永久なるかな ─Towa Naru Kana─   作:風鈴@夢幻の残響

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9.作戦説明、行軍開始。

 アズライールを奪還する為に挙兵する事が決まった後、ブリーフィングにて、その作戦の概要が説明された。

 最終目標は言うまでもなく、パルター湖畔の街、アズライール。そしてそこに向かう道は二つ。森を挟んで北部にあるシーズーの町を経由するか、南部にあるラダの町を経由するかだ。

 だが、そこでカティマがとんでもないことを言ってくれやがりました。

 

「……我々はこれよりアズライールに侵攻するのですが、そこへ向かう道はシーズーを通るかラダを通るかの二通りがあります」

 

 広げられた地図を指し示しながら語るは、反乱軍の大将、クロムウェイ。カティマの側近だ。

 側近が大将ってのも不思議なもんだが、要はカティマは象徴みたいなもんなんだろう。確か彼女、アイギアのお姫様だし。

 

「報告によりますと、そのどちらにも鉾と兵士が配されているのですが……どうやら、比重としてはシーズーの方には鉾が多く、ラダの方には兵が多く配されているようなのです」

 

 そこまでクロムウェイは言うと一度言葉を切り、そしてその後をカティマが続ける。

 ちなみに、鉾というのは、この世界におけるミニオンの呼び名である。名前が違うだけで、中身が変わるわけではないのだけど。

 

「本来であれば、一刻も早くアズライールに着く為に、ラダを一点突破して行きたいのですが……シーズーをそのまま残すと言うのは、後顧の憂いを残す事になります。下手をすれば、鉾の大部隊に後背を突かれる恐れもあるでしょう。

 では、鉾の多いシーズーを攻め落とし、アズライールへ向かうかと言われた場合に浮上する問題は、四人の神剣使い全員で向かわねば時間が掛かりすぎる、と言うところでしょうか」

 

 そこで一度言葉を切ったカティマは、「ここまではいいですか?」と俺達に問いかけ、全員がそれに頷いたのを確認したところで言葉を続ける。

 

「仮にシーズーを全力で落とし、ラダを放置した場合も前述と同じで、ラダの部隊に後背を突かれる恐れがあります」

「まとめますと、ラダにしろシーズーにしろ、どちらかを集中して攻めれば敵の残存兵力が脅威になり、かといって部隊を別ければ時間が掛かりすぎる、というのが我々の現状になっております」

 

 カティマの言葉を次いで発せられたクロムウェイの台詞に、この場に居る全員の表情が翳るのが解る。

 

「俺達がシーズーを攻めて、ラダは兵士に抑えてもらう、っていうのは?」

 

 これならどうか? と出された世刻の意見には、カティマは申し訳無さそうに首を横に振った。

 彼女が言うには、神剣使いでもない一般兵では、少数と言っても鉾が相手ではどれほどの犠牲がでるか想像もつかない、と言うことらしい。

 

「流石にそこまで兵力を損耗するわけにはいきません」

 

 そう続けたカティマに対して、世刻が「そっか」と納得して頷いたところで、カティマが不意にその視線を俺に向けてきた。

 その視線から感じるのは、たった一つ。言うなれば「期待」だろうか。

 ……ああうん、何か展開が読めた。なんというか、勘弁してくれ。

 

「……ですが、我々にはダラバの予想もつかない様な戦力が居ます」

 

 この時点で、斑鳩はカティマの視線と言葉の意味に気づいたのだろう。カティマの顔を驚愕した顔で見ると、次いで俺の方へ顔を向けた。……こっち見んな。そしてカティマ。それ以上言うな。

 そんな俺の願いもむなしく、カティマは確と俺の目を見つめ、言葉を続けるために口を開く。

 

「……祐。ラダの町は、貴方にお任せしたい」

 

 やっぱりか。

 ……ホント、勘弁してくれ。

 ……結局──その作戦で行く事になったのは言うまでもない。

 斑鳩には「ホントに大丈夫?」と訊かれはしたが……カティマに「貴方ならば可能だと信じています」とか真正面から言われたら、やるしかないだろうが。

 

