永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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27.会合前、事前準備。

「成程……人間と精霊を和解させる話し合い……ねぇ」

 

 物資調達の為に下に降りた日の翌日、俺は町に出た生徒達の見回りも兼ねての散歩途中、ユーラの店を訪れていた。

 これまでも町中の巡回の際は顔を出していたので、もうすっかり顔なじみになってしまったが。

 昨日の事や、今までに解っている事、俺達の判断なんかをざっと話すと、彼女はふむ……と一つ唸ったあと、

 

「それで、態々それを報せに来たってことは、何か話があるんだろう?」

「ああ。ここに来る前に酒場に寄って聴いた話なんだが……この森の奥地には、ここの人間ではない誰かが建てた石造りのピラミッドの様な建物があるそうなんだ。無論、精霊がそんな人工物を作るはずも無い。で、精霊と人間の仲が悪化した、件の開拓団殺害事件が起こったのも、そのピラミッドの辺りってことらしくてね」

 

 そこで一旦区切り、ここまではいいか?と問いかけると、「ああ」と頷くユーラとリーオライナ。

 俺は出された茶を一口飲んで口を湿らすと、続きを話し出す。あ、このお茶美味え。

 

「精霊でも人間でもない、誰かが建てた奥地にあるピラミッド。その時に限って、そんな奥地まで襲われる事無く辿り着いた開拓団。そこで襲われた彼等。そして、悪化した精霊と人間の仲」

「…………成程ね、何とも解りやすい構図じゃないか」

「だろ? ……で、問題となるのは、開拓団が襲われたのがピラミッドの側って事と、明後日の精霊との話し合いが、こちらから向こうへ出向く、と言う事」

「……ふむ。つまり、精霊と話し合う為に奥地に言ったロドヴィゴ達が、この機会に開拓団が襲われた場所を見たい、と言うのではないかと言う事か?」

 

 そう訊いて来たリーオライナへ、一つ首肯して返す。

 

「ついでに言うと、話し合いの結果によらず十中八九……とまでは行かなくても、かなり高い確率でそうなるんじゃないかと思ってる」

「何でだい? 流石に彼等だって、奥地は危険だって事は重々解ってるだろう?」

「……まぁ、彼らの心境を考えると……ってところかな。このチャンスを逃せば、彼らが森の奥地まで入り込む機会は来るかどうかすらわからない。だとしたらこの機会に、自分たちの目で確かめようと思うんじゃないかってな」

 そう言うと、彼女達も得心が言ったのか頷いている。

 流石に『原作』でどうだったかってのまでは覚えていない。この世界の出来事で俺が覚えているのは、大まかな概要とピラミッド辺りまで進んだ時の出来事ぐらいだから。

 とは言え前述の結論は、俺の頼りになる相談役達──ナナシとレーメ、それにフィア──との話し合いを経て達したものなので、きっとそうなるんじゃないかと思っているのだが。。

 常に共に行動して居るナナシとレーメは言わずもがなだが、フィアにほぼ直接関わらない第三者的意見を聞けるのは大きい。

 中からでは嵌って解らない事でも、外から見たら簡単に抜け出せるってのは、案外多い事だったりする。なので、よほど時間が取れない時でなければ、一日の終わりに必ず箱舟に入って、彼女を交えての意見交換ってのが、俺達の今の日課だったりする。

 まあそれはともかく。

 

「で、だ……その敵の重要拠点と思わしきピラミッドがある方向は、あっちだそうでね」

 

 そう言いながら、一方向──方角にして北西の方を指す。

 

「で、その方角には……何があると思う?」

 

 このメンバーの中で、こんな言い方をすれば、何があるかなんてのは訊かなくても解るだろう。

 事実、二人の表情は険しく、まったくもって厄介だ、って顔になっている。

 

「……流石に解るか」

「はぁ……そりゃあね。……“剣”、だろ?」

 

 やれやれ、と肩をすくめながら言うのはユーラ。俺はそれに「正解」と返し、リーオライナへと向き直った。

 

「……で、一応念には念を入れてってとこなんだけど……よかったらリーオライナも来てもらえないかと思ってな。護衛対象も増えるし、戦える人手は多いほうがいいと思うしな」

 

 リーオライナはふむ、と唸ると、ユーラと視線を合わせる。

 

「アタシは構わないよ。アイツが来る可能性もあるってんだろ? ……でもいいのかい? アンタ、リーオライナの実力知らないだろ?」

「確かに知らないけど、大丈夫だろ。ミゥ達からある程度話は聴いてるし、今もこうして、ユーラが自分の護衛……ってか助っ人として連れてきてる。裏を返せば、護衛を出来るだけの実力があるってことだしな」

「……なるほどね。ま、それならアタシからは言う事はないさ」

 

 ユーラが肩をすくめながらそう言うと、リーオライナは静かに頷いた。

 

「……解った。では、よろしく頼む」

「ああ、こちらこそ。 ……あ、ところでこのお茶もらえる?」

「なんだ、買ってくのかい?」

 

 うん、と頷く俺に、苦笑しながらも商売人の顔になったユーラは、「まいどあり」と笑みを浮かべた。

 

 

……

………

 

 

 ユーラの店を後にしてから、町を一回りし、学園に戻ったところで、地上に降りていた学生達を引き連れたソルラスカと世刻に会った。

 実は昨日、ミニオンに襲われたとはいえ、地上に降りた学生は身体的にかなりリフレッシュできたようで、他にも降りてみたいと言う者達が多く居たのだ。

 そのため、町のあるこの大樹の側であれば比較的安全であろうと、ソルラスカを教官としたサバイバル実習が行われていた。実習は午前と午後の二回。今の時刻はもうじき昼である事から、彼らはそれの午前組みだ。

