永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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10.ラダ、そしてアズライールへ。

 ラダを目指し進軍する俺の周囲には、背丈の半分ほどの物体が5つ程浮かんでいる。

 ……いや、この言い方は失礼か。“彼女たち”は、俺の頼もしい味方なのだから。

 鎧のようなパーツで防護された、俺の背丈の半分程の水晶のような結晶体。その結晶体の中に入っているのが、今回のラダ及びアズライール攻略に関して、俺と共に戦ってくれる『クリスト族』の少女達だ。

 かつて彼女達が住んでいた世界が滅びに瀕した時、斑鳩によって救われた、クリスト族の最後の生き残り達。

 彼女達は特殊な波長のマナの中でしか生きられず、普段は今の様に結晶体の中に入っていなければいけないらしい。

 それはともかく。

 

「あー……君たち……そんなに密着されると歩きにくいんだが」

 

 どう言う意味だって? 言葉通りの意味さ。

 なぜか彼女等、俺にほぼ密着するかの様に集まってきている。……正直歩きにくいし、姿を消してるナナシとレーメが潰されないかと不安でもある。

 本来であれば、見目麗しい美少女達に密着されるなど、嬉しい悲鳴になるのだろう、が。……何度も言うが、彼女達が、鎧に包まれたクリスタルの中に入ってさえいなければ、だ。

 戸に角も、俺の言葉に慌てた様にパッと離れる彼女達。

 

「申し訳ありません、祐さん。……その、何故か貴方の身体に、私たちにとって心地よいマナの残滓が有った物で……」

 

 そう言うのは、彼女達のリーダー的存在である、白のクリスト・ミゥ。

 

(……俺の身体に残ってるマナの残滓って?)

 

 そんなものがあるのか?とナナシとレーメに訊いてみると、意外な答えが返ってきた。

 

(恐らくは、箱舟内のマナではないかと)

(箱舟の?)

(……うむ。あれは仮にも神であるフィアが作った上に、それの維持管理も彼女が行い、その上彼女が常駐しておる。……言ってしまえば、あそこは神域のような物。ひいては彼女達のような、特殊なマナ環境におけるものにも合うマナになっているのだろう)

「……なるほどねぇ……」

 

 っと、つい声に漏れた。

 それが耳に入ったのか、丁度俺の正面を飛んでいた青のクリスト・ルゥがこちらを向く。

 

「ふむ……なるほど、と言う事は、そのマナの残滓に心当たりがあるのかな?……うん、差し出がましいようなのだが、よろしければ今度我々をその場所へ連れて行ってくれないだろうか? 正直言うと、きみの身体に残っていたマナは我々にとっては非常に心地が良い」

 

 そんなルゥの言葉に同意するかのように、他のクリスト達もこちらを向いた。

 ……合計五つの視線に晒されて──結局、いつか必ず案内するってことで、この場は勘弁してもらった。プレッシャーに負けました。はい。

 ああ、もちろんそう言う場所があるって事は秘密にしてもらうが。

 

 

……

………

 

 

「……っ! 来たぞ、敵だ!」

 

 ラダへ向けて進む事しばし、道の向こうから哨戒中であろう鉾達が見えた。

 敵は三人の小隊規模。ここは一気に畳み掛けるのが得策だろう。

 

「逃がしてこちらの事を知られて警戒されると厄介だな。一気に行こう!」

 

 周囲のクリストたちへと呼びかける。……さて、彼女たちと上手くやれるだろうか?

 いや、そもそも俺が足を引っ張らないかって心配をしたほうがいいか。

 何て思いながらもアーツの準備を開始する。

 

「……ま、やってみないとわからないってか! 『ラ・フォルテ』!」

 

 使用するのは範囲型攻撃力強化アーツ。そして次のアーツの準備をしつつ、敵に向かって駆ける。

 接近戦はしたくないが、敵をここに引き止めるためにも、注意をこちらに向ける必要があるからだ。

 敵は俺達に気づいたのか、臨戦態勢を整えるのが見えた。神剣使いは神剣の気配を捉える事ができる。それはミニオン……鉾も同じであり、おそらくはそれの有無でこちらが神剣使いでは無いことが解ったのだろう、援軍を呼ぶつもりは無いらしい。

 

「……燃え盛れ。『ファイアボルト』」

「やらせない! 『アイスバニッシャー』!」

 

