永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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99.交戦、激戦。

「時深様、ご無事ですか!?」

 

 背後に庇った時深の元へ綺羅が駆け寄る音がする。

 それを背中に聞きながら、眼前に立ち並ぶ敵達を見やる。

 ユーフィーに吹っ飛ばされて来た目玉の怪物、その姿から判断するに『業火のントゥシトラ』だろうそれは、何を考えてるか解らないが雰囲気的には怒ってるように感じられる。

 そして双剣を持つ優男。メダリオと呼ばれていたので『水月の双剣メダリオ』で確定か。こいつは不快そうな表情を隠そうともせずに浮かべ、俺を睨んできている。

 まぁ、先の会話から俺が受けたのが奴の持つ必殺の『流転』である事は解っているし、己の最強の技を受けて平然とされれば無理も無いだろうか。

 ……実のところ、『流転』の威力が強過ぎて、一瞬“鞘”に収め切れなかった余波が漏れ出してしまったという、割とギリギリな状況だったりするんだが。まぁ、直ぐにナナシが回復させてくれたし、『流転』自体も既に“剣”として外に出しているからもう問題は無いけれど。

 そして最後の一人、見た目は白いローブの可愛らしい幼女なのに、その中身は……と言う『法皇テムオリン』。彼女は俺の名乗りを受け、一瞬目を見開いて驚愕の表情を浮かべた後は無表情。何を考えているかよく解らん。

 この時間樹にナルカナ……『叢雲』以外の一位神剣が居る事への驚きと疑念、と言ったところだろうか。

 果たして、今の俺の名乗りは本当なのか、と言う。

 

「……祐、さん? 何故ここに……?」

 

 信じられない、と言った雰囲気でポツリと問いかけてくる時深。そんな彼女に「何馬鹿な事言ってるんですか?」と言ってやると、「……え?」と戸惑った声音で一言返ってくる。

 ……まったく、訊くまでもないだろうに。

 

「助けに来たに決まっている」

「な……そんな、理想幹から、ここまで……?」

 

 呆然とした様子の時深の言葉に思わず苦笑が漏れる。

 だってその理想幹まで助けを求めに来られてしまったんだ、応えないわけにはいかないだろう。

 あの時、「時深様を助けて」とすがり付いてきた綺羅を宥めて話を聞くと、イャガの侵入を確信できた時深が俺達の元へ助太刀に来ようと、理想幹に『門』を繋ぐ準備を整えたその時、テムオリン達の襲撃を受けたと言う。

 戦いの最中、時深はせめて綺羅だけでも、と、その時直ぐに『門』を繋ぐことの出来た理想幹へ彼女を逃がし、だが綺羅はそこで目の前に俺が居る事に気付いて、俺ならばと助けを求めたそうだ。

 それに対して俺達が否と言うはずもない。何より『写しの世界』には、学園の皆が居るのだし。

 とは言え理想幹において俺達の目的が全て達せられていたわけでもなく、時深の援軍には俺とユーフィー、ミゥ達クリストの皆のみで行く事にし、世刻達には斑鳩の救出を頼んだ。

 俺達は綺羅が通ってきた『門』が未だ繋がったままであったので、それを通って『写しの世界』へ。世刻達は斑鳩救出後、ものべーで帰って来ることに。そして今に至るということだ。

 俺はテムオリン達に視線を向け、“剣”を構えたまま時深に言う。「当たり前だ」と。

 

「綺羅に頼まれたからってのもあるけど……時深さんがピンチだって時に、助けに来ないわけがないでしょう?」

 

 な? と隣のユーフィーへと振ると、「当然ですっ!」と力強く頷くユーフィー。

 

「っ! ……ぅ、その……ありがとう、ございます……」

 

 小さな声で、それでもはっきりと聞こえる声で礼を言う時深。

 そんな俺達のやり取りを見ていたテムオリンが、「くくっ」と小さく笑みを漏らした。

 