 学生達の顔は、どれも生き生きとした風に見えるのは、気のせいじゃないだろう。

 やはり長い間同じ所に閉じ込められているのは、相当のストレスになるんだなと思わせられる光景だ。

 

「世刻、ソル、地上はどうだった?」

「特に問題は無かったぜ。ミニオンも出なかったしな」

 

 そう言って笑うソルラスカ。ま、何も無かったのならなにより。

 その後、昼食を取りに行くという二人と別れた所で、妙なものを見つけた。男子生徒がずらっと並んでいるのである。

 

「考えるまでも無く予想は付きますが」

 

 と言うナナシの言葉に苦笑しつつ、その列をなぞるように進んでみると、辿り着いたのは『保健室』。

 入り口から様子を覗いてみると、中に居た白衣を羽織った人物と眼が合った。

 

「あら、祐君じゃない。はぁい」

 

 覗かなければよかった、と後悔する間もなく、周りの男子生徒からキツイ視線が突き刺さる。

 呼ぶな、手を振るな、ヤツィータ。

 

「はぁ……まったく、男と言うやつは」

 

 奇遇だなレーメ。俺もその意見には同意する。

 きっと一瞬で苦い顔になったのだろう、俺の表情を見たヤツィータが苦笑してる。

 ちなみに、ヤツィータとの自己紹介は今朝の内に済ませてある。

 その彼女は今目の前にいる男子生徒を診察し終わると、一緒に立ってドアから顔を出した。

 

「皆、そろそろお昼に行ってきなさい。と言うわけでぇ、急患以外は終了よ。また午後にねぇ?」

 

 その言葉に、並んでいた男子生徒達はがっくりと肩を落として散っていく。その光景が何とも言えなく……っていうかお前等、なぜ俺を睨む。俺は関係ないっつーの。

 生徒達を見送った後、「入りなさいな」と言うヤツィータの言葉に従って中に入る。

 実は彼女、様々な医療技術を収めて居る為、ここに居る間は不在だった保険医を買って出てくれたのだ。

 くれたのだが。

 

「何だって保健室に、あんな行列ができるんだよ……」

 

 つい漏れたそんな呟きを聴きとめたヤツィータは、「ああ、これよこれ」と言いつつ一枚の紙を俺に差し出す。

 ……ヤツィータスタンプカード。

 ああ、これか。保健室を利用するとポイントがもらえて、溜まったポイントに応じて膝枕やら何やら、“ご褒美”が貰えるという。

 ………………いやなんつーか。

 

「……俺が言うのもなんだが……男ってバカだな」

 

 俺の呟きに、三人はうんうんと頷いていた。

 

 

……

………

 

 

 そんなこんなで一日を過ごし、定時連絡でリーオライナの事を皆に伝えた後は、今夜は夜番の見回りは入っていないため箱舟に入る。

 ユーラの店で買って来たお茶を飲みながら、今日の事を話し終えたところ、フィアは「うーん」と唸って考え込んだ。

 

「どうした?」

「いえ、今の話を聞いて、ご主人様に必要なものは何かなぁ……と思いまして」

「ふむ……何か良い案はある?」

 

 そうだなぁと考えつつも、折角なのでフィアに訊いてみることにする。

 

「そうですね……やはり、火力でしょうか」

 

 ……火力が足りないと言われたようでちょっと凹む。……いや確かに、他の皆より実力は低いし、明確な『必殺技』と呼べるようなものは無いけれど……って、それってすなわち火力が無いってことだよな。

 なんてつい考え込んでしまったら、雰囲気を察してしまったのだろうか、「あ、違うんです」とフィアが慌てて首を横に振る。

 

「えっと、当日ご主人様達はピラミッド……ひいては“剣”の方へと向かう事になりそうな訳ですけど……それは確かに危険な事なんですけど……同時に、チャンスでもあると思うんです」

 

 そこまで言われて、ようやく彼女の言いたい事が解った。いやはや、俺も大概に察しが悪い。

 要するに先ほど自分で思ったことがそのものズバリだったわけだ。

 

「なるほど……『一撃』の重さか」

「はい。あの“剣”を打倒できる程の、高い火力。それが必要かな、と」

「んー……けど、それって結局、一朝一夕じゃどうにもならんよな?」

 

 俺がそう言ったところ、それまで俺達の話を聴くだけだったレーメがふふんと笑い、、

 

「ユウ、その為の箱舟と、吾等であろう?」

 

 む……なんとも頼もしい。……よし、じゃあやってみますか。

 レーメに「頼りにしてる」と言いつつ、箱舟の時間経過を、外部での1時間が内部での24時間へと設定し、箱舟時間で約二週間程を掛けて取り組んだ。

 結論から言えば、出来たと言えば出来たし、出来なかったと言えば出来なかった。……途中で気付いたんだが、“剣”の耐久度がどのぐらいかなんてのが解んないんだよな。実際。

 つまりは、“剣”をぶっ壊せるか解らんが、中々に高威力の攻撃は出来た、と言う事だ。

 

「難点は、撃つまでに時間が掛かりすぎることだよな」

「その辺は……皆に頑張ってもらうしかなかろう。あとはユウが魔法の扱いに熟達すれば問題は無い」

「……精進します」

 

 時間が来た。

 俺達はものべーを出たところでロドヴィゴさん達、町の代表者と合流し、地上に降りる。

 『原作』では着いて来たレチェレだが、今回俺達は別に精霊達と戦いに行くわけではないので、彼女は同行していない。……まぁ、それがいい。間違いなく安全な道中ではないからな。

 地上にて待つことしばし、ルプトナが現れる。町の皆はやはり若干警戒するが、それは仕方ないだろう。

 そして俺達は、彼女の案内で森の奥へ向かい、進み出した。


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