 だが実は、ミゥ達クリストの5人は元々神剣使いなのだそうだ。

 結晶体に入るに当たって、神剣そのものを扱う事が出来ないし、威力自体も本来のものとはいかないまでも、神剣魔法を扱うことはできる。

 そして恐らく、結晶体に入っているせいなのだろう、先に上げた神剣の気配──神剣反応も同時に抑えられているようなのは、この場合はむしろメリットだろうか。

 迫る俺に敵が神剣魔法を撃とうとするが、ルゥがバニッシュスキルにて即座に打ち消し、その間に俺は敵に肉薄した。

 その間にレーメによって時間加速(クロックアップ改)風の防壁(シルフェンガード)は掛けられている。というか掛かっていないと敵ではなく俺が死ぬ。

 間近まで迫った俺に対して、その手にした武器で切り捨てようと鉾たちが殺到するが、俺はそれを避けながら敵が上手くまとまるよう動いていく。

 左から袈裟懸けに迫る刃を前方に一歩踏み込んで躱し、正面から突かれる槍を右に半回転して避ける。

 そこに横薙ぎに迫る刀を軽くバックステップして避け、最初に躱した剣が再度迫るも、更に後ろに下がって凶刃を避けた。

 脳裏に描くは、カティマや斑鳩の洗練された動き。それらを分解し、組み直し、俺なりの動きへとアレンジしていく。

 

「くらえっ『ダイヤモンドダスト』!」

 

 一度大きく踏み込んでから徐々に下がった事により敵が何とかまとまったところで、他の敵を青ミニオンとの間に挟んで壁にしつつ、アーツを叩き込んだ。

 アイスバニッシャー対策に、アーツを発動させるタイミングを隠してみたわけだが……うん、素人の付け焼刃でも何とかなるもんだ。

 そしてアーツにより巻き起こされた猛烈な凍気に、二人の鉾が凍結した。これでしばらくは動けまい。

 

「祐さん下がって!『イミネントウォーヘッド』!」

「……っ!」

 

 声に応じて離れた直後、敵に突き刺さる、緑のクリスト・ポゥの攻撃。

 岩を操り敵にぶつけ、その瞬間に爆砕する。そしてその土煙に紛れ、敵の目の前へと転移した黒のクリスト・ゼゥが、闇の羽で斬撃を浴びせた。

 この瞬間不利を悟ったか、先の『ダイヤモンドダスト』によって凍結しなかった鉾が撤退しようとするが、

 

「逃がしません!」

「えーい! 『ファイアボルト』!」

 

 ミゥが強烈な閃光と衝撃によってそれを阻止し、赤のクリスト・ワゥが神剣魔法を浴びせた。

 

「……多勢に無勢で悪いな。『スパイラルフレア』!」

 

 そして止めに俺の範囲アーツ。幾条もの白熱した炎の矢が降り注ぎ、三人の鉾はマナの霧となって消えていった。

 

「ふむ……神剣も無しに不思議な魔法を使い敵と戦うと、沙月に聴いた時は信じられなかったのだが……強いのだな、祐は」

 

 敵を倒すことができ、ほっと一息ついたところでそう言ってきたのはルゥ。と、気が付くと他の皆も集まって来ていた。

 俺は彼女達へ、頭を振って返す。

 

「強く無いよ、俺は。実際今最後にまとめて倒せたのも、皆が先にダメージを与えてくれていたからだしな。だから皆の協力が必要だし、皆が居てくれて助かってる。……ありがとう」

 

 そう、事実俺は弱い。

 今戦えているのも相手がミニオンだからで、この先現れるであろう敵の神剣使いとは、まともに戦えるとは思えない。……今のままでは。

 ……と言っても、急激に強くなる術など無い以上、地道に力を付けていくしかないのだけど。

 

「それはこちらこそ、です。祐さん。……どこまでご一緒に戦えるかは判りませんが、改めて宜しくお願いしますね」

 

 俺の言葉に、ミゥが五人を代表するように言い、「こちらこそよろしく」と返したところで、俺達は再びラダを目指して歩を進める。

 

 

……

………

 

 

 ラダは余り大きくない町だった。

 それゆえにか、そこを守る鉾は5部隊、15人程の人数であり、先ほど哨戒部隊を倒したお陰か、まだ俺達の接近には気付いていないようである。

 俺達は一度顔を見合わせて頷きあうと、タイミングを見計らって町の入り口を守る1部隊へと奇襲をかけた。

 先制攻撃とばかりに振るわれた、ワゥの神剣魔法『フレイムシャワー』にて、三人同時にダメージを与える。それによって敵もこちらに気がつくが、その間に俺達は既に鉾へと追撃を振るっていた。

