永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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108.託す想い、譲れぬ心。

 先程の状況が『静』だとすれば、今は『動』と言うべきか。クリストの巫女達と鈴鳴との戦いは、先ほどとはガラリと変わった様相を呈していた。

 五人のクリストの巫女達が繰り出す連携攻撃を鈴鳴が防ぎ、鈴鳴が振るう圧倒的ともいえる攻撃をクリスト達が凌ぎきる、攻防の応酬。

 ワゥが鈴鳴に向けて炎を放てば、鈴鳴はそれを剣によって切り開き、放ったワゥに向かって斬りかかる。

 しかしそれをさせじと、炎より鈴鳴が飛び出たところを、ミゥが放った閃光が迎撃した。

 巻き起こる衝撃をマナ障壁によって防いだ鈴鳴へ繰り出されるゼゥの闇爪(ランブリングフェザー)。一撃目は剣で往なされ、だがそれは織り込み済みだと言わんばかりに直後に繰り出された第二撃目は、惜しくも再度展開されたマナ障壁に防がれる。

 対して、鈴鳴が次の行動に移る前に、ゼゥの攻撃を目晦ましに接近したルゥとポゥが神剣による攻撃を繰り出した。

 ルゥの大剣型神剣『凍土』による左からの横薙ぎと、ポゥの槍型神剣『嵐翠』による正面からの刺突。それを両手に構えた剣によって受け止めた鈴鳴は、互いの武器がぶつかる瞬間に合わせて至近距離でマナを炸裂させ、己ごと二人をその衝撃に巻き込んで吹き飛ばす。

 鈴鳴に吹き飛ばされたルゥとポゥに入れ替わるように前にでるゼゥとミゥ。ミゥは錫状型神剣『皓白』の先端に生み出した白マナのハンマーを、大上段から思い切り叩きつけ、ゼゥは地を這うように低くした姿勢から、上に伸び上がるように刀型神剣『夜魄』を鞘走らせる。

 上下からの、ほとんど同時にタイミングを合わせて繰り出された、二人の神剣による攻撃を、再度手にする剣にて受け止めようとした鈴鳴に対して、死角よりワゥのバズソー型神剣『剣花』が襲い掛かる。

 殺気と直感でそれを察した鈴鳴は迎撃を断念し、右後方へと跳躍して三者による攻撃から距離を取って躱した。

 だが、息を吐く暇を与えまいと、ワゥと、復帰したポゥが前に出て、空いた距離を一気に詰めて神剣による攻撃を繰り出す。

 ワゥの『剣花』による攻撃とポゥの『嵐翠』による刺突を前へ踏み込むことによって躱す鈴鳴。『剣花』が左の肩口を浅く掠め、『嵐翠』が右の頬に一筋の傷を付けるも、それに構う事無くワゥとポゥへと斬撃を見舞い、二人を地に伏せる。

 次いで振るわれる、背後からのゼゥの『夜魄』と、正面から横薙ぎにされたルゥの『凍土』による刃を、前方へ、まるで倒れるかのように姿勢を低く得ることによって躱し、それと同時にルゥとゼゥに対して、彼女達の身長ほどもあるマナの弾丸を撃ち込み吹き飛ばす。

 『夜魄』によって薙がれた一房の髪が宙を舞い、弾かれた『凍土』が倒れ伏したルゥの直ぐ側に突き立つ音が鳴り響く中、残るミゥへ向かって地面を舐めるように踏み込む鈴鳴の、その背に向かって振り下ろされるはミゥの『皓白』。

 大槌の形に形成された、『皓白』の先端に集められた白マナが鈴鳴の背を打ち据え、彼女を大地へ叩きつける。だが、次の瞬間、地面へと打ち付けられながらもミゥの右足首を掴んだ鈴鳴が思い切り腕を引き、鈴鳴はミゥを道連れにするように大地へと引き倒した。

