永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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20.神剣と、神獣。

 首都グルン・ドレアスの戦いから三日程経った。

 ダラバが倒れ、エヴォリアも去った為に、既にこの世界から鉾の姿は無く、グルン・ドラス軍の残党にさえ気をつければ、もう学園の皆は安全と考えていいだろう。

 それを実感してか、それとも“この世界から出られる”と言う事実があるからか、学園の皆の表情も明るい。

 昨日はカティマの正式な戴冠式が行われ、彼女は晴れて『新生アイギア王国』の女王となった。

 ようやく訪れた平和。取り戻した平穏。そんな喜びに満ちる世界の中、俺は皆を生徒会室に集めていた。勿論、神剣の事を説明するためだ。

 俺の前には斑鳩。その横にタリアとソルラスカ。俺の左右に世刻と永峰。俺の後ろにクリストの皆。もちろんナナシとレーメは肩の上。ああ、世刻のレーメは世刻の前、机の上に座っている。ついでに森とカメラを構える阿川ってなぜお前等が居る。……まあいいや。さすがにここまで揃うと生徒会室も手狭に感じるなぁ。ちなみに当然ながらカティマは居ない。色々忙しいんだよ、彼女。女王様だしね。

 

「さて……」

 

 誰も喋らない沈黙を破り、斑鳩が口を開いた。

 

「青道君。そろそろ説明してくれるかしら?」

 

 ピリッとした空気。すこし固い雰囲気。……やはり未知の永遠神剣には警戒するものなんだろうか。

 俺はそんな斑鳩をじっと見つめながら言う。

 

「……説明、と言うと……エヴォリアを剥いた事についてか?」

「違うわよ!! その時に持ってた杖みたいな永遠神剣についてに決まってるでしょうが!! 第一その為に集めたんでしょ!?」

「解ってるよ。冗談だ」

 

 いいツッコミだったぞと続けてやると、がっくりと疲れた顔でため息を吐かれた。やれやれ。

 隣から「あはは……」と永峰の苦笑が聞こえ、何となく固かった雰囲気が若干緩んだように感じ、とりあえず、あの時と同じ様な状態──質素な杖の形状──で、『観望』を出す。

 

「これだろ?」

 

 周囲の皆の、息を呑む音が聞こえた。

 

「……間違いなく神剣反応、ね」

 

 ぽつりとタリアの呟いた声が響き、全員の視線が俺の手の中の『観望』に集中しているのが感じられる。

 そんな彼等の顔をぐるりと見渡して、「さて、質問は?」と問うと、やはり最初に訊いてくるのは斑鳩か。

 

「まあ違うだろうけど……今まで、神剣使いだって隠してたの?」

「いいや。今まで隠していて今頃明かすぐらいなら、もっと事前に──それこそアズラサーセの時に神剣使うし、あの時隠していたなら今も隠し通そうとしてるさ」

 

 斑鳩の問いにそう答えると、今度は俺の右隣に居る永峰が「はいっ」と手を上げた。

 

「じゃあ、実はやっぱり先輩も前世が神様で、私たちと同じ様に突然目覚めたとか?」

 

 俺はそれにも、かぶりを振って否定で答える。

 

「いいや。俺は神の転生体じゃないのは確かだよ。まぁ、突然使える様になったってのは同じだけどな。……どうやら、“俺の中のナニカ”が、こいつが“捜していたナニカ”と合致したらしくてな。良く言えば、永遠神剣に選ばれた、だな」

 

 そんな俺の言に、タリアが「そんなことって……」と言うのが聴こえた。

 この時間樹で生まれた神剣使いは、イコール神の転生体だってサレスに教えられてるんだろうから無理もないとは思うが、まあ、何にだって“例外”は存在するってことだ。時間樹外の神剣である『求め』等と契約した、高峰悠人達しかり、な。

 

「そんなこともあるのさ。……で、こいつを使える様になった経緯だが──タリアとソルラスカは居なかったけど、俺がアズラサーセ防衛戦の後、数日寝込んでいた事があったろ? あの時、夢の中でこいつが接触してきたのが最初だ」

 

 あの時は永遠神剣だって確信していたわけじゃないけどな。恐らくそうだろうとは思っていたが。

 ……って言うか、この『神剣宇宙』において普通じゃ説明のつかないような事は大概永遠神剣の仕業だろうし。

 

「で、グルン・ドレアス突入後の、皆と別れて城下の索敵をしているときに鉾の奇襲を受けてな。その時にこいつが語り掛けて来たんだよ。『力が欲しければ、我が呼びかけに応えよ──』ってな」

「へぇ……あれ、けど、何でわざわざグルン・ドレアスに入るまで言ってこなかったんだ? その前にも鉾とは戦闘してたのに……」

 

 俺の言葉に感心したような声を漏らした後、ぽつりと続けられた世刻の疑問に答えたのは、俺の後ろに居たルゥだった。

 

「……グルン・ドレアスにおいて奇襲を受けたのは、祐と供に行動していた私だったのだ。それによって私とゼゥが危機に陥った時、祐が『観望』の力をもって助けてくれた」

「……じゃあ、青道君は二人を助けるために、神剣と契約したんだ? ……ありがとう」

「鉾の接近に気付かなかったのは俺もなんだし、気にするな。それに、二人を助けるために出来る事をしただけだし、こいつを手にしたこと自体、後悔なんてしてないさ」

 

 礼と共に頭を下げる斑鳩に、気にするなと声を返すと、しばし考えた末に「わかったわ」と一言。

 まぁ、俺としても別に礼を言われたくて助けたわけじゃないし、斑鳩が気にする必要も無いってのは本当のところだしな。

 

「……ところで、その永遠神剣の能力は? 杖型ってことは特殊攻撃系なんでしょうけど」

「いや、どちらかと言うと、直接攻撃型の神剣だよ」

 

