永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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11.アズライール、その結末。

「……何だかんだ言いつつ結局戦うんですね」

 

 そんなポゥの感想に、「アースプライヤーで元気出たからな」と答えると、くすりと笑みを漏らすポゥ。

 さておき、この場の敵は無事に殲滅する事に成功し、今は皆が集まるのを待っているところだ。

 無論、前述の通り俺も働いたぞ。流石に皆が戦ってる時に黙って見てるわけには行かないさ。

 

「おう、お疲れ」

「うん、お疲れ様……って、まだ終わったわけじゃないけどね」

「……だな、後はアズライールだけか」

 

 敵を殲滅し終わり、俺の所に集まってきた皆を出迎えた言葉に、斑鳩が苦笑を浮かべながら答える。

 

「そうですね。ですがアズライールに配置されていた鉾のほとんどは今の戦闘に出ていたと思われますから……残るアズライール自体は油断さえしなければ問題はないかと」

「……じゃあ、さっさと片付けようか」

 

 カティマによる推測に続いて発せられた、世刻の言葉に頷き合い、俺達はアズライールへ向けて進みだした。

 

「……それにしても……そんなに時間も経ってないはずなのに、すっかりクリストの皆と仲良くなったのね?」

「あー……まーなー」

 

 斑鳩がそう言うのも、クリストの皆が俺の周りを固める様に飛んでいるからなのだが。

 それもこれも、ラダ攻略戦の時に俺がゼゥを庇って若干大きめの傷を負ってからで。

 正直あの時は死ぬかと思った。何といっても黒の鉾の刀が腹を貫通したからな。不幸中の幸いなのは、それが赤の鉾の両刃剣(ダブルセイバー)だとか、青の鉾の剣じゃなかったことだろうか。

 前者だったら刺された瞬間に燃えてるし、後者はそもそも他の色と比べても破壊力が段違いだからな。

 ……とは言え、こうして生きているから構わないのだが。庇えたのは良いが、傷を負ったのは俺が未熟だったからに他ならないのだし。

 それにしても、ナナシとレーメにも思い切り心配かけちまったな。……慌てた余り、二人がクリストの皆の前に姿を見せてしまったぐらいに。

 クリスト達にはある程度の事情を話し、ナナシとレーメの事は黙っていてもらうことにした。その代わり、正式に箱舟に招待させてもらう事にした。ちなみに、傷はもう治ってるし、痕も残ってない。

 それもこれも、ポゥが回復魔法や、ナナシとレーメが全力で回復アーツを掛けてくれたからだ。ホント、むしろ俺のほうが感謝しても仕切れないぐらいだよな。

 ……とまぁ、そんなことを考えていると、そのゼゥがぽつりと言葉を発した。

 

「借りが出来たの。……あと、約束を果たしてもらわないと」

「約束?」

「そうよ。……だから、仕方ないから守ってあげてるの」

 

 そんな、ぶっきらぼうながらもどこか温かみのある言葉に、思わず苦笑が漏れた俺に、斑鳩からこちらに向き直ったゼゥが「なに?」と問いかけてくる。

 それに「なんでもないよ」と答えると、ふんっとそっぽを向いてしまった。……あらら。

 

「……約束ってどんな?」

「…………秘密よ」

 

 そこに重ねられた斑鳩の問いには、ゼゥは一言だけ答えて会話を終えてしまう。

 そんな様子に、斑鳩は苦笑をもらしていた。

 

「いやほんと、仲良くなったわねー」

「……まーなー……」

 

 約束って、やっぱり箱舟に案内することだよなー。……そんなに楽しみなのか。期待を裏切らなければいいんだけど。

 そうこうしているうちに、俺達の前にアズライールの町が現れる。それと当然の毎く、その前に展開している鉾達も、だが。

 こちらが敵の姿を認めた様に、敵も又こちらの姿を認めたのだろう、互いに臨戦体制を整えて行く。

 俺も前衛組みに補助アーツを掛け、そして同時にそれが戦闘開始の合図となった。

 

 

……

………

 

 

 世刻の双剣型神剣『黎明』が閃き、赤の鉾に連撃を浴びせかける。袈裟掛けに振るわれた左の一太刀を受け止めるも、次いで横薙ぎに振るわれた右の剣にて斬り払われた。

 その攻撃後の隙を狙うように世刻に黒の鉾が迫る。

 だがその斬撃は、鉾と世刻の間に割り込んだ永峰によって防がれ、反撃とばかりに彼女の槍型神剣『清浄』によって刺し貫かれてマナに還った。

 一方で斑鳩は、不定形の光の塊である神剣『光輝』を光の剣にして敵を斬り裂き、カティマは片刃の大剣型神剣『心神』を軽々と扱い、縦横無尽に敵の間を駆け抜け、切り捨てて行く。

 こうして客観的に見れば見るほどに、神剣使いとそうじゃない者──例えば俺や、一般の兵士達のような──の身体能力の違いが嫌というほどに実感させられ、思わず溜め息が漏れた。

 それを聞きとめたのだろう、左横を飛んでいたミゥが「どうしました?」と訊いて来たので、先の四人を指して「いや、あいつら凄いなって思って」と言うと、「そうですね」と苦笑交じりの同意の声。

 そうしているうちに戦闘自体は始終俺達の優位に進み、町を防衛していた鉾を殲滅する事に成功。どうやら形勢不利と見てか、一般兵達はすでに退却しているようで、俺達はアズライールへと突入する。

 

「なに……これ……」

「……ひどい……」

 

 町に入って直ぐに、斑鳩と永峰の愕然とした声が聞こえた。

 無理もない。そこで俺達が見たものは……戦争とは名ばかりの、虐殺の痕。

 生きるモノは無く、そこに在るのは、切り裂かれ、押しつぶされ、ナカミをばら撒き、乱雑に放置されたナニカ。

 命終え、“かつて人であったもの”のみ。

 