 敵が構えるよりも早く、青の鉾へ向けてルゥから氷弾が打ち込まれ、残る緑、黒の鉾にもそれぞれミゥ、ゼゥが攻撃を浴びせてマナへと還していく。

 そして直ぐに、騒ぎを聞きつけてきた2部隊との戦闘へと移った──。

 

 その後、ラダを守っていた鉾達の乱戦を乗り切り──若干危ない部分もあったが……いや、危なかったのは俺なんだがな。思っていたよりもあっさりとラダを落とす事が出来た。

 シーズー方面の本隊へラダを落とした報告の伝令を飛ばし、小休止を挟むと、アズライールへ向けて進軍を開始する。

 そして、アズライール近郊へ着いたとき、森の中から戦闘音が聞こえてきた。

 それを聴いた俺達は、すぐにその音の方へと向かって走り出す。恐らくは斑鳩達であろうからだ。

 

(ナナシ、レーメ、折角だからでかいの一発、やってみようか)

(……オーブメントの状態オールグリーン。……何が折角なのか解りませんが、行けます)

(こちらも行けるぞ。だが、あまり調子に乗りすぎないようにな)

(りょーかい……っと)

 

 折角だから、今使えるものの中でも最も集中時間のかかるやつでもやってみよう。

 オーブメントの制御をナナシに任せ、レーメのサポートを受けながらアーツのために集中を高めつつ、森の中をクリスト達と駆ける事しばし──アーツの方に気を取られて、途中何度か転びそうになった。……気を付けよう──多数の鉾と対峙する斑鳩達の姿が眼に入った。

 やはり数の暴力と言うものは馬鹿にできないらしい。少々苦戦しているようだ。

 

「よう、無事か?」

 

 そう言いつつ俺は彼等の横に飛び出し、並びつつも、発動寸前まで持っていっていたアーツを解き放つ。

 その間、突如飛び出した俺達へ神剣魔法が放たれたりもしたが、それらはルゥが打ち消したり、ワゥが魔法防御の高さを生かして防いでくれた。有りがたい。

 

「まぁとりあえず……喰らっとけ! 『コキュートス』!!」

 

 次の瞬間、周囲の気温が急激に下がり、敵の足元から巨大な氷柱が飛び出し、貫き、凍りつかせ、砕け散る。

 水属性の全範囲攻撃アーツだ。さすがに現実的に全範囲なんて訳にはいかないが、それでもこの場にいる鉾の、俺が認識できる全てを範囲に収める事は出来、恐らく、斑鳩達との戦闘で弱っていたのであろう、4割程の敵が粒子となって消えていき、2割程が氷付けになった。

 撃った瞬間、いくつかアイスバニッシャーの声も聴こえて焦ったのだが……まあ、打ち消されなかったところを見ると、コキュートスの威力がバニッシュ可能な威力を超えていたのだろう。

 

「っ! 今よっ!!」

 

 そしてその瞬間を逃さず、斑鳩の号令と共に敵へ突貫する神剣組み。

 いや、俺が飛び込出してアーツぶっ放して敵の戦列が崩れるまで、大して間があったわけじゃないんだが……流石の判断の良さだなぁ。

 そんな彼女達を、アーツを放った位置から眺めていると「……祐さんは行かないのですか?」とポゥが訊いてくるが、俺は首を横に振った。

 

「戦況を見てからな。……まぁ、正直言うと少し呼吸を整えたい」

「ふぇ?」

 

 だってさ、一応記憶が戻ってからトレーニングは欠かしていないし、水耀珠のクォーツで底上げされているとはいえ、体力的には一般人とそう変わんないのだ。

 森の中を駆けて来たので結構イッパイです。足場が悪い所を走るのは、思っていた以上に体力を削られるんだ。顔には出さないようにしてるけどね。

 ……てなことを、まぁ記憶の事とか細かい事は除いたが、説明したら納得してもらえた。

 とはいえ、周囲の警戒と、いざとなったら放つアーツの用意ぐらいはしてるけどな。

 ちなみにポゥが「疲れが取れるかは解りませんけど」と言いつつアースプライヤーをかけてくれた。良い娘だ。


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