、かな」

「残したい、ですか」

 

 考えた末に出た俺の言葉をナナシが復唱し、俺はそれに頷いて返す。

 別に、世界に名を響かせる偉人になりたいだとか、歴史に名を残すような偉業を達成したいだとかって言うわけじゃないんだ。ただ、そう、誰かの心に残ればいい。ほんの僅かだけでいい。俺が俺として、この世界に生きたと言う証拠を残すことが出来たら……いいなって思う。

 そんな事を──思いつくままに話したところ、レーメは「そうか」と柔らかな笑みを浮かべて一言。

 

「でも安心した。これで“主人公”からヒロイン達を奪ってやるーとか言われたらどうしようかと思ったぞ」

 

 そんな事を言うレーメに、思わず苦笑を返して、馬鹿な事を言うなとその小さな頭を小突いてやる。

 

「ま、俺も男だから、ヒロイン達みたいな可愛い子と仲良くなれれば嬉しい事は嬉しいさ。かといってそれが目的……とは行かないって。そう言うのは、自分の行動の先についてくる結果だろ」

 

 そもそも俺がそんな、物語の主人公のようにモテるわけがない。

 そう言うと、レーメはむぅ、と小さく唸ったあと、

 

「まぁ、ユウには吾等が居るしな!」

 

 と言うので、それもそうだなと返しておく。

 

「……では、基本はマスターの覚えている展開に沿い、後は臨機応変に……と言った所でしょうか」

「まあそれしかないだろうな。俺たちっていうイレギュラーが居る以上、必ず俺の知っている通りに動くなんて考え無いほうがいいだろ。本来、未来なんて何が起こるか判らないものなんだから」

 

 コホンッと小さく咳払いをした後に切り出されたナナシの言葉に首肯する。

 ……とりあえず当分は、箱舟を有効に使って訓練あるのみだな。現状じゃ介入するしない以前の問題だ。無理をして死んでしまっては元も子もない。

 その後、フィアに館の中を案内してもらい、構造を把握しておく。

 そうそう、アルケミーストーンの部屋も当然の如く空だったので、物は試しとアルケミーストーンへと魔力を通してみた。

 魔力の通し方はまぁ……レーメのアドバイスを聞きながら四苦八苦して何とか掴んだって感じだったが。何にせよ、俺の中にある力を、しっかりと『魔力』として認識できたのは大きいと思う。

 その結果、見たことの無い丸い石が3つ程産み出された。どうやらただの石ではないようだが……さて、これはなんだろうね。

 

 

……

………

 

 

 屋敷の探索を終え、最初の部屋──どうやらフィアが個室として使っているらしい──に戻ってきた俺達は、とりあえず直近の予定を立てる事にした。まあ要するに、今これからどうするかって事だな。

 

「とりあえず今は訓練あるのみだと思うんだが……この世界の魔法って、『永遠神剣』が無いと使えないんだよな?」

「うむ。……そうなる以上、現状できるのは異世界の魔法の習得、及び単純に肉体の強化等であろうな」

 

 俺の疑問に答えたのはレーメ。……ってちょっと待て。

 

「異世界の魔法って……そんなん出来るのか?」

「……むぅ、吾を誰だと思っている? 最初の紹介で言った様に、吾の役目は魔法技術全般のサポートだ。それには当然、この世界のみならず、他の世界に行った時も含まれるのだぞ?

 ……最も、今のユウの体力と魔力では、魔法を覚えた所で戦力にはならないと思うが」

「……うっ……痛い所を突いてくれるな。……そうなるとまずは咄嗟の事態になったときに生き残るために、身体強化系か回復系を覚えておいた方がいいのかねぇ……」

 

 無論、同時に身体を鍛えるようにするのは大前提だが。

 その時、それまで黙っていたナナシが「それに関してなのですが……」と言葉を挟んで来た。

 

「どうした?」

「はい、先程屋敷の中を説明したとき、アルケミーストーンにより生成された石がありましたが……」

 

 俺が頷いて続きを促すと、ナナシは先程の石をどこからともなく取り出してテーブルの上に置いた。

 

「この石……正確に言えば石ではありませんでした。……これは結晶回路(クォーツ)です」

「……クォーツって、『英雄伝説 空の軌跡』シリーズに出てくるやつ?……っていうかクォーツの元になる鉱石のセピスじゃなく、クォーツで出てくるのかよ」

 

