永久なるかな ─Towa Naru Kana─ 作:風鈴@夢幻の残響
町へ戻った俺達は、残っていた皆やロドヴィゴさんへと下界であった事を報告する。
案の定と言うか、ロドヴィゴさん達はやはり、開拓団を殺したのが精霊ではないと言う事を信じ切れていないようであったが、それでも向こうが話し合いに応じるのであれば……と了承してもらえた。
恐らくは、4日後の次の食料調達時に、何らかの接触があるだろう……ということで、その日までは俺達も好きに過ごすこととする。無論、町中とものべー内に限る、ではあるが。
また、まず安全ではあろうとは思うが、神剣組は町中巡回とものべー常駐のローテーションを組んだ。……とは言えまぁ、フリーの時間が増えた事は事実なわけで。この時間を利用して、俺はやはり『箱舟』を利用したり、皆から指導を受ける等をして鍛錬に励むこととする。……足引っ張るわけにはいかんしな。当然ながら、前述の巡回などもあるので篭りっぱなしと言う訳には行かないが。
ちなみに前回のご招待でお気に召したか、この4日間の間にクリストの皆や、永峰が『箱舟』に何度か来たりしていたりする。
……そんなこんなで4日が過ぎた。
この間、まず最初にカティマから剣術の基礎を、ミゥから棒術の基礎を学んだ。応用の技に関しては基礎さえ確りしていれば何とかなるので、今は考えない。
“この世界”に転生する際に得たスキルの中に、『見覚の習得』と言うものがある。『完全記憶能力』と『多才』のスキルとの相乗効果によって生まれたそのスキルは、見たり喰らったりした技何かを覚えるってものだ。
そんなわけで、今まで散々敵から放たれたものや、側で見ていた仲間のものなどの『技』の動きを覚えてはいるのだが、それらの『技』は基礎の上に成り立っているものなので、前述の通りまずは基礎をしっかりと、と言うわけなのである。
尤も、こればかりは反復練習の継続あるのみなので、日課にしてじっくりやるしかないのだが。
魔法に関しては、幾つかの新しいものと、あとはひたすらに数を撃っての練習及びスピードアップ。こちらもやはりコツコツこなして行くしかない。
その後はクリストの皆や、他の仲間たちからも、武器の扱い方や体術などの講釈を受けた。
世刻や永峰なんかは、神剣や前世の記憶からの情報のフィードバックで体が自然と動くとのことなんだが、俺はその辺は全く無いので、実際に見て、動いて、体で覚えていくしかないのだ。……ま、フィアから授かった『多才』スキルや『完全記憶』のお陰で、身につける速度は他の人より早いみたいなので助かっているが。
…
……
………
「皆さん、揃いましたかな? ……では行きましょうか」
ロドヴィゴさんの言葉を合図に、町の青年団と学園からの有志、そして俺達が地上へと降りる。
女性陣は主に食料の採取、男性陣は燃料や石材、木材などの材料の採取に別れる。その為、念のため斑鳩達の方へはナナシに付いてもらっており、何か有ったら念話ですぐに知らせるように言ってある。
「この辺の木を切り倒せばいいんだよな?」
そんなソルラスカの声が聴こえ、そちらの方を見ると、ソルラスカがその爪型永遠神剣でもって、次々と木を切り倒していた。爪で切り倒すとかどうやってんだと思わなくも無いが、技でも使っているのだろう。
一方で世刻は、石材の採集のために、『黎明』でもって岩を砕く……というより斬っていた。何故その役割になったのかが不思議でならん。交代しろよ。
「止めぬかばかものー! 刃毀れしたらどうする!?」
「こんなんで刃毀れするぐらいなら、もうとっくに折れてるだろ」
そんな世刻と彼のレーメのやり取りをバックミュージックに採取作業を続けていた時だった。
<……北西及び東にミニオンだ。気をつけよ>
念のために、と周囲に散布していた『観望』からの警告の声。
「世刻! ソル! 北西と東に敵だ! ロドヴィゴさん、町の方角には敵が見受けられませんので、非戦闘員をすぐに集めて、慌てず速やかに退避を!」
事前に『観望』を撒いておくことは伝えておいたので、世刻とソルラスカはすぐに武器を構え、ロドヴィゴさんも俺の忠告通りに行動してくれる。
学生や青年団の人達も、早めに敵の発見、忠告が出来たからか、パニックになることも無く速やかに避難してくれている。ありがたいことだ。
「ノーマ、来い。……非戦闘員のガードを」
ノーマを呼び出しそう命令すると、ノーマは一度喉を鳴らしてから退避する人たちの方へと向かって行った。
それを見送り、こちらの状況を伝えるためにナナシに念話を送る。
(ナナシ、こちらにミニオンが現れた。そっちにも出る可能性が高いから、斑鳩達へ伝えておいてくれ)
(はい。──っ! どうやら同時に仕掛けてきた様です。今しがたルプトナが現れ、囲まれているとこちらに忠告を)
(そうか……気をつけろよ?)