 背中をしたたかに打ち付け、息が詰まるミゥ。その間に鈴鳴は、ミゥの足首を掴んだままに立ち上がる。

 長いローブが捲くれて艶めかしい白い素足が晒され、それにミゥが一瞬気を取られた隙に、彼女の腹部に痛烈な掌底を叩きこむ。

 声にならない声を上げて、次いで盛大に咳き込むミゥ。

 大地に倒れ伏すクリスト達を見やりながら、その場から軽く跳躍して彼女達から距離を開けつつ、鈴鳴はその手を天へと掲げ、マナを撃ち放った。

 

「光よ、降り注げ!!」

 

 その言葉に応えるように、空に打ち上げられたマナは幾条もの光の帯となって、大地に、そして倒れ伏すクリスト達へと降り注ぎ──それが止んだ時、そこにはズタボロになって倒れ伏すクリストの巫女達と、その前に悠然と立ち、その様子を見据える鈴鳴の姿があった。

 激しくも短く、閃光の如く交わされたそれの結果は、“地力の差”となって現れたのだ。

 

「──此の程度、ですか?」

 

 地面に横たわるクリスト達に順番に視線を送り、ぽつりと漏らすように呟く鈴鳴。

 その声音に含まれる感情は『落胆』と『怒り』であろうか。

 

「……正直に言えば、私にとってこの戦いに勝とうが負けようがどちらでも同じでした。私は──ここで消え去る運命ですから」

 

 どうせ聞こえていないだろう。そう思いながらも、鈴鳴は淡々と言葉を紡ぐ。否、正確に言うならば、彼女自身、己の口から流れ出る言葉を止める事が出来なかった。

 己の口から流れ出る、止め処ない言葉。一度口に出してしまうと、溢れるように出てくる想い。──きっと、誰かに話したかったのかもしれない。そう思いながら。

 

本体(スールード)が負け、本体が消えれば分体である私も消える。逆に本体(スールード)が勝ち、彼女の目的を果たしたとしても──彼女は、私を消すでしょうから」

 

 そう言って、自嘲気味に笑う鈴鳴。

 その声音は、何かを耐えるように、小さく震える。

 

「だってそうでしょう? 分体でありながら本体と精神構造を異にする存在。そんな彼女にとって異常な(キモチワルイ)モノを、残しておく道理はないんですから」

 

 そう続ける彼女の表情は、まるで漏れそうな嗚咽を、零れそうな涙を、必死に堪える幼子のようで。けれど、その表情を見るものは、ここには居なくて。

 

「私には──もう、『彼』の行く末を見守ることは出来ない……出来ないんですよ」

 

 ──けど、貴女達は違うでしょう?

 

 その言葉は、発せられる事は無く。

 

 ──だから、“私”程度は乗り越えて──安心させてください。

 

 その想いは、紡がれる事は無く。

 ただ、その視線は、確たる鋭さをもって、未だ倒れ、動かぬ少女達に注がれ続けている。

 

 

                  ◇◆◇

 

 

<ルゥ……我が主よ>

 

 善戦するも鈴鳴の前に倒れ伏したルゥ。朦朧とする彼女の脳裏に声が響いた。

 その声が自分の直ぐ側に突き立つ己の神剣のものだと理解した彼女は、定まらぬ意識の中、それでも『凍土』の声へと心を傾け、『凍土』もまた応える声は無くともその意識が自分に向いたのを受け、ルゥに向けて言葉を続ける。

 

<……汝、『力』を求むるならば我を手にせよ……>

 

 『力』。

 その、今の彼女にとって堪らなく魅力的な言葉に、まるで条件反射のごとく、這うように『凍土』へと手を伸ばすルゥ。

 もう少しで柄に手が届く、そのタイミングで、再び『凍土』の声がルゥの脳裏に響いた。

 

<……心せよ、我が主よ。『力』を得る代償を。其れは永遠に続く苦難の道。そう、我を再び手にする時、汝は──>

「……かま、わない……」

 

