永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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102.幕間、がんばれのぞみん。

「そういえば、『根源区域』に向かうのはいいとして、場所って解るんですか?」

 

 とりあえず今後の方針が決定した後、出発を明後日に定めたので、一度解散しようかと言う時にふと永峰が疑問の声を上げた。

 彼女がそれを疑問に思うのも当然だろう。何しろ向かう為の足となるものべーは彼女の神獣なのだから。

 ちなみにこの世界に急いで戻ってくるために無理をしてくれたらしく、明日一日はものべーにたいする休養日である。道理で予想よりも遥かに早く帰ってきたわけだ。

 もちろん俺はその座標を知ってはいる。知っている……のだが、流石にそれは自分からは言い出せなかった。座標を得た方法というか理由というかがまあ……皆まで言うまい。

 とはいえ結局誰も知りませんでした、じゃ洒落にならんので、他に誰も居なければ俺が名乗り出ねばならないだろうが。……そういや“原作”だとどうだったんだっけか。

 なんて思った矢先だ、世刻が一瞬頭を抑え、それを見て取った彼のレーメが「どうした、ノゾム?」と心配げな声を掛けたところで、顔を上げた世刻が言った。

 

「……ん、ずっとエト・カ・リファの側に閉じ込められていたらしくて、どうやらジルオルが知っているみたいだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、“彼”と“彼女”のこの先を予測したのだろう、幾人かの──神剣さんとか会長さんとか女王様とか大統領とか野生児とか──の顔つきが変わったのを俺は見た。恐ろしい。

 そして同じ事を考えたのか、永峰が「へ? ……ふぇえええ!?」と驚いた声を挙げると、それを聞いた世刻が、どうやら永峰の驚きを否定的なものに捉えてしまったのか、少しむっとした表情を浮かべた。

 その世刻の反応をしっかりと目に留めたのだろうか、会長さんと野生児の表情が……その、なんというか、にやりと。いやほんとお前等怖ぇよ。

 

「……希美ちゃんが嫌がってるし、無理強いはダメよね?」

「だよね。無理矢理は良くないよねぇ」

「んなっ……!」

 

 かつての自分達を棚に上げていけしゃあしゃあと言う二人に絶句する永峰。

 それでも彼女は負けじと声を振り絞る。

 

「け、けど、ほら! 他に座標を知ってる人も居ないみたいだし!」

 

 そう、世刻──俺は名乗り出る気が無いので除く──以外に根源の座標を知る者が居なければ、結局の所世刻から座標を受け取らなければいけないのだ。そして事ここにいたって座標の受け渡しにアレ以外の方法が示されない以上、きっとアレが一番手っ取り早い方法なんだろう。

 さて、この女の戦いを制するのは誰か。

 ……なんてちょっと楽しくなってきたのが悪かったのだろうか、カティマが「そういえば……」と言って、チラリと俺を見てきた……なんだ?

 

「もともと『根源区域』に行くと言っていたのは祐ですが、祐はどうやって行くつもりだったのでしょうか?」」

 

 言葉を紡ぎながらツカツカと歩いてきて、俺の前で止まってから、じっと見つめて「もしや、座標を知っているのでは?」と問いかけてくるカティマ。

 彼女から発せられる言い知れぬ迫力に、俺は思わず「お、おう」と頷いていた。

 その直後──目の前のカティマ越しに、ガッツポーズする一部の方々の姿が目に入ると同時に、ソルがふと疑問をぶつけてきた。

 

「……って言うか、何で知ってるんだ?」

「ん、ああ、鈴鳴がくれ…………あ」

 

 口が滑った。

 次の瞬間、俺の目の前にいたカティマを押しのけるようにして「……今、少々聞き捨てなら無い言葉が聞こえた気がするのだが」とルゥが詰め寄ってくる。

 

「……祐。エヴォリアといい鈴鳴といい、きみはもう少し節操と言うものを持った方がいいのではないか? まったく、元敵だとか現在進行形で敵の相手とするぐらいだったらもっと先にしないといけない相手がいると思うのだが。……いや、解っている。きみの心に“渡り(アレ)”が引っ掛かっている以上、きみとそうなるには多少強引にでもこちらから行かねばならないというのは。……はぁ……やはりもっと積極的に動かねばならないだろうか……」

「ご、ごめんなさい」

 

 立て板に水を流す様にジト目で言ってくるルゥ。何か中盤以降から嬉しくも申し訳ない内容に移り変わっているんだが、俺が出来るのはとりあえず謝ることしかなかった。むしろ他に言う事があるんだったら教えて欲しい。

