永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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17.レジアシス、その道中。

 それは、レジアシスへ向かう道すがら、幾度目かの鉾との遭遇時の事だった。

 

「……なぁ、あの鉾たち、祐が相手してみろよ」

 

 そんなソルラスカの一言。

 指し示す先に居るのは、4小隊12名の鉾達。まだ戦闘に入るには遠い距離だ。

 

「………………はい?」

「……何馬鹿な事言ってるのよ、ソル」

 

 俺とタリアの声が重なった。

 

「い、いや、だってよ?話では神剣を持って無くても鉾とやりあえるって聞いても、俺もタリアもまだ実際にその様子を見てねえじゃねーか」

 

 タリアの視線に少々たじろぎながらも言うソルラスカ。いやお前、そこで怯むんなら言うんじゃねえよ。

 まあ確かに、先の休息地点からここまで、相変わらず俺の周囲はクリスト達が固めているため、俺はほぼサポートオンリーになってたけどさ。いや感謝です。彼女達には今度ちゃんと礼をしないとなぁ……。

 それはともかく。

 ソルラスカとタリアと言う神剣使いが二人も増えた上、その増えた二人は実戦経験豊富な使い手。加えて、ラハーシアを落とした後に来た敵の援軍、あれはレジアシスに駐屯していた総戦力から、結構な割合が割かれていたらしく、ラハーシアを発ってからここまで、俺やクリストの皆までがフル稼働するような大乱戦にはなっていなかったわけである。

 まぁ、俺のような神剣も持っていないやつまでが駆り出されるような事態にはならない方が良いのは当然なわけで。

 ……なんて思っていたのに、

 

「……それもそうね」

 

 と、ソルラスカの言葉にタリアが納得してしまった。おいおい。

 確かにアーツや『魔法』のお陰でなんとか鉾と戦えてはいるが、あくまで“なんとか”であることを忘れて欲しくない。

 勘弁してくれ、と思いつつ、助けを求めて斑鳩を見ると、「あ、あはは、うん、頑張って」と言いつつそっと眼を逸らす斑鳩。

 

「……マジかよ……」

 

 どうやら逃げ場は無い様である。

 思わずげんなりとした声が出るのは仕方がないだろう。

 

「……はぁ、しゃーない。……ナナシ、レーメ」

 

 ガシガシと頭をかきながら、ため息を吐いてオーブメントを起動させる。

 レーメの名を呼んだ時に、世刻のレーメがぴくりと反応するのが見えた。うん、紛らわしいよね、ごめんな。

 

「マスター、よろしいのですか?」

「どっちにしろ二人には、今の俺の出せる力ってのは把握してもらわないといけなかったしな、丁度いいさ。……ってわけで、頼むよ」

「……そう言う事でしたら」

「時間も勿体無いし、まとめて一気にいくぞ」

 

 その一言で、二人とも俺の意図を察したのだろう、アーツの準備に入る。多少EPが勿体無いが、まあいいだろう。敵の数も多いし、死ぬよりマシだ。

 こちらの様子に感じるものがあったか、鉾達が武器を構えて向かってくる。それを見て、補助アーツで自己強化しつつ、鉾達へ向かって駆け出した。今の俺の役目は一つ。時間を稼ぐ事。

 敵の先頭と接敵し、振り降ろされる剣を半身になってかわすと空いた胴へと肘撃を加え、一瞬怯んだところを後続の鉾へ向けて蹴り飛ばす。

 俺の体術程度じゃダメージは与えられないが、それでも隙を作るぐらいはできるのだ。

 

「『エアリアル』!」

 

 蹴り飛ばした鉾に巻き込まれ、四人ほどが固まったところを狙い放ったアーツは、局所的な竜巻を巻き起こし、その内に巻き込んだ鉾達を翻弄する。

 次のアーツの準備をしつつ、他の敵に向き合おうとした所で、

 

「うぉっとぉ!」

 