「あらあら……こんな殊勝な時深さんが見られるとは思っても見ませんでしたわ」

「う、煩いですよ、テムオリン!」

「そう、それにしても……その犬のお嬢さんが連れてきた援軍ですか。ですが……私達にばかりかまけていて良いのですか? ントゥシトラさんにはエターナルアバターも一緒に着いて行きました。ほら、ここでこうしている間にも、この世界が蹂躙されているかもしれませんわよ?」

 

 一度俺の背後の綺羅へと目を向け、再びこちらを向いて言葉を吐くテムオリンの視線は、俺達がどんな反応をするのか探っているように感じられる。

 確かにテムオリンの言う様に、エターナルアバターが街に出ていれば、今頃は大惨事となっているだろう。だが──

 

「何、それなら問題はない」

 

 テムオリンに対する返事は、俺ではなく、その後ろ──時深と綺羅よりもさらに後ろから聞こえた。

 

「そちらは全て片付きました。後は貴女達だけです」

 

 声と共に近づいてくる、複数の足音。

 振り向いて確認するまでもない。信頼すべき俺の仲間──クリストの巫女達。

 彼女達の姿に、自分の予想と違う結果が察せられたのだろう、苦々しげにテムオリンの表情が歪む。と、同時に半ば諦めの顔もまた。

 

「……あれだけのアバターをこの短時間で斃しきったのですか……まったく、予想外の戦力もあったものですね……ふむ。とは言え、ここで素直に退くのも少々癪というもの」

 

 そう言いつつ、俺に向けてその手にする杖型の永遠神剣『秩序』を向けてくるテムオリン。

 

「『第一位』を謳う貴方の実力……試させていただきますわ!」

 

 そしてそれが振るわれると同時、俺の周囲の空間に、俺を取り囲むように複数の“剣”がその切っ先をこちらに向けて現れた。

 それらから感じるのは『神剣反応』。

 

「っ! 祐さん、気をつけて! あれはテムオリンが所持する永遠神剣です!」

 

 背後から聞こえる時深の声。

 それで思い出した。確かテムオリンは、三位以下の神剣をコレクションしているんだったか。そしてこれは彼女の持つ『秩序』を媒介にしてそれらを呼び出し、対象にぶつける攻撃か。

 その答えに思い至ると共に、背後に居る時深と綺羅、ミゥ達を覆う様に精霊光の障壁(オーラフォトンバリア)を展開。そして俺と同時に隣に居たユーフィーもまた、俺と重ねる様にオーラフォトンバリアを張るのを感じた。

 直後、そこに突き刺さる神剣達。

 それらは篭められたマナを急速に高め、着弾と同時に爆発。周囲に衝撃波を撒き散らすも、俺とユーフィーによって二重に張られた障壁によって、爆発の影響は防ぎきる事が出来たようだ。

 

「……貴方は少々気に入らない。なので、死んでください」

 

 安心するのも束の間、先の流転を喰らってほぼ無傷だった事が余程面白くなかったのか、そんなん知るかと言いたくなる台詞と共に、爆炎が晴れる間も無くメダリオが『流転』を構えて突っ込んでくる。

 それに対して“剣”を構えて迎え撃とうとする俺だったが、それよりも速く俺の横を駆け抜けるルゥ。

 彼女は俺に対して振るわれるメダリオの『流転』を迎撃するように、俺とメダリオの間に割り込むとその手にする神剣を振るう。

 

「はぁぁあああ!!」

「ちっ!」

 

 裂帛の声と共に振るわれた大剣がメダリオの双剣とぶつかりあって火花を散らし、メダリオはその勢いを止められ、忌々しげに臍を噛む。

 その一瞬の隙を突いて、いつの間に回りこんだか、メダリオの背後から迫るゼゥ。

 静かに、されど鋭く振るわれるゼゥの『夜魄』にギリギリで気付いたメダリオは咄嗟に横に飛んでそれを躱した。

 そこを追撃しようとポゥとワゥが動いたその時、俺達全員を囲む様現れる大量の“目玉”。

 

「グル、アァァァァアアアァァ!!」

「くっ、防御を!」

 