 『凍土』の言葉を最後まで聞く事無く、ルゥは消え入りそうな声で、それでも強い意志の篭った声で言う。

 どうなるかなど予想はつく。そんな事は覚悟の上……否、望むところだと。

 己の内へと意識を向ければ、そこには確かに感じる、熱く、強く、愛おしい繋がり。これがあれば、自分は大丈夫なのだと。

 一方でその様子を見ていた鈴鳴は、満身創痍になりながらも尚武器を手にしようとするその光景に、「ほぅ」と小さく息を漏らした。

 諦めない。諦められない。生きるためにただ只管に必死に足掻き、輝く命。

 それは──もうじき消えてしまう彼女にとっては、とても、とても眩しく、羨ましいものだったから。

 だから彼女は、ルゥが“何か”をしようとしているその行動を妨げるような事は決してしない。いや、むしろ逆に期待を籠めた目で、その行動の末を見守る。

 そう、『諦めず、足掻き続ける』その姿は、鈴鳴にとってとても愛おしいものなのだから。

 そしてルゥの其の手は、『力』を掴み取る。

 

「だから……私に、『力』を……!」

 

 彼女が吼えた、その瞬間……ビシリ、と『凍土』の刀身に入る、無数の皹。

 

<その想い、確かに……>

 

 そして聞こえた声は、それまで聞こえて来た声とはまるで違う、女性のような柔らかな声だった。けれどルゥは、その声がこの神剣のものだと本能的に理解していた。

 その間も刀身に入った皹は広がり続け──同時に膨大なマナが周囲の空間を満たしていく。

 柔らかく、優しく、されど冷たく、鋭い、怜悧なマナ。

 それを発するは、ルゥが手にする皹の入った剣。

 やがて、周囲に満ちたマナが急速に剣へと収束していき、まるで薄皮がはがれていくように、蝶が蛹から孵るように、皹の入った刀身が、剥がれ落ちていく。

 同時にルゥは己の身体が“創り変えられて”いるのを感じていた。

 “一にして全、全にして一”。ただその身一つをもって全てと成す、永遠たる者。

 そして──かつて『凍土』だったものは、その姿を現した。

 まるで白雪のような、汚れ一つ無い純白の刀身を持つ、一振りの大剣。その姿に魅入るルゥの脳裏に、再び声が響き渡る。

 

<私の名は永遠神剣第三位『雪華(せっか)』……この先連綿と続く永久の時を汝と共に。『青き氷精』よ……>

 

 それを聞いて、ルゥは「こう言う事か」と、かつてあの屋上で聞いたアネリスの言葉を思い出した。

 

 ──覚えておくがよい。想いの強さは力を(もたら)し、願いの力は奇跡を齎す。もしもぬしが先の言葉を違う事無く貫くのであれば──(いず)れ、凍れる大地にも華が咲こう──

 

 果たしてアネリスはこうなる(・・・・)事を見越していたのだろうか? ……本当に、彼女には感謝してもしきれない。……お陰で、まだ、戦える。

 そんな想いを抱きながら、ルゥは『雪華』を驚いた表情で自分を見る鈴鳴へと向けた。

 

「──待たせたな」

「……ふふっ。本当に……祐さんと出逢ってからは楽しいことばかりですよ。……失ってしまうのが怖くなってしまうぐらいに、ね」

 

 対する鈴鳴もまた『空隙』を構えて静かに微笑む。

 その笑みは、スールードが浮かべるような艶然としたものではなく、他者を見下すような冷然としたものでもなく、本当に、愛おしいものを見守るような、柔らかで暖かな笑み。

 そして次の瞬間には、彼女の雰囲気は“戦うもの”へと変化し、それを受けてルゥもまた、満身創痍の身体を叱咤し、『雪華』を手にした事により己の内から沸きあがるマナを、全身に張り巡らせていく。

 

「……永遠神剣第三位『雪華』が担い手……『青き氷精ルゥ』……参るっ!」

 

 ルゥの名乗りを受け、鈴鳴は一瞬驚いた顔をし、すぐにその表情を楽しげなものへと変えた。

 

