ムササビくん成長日記   作:ショウラン

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当然の如く時事ネタ投下。


ex.ムササビとサンタクロース

ナザリックのとある一室。

ムササビを寝かしつける役を戦闘メイド(プレアデス)の六人に任せた者が一度にそこに集まる。

 

ナザリックの支配者アインズと、階層守護者達のシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴス、そして守護者統括のアルベド、執事(バトラー)のセバスが小さな部屋に集まった。

 

「皆、揃ったな?...よし、では始める」

 

()()()()を着たアインズが、開始の合図とばかりに、小さなベルをチリンチリンと鳴らした。

 

そう、本日はクリスマスである。

 

世界最大級の宗教を説いた者の誕生日であり、何故か日本では恋人と過ごす聖夜に成り果てたイベントだ。

 

だが、彼らがしようとしているのは正しいクリスマスだ。子供にプレゼントの夢を与える、素敵な日である。

 

「出席を取ります。まずは第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン」

 

「おりんすぇ」

 

サンタ服(女子達はミニスカサンタ服)を着たアルベドが名簿帳を開き、シャルティアを呼び返事が返ってきたのを確認すると、シャルティアの横にあるチェックマークに印を付ける。勿論、シャルティアもサンタ服だ。

 

「では次。第五階層守護者、コキュートス」

 

「コノ場ニ...」

 

コキュートスはサンタ服のコートにあたる部分を、前で締めることが出来ないため羽織っているだけだ。そのライトブルーの体は晒され続けている。

 

「なんだか、コキュートスが服を着ているのは違和感があるでありんすねぇ」

「ヤメテクレナイカ、シャルティア。ソレデハ私ガ変態ミタイジャナイカ」

 

「私語は慎みなさい」

 

「も、申し訳ないでありんす」

「ス、スマナカッタナ」

 

シャルティアの言葉に応答していたコキュートスは、申し訳無さそうに頭を垂れた。シャルティアも同様に目を伏せている。

 

アルベドは、ある程度二人を見ると、コキュートスのチェックマークに印を付けてから、一つ咳払いをする。

 

「コホン。では、次に。第六階層守護者、アウラ及びマーレ」

 

「なんで私たちだけ略されたのかが分かんないんだけど...はいはい、いるよ」

「います...はぃ」

 

アウラは普段の少年然とした服装ではなく、ミニスカートのサンタ服を着用しており、マーレは男であるにも関わらずミニスカートのサンタ服を着用している。

 

その二人に印を付け、アルベドは再び口を開く。

 

「次に、第七階層守護者、デミウルゴス」

 

「居ますよ」

 

デミウルゴスもサンタ服を着ているが、インテリコワモテな見た目のデミウルゴスではチグハグ感を感じさせる。

 

「最後に、セバス・チャン」

 

「はい」

 

デミウルゴスとは対照的に白い髪と白い髭、ガタイの良さからして非常にサンタ服が似合っているのがセバスだ。

 

アルベドやシャルティア、アウラにマーレは「サンタコスしてプリプリ~」みたいな雰囲気がするが、セバスは本職なのでは?と疑いたくなる程、様になっている。

 

最後にアルベドが自分とセバスに印を付けると、アインズの横に立った。

 

 

 

「お前達、よく集まってくれたな。その服、なかなか似合っているぞ」

 

アインズがサンタの帽子の先の方にある白い玉を揺らしながら、その骸の眼孔を仄紅く染める。

 

まさに支配者足る雰囲気を放ち、最も目を引く赤い装束は返り血のようである、と誰もが思うに違いない。

 

「アインズ様。このような素晴らしいお召し物をくださりまして、誠に有り難うございます」

 

『有り難うございます!』

 

アルベドが礼と共に跪いたのと同時に他の面々も同じように頭を下げた。

 

ユグドラシルでのクリスマスガチャで、やたらめったら出るのがサンタ服セットとトナカイ服セットだ。女服の物も容赦なく出るが、コレクターのアインズは何となく全部溜め込んでいたのである。

 

アインズは嫉妬マスクを12個、男サンタ服を9着、女サンタ服を8着持っている、云わばクリスマスマスターである。

 

そんなアインズは、面を上げよ、と伝えてから再びベルを鳴らした。

 

 

