永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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18.突入、グルン・ドレアス。

 早朝、レジアシスを発った俺達は、グルン・ドレアス城砦都市へと進軍した。

 やはり首都だけあって、守る鉾達は最精鋭なのだろう。これまでで最も強い鉾達だった。

 だが、こちらには神剣使いが六名。こんなところで負けるもんじゃない。

 俺達は都市へと続く街道に展開していた鉾を倒し、グルン・ドレアスの城門へと辿り着いた。

 

「……ついにここまで来ました……」

「ここにダラバがいるのね……」

「絶対、勝てるよね?」

「もちろんだ。勝って、元々の世界に帰ろう」

 

 感慨深げにカティマがつぶやき、仲間達が意気込みを新たにしていく。

 そんな中俺の脳裏には、以前見た“夢”と、昨夜に見た“夢”の事が渦巻いていた。

 飛び起きた後に思った事は、覆せない考えとして胸の内にある。

 けど、もしもそうならば──

 “夢”を通じて接触してきた、謎の声と謎の少女。

 それぞれが発した言葉たち。

 何がしかの想像はできる。けど、果たしてそれがどこまで合っているものなのか。

 全く、訳が判らない。……一体、俺に何が起きているのか──……止めよう。今はこんな事を考えている時じゃない。

 小さくかぶりを振って、それまでの考えを頭の隅に追いやる。

 

「それでは突撃します!私についてきてください!」

 

 同時に聴こえる、カティマの号令。

 俺達は、城門を守る最後の鉾へと挑みかかった。

 

 

……

………

 

 

「望ちゃん! あそこにで街の人が戦いの巻き添えになってる!」

 

 グルン・ドレアスへ突入した俺達は、城下に展開した鉾と兵を倒しながら、王城を目指す。そのうちに、不意に聴こえた永峰の声。

 その指し示す方を見れば、兵に斬られたか、魔法の余波を食らったのか、血を流す市民が幾人も居た。

 それを見て、助けようと言う永峰と、ダラバの元へと向かうのが先決だと言うカティマと世刻。

 幾許かの言い合いの末、

 

「今は自分が出来る事をやりましょう。ね?」

「……わかりました」

「望、行きましょう。一気に王城まで突っ切る!」

「おう!」

 

 永峰を諭すような斑鳩の言葉に永峰がしぶしぶ頷き、皆がカティマの声に応じて駆け出したところで、俺は一人、足を止めた。

 

「……青道君?」

「先輩、どうしたんですか?」

 

 それに気づいたのは、俺達全員の様子を把握しようとしていたらしい斑鳩と、やはりそれでも市民達が気になるのか、後ろを気にしながら世刻達に着いていこうとしていた永峰。それに俺の周囲を固めていたクリストの皆。

 彼女達は足を止め、問いかけてくる。

 

「……ここから先は、クロムウェイ達が追いつくまで、俺は別行動を取る。俺一人抜けた所でどうとでもなるだろ?」

「それはそう、だけど……けどなんで?」

 

 グルン・ドレアスに入ってから、散見される鉾との戦闘。いくつかのソレを経て、俺は不意に思った。本当にこのまま王城まで突っ走って、大丈夫なのか? って。

 確かに、『原作』じゃあそれで何とかなっていた。けど……そう、だけど、だ。

 

「確かにカティマの言う通り、今の状況を解決する一番方法は、敵のリーダーであるダラバを倒すことだ。それを優先する事に俺としても否は無いんだけどさ……やっぱり、見捨てられなくてな」

 

 そういって、先ほどまで永峰が見ていた傷を負った市民達へと視線を送る。

 そんな俺の言葉に、永峰はハッとした表情を浮かべて、雰囲気を硬くする。

 

「あの……それって、私がさっきあんなこと言ったから、ですか?」

 

 おずおずと、申し訳無さそうに言ってくる永峰の頭を、雰囲気が暗くならないように少し乱暴に撫で、「そんなことないよ」と返事を返した。

 

「この行動は単に俺のワガママだから、永峰が気にする必要はないさ。それに、ここに突入してから若干とはいえ鉾とぶつかっている。……俺が考える最悪のパターンは、俺達の侵攻ルート外に鉾が居るって事だ。そうなったら、クロムウェイ達一般兵じゃ鉾に対抗できずに、結果として市民の保護も出来なくなる可能性もある。……この街がアズライールの二の舞になったんじゃ、あの時必死になってアズラサーセを守った意味が無くなるしな」

 

 自分の考えを捲くし立てる用に告げて、「そんな訳で、お前らはもう行け。追いつけなくなるぞ?」と続けると、斑鳩はやれやれ、と言うようにはぁっと小さく溜め息を吐いた。

 

「……まったく、貴方って人は。……けど、ありがと」

「……沙月。私達も、残って祐さんのお手伝いをしたいのですが」

 