(イエス、マスター。……マスターもお気をつけて)
ナナシとの念話を終え、世刻とソルラスカに向こうにも敵と、ルプトナが現れた事を伝える。
その間に大分敵が接近してきたようで、周囲から神剣の気配を感じ取れた。
俺も『観望』を剣状にして出して構えつつ、オーブメントを起動させた。
「『セイント』!」
レーメと共に攻守を上昇させるアーツを全員に掛け、迎撃の態勢を整えたところで、いよいよミニオン達がその姿を現した。
「いっくぜえええ!!!」
ソルラスカの雄叫びを合図に、三方に分かれて敵に向かって駆け出す俺達。
──まずは先制!
「イン・フェル レイ・ウィル インフィニティ……来たれ氷精、闇の精! 闇を従え、吹雪け、常夜の氷雪! ……闇の吹雪!!」
呪文を唱えながら肉薄し、ミニオンの眼前で解き放つと共に派生した、氷を伴った闇の奔流は、直線状に居た五人程のミニオンを巻き込んで吹き飛ばす。
その直後、襲いかかってきた青ミニオンの斬撃を斜めに剣を立てて受け流し、空いた胴を斬り払う。
次いでそのまま振り上げた『観望』を
その直後、視界に写る大気が赤色のマナに染まっていくのが『視え』た。
「──っ! ユウ!」
「解ってる!」
レーメの忠告の声に、『観望』を盾に変化させて身体を隠すように構え、思い切りマナを流し込んで、強固な
盾となった『観望』を中心に広がったオーラフォトンバリア。
直後訪れる、爆音を伴った衝撃に、盾の向こうが紅蓮に染まった。
一斉に放たれたファイアボルトだろう、雨の如く降り注ぐ炎弾。それを受け止める力場が紫電を発し軋みを上げる。
「レーメ!」
「解っておる! 『グランストリーム』!!」
オーブメントが激しく駆動し、導力を用いてその効果を世界に現す。
先程とは逆のやり取りの末に放たれたレーメのアーツ、特大範囲の風属性攻撃アーツ『グランストリーム』は、瞬時に俺を中心に巨大な大気の奔流を発生させ、絶え間なく降り注ぐ神剣魔法を吹き飛ばし、更に周囲のミニオン達を切り刻む。
アーツの風が止むのと同時に、俺は姿勢を低くして前方へと駆け出した。直後、頭上を通り過ぎた『ファイアーボール』と思わしき炎弾が後ろに炸裂する音がしたが、無視して駆け抜ける。
「はあああ!!」
長刀状に変化させた『観望』による、薙ぎ払い二連。次いで振り上げ、巨大なハンマーに変化させながら振り下ろす!
