永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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24.出会い、再会。

 ものべーで北東に進む事しばし。見えてきた巨大なという言葉すら霞む程の大木に、皆は言葉を失っている。

 それは俺も同じことで、実際に見てみるとこれは凄いと感嘆の息が漏れる。……普通であれば、「枝の上に町がある」なんて言われたら鼻で笑ってしまいそうなものなのだが、これほどの巨木であれば、決して可笑しくはないと納得してしまうほどのものだ。

 まあこれだけ離れても今だなお見える、あの大剣も大概凄いけどな。

 大木にある街には、幾つもの空飛ぶ船が停泊している港の様なものがあり、ものべーもまたそこに停泊するために寄港した。

 ……次に上がるのは、果たしてまず誰があそこに行くのか、と言う事だ。

 

「さて……問題は誰があそこにいくかね。流石に町の中で戦いなんて起きないでしょうけど……」

「とは言うけどよ。念のため神剣保持者だけで行った方がいいんじゃねーか? 実際に行って、何かあってからじゃ遅いんだし」

 

 斑鳩の呟きに答えたソルラスカの言葉に、斑鳩はふむっと考え込む。

 現在俺達が置かれている状況と、生徒達の様子でも思い浮かべているのだろうか。少しの間そうしていたあと、「うん」と一つ頷いた。

 

「……そうね、今回はソルの意見を採用しましょうか」

 

 そう言って、「皆もそれで良い?」と、ぐるっと皆の顔を見回す斑鳩。

 俺も異存は無いので「もちろん」と頷いておく。

 そんな中、永峰が「あの」と小さく手を上げる。

 

「……一応、理由を聞いてもいいですか? 学園の皆も町に着いたなら、外に出たいと思うんですけど……」

 

 まあそう思う気持ちは解るけどな。

 永峰の問いに、斑鳩は「そうね……」と前置きしてから、

 

「前回……『剣の世界』で私たちが、始めての村でも生徒達を連れて行けたのって、カティマさんが居てくれたからなのよね。だから抵抗もなく集団で村に入れた。けど、今回はそういったツテが何も無いわ。

 それに……ほら、ここの停泊所の様子を見てみて。色んな世界の人たちがこの町には来ているみたいでしょ? そうなると町の中で戦いなんて起きないだろうとは言っても、絶対とは言えない。もし問題が起きた場合、武器を持っていないと困る事があるかもしれないから」

 

 斑鳩が一頻り説明をすると、永峰は納得したのか「わかりました」とコクコクと頷いて返事をする。

 そんな永峰に「ちなみに、学園の皆には私から言っておくわ」と続けた斑鳩は、そこで一度言葉を切ると、改めて先ほどの案件に話を戻す。

 

「……さて、それじゃあ誰が行くか、何だけど……えーと、じゃあ望君、望君とあと二人程選んでくれる?」

「はあ……ってええ!? 先輩、俺が行くのは決定なんですか?」

「そうよー。あ、青道君は除外してね? 彼は彼で行ってもらうから。……ってわけで青道君、クリストの誰を連れて行くか、決めてね?」

「は?」

 

 タリアやソルラスカにとってどうかは解らないけど、斑鳩や永峰、カティマにとって世刻がこのメンバーの中心に居るって言うのは解るから、彼が行くのは解るんだが……ここで名指しで俺に来るとは意外だった。

 思わず抜けた声を出してしまったが、とりあえず「了解」と返しておく。連れて行くのがクリストの誰かってことは、恐らくは俺には“剣”の方を中心に調べろって事なんだろう。

 

「ちょっと斑鳩、彼は彼でって大丈夫なの? 何を調べればいいのかとか……」

 

 タリアにそう言われた斑鳩がこちらに視線を向けてきた。

 俺はそれにやれやれ、と溜め息を吐きつつ、今しがた思ったことを述べて説明する。

 

「……クリストの誰かと一緒にって事は、俺には“剣”について調べろって事なんだろ? アレについて一番知っているのは彼女達だしな。……ってことは世刻達はこの世界の現状について調べてもらうって事か? ……まあ恐らくどちらも切り離せるもんじゃないだろうから、結局は同じかも知れないけどな。別方向からのアプローチで、多角的に判断したいとか、そんな感じか?」