 その時、斑鳩と同様立ち止まって話を聴いていたミゥが声を上げた。そしてそれに同意する、他のクリスト達。

 対して斑鳩は、恐らく俺とミゥ達の能力や状況を踏まえて考えているのだろう、しばし黙考した後、苦笑しながらも、仕方ないなぁと言う表情で「……わかった、よろしくお願いね」と首を縦に振った。悪いな、ほんと。

 

「あの、じゃあ私も!」

「希美ちゃんはこっち」

「うー……」

「そんな顔するなって。流石に向こうを手薄にするわけには行かないんだから。こっちは任せて、永峰には世刻達を頼むよ」

 

 ミゥと斑鳩のやり取りを聞いていた永峰がおもむろに声をあげるも、斑鳩が「ダメよー」と言いつつ永峰を引っ張る。

 そんな二人の様子に思わず笑みが漏れ、そんな俺を永峰が恨めしげな表情で見てきた。

 

「……まぁ、カティマが無茶しないようフォロー頼むわ。ダラバに相対したら絶対突っ込みそうだからさ。……ってわけで、さっさとダラバを倒して来い!」

 

 そして二人を送り出すように、皆の元へ行こうと背を向けた斑鳩と永峰にそう声を掛けると、斑鳩は片手を挙げて、永峰は大きく頷いて返してきた。それを見送った後、ミゥ達へ向き直る。

 

「……悪いな。実際に鉾が居るかどうかもわかんないのに、手伝ってもらって。……ありがとう」

「気にしないでください。私達は、私達がやりたいからやるだけですから」

 

 にこり、と笑いながら言うミゥに、頭が下がる。

 

「それでも……うん、それでも、ありがとう。……よし、それじゃあ俺達も動くか。ポゥとワゥはミゥと一緒に西回りで、ルゥとゼゥは俺と一緒に東回りで、二手に別れて、索敵と出来る限りの救助をしながら王城を目指すってのでどうだ?」

 

「はい、異存はありません。……それじゃ、ポゥ、ワゥ、行きましょうか。祐さん、お気をつけて」

「ああ。ミゥ達も気をつけて。……絶対無理はしないようにな?」

 

 そう言うと、「それは私たちのセリフですよー」とポゥに苦笑しながら言われてしまった。むぅ。

 

 

……

………

 

 

 ……結果として、俺の懸念は当たっていたと言える。けど、それに気がついたのは、事が悪い方へと転んでからだった。

 流石に首都であるこの街は広く、それに比例して救助すべき人は多い。そして、劣勢になっても尚ダラバに忠誠を誓う兵士の数も多く、俺達は鉾を捜す傍ら、一般兵にも気を配らなければならなかった。

 だから、気が散漫になっていた。……なんてのは、言い訳にしかならないんだろう。

 道を先行して駆けていた俺の耳に、ズガンッ! と言う轟音と供に、「キャア!」と言う悲鳴が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声。

 振り返れば、いつの間に接近されていたのだろうか、武器を振り下ろした格好の白い鉾と、吹き飛ばされたルゥ。

 そしてルゥに巻き込まれる様に弾き飛ばされた、ゼゥ。……いや、そうなるようにルゥを吹き飛ばしたのか。

 

「ルゥ!ゼゥ!」

 

 そして、白い鉾の奥に神剣を構える赤い鉾が──。

 

「くそっ!」

 

 それを見た瞬間、俺は二人に向かって駆け出していた。

 何故もっと早く気がつかなかった? 何故ここまで接近されるまで、気がつかなかったんだ俺は!!

 先程の一撃は、随分と重い音がしていた。

 今神剣魔法なんて喰らったら──。

 二人までの距離が遠い。こんなに距離が開くほどに先行して、それに気付かないなんて、俺は何をやってるんだ。

 魔法を撃たれる前に赤い鉾を倒すには、俺では火力が足りない。足りるアーツを使うには、時間が足りない。

 二人を回復させて凌がせるにしても、敵よりも早く使える回復アーツでは、できてどちらか一人だ。範囲回復アーツの基点は“空間”ではなく“人”。二人を同時に範囲に入れるには、二人の距離が離れすぎている。せめて俺が二人の間に入る事ができれば、俺を基点に二人を範囲に収めることが出来るんだ。

 だが、駆け寄る俺を邪魔する様に、先程ルゥを吹き飛ばした白い鉾が立ち塞がる。

 

「邪魔だああ! どけええ!!」

「くっ……ユウ、行け! 『ダークマター』!!」

 

 振るわれる武器を避け、俺に気を取られて隙が出きたたところで、レーメの放った『ダークマター』が白い鉾を重圧で押し潰し、追撃を押しとどめる。

 あと少し。

 だが、そこまでだった。

 

「燃え尽きろ……『フレイムシャワー』」

 

 無慈悲に紡がれる言葉。

 伸ばした手は、届く事無く。

 

「……祐、すまない」

 

 そんな、ルゥの言葉が聴こえた。

 すまない? すまないって、何だ?

