永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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107.戦闘、激化。

「ルォォォオオオオオオオ!!!」

「はあああ!!」

 

 振り下ろされる豪腕。襲い来る鉤爪と一体化した『激烈』と、ユーフォリアが振るう『悠久』から伸びた光の刃が交差し、激しい音を立てる。

 激烈なる力はその膂力に任せてユーフォリアを叩き潰さんとしながらも、必殺の一撃を見舞う機会を伺う。

 一方のユーフォリアもまた、スピードと小回りで激烈なる力を翻弄しつつ、全力の一撃を叩きこむ隙を捜していた。

 振り下ろされる拳を掻い潜り、薙ぎ払った刃は防がれて、突き出された爪激を跳ね上げ、繰り出したマナの炸裂(ライトバースト)は咆哮によって相殺される。

 繰り広げられる剣戟。一進一退の攻防。互いに隙をうかがいつつ切り結びながらも、決め手となる一撃を放てないままに、一合、二合と刃を重ねるユーフォリアと激烈なる力。

 幾度目かのぶつかり合い。その果てに互いの激突の威力に比例する様に二人の距離が空いた。

 一足で踏み込むには遠い位置であったがために、一度仕切り直しだと、ユーフォリアがふっと一瞬、そう、ほんの一瞬気を抜いた、その時だった。

 不意に背後にズンッと大地を振るわせる、ナニカが降り立ったかのような音がした。

 次いで感じるは、眼前の激烈なる力にも勝るとも劣らぬ濃密な気配。

 

「なに──」

 

 思わず振り向いたユーフォリアの目に飛び込んで来たのは、激烈なる力に並ぶほどに巨大な女性と思われるシルエットをしたモノ。

 けれど、普通の──その大きさを除いたとして──ヒトガタと呼ぶには憚られた。なぜならば、ソレには、あるべき場所に首が無かったからだ。

 そう、その女性の首は、己が左手に持たれていた。

 ──永遠神剣第三位『戒め』を擁するエターナル、『絶対なる戒』の降臨である。

 

「…………」

「っ!!」

 

 絶対なる戒は、その右手に持った大剣を振り上げ、無言のままにユーフォリアに向けて振り下ろした。

 ユーフォリアはそれを横に飛んで躱し──次の瞬間、それまで開いていた距離を一気に詰めてきた激烈なる力の鉤爪がユーフォリアを襲う。

 ユーフォリアは辛うじて、オーラフォトンバリアを咄嗟に張り、激烈なる力の一撃を何とか受け止める。しかし空中、それも体勢の崩れた状態ではまともに防ぐことは適わず、激烈なる力の攻撃の勢いは緩む事無く、オーラフォトンバリアごとユーフォリアは吹き飛ばされた。

 

「くっ……はっ……」

 

 凄まじい勢いで壁に背中を強打して呻くユーフォリアへ、恐らくは吹き飛んだ瞬間からその後を追っていたのであろう、肉薄した絶対なる戒の剣が振り下ろされる。

 まずい──。

 そう思いながらも何とか『悠久』を構えてその一撃を受け止めようとしたユーフォリアだったが、如何せん壁に叩きつけられた直後という状況が悪すぎた。

 幸いにも『悠久』を手放すような程ではなかったにしろ、ろくに力を籠められない体勢に流石にこれは無理かと、大きなダメージを食らう事を覚悟した彼女だったが、次の瞬間ユーフォリアの視界を覆ったのは、濃密なマナを纏った敵の刃ではなく、一人の少女の後姿だった。

 

「こんのぉ!」

 

 気合一閃、ゴシック調の戦装束(ドレス)を翻し、彼女──希美の眼前に張られた強固なブロックは、絶対なる戒の凶刃を完璧なまでに受け止める。

 周囲の空間に響き渡る轟音。絶対なる戒の剣と希美のブロックが激突した余波が周囲に吹き荒れ、続けざまに振るわれた絶対なる戒の一撃を、その余りの勢いに立ち位置を僅かに後退させられつつも希美は防ぎきる。

 絶対なる戒は構わぬとばかりに再度剣を振り上げ──希美の横をすり抜ける様に黒の剣姫が躍り出た。

 

「参ります!」

 

 カティマの神剣『心神』に極限まで篭められたマナ。そこから繰り出されるのは、彼女の秘奥義とも言える攻撃。

 斬り下ろしからの斬り上げ、そして横薙ぎへと移る三連撃と共に、神剣に篭めた黒マナを開放して叩きつける『布都御魂の太刀(ふつのみたまのたち)』。

 希美に対して更に攻撃を加えようとしていた絶対なる戒は、カティマの攻撃を剣を盾にして受け止めるも、勢いに押されてその身を後退させ、彼我の間に距離が空いた。

 その間にユーフォリアは体勢を整え、希美の単体回復魔法(アースプライヤー)によってダメージが消されると、再び『悠久』にマナを篭めた。

 立ち並ぶ激烈なる力と絶対なる戒。対するはユーフォリア、希美、カティマ。

 戦いは更に激しさを増して行く。

 

 