 ントゥシトラの咆哮と共に赤熱する目玉。

 動けない時深とその側に寄り添う綺羅を庇うように覆いかぶさりながらオーラフォトンバリアを張ると、俺に続いてユーフィーとミゥもオーラフォトンバリアを、ワゥが理力の盾(マインドシールド)を、ポゥが大気とマナの壁(ブレイブブロック)を展開するのを感じ、その直後、周囲の目玉が連鎖的に爆発を起こす。

 轟音を立てて爆炎が俺達を包み込み、腕の中の綺羅がビクリと身を震わせ、時深が小さく身じろぎするのが感じられて、少し腕に力を篭めて、二人に「大丈夫」と言うと、小さく「……はい」と返って来た。

 『調和』の能力も有って俺は無傷だが、皆は多少の傷を負ったらしい。とは言え今の不意を突かれた爆発に対してそれで済んだのだから僥倖だろう。

 俺は二人から離れ、爆発による煙が晴れる前に敵へ踏み込む。

 

「ノーマ」

 

 呼びかけに「みぃ」と応えたノーマによって、瞬間的に強化された視界。それは煙すらも見通し、俺の視線の先に標的たる敵──メダリオの姿を映し出す。

 それに向けて踏み込む一歩。

 俺の気配に気付いたか、煙の向こうのメダリオが迎撃しようと両手の『流転』を構えるのが“視”えたが、構わず更に踏み込む。

 足元で炸裂するオーラフォトンを推進剤に、一気に加速し、爆煙を駆け抜けてメダリオへ肉薄する。

 それに合わせて、カウンター気味に振るわれる『流転』。俺の姿は見えていなかったろうに、腐ってもエターナル、か。だが!

 

「レーメ!」

「任せよ! 『ゲイルランサー』!」

 

 振り下ろされる『流転』にぶつける形で放たれたレーメによるアーツ。

 神剣魔法ともスキルとも違うそれには、流石に咄嗟に対処することはできなかったのだろう、本来は指向性を持った激風を相手の体全体へとぶつけ、吹き飛ばすそれをただ一点、獲物を振り下ろそうとしていた右腕にぶつけられたメダリオは、一瞬堪えるもその腕を上方へと大きく弾かれ、致命的な隙を晒す。

 その空いた胴へと“流転の剣”を横薙ぎに薙ぎ払う様に叩きこむ。

 咄嗟に差し込まれたメダリオの左腕に握られた『流転』の片割れ。

 それと俺の手にする“剣”がマナとマナがぶつかり合い、弾ける音を響かせながら鍔迫り合い、

 

「おおおッ!!」

 

 思い切り振り抜いた俺の一撃は、体制の崩れていたメダリオへ浅く入りながら吹き飛ばす。

 その先に回り込んでいたミゥの、その手にする『皓白』の先端にマナが光となって集り、彼女の胴体ほどもあろうかと言う巨大なハンマーへとその姿を変え──

 

「ハァッ!!」

 

 吹き飛んできたメダリオへと叩きつけるミゥ。

 ズバンッと何とも痛そうな音を響かせて、地面を転がるように更に吹き飛ぶメダリオ。そしてそこに更に叩きこまれる石柱群。

 その石柱はメダリオにぶつかると同時に爆裂音を響かせて炸裂し、メダリオへ衝撃と礫を叩きつける。

 

「ぐっ……はっ……」

 

 俺の負わせた傷は浅い、とは言え俺が手にするのは奴自身の強力無比なる“流転”を剣にしたもの。その一撃は見た目以上に重いものとなっただろう上にミゥとポゥの追撃だ。流石にメダリオの表情が目に見えて歪んでいる。

 その間視界の端に移るのは、ントゥシトラへと切りかかるユーフィーとルゥ、そして二人を援護するように動くゼゥとワゥ。

 ントゥシトラが目玉を召喚して爆発させる中、それを華麗に掻い潜って連撃を浴びせるユーフィーとルゥ。

 特に刀身が氷雪に包まれた『凍土』は、炎の力を内包し操る、ントゥシトラにとっては戦いにくい相手だろう。

 