 ……ルゥとゼゥが死ぬ? 何故? ……間に合わないから。何故? 俺が弱いから。俺に力が足りないから。

 …………ふざけるな、認めるものか!!

 

「ああああああああアアアア嗚嗚!!!!!」

 

 喉も裂けよと言わんばかりの声が、自身の喉からほとばしる。

 気がつけば、叫んでいた。

 身体の隅々から、何もかもを引き出すように。無理矢理でもいい。この後動けなくなっても構わない。だから──。

 間に合わないのなら、間に合わせればいい。足りないのならば、足せばいい。

 何としても、俺の全てを使ってでも。

 だから──。

 

 

 ……その瞬間、世界が止まって見えた。

 

 

 ──『渡りし者』よ。

 

 

 ……その瞬間、“声”が聴こえた。

 

 

 ──我が声に応えよ。

 

 

 それは、あの時の──。

 

 

 ──“力”が欲しいか?

 

 

 力が、欲しい。

 

 

 ──何故(なにゆえ)に、“力”を求めるか?

 

 

 守りたいものが、あるから。守りたいものが、出来たから。

 

 

 ──ならば、我が声に応えよ。

 

 

 守りたいものを守れるだけの──

 

 

 ──“力”が欲しければ──

 

 

 力を!!!!

 

 

 ──くれてやる!!!!

 

 

「俺に、力を、寄越せええええ!!」

 

 脳裏に響く声に求めるように、声を発したその瞬間、世界は色を取り戻し、俺はかつて無い“力”が湧いてくるのを感じていた。

 ズキリとした頭痛。脳に直接“力”の使い方を、その姿を、その特性を、流し込まれるような感覚。

 瞬間、俺はそれ等を理解した。いや、理解させられた、と言った方が正しいだろうか。……どちらでもいい。どうでもいい。今は只、それを上手く使うだけ!

 全身の力を、足へ。全力をもって、加速しろ!

 引き出された、身体を巡るマナを活性化し、世界の色を、景色を置き去りに、俺の身体は加速して、ルゥの元へと辿り着く。間に合った!

 降り注ぐ炎が迫る。

 俺はルゥを抱え、ゼゥの元へと一足飛びで飛んだ。

 チラリと、ナナシとレーメの姿を捜すと、離れた所に居るのが見えた。……良かった、二人は敵の魔法の範囲外だ。

 降り注ぐ炎が“視”える。

 それに備えるように掲げた腕に沿い、ルゥとゼゥを覆える程の大型の盾(タワーシールド)を形成する。

 形成したソレへとマナを注ぐと、バリッと、雷の爆ぜるような音と供に盾が精霊光(オーラフォトン)に覆われ、力場となした。

 次いで、着弾する『フレイムシャワー』。

 力場が歪む。

 破られてたまるかと、更にマナを練り、叫ぶ。

 

「……お前の“力”を見せてみろ! 『観望(かんぼう)』!!」

 

<言われるまでも無い!!>

 

 脳裏に応えるは、最初の“夢”と同じ声。先程、俺に語りかけてきたものと同じ声。

 バチリッと言う音と供に精霊光が爆ぜ、降り注ぐ炎が治まるのを見て、ルゥとゼゥの様子を伺うと、驚いた様子でこちらを見る二人が有った。

 ……無事な姿に、安堵の息が漏れる。けどすぐにかぶりを振り、切り替える。まだ敵が居なくなった訳じゃない。あとで説明する、と二人に声を掛け、俺は“盾を長剣へと変えて”、鉾達へと向き合った。

 突如現れた神剣使いに、鉾と言えど多少は戸惑うのだろうか、一瞬気配が揺らぐのが“視”えた。その隙を突いて、先程の『ダークマター』で弱っていた白い鉾へと肉薄し、袈裟懸けに斬り捨てる。次いで赤い鉾へと向かいながら“長剣を長槍へと変えて”、突如間合いが変わった事に動揺する鉾を貫いた。

 マナの粒子へと変わっていく鉾達。それを見届けた後、ルゥとゼゥの元へ足を向けると、ナナシとレーメが二人に回復アーツを掛けている所だった。

 

「……祐、それは?」

「……永遠神剣……なの?」

 

 俺の手にした槍を見ながら言うルゥとゼゥ。俺はそれに頷いて返す。ナナシとレーメは……うん、記憶のリンクを通じて理解しているのだろう、こくりと頷いた。

 

 “視る”事に特化した能力を持つ、群体を持って一つの“個”と成す、ナノマシン型永遠神剣──永遠神剣第五位『観望』。それが、俺が手にした“力”だった。


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