「ダラバ……これが……これが、人の取るべき所業ですか!!」

 

 遺体のほぼ全ては眼を覆いたくなるような状態で。

 カティマの悲痛な声が響く中、俺は、込み上げて来る吐き気を堪えるので精一杯になっていた。

 そう、俺の目の前に在るのは、老若男女問わず……正に老人も赤子も、町人も兵士にも関わらず皆殺しにされた、“かつて町であったもの”だった。

 

 脳裏にギシリ、と音が走る。

 

 ああそうだ。アズライールと聞いてなぜ思い出せなかったのか。

 

 この展開を、惨状を、思い出せていれば、もっと急いでここにくることができていれば、ひとりでもスクウコトガデキタノデハナイノカ。

 

(マスター!!)

(ユウ!!)

「!!」

 

 ガンッと頭に響く思念で我に返る。眼を閉じて、息を吐き、頭を振って、心を取り戻す。

 負の感情に呑まれるな。受け止めろ。思い上がるな。全てを一人で背負える程に、俺は強くは無い。

 

(すまん……大丈夫だ。ありがとう)

 

 二人に礼を言って、もう一度しっかりとこの光景を見据える。

 周囲には、悲哀の篭ったカティマの雄叫びが──そう、それはまさに雄叫びとしか形容できない、声が、響いていた。

 

 

 その後、精神的にピークに達したのか、それとも張り詰めていたものが切れてしまったのか、そのまま気を失ってしまったカティマをものべーに運び、保健室に寝かせた。

 俺達も遺体の火葬を手伝った後、カティマの様子見もかねて保健室で休憩する事になった。尤も、俺は夜風に当たりたかったために、カティマの事は他の皆に任せ、一人屋上に出たが。

 状況が状況なだけにか、この時間にはもう屋上に人は居なく、俺はその場にごろりと横になる。

 ヒヤリとした地面の感覚と、涼しげな夜の風が心地良く、眼を閉じて、大きく息を吸い、大きく息を吐く。

 深呼吸を幾度か繰り返していると、昼間の戦いの疲れが和らぐような気がする。

 っと、不意に腹の上に重みを感じ、首だけを向けてみてみると、ナナシとレーメが姿を現し乗っていた。……って言うか、ナナシは座り込んでいるだけだが、レーメは既に俺の腹の上にうつ伏せに寝転がっている。いやまあ良いんだけど。暖かいし。

 とりあえず、地面に投げ出していた手を、二人の頭へもっていき、左右の手でそれぞれ撫でた。

 うん、やっぱり良い手触り。癒される。

 さて、これからどうなるんだったか。

 今頃保健室では、斑鳩達にカティマが自分の事を話しているだろう。

 自分が王族の生き残りであること、王位継承には神剣の他に、継承の証が必要であること……そうだ、証だ。

 確かこの後、それを求めにカティマが一人で抜け出すのではなかったか?

 そして彼女に追いつくタイミングは、道中の街が鉾に襲われ、彼女が敵に囲まれているとき。

 どうするべきか。

 彼女が一人で行動するのを止めた場合、最悪なのは、本来であれば彼女と合流する街が、鉾によって壊滅させられる恐れがあること。

 問題はなぜ敵がこのタイミングで、その街を襲ったのか、だ。

 ……思い出せ。

 ……思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ!

 ……っ! ……確か……ものべーで近づく斑鳩達を迎撃するため、鉾を配し、カティマを追い詰めるため、更に街を襲わせた……だったか?

 ゲームで世刻らが間に合ったのは、カティマが一人で鉾を食い止めていたからだ。

 その思い至ったことに頭を抱える。

 なぜなら、今思い出したソレが町が襲われた原因で間違いない場合、カティマが俺達と供に行ったら街はアズライールの二の舞になる可能性が高いからだ。

 恐らくカティマが抜け出すまでに、然程時間は無い……どうする……?

 

「ユウ」

 

 不意に俺を呼ぶ声が聞こえ、思考に埋没していた意識をその声の主──レーメへと向けると、彼女は起き上がり、俺をひたと見つめていた。

 

「ユウは、どうしたい?」

 

 今、それを悩んでいる……いや違うな、これはそんな問いじゃない。きっと、もっと単純なこと。

 ……ああそうか。

 思い出すのは、昼間の光景。

 

「……俺は、アズライールの二の舞を防ぎたい」

 

 例えアレが決められていた運命だとしても。敷かれたレールの行く末の結果だったとしても。

 俺はアレを防ぎたかった。

 

「……では、このままカティマの行動を放っておいても問題はありませんね?“原作”とは多少のズレがあるでしょうが……八割がた、上手くいくでしょう」

 

 ……ナナシもか。

 ……ああ、そうだな。もう解ってる。

 仮に“原作”通りに上手くいくとしても、それでもカティマに多大な負担を掛けることに変わりは無い。もしかすると、街にも大きな被害が出るかもしれない。

 偽善かもしれない。自己満足なだけだって言われるかもしれない。けど、俺は──。

 

「でも、ここは“原作”じゃない、“現実”だ。どうなるかなんて解らない。最悪……カティマが死ぬかもしれない。何より……仮に“原作”通りに行くのだとしても、俺は、それよりも良い結果を導きたい」

「ふむ。……ふふふっ。その顔は、これ以上は吾等から何も言う必要はなさそうだな?」

 

 ……ったく。

 …………そうだな、覚悟を決めるか。

 

「……ありがとう、二人とも」

 

 何の覚悟かって?

 …………そりゃもちろん、あとで斑鳩辺りにガッツリ怒られる覚悟さ。


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