俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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モンハンが面白過ぎるんじゃぁ……


第87話

「いけぇぇ!!」

『一気に四日市のカウンターだぁ! 江ノ高、これに対応することはできるのかっ!?』

 

 ボールをキャッチで止めた遠野は、そのまま一気にボールを遠投。

 俺を含めほぼ全員が攻撃に参加していたため、すぐに守備に戻らなければいけない状況に早変わりしてしまった。遠野ほど体格が良くて筋肉も付いてる奴がボールを投げると遠くまで投げれるもんだなぁ……しかも速い。

 昔の俺はまったくボールを投げられなかったからな……ソフトボール投げなんざ糞喰らえと思ってたぐらいだ。ボール一回投げた程度で痛くなり始める肩だったからなぁ。

 ほんと、チートってほんとチート(言語能力低下)

 

 遠野の手からボールが離れるのと同時に小さくなっていくボールを見て、俺も一気に足に力を込めた。例え今俺のポジションがFWだとしても、有り余るスタミナを活用するため自陣に戻ろうとした。……が。

 

『速い速い! 四日市高校、一気に攻撃に転じていく! ボールは海堂選手に渡り、四日市の攻撃の幅が広がった! さぁ、FWの若宮選手が上がっていくぞ!』

 

 四日市のダイナモ、海堂選手がボールを持ってしまった。

 これで四日市全体の攻撃が活性化してしまうわけだが、うちの選手も頑張って戻っている。若宮選手なんて結構な俊足だが、中塚あたりが持ち前の俊足を生かして自陣に戻っているが、奴の技術じゃ四日市選手のパスをカットすることはできないだろう。

 まぁ、俺がさっきしたみたいに動き回って四日市選手の精神的ダメージを負わせるぐらいはできるだろう。まだ選手の交代枠はあるから、思い存分走り回ってフィールドを荒らしてほしいもんだ。

 

 さて、俺は真ん中あたりで適当に動いてようかな。

 味方がボールを奪ってカウンターできるよう待機しておくのが一番か。少し離れたところにいるDFの当真選手は中々に足が速そうだけど、同じ1年ということで、そこまで経験はないんだろうか……

 あろうが無かろうがボールが来たらゴールに向かって走るだけなんだが。

 何も難しいことはない。ボールが来たら走る。ひたすら走る。ドリブルからのシュゥゥゥーッ!! 的な勢いで行けば遠野もビビるはず。そういや駆のφトリックやらエヴォリューションやら、何気にスゴ技を披露したり習得したりしてるが、俺も絶対にこれだったら決められるっていうシュートでも習得してみたいもんだ。

 ……皆の技をドンドン習得していってる俺が言うのもなんだが、こう、ホントチートって感じのどうやってもゴールに入りますってシュートをね。

 

 ……それこそチートか。

 バグ技でも覚えない限りそんな事不可能だな。

 

『さぁ、江ノ高このピンチをどう凌ぐのか!』

 

 俺の代わりにDFに入ってくれた海王寺先輩がなんとかしてくれるさ。

 それか、必殺スライディングの使い手、堀川先輩が仕事をしてくれるに違いない。ゴール前でも臆せずボールを刈り取りに行けるメンタルの強さは俺も見習うべきだろう。

 スタミナお化けの沢村先輩が一気に自陣に戻っていき、指示を出している。その前から李先輩の溌剌とした声も聞こえている。最近、遠野と同じように李先輩だったら大体のシュートを何とかしてくれるという安心感がある。あまりそれに期待しすぎるとその安心感に付け込まれるかもしれないが……まぁ、四日市選手相手だったら大丈夫だろう。

 レオナルド等を擁している東京蹴球あたりだと、選手層の厚さにうちが対応できないかもしれないけども。それは……監督が俺をDFとして使うか、それともFWでガンガン攻めさせるかが鍵になると思うが。駆と俺、それと荒木先輩をマークされたら大体の攻撃が止められるかもしれん。ただまぁ、それでも俺はボールを持ったらガンガンドリブルするだけなんだが。

 それで止められたら相手の技を盗めるし、止められなかったらシュートしてゴールを奪うだけ。簡単なお仕事です。

 

『中央から若宮選手が上がっている! 海堂選手、ここからどのように展開していくのかっ!!』

「殺すぅ!!」

 