 

 こんな感じだろうか、と思った事を言ってみると、斑鳩はうんうんと頷いている。

 どうやら彼女のご期待には応えられたようである。

 

「……大丈夫そうね」

 

 そりゃどうも、とタリアに返して、クリストの皆を見ると、皆期待に満ちた目で見てくれている。

 ……いやまあ皆行きたいってのは解るけどな。彼女達にとっては、結晶体の外に出てクリスト部屋以外の場所に行くことなんて、絶対に無理……とは行かなくとも難しいことだったんだろうし。

 とは言え、余り大人数になるわけにも行かないし、連れて行くのは多くて二人ぐらいかなぁ。世刻の方も、世刻以外に二人って言っていたし、人数は合わせた方がいいだろう。

 となると、まとめ役としてミゥかルゥのどちらかは必須だと思うが……そうだな。

 

「……じゃあ、念のため戦闘になった時のことを考えて、ルゥとポゥ、来てくれるか?」

「うむ、承知した」

「はい、解りました!」

 

 無いとは思うけど、と続けた俺に対して「そう言うことなら」と納得してくれたクリストの皆。……ワゥが若干不満そうだが、我慢してもらおう。

 世刻達の方は……まだ若干もめてるな。具体的に言えば斑鳩と永峰。

 どうやら斑鳩が行く事は決定した様だが、永峰も行きたいと言っているようだ。まぁ、非常時にものべーを動かせるのは永峰だけだから、無理だろうけど……ってやっぱり無理だった。もう一人はソルラスカになったようだ。

 

「絶対、ぜーったい、終わったらす・ぐ・に帰って来るんだよ!?」

 

 やはり斑鳩が一緒に行って自分が行けないって言うのが不満なのか、世刻に詰め寄る永峰。

 「大変だな、世刻」と声を掛けると「助けてください」と返って来た。ごめん、無理。

 

 

……

………

 

 

「それじゃ、私たちは酒場へ行って来るわ」

「ああ。俺達は町を一回りしたらそっちへ行くよ」

 

 ものベーを降り、そんなやり取りの後に斑鳩達と別れ、俺とルゥ、ポゥの三人はこの樹上の町の中へと歩き出した。

 酒場で情報収集、と言う言葉が出た時に、世刻が「ゲームじゃあるまいし」と言っていたが、酒場に情報が集まるのは事実であるそうで。

 まあ、旅人にしろ町人にしろ、人が集まる場所である以上、情報も集まると言う事なんだろう。とはいえ、酒場以外でも話を聞くことは出来る、と言うことで、斑鳩達が酒場に行くなら俺達は町中を巡ってみようかという事になった。

 ましてや、俺達が聞きだしたいのは、あの大地に突き立つ“剣”の事。である以上、流れの旅人よりも、この町に長く住んでいる人から話を聴けた方がいいわけで。

 それに、まず何も起こらないだろうとは思うが、もしもの時に町の構造を把握してあるかどうかってのは重要だしな。……とまあそんなわけで、広場に居る人や店の店員さん何かに色々聴いてみましょうか、と言う事になったわけなのだが……。

 その予想外の、俺にとっての出会いと、ルゥとポゥにとっての再会は、斑鳩達と別れてから向かった広場であった。

 

「さて、それじゃあ──」

 

 この辺から聴き込みしようか。俺の前に立つルゥとポゥへそう続けようとした時だった。

 

「……あんたたち、もしかしてルゥとポゥかい!?」

 

 そんな声が背後から聞こえたのは。

 呼ばれたルゥとポゥは、まさか、と言う顔で俺の背後に居るであろう人物を見ている。

 何だろうと思いつつ後ろを向くと、そこには長い薄紅色の髪を流した、露出の多い服のお姉さんが一人。胸元は両胸をそれぞれ1本ずつの布で覆い、それを首元で止めているだけ。下は前垂れと、後ろ半分を覆う腰布のみで、あとはゆったりとした袖を身につけているのみである。……初対面でジロジロ見るのは失礼だと思っていつつもついつい目が行くのは、男の性というものか。

 そして、その姉さんの後ろには、赤と黒を基調にした戦装束に白銀の腕甲、赤色の瞳に似た文様の描かれたヘルム──覆っている範囲的に、額当て、と言ったほうが近いかもしれないが──を身につけた、暗赤色の髪の少女が控えていた。

