この話は9巻以降の話なので、大虐殺の後の皆ってどんなだろう?と、10巻を待たずして書きました。すみません。
ちなみにエンリさんは出てきません。多分一番変えてはいけないかと思いまして。
では、久しぶりにどうぞ。(ギャグ少なめ)
トブの大森林。
ナザリック地下大墳墓の近くにある大森林であり、モンスターと薬草が命の歌声を上げる場所である。
そこに、トブの大森林近郊の村―――カルネ村に住む薬師『ンフィーレア・バレアレ』は日々のポーション研究の新しい化学反応にでもならないかと、様々な種類の薬草を取るために大森林に来ていたのだ。
正直、研究などしている場合ではないのだろうが今は驚異の存在よりも遥かに強い存在の庇護下にあるから問題はないだろう。
何があったのかというと、先日、カルネ村に王国の王子と兵士達が完全武装でやってきたのだ。かの者達から女子供を守るために闘ってくれた大人達が数人死んでしまったが、絶対なる至高の存在―――アインズ・ウール・ゴウンにより、カルネ村の村長『エンリ・エモット』に渡された
その代わりに、カルネ村の住人はとんでもなく増えたのだが。まさかあんなにゴブリンが増えるなんて思わないじゃないか...。
彼らは基本的に自ら食事を取りに行っている。魔法で食物が出るご時世だ。多少ながら食材には余裕があるこの世界で、実力のある彼らは全く飢えに苦しむ事は無かった。
彼らは今日もまた、カルネ村の手伝いをし、村人を鍛え、女子供には魔法使いのゴブリンが魔法を教えてくれている。
だからこそ、という訳ではないがンフィーレアは安心して薬草捕りに行けるのだ。
ンフィーレアは、今回一応護衛を付けて歩いている。
彼は子供だ。漆黒の剣士―――そしてカルネ村の恩人アインズ・ウール・ゴウンもといモモンが連れ去った、森の賢王『ハムスケ』や最近村を襲った東の巨人『グ』等と同格の存在が現れれば、逃げ切る事は不可能と断言できる。
その為、ゴブリンの『ジュゲム』を護衛に連れていたのだ。
そのジュゲムは、森の少し開けており心地好い微風が肌を撫でる所で薬草採取の鎌やら笊やらを取り出したンフィーレアに懐疑の顔を浮かべながら問いていた。
「ンフィーレアの兄さん。本当にここら辺でいいんすか?特に何も見えねえんすけど」
「うん。ここら辺は風の強さとか湿度が凄く良いんだ。狙いの薬草の群生条件としてピッタリなのはカルネ村の近くじゃここ以外はないと思うな」
僅か、とは言えない程強烈な薬草の青臭さ漂うエプロンを着たンフィーレアは、前髪で隠された瞳をキラキラさせながらジュゲムに説明した。ジュゲムは分かってるんだか分かってないんだか微妙な反応を示しながら、周囲に敵がいないか見やる。
ジュゲムの持つ剣には魔法が施されており、防具はエンリが仕入れてきた防具を身に纏っている。人間が見ても「おぉ」と感心するほど上等な装備である。
その装備をもってすれば、ユグドラシルで言うところのレベル20までなら善戦出来る力を備えている。万が一勝てない敵が出た時は、命に代えてでもンフィーレアをエンリの所へ送り届けねばならない。
ンフィーレアは、ジュゲムを完全に信用しているため薬草採取に全集中力を使っていた。薬師関連のクラスを持っていないジュゲムでは絶対に見つけられない薬草を、パパパっと見分けては、刈り取ったり毟り取ったりしている。
大丈夫そうかな、とジュゲムが安心した瞬間、背後から声が掛けられた。
「良くやっているな。ンフィーレアくん」
パッと振り返ると、漆黒のローブに身を包み無骨なガントレットを嵌め狂気の仮面を付けた人物が現れた。
彼こそがアインズ・ウール・ゴウン。つい先日国を建て上げた、通称『魔導王』。
ジュゲムは察する。この強者は確実に今まで見てきた中では最強のルプスレギナを、片手で捻り潰せるオーラがあると。
探知阻害アイテムを身に付けているアインズにはそんなオーラは出ていないのだが、ジュゲムはその相手の強さをとてつもなく漠然とだが分かる術に長けている。
それは、誰が誰より強いだとか、そんな程度の術だがそれを用いて今まで生き延びたのも事実である。
ジュゲムは背中に携えた大剣の柄に手をかけて強く歯を軋ませる。
ンフィーレアの名前を知っていたのは奇妙だが、どうしても強者に対しての警戒は緩められない。
一人ジュゲムが緊張した面持ちで額に脂汗を垂らしていると、ンフィーレアからは場違いな朗らかな声が出てきた。
「ゴウン様!何故こちらに!」
「ンフィーレア君に招待状を持ってきたので受け取って貰いたくてね...」
「わざわざ!?あ、ありがとうございます!」
なんだか仲良さそうにしている二人に、ジュゲムは大剣の柄から手を離し、服の袖で脂汗を拭き取る。
(この男がカルネ村を救いカルネ村を取り込んだ存在...アインズ・ウール・ゴウンか...成る程、こいつは人間の国一つ敵に回した所で敵にもなりゃしねぇ破格の強さがありやがる...)