 

「……と、とにかく、ほら! 望君以外にも座標を知っている人が居た事だし!」

 

 口撃にさらされている俺の惨状に気圧されながらも、冷や汗を浮かべつつ、空気を切り替える様に言い放つ斑鳩。

 それに続いてナーヤが「ふむ」と相槌を打つ。

 

「それにしても、祐だったらのぞみも満更ではないのではないか?」

「へ?」

 

 ナーヤの言葉に続いて、ソルがおもむろに「あぁ、なるほどな」と頷く。

 

「確かに理想幹神に連れ去られた時も、望が幾ら呼びかけてもダメだったけど、祐の一声で我に返ってたもんなぁ」

「いや、あれはファイムが」

「まぁまぁ、照れない照れない」

「照れてないってばあ!」

 

 何だか酷く雲行きが怪しくなってきた。そう、永峰のみならず俺も。おかしい、どうしてこうなった。

 とりあえず先程までのゴタゴタは棚に上げて目の前のルゥと近くのミゥ達やフィアなんかに助けを求めようとしたその時、

 

「さ、望君からも一言っ!」

「えーっと……希美、よかったな?」

「がーん……う~……もう知らない! 望ちゃんのばかあ!! いいもん! 先輩、行きましょう!!!」

「ってこら、おい、永峰!?」

 

 がーっと憤慨した永峰は、ズンズンと俺に近づいてくるとおもむろに腕を取って引っ張っていく。

 「ああ、祐兄さんが希美ちゃんに攫われました!」なんてユーフィーの声が聞こえたので、引き摺られながら「ユーフィィィィ……」なんて手を伸ばしてみたり。

 

「先輩、バカやってないで歩いてください」

「はい」

 

 そしてのんびりと事態を見守っていた環さんへ「隣の部屋借りますっ!」と言うと──「はい、かまいません」とあっさり返された──そのまま部屋を出て隣の部屋へ。

 入ったのは、障子で仕切られた、四畳ほどの板張りの小さな部屋。

 その部屋へ永峰に押し込まれるように入り、部屋の中央辺りまで進んだところで──俺の前に立った永峰が小さく溜息を吐いた。

 

「……うぅ……先輩、どうしましょう……? それにしても、みんな勝手だよ。第一先輩だって、好きでも無い私とキスするのなんて嫌ですよね?」

 

 どうやら本気で勢い任せの行動だったらしい。

 とりあえず何も解っていない永峰の頭を、「ばーか」と軽く小突いてやった。はぁ、やれやれ。

 

「永峰……お前はもう少し自分に自身を持て」

「ふぇ?」

「仮に俺がする事になったとしたら……お前みたいな可愛い娘とキスできるのに、喜ばない訳が無い」

 

 そう言ってやると真っ赤になった。うむ、愛い奴。

 むしろ問題は俺よりも永峰の方だと思うんだが。

 

「……って言うか、それを言うなら永峰の方が、俺が相手じゃ嫌だろう?」

「そ、そんなことないです! ……って、えっと、その、うぅ……」

 

 やっぱり永峰としては世刻がいいよな、と思って訊いてみると、割と勢い良く否定される。

 そして口走った言葉の意味に思い至って、さらに顔を赤くする永峰。彼女のそんな反応に俺もびっくりだ。

 何となく気まずい雰囲気が漂ってしまったので、多少わざとらしくはありつつも、一度ゴホンッと咳払いをしてから「とは言え……俺から永峰に出せる提案は二つしかないんだが」と切り出した。

 

「……なんですか?」

「世刻は諦めて俺から座標を受け取るか、頑張って世刻から受け取るか」

「ですよね……はぁ」

 

 まったく、さっきまでの勢いはどこに行ったんだか。

 さっきまでとうって変わってしょんぼりとした様子に苦笑しつつ、何となくいつもユーフィーやミゥ達にする様に、その頭に手を置いて軽く撫でてやると、「あぅ」と小さく声を上げた。

 

「とにかく、座標の入力は出発ギリギリになっても大丈夫なんだから、最後まで頑張ってみろよ。それでももし、万が一ダメだったら……かつての斑鳩やルプトナのよりすんごいのをくれてやる。覚悟してろ」

 

 そう言うと「うぅ」と小さく唸る永峰。当時の斑鳩とルプトナの所業を思い出したんだろうか。次いで俯いていた顔を上げて俺の顔を見て──ボンッと音がしそうなほどに赤くなる。何を想像したんだか。

 それでようやく「じゃあ、頑張って望ちゃんからもらわないといけませんね」と、笑顔を見せてくれた。


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