 敵の後方から投擲された槍を咄嗟に横に跳んでかわす。

 幾ら下位とは言え、そこは腐っても神剣。その投擲の速度は正に疾風である。いやほんと、我ながらよく躱した。

 そんな自画自賛をしつつ、次いで放たれた神剣魔法(ファイアボルト)をさらに横に跳んで避けた所で、アーツへの集中が解けてしまった。

 

「──っ!」

 

 その瞬間感じる、ゾワリとした気配。俺は勘に従って転がる様にその場を避ける。

 見てみると、俺が居た場所を黒の鉾がその刀を持って切り裂いていた。

 脇腹にズキリとした痛みが走る。どうやら躱しきれずに軽く斬られた様だ。……バッサリ行かれなかっただけマシか。下手をしたら上半身と下半身が分かれていたところだったからな。

 ほっと息を吐きつつ、アーツ(ティア)で傷を癒しつつ、数歩下がって改めて鉾達と対峙する。

 その時だ。

 

「燃えろ……灰になるまで……『フレイムシャワー』」

 

 こちらに向かって神剣を構える赤の鉾の姿が……って、まずい!

 敵の攻撃に備え、咄嗟に身構えた俺だったが、予想された炎も熱も届く事は無かった。いつの間に来ていたのか、俺の背後から、既にすっかりと聴き慣れた声が聴こえたからだ。

 

「やらせるか! 『アイスバニッシャー』!」

「ルゥ! 助かった! 『オーバルダウン』!」

「いや、私こそつい手を出してしまった。すまない」

 

 声の主へと例を言いつつ、先程対峙している間に準備していたアーツを解き放つ。瞬間、周囲を不可視の力場が包み込む。

 元来であれば、敵のオーブメントの動作を阻害し、アーツを封じると同時に、アーツに対する抵抗力を下げる効果があるもの。この世界でなら、『魔法』に対するレジストを下げる効果になるんじゃないかと思ったんだが……まあ実証できるものでもないし、下がってると思おう。

 

「『コキュートス』!!」

 

 次いで放たれる、ナナシとレーメの二重奏。

 その瞬間、世界は氷に包まれ、幾重にも穿たれる氷柱は、無慈悲に敵を蹂躙する。

 氷が砕けて消えた時、そこに残ったのは満身創痍な鉾達。その数は5。五体満足から半分以上を倒せたのは、想定以上の威力。うん、さっきのオーバルダウンは効いていたようで何よりである。

 

「ワゥ、ゼゥ! 左頼む! 『スパイラルフレア』!」

 

 ルゥに手伝ってもらっちゃったし、と思って呼びかけた俺の声に反応したワゥが一条の熱線を放ち、ゼゥが空間を渡って闇の爪で斬り捨てる。同時に、固まっていた残り三名の鉾を俺のアーツが打ち抜いて、その場の鉾は全てマナの霧となった。

 

「……まったく、つい反応してしまったけど、貴方の実力を見せるのに私達に指示してどうするの?」

「……あー、うん、つい。まあ、その前までである程度は判っただろ。問題ないさ」

 

 敵を殲滅し終わったのを見て、皆が近づいてくるのを待つ間、ゼゥにそんなツッコミを受けた。いやまあ仰るとおりなんだが。

 実際、アズライール奪還作戦の時から、戦闘時や作戦行動時は大抵クリストの誰かといたからなぁ……。今の戦闘でも、敵の神剣魔法をルゥがバニッシュしてくれるのを前提に行動してしまった部分もあったし。……途中でアーツへの集中を切らした時だな。その後のフレイムシャワーをルゥがバニッシュしてくれてのって、それに気づいたからなんじゃなかろうか。

 信頼するのはいいが、甘えるのは良くない。……気をつけよう。

 

「祐、やるじゃねーか! 見直したぜ!」

 

 近づいてくるなりそう言って、バンバンと背中を叩いてくるソルラスカ。痛えよ。

 

「そうね、それに関してはソルの言う通りね。……正直、本当に神剣も無しに鉾と遣り合えるとは思わなかったから。

 ま、足手纏いにならないようにしてくれればいいわ」

 

 そう言うのはタリア。いや、俺としても二人にそう言ってもらえたのは何より。タリアの言い方に引っ掛かる部分はあるがまあ……ツンデレ乙って事で。

 