ジュゲムはこの人物と人間国家一つを天秤に掛けたとき、どう考えてもこのたった一人の男に傾くことを理解した。いや、してしまったと言うべきか。
圧倒的カリスマを感じる一つ一つの所作に、自らの宝物であるエンリからの装備が埃のように思えるほど強力な装備。
勿論、ジュゲムは自分の装備を
だからアインズの装備に嫉妬はしない。ただ客観的に見て、アインズの装備が圧倒的に上だと言うのが見て分かるからジュゲムは恐ろしいのだ。本能ではなく理性が語りかけてくる。
更には指輪だ。魔法の力を感じる輝きが、とてつもない力を放って存在している。しかもそれが
こんな存在は、今にも過去にも見たことは無い。自らを呼んだ角笛の持ち主だったらしいが、そこには感謝の念だとか尊敬だとかは感じられない。今あるのは恐怖のみ。
そんな恐怖の存在が招待状とは何の用だろうか?ジュゲムは思い付くことが出来ないでいた。
自己紹介ついでに聞いてみようかとしたジュゲムを遮ったのは、誰でもなくアインズの声だ。
「我が息子の...出生パーティさ。少し立て込んで忘れてい―――」
『むむむむむ、息子ぉ!!?』
アインズの言葉に、思わず二人揃って叫んでしまう。
この強者の息子。それは即ち圧巻の才能を持った存在が生まれる可能性がある。勿論、母親にも寄るだろうが半分...いや、1/5でも引き継いでいれば、アインズに勝てなくとも敵無し級の強さとなり得る。
そんな者の出生パーティ、というのはパーティなんて名ばかりの、云わば見せしめである。
自らの子息が生まれ、それの強さを知らせることで対外的に次期最強の存在を見せる。そして忠誠を誓わせる、そういう魂胆に違いない。
ジュゲムは、ンフィーレアの無事を祈りつつアインズに質問した。
「大声だしてすみませんね...。私はジュゲムという者でして」
「あぁ、話はエンリから聞いたよ。ゴブリン代表で君がエンリとンフィーレアの傍に着いていってやるといい」
「...本当に話が早くて助かりますよ...」
ジュゲムはそのパーティでのンフィーレアの警護を頼もうとした。だが、どうやらエンリとも知り合いらしく自分達の事も知っていて、更には要求を先読みして快く引き受ける。
自分は綺麗好きだが、汚い生物だと罵る者も少ないこのご時世で、エンリが呟いていた『お伽噺のお城みたい』な所に上げ込むということは、それだけの器の持ち主か。はたまた居ても居なくても構わない程の無関心からか。
ジュゲムは再び警戒レベルを上げる。この男は、超絶な力を持ちながら隔絶した頭脳も持ち、破額の富を持つ化け物だと。
恐らくエンリに金貨数千枚(ジュゲムには価値が良く分からないため、装備何個分という教え方をされた)の装備を適当に渡すはずがない。何かしらの魂胆あってこそ、だろう。
ルプスレギナがエンリに『ンフィーちゃんはアインズ様から絶対に守れって言われてるんすよねー!寝取っちゃうっすよー?』と言っていたのを思い出す。
つまりは、ンフィーレアとのコネクションを作るためにエンリを利用した...?
その為の駒にエンリがなり得る事を、まさか予知していたのか?