「ここにきて永遠存在(エターナル)に至るとは……まったく、本当に……」

 

 ──楽しいことばかりですね。

 

 そして再び、刃は交わされる。

 

 

                  ◇◆◇

 

 

 対峙するユーフォリア、カティマ、希美の三人と激烈なる力、絶対なる戒の二人のエターナル。

 各々が武器を構えたところで、最初に動いたのは激烈なる力だった。

 

「ルゥオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 激烈なる力が発した咆哮。それはその場を包む赤マナを増大させる『煉獄の咆哮』にして、眼前の敵へ己が怒りを炎熱にしてぶつける『激昂の咆哮』だ。

 その雄叫びに応え、展開された赤マナはユーフォリア達の上空にて結実し、灼熱の塊となって天空より降り落ちる。

 それは着弾と同時に爆発を起こし──

 

「オオオオオオオオオオ!!!」

 

 直後再び発せられた咆哮は、大気に満ちた赤マナを連爆させる『炎熱の咆哮』。

 『激昂の咆哮』によって使用しても尚余りある、大気に満ちる赤マナは、激烈なる力の声が響き渡った直後、ユーフォリア達の周囲の空間で爆発を連続で巻き起こし、火炎と衝撃をまき散らした。

 ユーフォリア達はそれらの爆裂攻撃を、三人のブロックを重ね合わせるようにして、何とか防ぎきる。

 しかし二つの炎熱系神剣魔法による大規模な爆炎が晴れる間もなく、激烈なる力はその攻撃に耐える三人へ向けて踏み込み、右手の爪を振り上げた。

 繰り出されるのは自らの名を関する攻撃スキルである『激烈なる力』。ユーフォリアとカティマ達との間に爪撃が振り下ろされた直後、轟音と共に爆炎が轟き、衝撃波が吹き荒れる。

 それを咄嗟に跳んで躱した三人であったが、跳んだ方向は別であった。ユーフォリアは左へ、カティマと希美は右へ。そしてそのまま激烈なる力はユーフォリアへと踊りかかった。

 繰り出される拳を、鉤爪を『悠久』で必死に裁き続けるユーフォリアであったが、じわじわと押され、その立ち位置を後退させていく。

 激烈なる力の狙いは明白であった。つまりは、戦力の分断。

 それを証明するように、希美達に向けて、絶対なる戒が足を踏み出す。

 ユーフォリアが敵の狙いに気付き、何とか希美とカティマに合流しようとするも、激烈なる力はそうはさせじと、更に苛烈に攻め立てる。

 それを捌きながら、希美達へと視線を向けた、そこに見えたのは──。

 

「いくよ、じっちゃん! はああああ!! ルプトナキーーック!!」

 

 加勢しに来てくれたのであろう、絶対なる戒へと挑みかかるもう一人、ルプトナの姿と、ルプトナに続いて絶対なる戒に斬りかかるカティマ。

 チラリとユーフォリアへ視線を向けた希美が、一度こくりと頷く。

 ──私達は大丈夫。

 そんな声を聞いた気がしたユーフォリアは、希美へ強く頷き返し──激烈なる力に向けて、己が神剣を振りかぶった。

 

 

                  ◇◆◇

 

 

 絶対なる戒に対して間断なく攻撃を続けるカティマとルプトナ。そして絶対なる戒の攻撃を防ぎ、傷を受ければ単体回復魔法(アースプライヤー)範囲回復魔法(ハーベスト)でそれを癒す希美。

 一見すれば有利に進んでいるかに見える攻防であったが、三人の表情は優れなかった。何故ならば──。

 

「このっ……ランサー!!」

 

 ルプトナの攻撃スキルである、三連撃を叩きこむ『レインランサー』を受けた絶対なる戒は、蚊に刺された程も効いていないと言わんばかりにルプトナに向けて反撃してくる。

 それを後方に跳んで躱したルプトナは、忌々しげにその表情を歪めた。

 

「う~……全然効いてないよ~……」

「ええ……参りましたね……」

 