 話題を変えるように、一度コホンと咳払いをしてから訊いてきた斑鳩へ、首を横に振って否定すると、「どういうことだ?」とソルラスカが疑問を上げる。

 それに対して、実際に見たほうが早いと告げてから、俺は『観望』を剣の形へと変化させた。

 

「改めて紹介しよう。……永遠神剣第五位『観望』。群体を持って一つの個を成す、ナノマシン型の永遠神剣さ」

 

 剣から短剣へ、短剣から盾へ、盾から篭手へ、篭手から再び剣へ。

 そうして何度か『観望』の形を変えながら説明し、最後に粒子状に霧散させて消したところで、世刻とソルラスカ、そして見学者の森から「おお」と歓声が上がる。

 ……やはり『観望』の仕様は、男連中の琴線に触れるものだったらしい。気持ちは解る。良く解る。

 

「それじゃあ、先輩の神獣ってどんなのなんですか?」

 

 そのときそんな永峰の言葉が。

 そこでふと疑問に思う。……神獣って居るのか?

 神獣は言うなれば、“神剣の意思”が顕現したもの。その姿は担い手の潜在意識による……と言うのは解るんだが、『観望』の意思は既に神剣の状態で有している。現状でこいつとやり取り出来る時点でそれは明白なわけで。

 その状態で神獣って出せるんだろうか?いや、『悠久』や『叢雲』は意思と神獣が共存?しているだろうから出来るのか?

 何てことを考えていたら、

 

<……第三位以上の上位神剣であればそれも可能であろうが……我程度であれば、本能のみの神獣が出る可能性もある。試すのであれば気をつけよ>

 

 『観望』からそんな忠告を頂いた。

 それを皆に伝えたところ──剣の状態の時点で、神剣とやり取り出来ることにも驚かれたが──とりあえず広いところで実際に出してみよう、と相成りました。

 

 

……

………

 

 

 広いところ、と言う事で校庭に移動し、皆が見守る中、神獣が出る様に集中してみた。

 ゴクリ、と誰かが──あるいは俺か──息を呑む音が聞こえたような気がした、次の瞬間、俺の前の地面にマナが集まり、光を発する。

 そしてその光が晴れた、そこに居たのは──。

 

「へぇ……」

「……わぁ……」

 

 後ろから感嘆の声が上がる。

 そこに居たのは、暗褐色の斑紋をあしらった灰色の体毛を持つ、その太く長い尻尾を含めれば2メートル程になるだろう体長の、一頭の雪豹。特徴的なのは、その尾が二股に分かれている事だろうか。

 雪豹は正面に立つ俺の姿を認めたか、静かに近づいて喉を鳴らす。意を決してそっと撫でてみれば、眼を細めて額をこすり合わせて来る。……どうやら、理性なく襲い掛かってくる獣、と言うわけでは無い様で何よりっていうか何こいつ可愛い。

 

「……『観望』、お前の意識はいまどこにある?」

<……我が意思は変わらず我が内に有り。……ふむ、どうやら我の意思と神獣との共存は出来たようだな。いや、その神獣もまた我であるのは変わりないのだが。……面白いものだ>

 

 ふと気になった事を訪ねて見れば、そんな答えが返ってきた。要するに、こいつにもその辺の仕組みはよく解らんってことか。

 雪豹の頭を撫でながらそんな風に考えていると、ふと物欲しそうな顔の永峰と眼が合った。

 

「……あー…………触ってみるか?」

「はいっ!」

「私も私も!」

 

 即答かよ。そして阿川、お前もか。

 けど、流石に見た目が大型肉食獣だからか、若干恐る恐る手を伸ばす二人。だが、その手が触れたとき、雪豹は自らそれに頭をこすり付けた。

 その様子にほっとする二人、と、俺。流石に俺には大丈夫でも他人にも大人しいとは限らんし。とりあえずいつでも動けるように力を入れていた身体からその力を抜いて、二人の様子を改めて見ると、

 

「わぁ……ふかふか……」

 

 思い切り和んでた。……いやいいんだけどさ。周りの皆もその様子を生暖かく見守ってるし。

 それにしてもあの光景を見ていると、俺もやりたくなってくる。こう、もふっと。……うん、後でやろう。

 どうにも永峰達のはしゃぎっぷりに影響されたか、そんなことを何とも無しに考えていると、その永峰から「ところで先輩、この子、名前はどうするんですか?」と質問された。

 

「あー……名前か。そうだなぁ……」

 

 特に考えてなかったな。

 『観望』だからカンとかボウとか……いやいやないない。

 

「…………………………ノーマ、だな」

「いい名前ですね!……よろしくね、ノーマちゃん」

「……先輩、この子が子猫とかだったら、『ナノ』ってつけるでしょ?」

 

 ありがとう、永峰。そして俺の思考を読むな、阿川。我ながら安直だなとは思ってるんだ。

 まあとりあえずあいつらは放っておいて、斑鳩の方へと顔を向け、

 

「……とりあえず神獣も出たし、俺が皆を呼んだ理由は全部終わったぞ?」

「うん、じゃあとりあえずこの場は解散ってことで」

 

 そう斑鳩が締め、その場は解散になった……んだが、なぜか皆ノーマの方へと向かっていく。

 

「いやぁ……何か希美ちゃん見てたら、私も触りたくなって……」

 

 ちょっと気まずそうな笑いを浮かべながら言う斑鳩に、微苦笑を浮かべながら「好きにしろ」と返してやる。

 若干迷惑そうな雰囲気を出しながらも、大人しく付き合っているノーマの感謝の念を送りながら、両肩のナナシとレーメとともにそんな彼等の様子をしばしの間眺めていた。


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