有り得ない。そう思いつつも、この男なら可能な気がする根拠は無いが納得してしまう空気が有る。
だとするなら、アインズに救ってもらったエンリは、アインズにとって重要なンフィーレアとの架け橋。
つまりは、ンフィーレアが死ねばエンリは漏れなく巻き添えで死んでしまう。殺されるのだ。
要は最初から詰んでいたのだ。ンフィーレアが生まれ、エンリを好いていた時点で。エンリが騎士に襲われていた時点で。
己の無力にジュゲムは目を細めた。
勝てないなら逆らえない。ならばこの誘いは行くしかない。
「わかりや...コホン。ました。兄さん、行きましょう」
「え?勿論!楽しみだね、ジュゲム!」
「ははは!そうか、可愛いからなぁ。楽しみにしているといい!」
では、ポーション作りに励んでくれ、と言いながら一枚の紙を渡して何処か闇の中へと消えていった。
ジュゲムはその緊張が抜けたことから安堵の溜め息を漏らした。
パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアは枕に顔を埋めて唸っていた。
自らが都市長として重役する『要塞都市エ・ランテル』が『魔導王アインズ・ウール・ゴウン』に明け渡されたのだ。
彼は都民を見捨てて逃げ出すような男ではない。故に残ってアインズと闘うつもりだった。
今はモモンの力もあり血を流さず統治が進んでいる。生活水準も上がり、ハッキリ言って以前より進んだ生活をしていると言っていいだろう。
だからと言って、いつまでも安心な訳ではない。漆黒の英雄が更に強くなるのを待つのみの現状は、なんとも複雑なのだ。
(すまない...モモン君には本当に頭が上がらないな...)
パナソレイは一通り、枕に愚痴を言い続ける日課が終わったのか、でっぷりとした体を気怠げに起こして顔を洗いに水場に向かう。
その為にドアを開くと、ドアの前に一つの影があった。
漆黒の英雄モモンが、ノックをしようとする体勢のままで止まっていた。
「お、おぉ!モモン君!どうしたのかね!ま、まさかアインズ・ウール・ゴウンへの有効策が!?」
「都市長...いえ、パナソレイ殿。あまり大声でアイツへの反逆心を表に出していると、あの女に気付かれるかもしれません...。お控えください」
「む、むん。その通りだ。すまない」
実際、あの女はアインズの悪口やら陰口を言う存在に容赦をしない。だからこそ、誰も文句は言わないし、生活は豊かになった為、その意味では少しだけ満足している。
中には『周辺国家でも最高の国だ』等と本心かは別として謳う愚者もいたが、それは所詮井の中の蛙。帝国や法国に比べれば同格か少し下くらいだろう。
恐怖による圧政で統治された国が素晴らしくなる筈がない。
王国は確かに腐ってはいたが、まだ人間の種族として死ねた筈だ。
しかし、この国にいる限りそれは叶わない。異形の魔王に従う俗として死なねばならないのだ。なんと不名誉な事か。
その状況を打破し、再び人に戻してくれる可能性があるのはモモンだけなのだ。だからこそ、モモンが未だ無理だと言えば無理でしかない。
諦めたように納得の意も混ぜて溜め息を漏らすと、ふと疑問に思う。
モモンは何をしに来たのだ?と。
「それで、モモン君は何をしに来たのだね?用があるのだろう?」
「はい。件の...」
モモンは少し声を落とし、パナソレイの耳に口を近付ける。
「アインズ・ウール・ゴウンからの手紙をお持ちに参りました」
その言葉と共に顔を離すと、手紙をパナソレイに渡す。
パナソレイは体をガクガク震わせながらその手紙を受けとる。手紙は小刻みに震え、かさかさと音を鳴らしている。
いったい何の手紙なんだ。そう思いながらパナソレイは手紙を決して破らないように丁寧に取り出した。
『パナソレイへ
しろ を かりる。あすの よる おまえも こい
アインズ』
「な、なぜこんな単語単語の手紙なのだろうか?」
「うっ...そ、それは...多分字が書けないんじゃないですかね。はい」
アインズは字が書けない。
というのも、アインズは日本人であり異世界の国の言語など分かる筈もないのだ。
だから、必死に翻訳帳を作り、可能な限りで手紙を出したのだ。喋って呼べば声でモモンとの関係性を疑われるから。
それを知らないパナソレイは、少し優越感に襲われる。
字では私の方が強い。そう思いながら。
「ところで、それはモモン君に伝言を頼めば良かったのでは?」
「あっ」
前書きでギャグって書きましたけど、これギャグストーリーなんですかね?(震え声)
追記
間違えて同じ話を3話投稿しました。すみません。