 ルプトナの愚痴にカティマが頷く。

 幾度かの攻防の後に、彼女達は自分達の攻撃がまるで通っていない事に気付いていた。とは言え全て、と言うわけではない。攻撃の中でも“貫通”効果のある、所謂『ペネトレイト』系の攻撃と、希美による攻撃は確かなダメージを与えているのだ。

 そしてそこから導き出される結論は、眼前の敵のブロックスキルには“青属性”と“黒属性”を無効化するプロテクション効果が付随している、と言うこと。即ち、ルプトナとカティマにとっては、相性が最悪の敵であった。

 さてどうしたものか、このままではジリ貧だ。そうカティマが思った時だった。それまでその右腕と一体化した氷の剣による物理攻撃一辺倒であった絶対なる戒が、初めて別の動きを見せる。

 絶対なる戒がその左手に掴んでいる己が頭を掲げると、その閉じられた瞳が開き、そこから発せられた“力”──『浄眼』の力がカティマ達を包む。

 

「くっ……これはっ……」

 

 それによってもたらされた効果は顕著であった。……マナを上手く練ることが出来ないのだ。

 一瞬混乱するカティマ達。そしてそれは絶対なる戒にとって、大きな隙となる。

 カティマ達が見せた隙を突き、絶対なる戒は右腕の大剣を振りかぶると、その刀身に膨大なマナを集中させた。

 繰り出される攻撃は、刀身に集められたマナによって眼前の敵を薙ぎ払う、己が名を冠するスキルである『絶対なる戒』。

 

「……っ……やらせる、もんかっ!!」

 

 揮われる暴虐の一撃に対して、マナを上手く練れないながらも何とか生み出したブロックによって受け止め、カティマとルプトナを護りきる希美。

 その彼女の心意気に応えるべく、二人が前に出て──再び掲げられる、絶対なる戒の頭部。

 再度閉じられていた瞳が開き、先程とは違う力が発せられた。

 それは、急速にカティマ達から『戦おう』と思う気持ち──戦闘意欲を削いでいく、『魔眼』の力。

 緊張を伴う生死を賭けた戦いの最中に、“戦う意志”そのものを削がれたことにより、致命的な隙を見せたカティマとルプトナ。

 そこに再び絶対なる戒が剣に膨大なマナを集め出した。

 繰り出されるのは明白だ。先ほどと同じ、暴虐たる破壊の一撃、『絶対なる戒』。──それによって二人の心中に“危機感”が首をもたげ、その危機感に誘発されるように「戦わねば」と言う思いもまた湧きあがり始める……が、一歩遅かった。

 唸る氷剣。迫る脅威を受け止めるための(ブロック)を張る時間も既にない。

 「ここまでか」と、一瞬諦めの念が湧き上がり──その二人の前に、先程の繰り返しのように、希美が飛び出した。

 共に今の『魔眼』を受けたはずの希美。だが、彼女はそれを耐え切り──否、その効果を超える意志を持って前に出る。

 迫り来る『絶対なる戒』に対して、希美もまた己が神剣たる『清浄』を振り上げ、練り上げたマナを解放した。

 

「月神の名の下に、星よ集い吹き荒れよ! 清浄なる光……ここへっ!」

 

 希美が繰り出したのは、彼女の最大の攻撃『スターストーム』。

 次の瞬間、希美を中心に、彼女と、そのすぐ後ろに居るカティマとルプトナを包み、護るように、まるでその名の通り星の光の如く煌びやかなマナの嵐が吹き荒れ、『絶対なる戒』と激突する。

 拮抗する嵐と刃。それでも矢張り相手はエターナルであった。

 じわりじわりと、その氷刃は星の嵐を切り裂き、希美達へと迫り来る。

 

「くぅうっ……私は、こんな、ところで、負けないんだからあああああ!!」

「ぽえー!」

 