 

「ユーラさん! リーオライナさん!」

 

 その二人の姿を認めたポゥが駆け寄り、ルゥがそれに続く。

 結晶体ではなく、生身の二人を見て声を掛けた……ってことは、『煌玉の世界』の頃の知り合いか。

 眼が合った赤髪の二人へ軽く頭を下げ、俺も彼女等の方へと向かう。

 

「二人は、ルゥとポゥのお知り合いで?」

「ああ、そうさ。坊やは?」

 

 坊や扱いについ苦笑が漏れたところで、二人の視線が若干ずれてる事に気付く。……ああ、肩の上か。

 

「青道祐。彼女達の仲間、ですよ。で、この二人が」

「……ナナシです。」

「……レーメだ」

 

 ペコリと軽く頭を下げるナナシとレーメに、物珍しげな視線を向けるお姉さん。

 

「神獣……では無いようだし、珍しいね。ああ、アタシはユーラ。古物商さ」

「……リーオライナだ」

 

 自己紹介も終え、立ち話もなんだしどうしたものか……と思った所で、

 

「これから店に戻るところだったんだ。積もる話も有る事だし……来るかい? 茶ぐらい出すよ?」

 

 そんな絶妙なお誘いに、俺達は顔を見合わせ、頷くのだった。

 

 

……

………

 

 

「次元鯨で漂流……ねぇ。中々面白い事態になってるじゃないかい」

 

 そう言ってくっくっくと笑うユーラ。

 

「いやいや、漂流してる身としては笑い事じゃないんだけど」

 

 そう言うと、「違いない」と言いつつまた笑うユーラ。まったく。

 口調が砕けているのは、彼女の店──彼女の住居兼店舗を搭載した、次元航行船だった──に着いてしばし、「そんな堅苦しくなくていいよ」と言ってくれたからだ。

 今は俺達がこの世界に来た理由をざっと説明し終えた所で、ルゥ達が生身で活動している事に驚ろいていた。リーオライナも普通に活動しているようだけど、と訊いたところ、どうやら彼女は元々『煌玉の世界』の出身ではないらしく、平気らしい。

 

「じゃあ、アンタ等がこの世界に着いたのは、全くの偶然なんだね。……アタシはてっきり、あの“剣”が有るからかと思ったよ」

「ではユーラは?」

「ああ、商人仲間から、馬鹿でかい剣が突き刺さった世界が有るって聞いてね。様子を見に来てみたら“あの世界”と同じ様な剣が本当に刺さってるじゃないか。

 で、しばらく様子をみようと留まっていたら、今日アンタ等に会ったってとこかね」

 

 ……ふむ。と言う事は、彼女はアレについて情報を集めてたりするんだろうか?

 そう思い、彼女から情報を得ることが出来ないかと、チラリとルゥの顔を伺うと、彼女はこくりと頷いて、ユーラへ視線を戻す。

 

「……では、ユーラはあの“剣”についての情報を集めているのか? ……だとしたら、良ければ私達にも教えてもらえないだろうか」

 

 俺の言いたいことを確りと理解してくれたルゥがそうユーラへと問いかけると、彼女はふむ、と頷き、その視線をルゥから俺の方へと向ける。

 

「……アンタ達はどこまで知っているんだい?」

「『煌玉の世界』での事なら、大まかな流れを。敵に関してなら、どんな相手かは聞いています」

「具体的に言うならば、スールードの容姿、性格、考え方などだな」

 

 ユーラの問いにナナシが答え、レーメが言葉を続けたのを受けて、ユーラは「ならいいか」と頷いた。

 

「……とは言ってもアタシ達もそう突っ込んだところまでは判らないよ」

 

 ユーラはそう前置きすると、あの“剣”について解っている事を話てくれた。

 それによると、あの剣がこの世界に突き立ったのは、今から約三年前。『煌玉の世界』に現れた様な『悪魔』の姿は見られず、代わりに見えるのは、感情を持たず、言葉も通じない人形の様な人間──この世界の人間は、ヒトモドキ、と呼んでいるようだ──だった。ヒトモドキはその前──約十年ほど前──からもたまに散見されていたが、あの“剣”が現れてからは、その頻度が増しているらしい。そして今現在、スールードらしき人物の姿を見たものは居ない。……と言った所の様だ。