ドゴンッという大地を震わせる音と共に、三人のミニオンを弾き飛ばし、次いで、攻撃の直後を狙ってきた赤ミニオンの攻撃を、左腕を覆うような手甲型の
受け止めたはいいんだが、武器に炎を纏わせた攻撃だったために、熱くて痛え。
「『ゲイルランサー』!!」
そのまま押し合いになりそうになった所で、レーメのアーツによって生まれた指向性を持った激風が、俺に攻撃を仕掛けてきていた赤ミニオンと、その背後から来ていた黒ミニオンを吹き飛ばした。
その間に俺はマナを練り込み『魔力』へと変質させ、
「魔法の射手!! 連弾・光の7矢!!」
吹き飛ばした二人のミニオンへ、7本中6本の魔法の矢を叩き込む。
残りの1本は横合いから迫ってきていた白ミニオンに対して撃ち込み、ミニオンがオーラシールドでそれを防いでいるうちに、『観望』を大剣へと変化させて振りかぶる。
「……くらえ、ルゥ直伝、七ツ胴!!」
斬撃を連続で叩き込んだところで、動きを止めた。
見回せば、とりあえず俺の周囲にいたミニオンは、今のが最後だったようだ。
一度息を吐き、今の戦闘で負った傷をアーツで癒してから軽く深呼吸して、気持ちを落ち着けると、レーメと頷きあい、世刻達の方へ向かうことにした。
「……よし、世刻達の援護に行くぞ」
「うむ」
…
……
………
先に世刻に加勢し戦い始めたところで、ナナシから向こうでの戦闘が終了したので、こちらに合流するとの念話が入った。
ああ、今回地上に降りているのは九人。その上で男性陣と女性陣に分かれているので、向こうの方が神剣使いの人数が多いのだ。
その後に合流、こちらのミニオンも殲滅する事に成功した。
「マスター! ご無事でしたか?」
合流後、飛びついてきたナナシを受け止めてやり、頭を撫でる。
うん、いい手触り。
「ああ。ナナシも無事でなにより。……あれ、そういえばルプトナは?」
合流した中に、ルプトナの姿が見えなかったので訊いてみると、どうやら向こうの敵を殲滅したあたりで別れたらしい。
彼女によると、精霊の長老は会談を承諾。だが向こうからは自由に動けないために、彼らの住む場所へ来て欲しいとのこと。時間は3日後。ルプトナを町の近くへ寄越すので、彼女に案内してもらうようにとのことだ。
俺達は一度町に戻り、ロドヴィゴさんへと報告。彼もそれを承諾し、3日後再び俺達を護衛に雇う事になった。
その後、再び有志を募り、今回逃げるときに放って行った物資を回収し、今日の調達は終了する。
町に戻った後、今回の慰労を兼ねて、レチェレの酒場で打ち上げをする事にしたのだが……。
「いやぁ~無事に会えて良かったわぁ」
そう言って朗らかに笑う、赤髪をショートボブにした女性。肩から胸元までを露出した服から見える谷間と、深いスリットの入った深緑のスカートから覗く足が、何とも眼の保養になって素晴らしい。斑鳩とタリア、ソルラスカの所属する『旅団』のナンバー2、副団長のヤツィータだ。
俺と同じテーブルについて料理をつついていた、タリア、ソルラスカと会話するヤツィータを観察していると、不意に彼女と眼があった。
「ところで君……」
ヤツィータはにんまりと笑いながら語りかけてくる。
「さっきから見てるけど……気になる?」
そう言ってきゅっと胸元を強調するように寄せながら、見せ付ける様に身体を傾けるヤツィータ。
うんとても。
そう言いながら、見せてくれるなら有り難く、と確りと見させて頂いたところ、正直ねぇと若干呆れながら姿勢を戻された。
……ちっ。
「そういえば、君が望君?」
「うんにゃ、世刻はあっち」
そう言って、永峰と斑鳩と話していた世刻の方を指してやると、ヤツィータは「ちょっと行ってくるわね~」と言いつつ、向かって行った。
その時点で、あれ、そういや俺まだ自己紹介してねえやって気付いて……まあいいか。とりあえず目の前の料理に集中しよう。腹が減っては戦はできないのだ。
……3日後は恐らく、今日以上のミニオンに襲われるだろう。と言うのも……今日のミニオンの襲撃が、まるでルプトナと俺達が接触するのを阻止するかのようなタイミングだったからだ。
杞憂に終わればいいんだけど……そうもいかないだろうと予想している。
そんな事を考えながら、ふと気がつくと、タリアとソルラスカの姿は無く、隣にはいつのまにかルゥが居た。
他の皆は? と訊くと、もう戻ったとのこと。
クリスト達は俺達に比べて食べる量は少ないようなんだが、反面ルゥは見た目に似合わずというか、良く食べる。……とはいえそれで普通の人と同じぐらいなんだけど。
何でも彼女は食べるのが好きなんだとか。まぁ、確かに美味いものを食べるのは、人生の楽しみのひとつだよな。
「ああそうだ、ルゥ、プリン食べる?」
「む、プディングか。とろける様な舌触りに至福の甘味はまさにデザートの王様、あのプディングか……うむ、是非いただこう」
さっき隣のテーブルで食べていたのが美味そうだったので頼んだ物なんだが、欲張って頼みすぎてしまったのである。……ごめんなさい。
ニッコニッコしながら受け取り、頬張るルゥは、見ているだけで幸せになれそうだ。可愛い。
他のテーブルでは、皆が思い思いにくつろいでいるのが見て取れる。
そんな皆の様子を眺めていると、俺達なら何が起こっても乗り越えられるって気になってくるから不思議なものだ。
……まあ、今はしっかりと英気を養おうじゃないか。