「今宵は、子供が最も楽しみにしているだろうクリスマスだ。我が子にもクリスマスというものを楽しんで貰いたい...なので、お前達を呼んだわけだ」

 

そう言ったアインズは優しげに白い袋を撫でる。プレゼント袋と呼ばれるものだ。

 

「失礼ですがアインズ様。クリスマス...そしてサンタクロースという者について御享受頂けませんでしょうか」

 

「あぁ、デミウルゴスですら知らないのか...ふむ。では、説明しよう」

 

アインズは、椅子を立ち上がり何処から持ってきたのか大きなホワイトボードにペンを走らせる。

 

「クリスマス、というものは暦の上で12月25日の事を指す。とある偉人...いや、聖人というべきか?まぁ、要は凄い人物の誕生日の事をクリスマスというんだ」

 

アインズは、うろ覚えな知識を総動員して説明をする。彼自身天涯孤独の身である為、親にクリスマスを祝って貰う等を経験した試しがない。なので、その知識は得てして少ないのだ。

 

アインズの説明に少し空気が変わる。当たり前だ。絶対者であるアインズの口から「偉人」「聖人」「凄い」等と言われて警戒しない方がおかしいだろう。

 

「では、サンタクロースと言われる者はその強者なのでしょうか?」

 

デミウルゴスは考える。アインズを持ってして凄いと謂わしめる人物の姿を。今身に纏っている深紅と純白の服を着ながら数多のモンスターを狩り殺す死神の姿を。

 

思わず、デミウルゴスは震えてしまう。アインズからあのような高評価を得て、常に返り血で頬や服を濡らしながら強靭な肉体を持っているサンタクロース。その存在に潰される自分の肉体の亡骸を想像したからだ。

 

(サンタクロース...まさか、クリスマスはサンタの誕生を祝うことで怒りを鎮める為の儀式か...?)

 

魔王(サタン)という種族も、もしかすればサンタクロースが元になっているのでは?そこまで更に考えると、自分の強さがサンタクロースに届かない事に不甲斐なさを感じ、デミウルゴスは歯を食い縛った。

 

しかし、アインズは気にしていないようで優しく語りかける。

 

「うん?サンタクロースは違うぞ。サンタクロースは、良い子供に望むものを与える者だ」

 

そのアインズの言葉を聞いて、デミウルゴスは破顔しそうになって、止める。

 

それは悪魔のようではないか?と。

 

純粋無垢な子供の願いを聞き入れ、代わりに魂を奪う。それがサンタクロースなのではないか?いや、そうに違いない。何故なら、アインズに、あれほど言わせた者の部下であるからだ。...恐らく自分と同じLv100のシモベであることは間違いない。

 

そんな者がただ望みだけを叶える善人なり得るか?それは勿論、セバスという特例もあるだろう。が、このように返り血で服を染める存在がまともな思考をしているはずがない。

 

やはりサンタクロースは強敵か...。

 

デミウルゴスは仮想敵との闘いで勝ち得る術を模索しながら、アインズに話しかける。

 

「では、何故私たちはサンタクロースの格好をしているのでしょう」

 

デミウルゴスの質問に、アインズは何を言っているんだ?という風に首を傾げ、口を開いた。

 

「決まっているだろう。私たちがサンタになって我が子に夢をやるんだよ」

 

そして今度こそ、デミウルゴスは破顔する。

 

 

 

つまり、アインズの言っている事はこうだ。

 

サンタクロースが純粋無垢なムササビの魂を狙っている。ならば、我々がサンタクロースとなり、その根本を破壊し、その「偉人」とやらを退かせ自らが君臨し、『クリスマス』をアインズの日に置き換える。

 

なんと崇高な作戦。なんと見事な提案。我らのアインズ・ウール・ゴウンが世界全ての者に祝福される姿を思い浮かべる。極悪非道なサンタクロースを滅ぼし、自分達がアインズの望む夢のみを与える優しきサンタとなる。

 

素晴らしい。なんと輝かしい未来。人間如きにそのような態度を取るつもりは全くないが、敬い慕われるアインズの子息のムササビの安全も守られ、更には幸せを手にいれることが出来る。

 

さすがです。そう思いながらデミウルゴスは感謝の念を伝えた後、大きく頭を下げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでだ。この中で相手の心を読むなどの技術に秀でている者はいないか」