 堀川先輩が若宮選手のマークについた。

 少し離れたところで守備に徹している海王寺先輩も見えるが、左サイドから四日市MFの駒崎選手が。右サイドからは同じくMFの斉藤選手が上がっている。この2人をどう対処するのか……

 キャプテンが急いで戻っているが、四日市の選手の足の速さが半端ない。海堂選手と同じラインぐらいにもう2人。攻撃はこれで5人に増えた。これだと全員をしっかり対処するのは難しい。

 となると、相手選手のシュートコースを制限して打たせるぐらいしかできない。それも李先輩のセーブ力を信用してないとできないが、そこは大丈夫だろう。

 

『海堂選手、パスだぁ! 斉藤選手、ゴール前にボールを上げるか!?』

 

 一気に攻勢を仕掛けてきた四日市選手の対応に追われているが、全員を完全に対処することができてない。もし俺がDFだったとしても無理だ。が、とりあえずゴール近くにいてボールを弾き出すか、走り回ってボールを奪いに行くかクリアするか。

 もうどうしようもないって時は、相手のシュートをヘッドで防ぐっていうね。反射神経と首の筋肉が問われる防ぎ方をするだけだ。実際、プロリーグでもDFとかが体を張ってシュートを止めたりしてるから俺がおかしいというわけじゃない。

 

『斉藤選手、上げると見せかけてのフェイント! そこから……上げた!』

 

 何とか戻っている堀川先輩と海王寺先輩がいるが、そこから少し離れた逆サイド。駒崎選手がボールを足元に収めた。そこからすぐにペナルティエリアの外側、中央にいた海堂選手にショートパス。

 

『ダイレクトォ! しかし、これを李選手が何とかパンチングで……!?』

「あ……」

 

 ダイレクトで狙いが甘くなったシュートをパンチングで弾いた李先輩だが、そこのすぐ近くで四日市選手を警戒していた堀川先輩の腕にボールが当たった。わざとじゃないのは当然だ。しかし、その瞬間。

 

 ピーーッ!

 

『あぁっと!? これはPKです! 江ノ高、これは痛い! しかしこれで四日市は同点のチャンスを得たことになります!』

「そんな、当たってない!」

「いや、確かに当たってたのを見ました。それ以上の追求は」

「いえ……わかりました」

 

 堀川先輩と海王寺先輩が主審に詰め寄っているが、それを李先輩が止めていた。

 さすがにあれ以上いくとイエローカードになるかもしれない。まさか高校の試合でそこまでいくとは考えたくないが、シビアに試合を見てくれていると考えると納得できる。

 あからさまに顔色の悪い堀川先輩を尻目に、李先輩は集中力を高めている。相手の動きを見てどっちにシュートを蹴るのかを一瞬で判断し、もしくは当たりをつけて一方のゴールを守ろうとするか。

 ……それでも、シュートに自信のある奴だったらGKの手の届かないところにシュートを蹴ることができるだろう。まぁ、1点負けているこの現状で冷静にシュートを蹴れるかどうかっていうメンタル面の問題もあるが。

 

『さぁ、PKです。ここで蹴るのは四日市キャプテン若宮選手だ! 江ノ高、ここで決められてしまうと同点に追いつかれてしまうぞっ!?』

 

 ごくりと唾を飲む。

 正直、シュートを決められてしまってもしょうがない状況だ。

 ここで李先輩にどうしてゴールを守れなかったのかと追及するのは愚の骨頂。今までの、しかもこの試合でもかなりのシュートを弾いてくれていたのに、ここで味方を責めるのはバカの極みとしか言いようがない。

 

 が、ここで決められてしまうと、あの遠野からゴールを奪わないといけない状況が作り出されてしまう。江ノ高攻撃陣は精神的な重荷を背負っているような感覚に陥るかもしれん。

 ……なら、頑張ってゴールを奪いに行くしかない。

 これでシュートを決められて遠野が精神的に楽になったとしても、これまでの疲労感は蓄積されているはずだ。さすがに集中力も落ちてきていることだろう。それでもダメだというのなら、遠野は人間を止めてるとしか言いようがない。

 奴こそ天然のチート・オブ・ザ・チート。その称号に相応しい。

 

『さぁ、若宮選手のシュートは……!』

 

 ――観客席が沸いた。

 

 若宮選手が蹴ったボールは真っすぐゴールネットを揺らしていた。後半20分を過ぎたところでの出来事に、江ノ高メンバーはしばし呆然とするのだった。


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