「フシュ、グシュルルウウウウ!!」

 

 ントゥシトラが蠢き、ユーフィーとルゥの居る地点を中心に巨大な目玉を召喚する。

 そこからあふれ出す業炎。そして巻き起こる爆発。

 流石に今のはマズイだろう、そう……まともに喰らっていれば、だが。

 

「くっ、ワゥ、助かった!」

 

 爆発の直後、そう言いつつ飛び出したルゥは無傷とは言えないが、致命傷には遠い様子である。

 そう、目玉が召喚された瞬間、ワゥが飛び込んでマインドシールドを張り、ルゥを守ったのだ。

 煙に巻かれて「けほっ」と少し咳き込みながらも「うんっ」と大きく頷くワゥ。

 再度ントゥシトラへ肉薄したルゥが『凍土』を振りかぶり──それに備えて動いたントゥシトラだったが、突如足元に広がった“闇”が爆発を起こし、その巨体を傾がせる。

 

「ルゥ姉さま! ユーフィー! 今!!」

 

 『カオスインパクト』によって攻撃のチャンスを創ったゼゥの声に応えて、ルゥが刀身を氷に包んだ『凍土』を叩きこみ、ントゥシトラがその一撃に大きく怯んだ隙に飛び込むユーフィー。その身はルゥと同じく先の爆発による傷を負ってはいたが、それでもその動きに精彩を欠く事は無い。

 

「氷晶の青、輝閃の白! その完全なる調律よ! 『パーフェクトハーモニック』!!」

 

 斬り下ろしから振り上げつつの跳躍、そして叩きつける斬撃……『プチニティリムーバー』から『プチコネクティドウィル』への連携だ。

 叩きつけられた強烈な一撃によって大地に伏せるントゥシトラ。どうやらノックダウンしてくれたか、一時的にでも戦線離脱になりそうだ。

 残るは……手傷を負ったメダリオと無傷のテムオリンか。

 そう思った時だ。

 

「……思っていた以上にやるではありませんか。そう、特にそこのお嬢さん方」

 

 そう言って、ミゥ達クリストの巫女へと視線を向けるテムオリン。

 続いて彼女は、すっとその手にする『秩序』を掲げ、言葉を紡ぐ。

 

「ですが……ここまでです。わたくしからあなたがたへ贈るもの。絶対的な破壊だけですわ。……覚悟なさい!」

 

 テムオリンの言葉と共に急速に練り上げられるマナ。そして振り下ろされる『秩序』に誘発され、そのマナが炸裂する──この、タイミング!

 

「解放、『流転』!!」

 

 俺は手にする“流転の剣”を解放し、その内に篭められた“流転”を撃ち放つ!

 

「なっ! これ、は……っ!」

 

 それは正しくその効果を発揮し、テムオリンの練り上げたマナを拡散させながら、蒼き閃光が彼女へと降り注ぐ。

 

「くぅぅぅああああ!!」

 

 閃光に貫かれ、炸裂するマナにテムオリンが苦悶の声を上げる。

 だがそれでも、恐らく俺の放った“流転”が完全じゃなかったのだろう、辛うじて生きている辺りは流石といえるのか。

 テムオリンはその身体を何とか起こし、その横で同じく起き上がったメダリオに支えられながら、忌々しげな表情を俺へ向けてくる。

 

「……やって、くれ、ますわね……。さすがにこれ以上は……無理、ですわ」

 

 「キュル」と弱々しげな声を漏らして起き上がったントゥシトラがテムオリンの横へと戻る。

 それを待ってテムオリンは自分達の背後に“門”を開いた。

 

「……貴方のこと、覚え、ましたわ。……この借りは……いずれ」

 

 その言葉を残し、テムオリン達はこの場を去っていった。

 ……俺としてはもう会いたくないものだ。

 そんなことを思いつつ、事態がひと段落ついてくれたことに、やれやれと息を吐いた。


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