 彼女の話を聴き終え、その話と『剣の世界』での状況、そして自身の知識を照らし合わせ──思わず頭を抱えた。

 ……考えれば考える程に、最悪の答えしか見つからない。

 

「む……どうした。大丈夫か?」

 

 そう声を掛けてくれたリーオライナへ頷いて返し、彼女達へ解っている事と、俺の考えを説明する。

 俺達の敵に『光をもたらす者』と言う組織があること。そこの連中は、ミニオンと言う、下位神剣を持つマナ存在を兵士として使うこと。ミニオンは──創りだす者にも拠るだろうが──基本的に感情は薄く、命令を忠実にこなす人形の様な存在であること。

 そこまで言ったところで、彼女達も俺の言いたい事を解ってくれたのだろう、何とも言えない表情をしている。

 

「ユーラのくれた情報から察するに、『光をもたらす者』は約十年前からこの世界で活動を始め、三年前、“剣”の登場と供に活発化しだした。……考えられる可能性は二つ。一つは、スールードと『光をもたらす者』が敵対関係にあり、スールードと戦うために、ミニオンを量産している。もう一つは……」

「スールードと『光をもたらす者』が協力関係にあり、“剣”の何がしかの能力を使って、ミニオンを量産している、か……。アンタの考えではどっちだと思う?」

「後者」

 

 間髪入れずに答える。っていうかそれしか思い浮かばねえ。

 

「あの……作戦行動中に突如乱入された、と考えると、前者の方が可能性があるのでは……?」

 

 おずおずとそう言ってきたのはポゥ。なるほど、そう言う考えもあったか。……でもなぁ……。

 

「そうだな……旅団に属していたルゥとポゥは知っているだろうけど、『光をもたらす者』の目的って、言うなれば時間樹の剪定なんだよ。弱小分枝世界を滅ぼして、その分のマナを他の世界に回すっていう、な」

 

 そう説明すると、ルゥとポゥはコクリと頷き、ユーラとリーオライナはなるほど、と頷く。

 実際のところは、そこにエヴォリアの思惑やその背後──“亡霊共”の思惑なんかも絡んでくるから、一概に弱小分子世界を滅ぼす、とも言えないんだけど。

 もしそうじゃなければ、『剣の世界』を狙った事が不自然になる。あそこは明らかに滅ぼす──剪定する対象にするほどに疲弊した世界じゃないしな。

 

「対して、ルゥ達に聴いたスールードの行動は、世界からマナを搾取すること。けど、マナを搾り取られた世界の行く末は、結果として滅びるしかない。……要するに、過程と目的は違えど、こと“世界を滅ぼす”と言う点においては、両者の行動は一致してるんだよ」

「……成程。であるならば、無駄に争うよりは協力した方が良い、と言う事か」

 

 そう続けたリーオライナへ「そう言う事」と返し、ガシガシと頭をかいて、大きくため息が出た。

 

「確かに、ポゥの言う可能性もある。けど俺としては最悪な方を想定しておきたいのさ。……取り越し苦労になれば一番なんだけどな」

 

 そう言うと、皆も俺の言葉に納得してくれたようで、成程、と頷いてくれた。

 ……ああ待てよ、確かこの世界では、『光をもたらす者』は精霊回廊を占拠して、そこをミニオン生成プラントにしていたはず。……ってことは“剣”には別の目的がある?……考えられるとするなら、『煌玉の世界』にしたような、呪いの媒介、永遠神剣の本能とも言うべき、マナの収集ぐらいか?

 …………はぁ、考えたところで具体的なもんは解らない、か。

 

「……礼を言うよ、ユーラ、リーオライナ。とりあえず仲間と合流して、情報交換と今後の対策を考えてみるさ」

「そうかい? ……まぁ、何か有ったら相談しなよ。出来る限りは力になるさ」

「ああ。どちらにしろこの世界にはしばらく居る事になるだろうから、今度はミゥ達も連れて顔を出すよ」

 

 そろそろ斑鳩達とも合流すべきだろうと言うことで、俺達はユーラの店を後にし、酒場へと足を向けた。


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