 

◇◆◇

 

 

「……先輩、大丈夫かなぁ……?」

 

 シーズーの町へ向かう道すがら、ぽつりと漏らされた希美の呟きを耳に留めたカティマは、不思議そうな表情を浮かべて希美へと顔を向けた。

 

「ラダに居る鉾の数はそう多くは無いと報告を受けています。彼程の戦士であれば問題はないでしょう?」

 

 カティマがそう言うと、沙月達三人はきょとんとしたあと、思わず顔を見合わせる。

 その時点でカティマは「何かおかしい」と感じており──一方の沙月達もまた、カティマの認識に違和感を感じていた。

 

「ねえカティマ、青道君ほどの戦士って……なんでそう思ったわけ?」

 

 「まさか」と言う雰囲気で問いかけてくる沙月に対し、カティマは首を傾げて自身の考えを述べ始める。

 つまりは、確かに神剣は持っていないと聴いたが、それにも関わらず魔法を使えて鉾を相手取る事ができる上、さらには出会った時にあれほどの激戦の只中に居たのだから、さぞ有能な戦士なのだろう、と言うことである。

 そのカティマの考えを聞いた三人は、もう一度見合わせ……沙月の口から、カティマにとって衝撃的な言葉が返された。

 

「……あのね、カティマ? 青道君は、確かに魔法は使えるけど、少し前に、魔法が使える様になったのはつい最近だって聴いたし、魔法で強化しなかったら、身体能力は一般人と変わらないらしいわよ。

 ちなみに、あの時の戦いの事を後で訊いたら、『正直いっぱいいっぱいだった。途中で強化魔法が切れた時は死ぬかと思った』って言ってたわ」

 

 苦笑を浮かべながら告げられた沙月の言葉に続き、更に望が口を開く。

 それはカティマにと言うより、その場に居る全員に言う様な感じで。

 

「……あの時戦闘が終わった後、写真とっただろ? ……先輩がシャッター代わってくれた時に気づいちゃったんだけど、あの時先輩、震えてた」

「それって……」

「うん、多分、先輩も怖かったんじゃないかと思う。……なんか、生身で魔法なんて物が使えて、何だかんだで余裕のある雰囲気だから解り難いけどさ……考えてみれば、先輩だってついこの前までは普通に学生してたんだとしたら、当然なんだよな、怖いのなんて」

 

 ──……私は、もしかしたらとんでもない事を頼んでしまったのではないでしょうか?

 そんな想いが浮かぶカティマだったが、そこでふと疑問が湧き起こる。

 

「……なぜ、皆はそんなに落ち着いていられるのですか?今の話を聴くと……その、私はとても大変な事を祐に頼んでしまったと思うのですが?」

 

 そんな彼女の疑問に、沙月達三人は再度顔を見合わせ、今度は同時に「ふふっ」と小さく笑みを浮かべた。

 

「まぁ、その為にも彼には『助っ人』をつけたし。それにそうね……彼、本当に出来ない事はハッキリ“できない”って言うだろうから……かな」

「そうだな。……俺も希美も、青道先輩との付き合いは短いけど……」

「うん、先輩が『やってやる』って言ってた以上、やってくれるって思います」

 

 恐らくは、三人共に根拠の無い理由。けれども彼等は、きっと大丈夫とカティマに言い切った。

 沙月達にとっても、『青道 祐』と言う人間は、まだまだ謎の多い人物だ。

 それでも、ここ数日彼と接してきた彼女達は、「彼なら大丈夫」と言い切れるだけの、ある程度の信用を置いていたからだ。

 そしてそんな沙月たちの言葉を受けて、カティマは迷いを断ち切るように、うん、と大きく頷いた。

 

 ──……そうですね。一度『信じる』と言って私が頼んだのです。その私が信じなくてどうすると言うのか。アズライールで合流したときに良い報告が出来るよう、こちらも頑張りましょう。

 

 そんな決意を篭めて、カティマはシーズーの町へと迫る。


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