                  ◇◆◇

 

 

 激闘を続けるユーフォリア達と根源を護るエターナル達。そしてサレス達とエターナルミニオン達。それらとは正反対に、最後の一組であるミゥ達クリストの巫女とスールード……否、鈴鳴との戦いは、静かな睨み合いが続いていた。

 最初に軽い牽制の様なぶつかり合いを経てからの膠着状態。この状態の原因は、互いに相手に違和感を感じているため、であろうか。

 鈴鳴から見ると、怨敵ともいえるスールード(じぶん)と相対しているにも関わらず、余りにも消極的すぎるクリスト達の様子が。

 ミゥ達からすると、目の前の人物から感じられる雰囲気が、空気が、気配が……余りにも『スールード』とはかけ離れて(・・・・・)いることが、互いに攻め手を鈍らせる要因となっていた。そう、まるで──“初めて会った時の彼女”のような、そんな雰囲気が。

 であるが故に、ミゥの口からその疑問が出たのは必然と言えようか。

 

「貴女は……『誰』ですか?」

「私はわたし(スールード)。それ以外の何者でもありません、よ?」

 

 やもすれば、まるで意味の通らぬ問い。

 対して鈴鳴は、しばしの思案の後にまるで試す様な表情を浮かべ、言葉を返す。

 だがそれに、ミゥは頭を振り、否定の意を向ける。

 

「……違う。貴女は、『スールード』じゃない……」

「ふっ……ふふふっ……あははははははははは!!!」

 

 ミゥの言葉を受けて、一瞬きょとんとした鈴鳴は、直後堪え切れないというように笑い出した。楽しそうに。嬉しそうに。そう、やっと“そこ”に辿り着いたか、そう言わんばかりに。

 

「くっ……ふふっ……ええ、確かに今の私の在り方は、本体(スールード)と同じとは言い難いかもしれません、ね」

 

 鈴鳴の言葉に、一体どう言う事かと訝しげな表情を浮かべるクリスト達。

 そんな彼女達の表情を見て、もう一度楽しそうに笑って、鈴鳴は言葉を続ける。

 

「私は確かに『スールード』の分体です。ですが……どうやら少々“影響”を受けすぎてしまったようで、“我”が強くなってしまいまして。つまり……その精神的なり在り方や考え方が、少々本体(スールード)から乖離しているんですよ。……『スールード』の分体で在りながら、『スールード』とは相容れぬモノ……そんな歪な存在が今の私です」

 

 ですから、今の私は『スールード』ではなく『鈴鳴』と呼んでくださいね?

 そう続ける鈴鳴の表情は、やはり楽しそうな雰囲気だった。

 

「でも……どうしてそんな事に……?」

 

 鈴鳴の語る彼女の現状を聞いたポゥの口から漏れた疑問。それが耳に届いた鈴鳴は、小さく一言「まあいいでしょう」と呟いてから、再び言葉を紡ぎだす。

 

「絶望的な状況において尚抗い、そして散り行く人の姿……抗って、抗って、けれど届かず、最後には“絶望”する。その姿こそ、愛おしく美しい……私はずっと、そう思っていました。ですが、いつからかそれが少しだけ、変わっていました」

「……それは?」

 

 先を促すルゥの言葉に、鈴鳴は「何か」を思い出すかのような仕草の後に、一度小さくくすりと笑みを浮かべた。

 

「……絶望的な状況において尚、それに抗い、そしてその困難を“乗り越える”姿。その命の煌きこそ、尊び、愛すべきもの。そう思うようになっていたんです」

「…………」

「ですが、それはあくまで『鈴鳴(わたし)』の考えに過ぎません。本体(スールード)の考えは今も変わっては居ないでしょう。……ふふっ、もう解りますよね? 私がこんな考え方をする様になってしまった理由。分体(すずなり)本体(スールード)から乖離してしまった、その原因が」

 

 鈴鳴の言葉を聞いて、ミゥ達の脳裏に真っ先に浮かんだのは、一人の男性。そしてその予想は間違っていないだろうという予感もまた。

 だが、その答えを誰かが口にするよりも早く、鈴鳴が降ろしていた剣を構える。

 

「……さて、もういいでしょう? 再開といきましょうか」

 

 一瞬、ミゥ達の中に浮かぶ戸惑い。……今の彼女ならば、無理に戦わなくともいいのではないのか、と言う、思い。

 だがそれを見透かすように、鈴鳴は鋭い殺気を織り交ぜた気配を発し、ミゥ達へと叩きつけた。

 

「……先程私は、抗い、乗り越える姿が愛おしいとは言いました。ですが、事この戦いに関しては、それは忘れた方が身のためですよ? 何故なら──」

 

 その手にする剣を振りかぶり、鈴鳴は言う。ひたとクリストの巫女達を見据えて。……青道祐(かれ)と共に在る事のできる……“この先”も、彼を支えていくことの出来る彼女達を見据えて。

 

「──これはただの、八つ当たりですから」

 

 かくて、言葉が空間を統べる時間は終わり、剣戟鳴り響く時間が再び幕を開ける。


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