 ……いや、これには正直言って驚いた。神様(仮)製の魔法アイテムを舐めてたぜ。

 驚いている間に、ナナシはどこからとも無く取り出したPDAをクォーツにかざして居た。ちなみに彼女の持つPDAは、当然彼女が使う様に創られているので超ミニマムサイズだ。……とりあえずさっきのレーメもそうなんだが、あれとかクォーツとかどっから出してるんだろうか。

 

「種類は……水耀珠、金耀珠、風耀珠ですね。ゲーム内効果で言うならば、水耀珠はHP+15%、金耀珠は消費EP-50%、風耀珠はAGL+5になりますか」

 

 いきなり各系統の最強のが出てくるとか……何と言うご都合主義。

 そう思ったところで、自分のスキルのうちの1つを思い出す。すなわち『神の加護』。……なるほどね。しかもあの時はフィアも行動を共にしていたわけだしな。

 ご都合主義万歳、と言いたくなるような結果だが、助かるものは助かるのだし、有り難く受け取っておこうか。

 

「……ってか、クォーツの種類が判るとか……そのPDAは何だ?」

「これですか?これはアカシック・レコードへの限定接続が可能な端末です。と言っても出来るのは私なら機械技術系統と一般・汎用知識への情報検索、レーメなら魔法技術系統と一般・汎用知識への情報検索程度なのですが」

 

 今、さらりと凄い事を言われた気がする……。

 ──アカシック・レコード……うろ覚えだが、確か、この世のどこかに存在する、過去・現在・未来におけるすべての事象を記録したもの……だったか。

 ちらりとフィアの顔を見ると、彼女も驚いた顔をしていた。

 

「……なぜフィアも驚く?」

「いえ……私にそんなのを持たせる権限なんて無いもので……」

 

 えー……出所不明の謎ライセンス付きPDAとか怖すぎるっ! とか思っていたら、

 

「ああ、これを持たせてくれたのは、フィアのお師匠だぞ? 何でも『不肖の弟子が迷惑をかけた侘びだ』だそうだ」

 

 そんなレーメの一言で解決した。

 フィアの師匠って何気に凄いんだな。なんて思いながら改めて彼女を見ると……あ、また落ち込んでる。

 それはともかく。

 

「……ん~……なぁナナシ、ナナシは機械技術全般のサポートだよな?」

「はい」

「……じゃあ、俺用の戦術オーブメントとか創れるか?」

 

 俺の質問に、彼女は再びPDAを操作しつつ、しばし考えこむ。

 

「…………はい。情報はこれで取得できますし、必要な材料も……恐らくこの箱舟の中で調達可能かと」

 

 そして、出た答えは肯定だった。……よしっ、これでとりあえず何とかなる目処がついたかもしれない。

 やはり曲がりなりにも戦う手段があるのと無いのとじゃ、取れる手段に雲泥の差が生まれるからな。

 それじゃあ早速頼む、と言おうとした所で、それまで黙って話を聴いていたフィアが声を掛けてきた。

 

「……あの~……」

「ん?」

「……くおーつ、とか、おーぶめんとって何ですか?」

 

 おずおずと質問をしてくる彼女に苦笑が漏れる。

 そんな遠慮しないで、解らないならもっと訊いてくれて構わないんだが。

 

「簡単に説明すると、さっき言った『英雄伝説 空の軌跡』って言う作品のシリーズに出てくる道具で、戦術オーブメントって道具にクォーツってのを填めると、そのクォーツに付随する効果……ここにあるので言えば、HPが15%増えたりとかを得る事ができるんだ。で、そのクォーツの組み合わせによって、オーバルアーツ……要するに魔法みたいなのを使う事ができるんだよ」

 

 そう説明してやると、フィアは「ふむふむ」と頷いていた。

 専門用語の入り混じる説明だったわけだが、一発でわかったんだろうか、と思いながら彼女の様子を見ていれば、フィアはこくりと一つ頷いて「解りました、大丈夫です」と一言。

 ……何て言うか、理解力は高いんだよな、彼女。

 

「……さて、それじゃあ……とりあえずこれからは、俺は基本的な体力作り、ナナシは俺のオーブメント作り、レーメは他によさそうな魔法とか無いか、調べておいてくれ。オーブメントさえあれば、オーバルアーツは多分使えるだろうし、頼んだぞ?」

「はい」

「うむ」

 

 さて、やる事は決まった。あとはしっかりやるだけだな。


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