 

「精神支配でなら可能でありんすが、ムササビ様はアンデッドとインプのハーフでありんすから、難しいかと思われんしょう」

「私ハ、一切ノ手段ヲ持ッテオリマセン。申シ訳ゴザイマセン」

「動物と話ができますけど、ムササビ様はアンデッドですから難しいです」

「魔法で、という手段であれば可能ですが、ム、ムササビ様には効果が無いので...申し訳ございません...」

「私もムササビ様に対しては不可能でございます」

「私も不可能でございます。赤子である為表情から読むことも難しいかと」

「私も...申し訳ございません。アインズ様」

 

守護者各員、セバス、アルベド、全員が知ることが出来ないという。その事を大体予測していたアインズは、構わないとジェスチャーし大仰に頷いた。

 

「気にするな。我が超位魔法を使えばその程度の事、容易いさ...」

 

そして、サンタ服のアインズが部屋中に響く大声で唱える。勿論、夏のボーナスのあの指輪は使用しないが。

 

 

 

「超位魔法...!〈星 に 願 い を(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉!!」

 

アインズの周りに、そして小さな部屋全体に、青く目映い魔方陣が展開される。それは一つたりとて同じ文字を表さず、そして巨大なドーム型に拡がっていった。

 

アインズは感じる。巨大な経験値の消費を。だが、それは何とかLv100という数値を変えるには至らなかった。

(―――後で無欲に貯めた経験値を、強欲で奪わねばならないな)

そう思考しながら、アインズはそのとてつもなく凄い魔法を行使した。

 

 

 

「l wish...ムササビの願いを教えろ!」

 

 

 

その瞬間、青く煌めく魔方陣が一気に駆動し、それを形作った。

 

 

『ムササビの願いは、ナザリックの者達が笑っていられること』

 

 

そして、その文字を象り終えた魔方陣を中心として、全ての魔方陣が砕けたガラスのように、その場に割れ散ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう願い事だとしても、一応プレゼントは大事だからな。うん」

 

あのあと、ムササビの優しさにアインズ含め全員が号泣。セバスもデミウルゴスもその涙を止めることなく流し続けた。精神作用無効化を遥かに振り切り続けた。

 

全員が涙でサンタ服をビショビショにしてしまった為、数度のやり取りを経て解散にしたのだ。

 

 

 

とは言っても、やはり父親であるアインズは息子のクリスマスにプレゼントを置かない選択肢は取れなかった。ので、アインズは、人体模型を携えてムササビの寝室にいる。

 

プレアデス総出で必死に宥めた結果寝かしつけることに成功したのだろう。涙ぐましい努力が、やり切った顔をしてドアの前で待っていたプレアデスから察することができた。

 

相も変わらずサンタ服で人体模型をムササビの枕元に置く。

 

改めて見る自分の子供の可愛さに目配せが止まらない。なんと優しい子なのか。全く可愛すぎてどうにかなりそうだ。

 

そんな事を考えながら、アインズは指輪の力を使って自室へと帰る。

 

ムササビの枕元に、よれよれのミミズみたいな文字で書かれた紙が有ることに気付かないまま。気付いても読めなかっただろうが。

 

ちなみに、そこにはこう書いてあった。

 

 

 

 

 

『おかあさま、おとうさま、だいすき』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ムササビ成長日記』

 

今日はクリスマスだった。私の愛しい息子の初クリスマスにあたふたしたが、息子の優しさに惚れ込み泣いてしまったのは不覚だ。涙は出なかったが。

何やらデミウルゴスが「さすアイ」「さすムサ」と連呼していたのが気になったが、気にすることでもないか。

 

人体模型、気に入ってくれるだろうか?なんでもデミウルゴスお手製らしいが、どこにあんな材料があったのだろうか?まぁ、二本足のキメラを飼育するデミウルゴスだから、それくらい作れても違和感はないか。

 

来年こそ、ムササビが物を欲しがるのを祈ろう。それまでは、皆でムササビの願い通り笑っていられるように頑張ろうじゃないか。

今日はこの辺で筆を置こうと思う。

 

 

 

メリークリスマス、ムササビ。




皆さま、メリークリスマス!

ニ、三日程投稿できない日が続きますのでお休みします。

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