 今もなお、周囲には戦い続ける仲間達がいる。時間樹(コノセカイ)に住む大切な人達を護るために、最奥へ向けて駆ける彼等がいる。そんな仲間達を想い、気炎を吐いた瞬間、その心に応えるように、彼女の肩にとまっていたちびものべーが咆哮を上げた。

 呼応するように一瞬『清浄』が輝き、星の嵐はさらに強く吹き荒れ──彼女等に死を齎すはずであった巨剣を跳ね上げた。

 大きく右手ごと剣を上げさせられ、体勢を崩した絶対なる戒。そして、その隙を逃すカティマとルプトナではなかった。

 例え戦闘意欲を削がれようと、これほどの希美の姿を見せ付けられ、奮い立たぬ者が在ろうものか。

 

「ルプトナ!」

「解ってる! 今度はボク達の番!」

 

 同時に駆け出すカティマとルプトナ。

 カティマから繰り出されるのは奥義『布都御魂の太刀(ふつのみたまのたち)』。

 

「一撃で制します。行きます!」

「じっちゃん、見てて! 今、必殺のぉぉ、……え~と、ルプトナナントカっ!」

 

 絶対なる戒が持つブロックスキルたる『絶対なる守り』は、黒と青のプロテクションを併せ持つために、本来であればカティマとルプトナの攻撃は通らないはずであった。だが、希美によって作られた大きな隙によって、そのブロックを形成する暇を与えないままに攻撃に移ることに成功していた。

 上段からの斬り下ろし、そこから斬り上げ、そして横薙ぎすると同時に刀身に篭められた黒のマナを解放して叩きつける。

 続くルプトナが放つは、その脚力を存分に発揮し、靴型永遠神剣『揺籃』による蹴りを無数に食らわせていく『ランページブルー』。……彼女の締まらない台詞に後ろで希美が苦笑していたのはご愛嬌か。

 カティマとルプトナの攻撃の嵐が過ぎ去ったそこには、片膝を付いて動かない絶対なる戒の姿が。さしものエターナルとはいえ、防御も取れないままにまともに攻撃を受ければひとたまりもなかったのだ。

 

「なっ……まだ……っ!」

 

 なれど、まだ。

 その右腕の氷剣は半ばから折れ、満身創痍の状況であるにもかかわらず、それでも絶対なる戒はゆっくりと動き出す。

 絶対なる戒は、立ち上がりつつその折れた氷剣を、己の眼前にて立ちすくむカティマとルプトナへと振り下ろした。

 

「うわっ! とお!」

 

 咄嗟に後ろに跳んだ二人。幸いにも折れて本来の長さに届かぬ短さであったが故に、剣は大地を叩くに終わった。だが絶対なる戒にとっては、今の攻撃が直接当たらずとも構わなかった。

 その巨体と膂力から繰り出される攻撃を叩きつけられた大地は破砕され、多数の破片をまき散らし、絶対なる戒は空中に飛んだその破片を、大剣を横薙ぎにして弾き飛ばす。

 瓦礫の弾丸。

 弾き飛ばされた飛礫はカティマとルプトナへと襲い掛かり、二人の全身をくまなく打ち据えた。

 

「ぐっ……かはっ」

 

 衝撃に吹き飛び、倒れ伏す二人。

 止めを刺そうとでも言うのか、完全に立ち上がった絶対なる戒は、倒れた二人に向き直り──その前に立ち塞がったのは、運良く今の攻撃に当たらなかった希美だった。

 今カティマ達へ回復魔法を使うわけには行かない。そんな隙を見せれば、間違いなく目の前の敵は切りかかってくるだろう。

 それに加え、度重なる魔法の使用と先程の『スターストーム』によって、希美の疲労もまた限界に近いものがあった。だが、だからと言ってここで退くわけには行かない。

 カティマ達と絶対なる戒の間に割ってはいった希美は『清浄』を構えて負けるものかと睨み付けた。

 そんな希美を嘲笑うかのように、ゆらり、と、絶対なる戒が左手に持った己が頭をゆっくりと掲げ──その瞳が、三度開かれる。


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