「ありがとさん。まあ鉾以上の神剣使いが相手だったらこうは行かんだろうけどな」

「……さ、それじゃあ青道君の実力も解った事だし、レジアシスを一気に落とすわよ!」

 

 この場を締める斑鳩の言葉に各々首肯し、俺達は再びレジアシスを目指した。

 

「……ところでソルラスカ」

「ナナシ……だっけか、なんだ?」

「今回は多めに見ますが……マスターに不必要な無理をさせるような事は無いように」

「お、おう。……ちっちゃい癖にこえーなおい……タリアみたいだぜ」

「なんですって!?ソル!!」

「聞いてたのかよ!?」

「聞こえたの……よ!!」

「ぐふぅ……」

 

 …………ソルラスカ、南無。

 

 

……

………

 

 

 その後結局、レジアシスは別段苦労する事無く落とす事が出来た。変わった事と言えば、これまでよりもタリアの位置取りが前衛寄りだったことぐらいだろうか。

 ……まあ、俺がそこまで過保護に守る必要が無いってのが判ったからなんだろうけど、何だかんだ言いつつ、こっちの事気にかけてくれてたんだよな。……いやほんと、素直じゃないねぇ。

 で、この日はここで進軍は終わり。残るはグルン=ドレアスのみとはいえ、このまま進軍すれば夜戦となってしまうからな。

 後続の一般兵達が追いつくのを待つのを含めて、レジアシスで陣を張って野営をすることとなった。

 その夜の事だ。

 俺は夢を見た。

 暗闇に、漂う夢。

 またか……なんて思った直後、気づく。前とは違う。

 前は、空間自体に俺自身が溶けているような、俺の魂のみがそこに有るかのような感覚。今は、俺の身体を含めて、全てがそこにある感覚、とでも言えばいいだろうか。

 何にせよ、前と同じでこれも“只の夢”では無いんだろうな……そんな風に思った時だ。

 

「……初めまして、と言えば良いかえ? 『渡りし者』よ」

 

 背後から、そんな声が掛けられた。

 

 慌てて振り向いたそこに居たのは、一人の少女。

 夜の闇より黒い髪、吸い込まれそうな程に深い黒の瞳、絹の様に艶やかで、雪の様に白い肌を、漆黒の服で包んだ少女。

 

「…………ユーフォリア?」

 

 会った事は無い。けど、判る。そう、その姿は、髪や瞳、服の色さえ違えど、まだ見ぬ少女……『悠久のユーフォリア』に瓜二つだった。

 

「……いかにも、妾のこの姿は、ぬしの記憶にある悠久の担い手の姿を模したもの……くふふっ、なに、細かい事は気にするでない。この姿は妾にとっても馴染む。何も問題はなかろう」

 

 ……まったくもって、訳がわからない。恐らくは夢だろうが、突然放り出された空間に、突然現れたユーフォリアそっくりな少女。

 そんな俺の気持ちを察したか、少女は何とも楽しそうに笑い、言う。

 

「く……ふふふっ、なに、此度は只の顔合わせ……いや、単に妾がぬしを見てみたかっただけのこと。……永き時の果てにようやく出逢えた、担い手足りえるものの姿を……のう?」

「担い手って……それって……!」

 

 少女の言葉を問いただそうとしたその時、不意に意識が遠く……いや、覚醒していくのが解った。

 

「残念ながら、時間じゃ。……なに、また逢える。その時を楽しみにしているぞ?」

「待ってくれ!!」

 

 叫びながら、“飛び起きる”。

 荒い息を吐きながら周囲を見渡すと、そこは先程までの暗い空間じゃなく、野営の時に宛がわれていた天幕の中で。

 

「……これじゃあ……まるで──っ」

 

 思わず漏れた声を飲み込む。……誰が聞いているか解らないんだ、気をつけろと言い聞かせるも、考え自体が消えるものではない。

 そう、これじゃあまるで……“ナルカナに呼ばれる世刻望”みたいじゃないか──。


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