俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

92 / 97
皆さん、お久しぶりです。
そして、遅れましたが明けましておめでとうございます。

いやぁ……中々、久しぶりとなると全然思い浮かばない上に休みも中々取れないものでして。ようやっとまとまった休みを頂きました(´・ω・`)
またちょっとずつ頑張っていけたらと思ってます。


第85話

『おっと、ここで江ノ高選手交代だ! 火野に代えて中塚が入ります!』

 

 うーむ……確かにさっきから少し足を引きずってるような走り方をしてたから、監督が大事を取って交代させたのだろう。しかし中塚か……足の速さは俺を除いたら一番早いが、正直不安だ。

 中盤、サイドを掻き回したいのなら中塚は役目を大いに果たすだろうが。

 

『そして……高瀬に代えて海王寺が入ります! これはまさか……!?』

 

 入ったばかりの海王寺先輩が真っ先に俺の方に向かって小走りでやってくる。まさかと監督を一瞥するが、当の監督はニッコリと俺を見返すばかり。まぁ、いつもの如く俺がFWになるんだろうけど。

 海王寺先輩とすれ違いざまにハイタッチを一つ。

 そのまま高瀬がいたポジションへと上がっていく。

 

「駆……どんどんボール回せ。遠野相手だ。1点じゃちょっと物足りないだろう」

「うん!」

『不知火がFWに入ります! 満を持しての登場です! 守護神遠野との直接対決が楽しみです!』

 

 さて、と遠野を一瞥。

 先ほどの駆の一撃が効いたのか、少し渋い表情をしているが、今度はより激しい攻撃になることを期待してくれ。

 前半で荒木先輩のシュートを止めた遠野だが、あれは代表の時の荒木先輩の実力を観察していたうえでの動きだったんだろう。反射神経だけじゃなく、一瞬の状況判断もまた一流の動きをする。

 確かに俺も一緒に代表に行っていたし、スタメンとして出ていただけあってそれなりに観察はしていたと思う。だが、それでも無理なものは無理なんじゃないだろうか。

 特に、俺の身体能力の限界がどこにあるのかとか。

 ……自分で言っててあれなんだが、俺の弾丸シュートはやばいぞ(白目)

 

 すぐさま四日市からのリスタート。

 さすがに1点を取られた四日市はのんびりとしていられまい。

 まして、DFだった俺がFWに動いたんだから鬼の首を取るんだったら今のうちだぞ? 自分で鬼の首とか言うのは何気に恥ずかしいが。自重はしない。

 基本的には若宮選手と海堂選手を中心にボール回しをすることが多い四日市フォーメーション。ならその隙をついてボール奪取すれば良いじゃないと思いがちだが、この二人だけで回しているんだったらここまで勝ち上がってこれていなかったかもしれない。

 確かに俺がいるポジションを避けるようなボール回しで試合を進めていこうとしているのが目に見える。

 ……向こうの監督からも俺の事は聞いていたのだろう。

 この試合を勝ち進んだとしても、同じような対策を取られるかもしれないという事だ。これは、俺以外の誰かが同じぐらい脅威だと思われれば通用しなくなる戦術なんだが。

 まぁ、正直江ノ高のFW陣にそこまで突出した選手はいないと言わざるを得ない。

 

 取りあえず前線からプレッシャーを与えるとしよう。

 

「くそ……速ぇ!」

「おらぁ!」

『不知火が前線を駆けまわる! 凄まじいスタミナです!』

 

 ふははは!

 全速ではないが、それなりの速度で走り続けても限界が見えないと言うのが自分でも怖い。敵陣をひたすら走り回ることで相手の意識を掻き回していく。

 できるだけ相手にとって厭らしいと思われるポジション取りをしながら走り続け、相手がミスしたときに味方が奪ってくれれば御の字。

 四日市の選手は足が早い。

 でも、俺の足はそれ以上に早いんだ。

 

「獲った!」

「なっ……」

『遂に不知火が四日市のボールを捕えたぁ!』

 

 パスミスを狙い続けた甲斐もあり、ボールを奪う事に成功。

 そのまま前を向いてドリブル突破。すぐさま四日市の選手がカバーしようと近寄ってくるが、残念ながら足が速いだけで、技術的に優れている選手はあまりいない。

 加えて俯瞰視点があるんだから手の付けようがない。

 後ろから迫って来たとしても後ろに目があるかのように避けれるし、前からしたら来たでフェイント多めのドリブルで強行突破できる。

 肉体も出来上がってきているから、直にタックルされてよろめかなくても不思議とは思われないだろう。

 

『不知火が単独、どんどんと前に前にと突き進んでいく! そ、それにしても何というスタミナでしょうか! 後半始まってからずっと走り続けているのに、いまだ底を見せません!』

 

 底なんて無いんだよぉ!

 試合一杯ずっと走り続けたことがないからなんとも言えないが、それでも俺はずっと走り続けられるんじゃないかって思ってしまう。それもこの(チート)のおかげなんだが。

 存分にチート能力を発揮しつつ奪ったボールを足元に、ガンガンと前に進んで行く。ここから個人技を見せつけながらゴール前まで攻め上がっても良いし、意表を突いてミドルからシュートを打っても良い。むしろ、どっちもやって警戒せざるを得ない状況を作ってしまえば他の皆が動きやすい環境にできるか。

 よし、そうしよう。

 攻撃は最大の防御とも言うし、カウンターだけは注意しないといけないが、せっかくFWになったんだから少し位大胆に動き回っても文句は言われないだろう。むしろ、スタミナは心配されるかもしれないが、周りの皆に俺のスタミナを知ってもらう良い機会かもしれない。

 ふはは! 別に蹂躙してしまっても良いんだろう?

 

『四日市エリアを一人で前進していく不知火! すさまじいドリブルです! 四日市の選手もなんとか前進を阻もうとしているものの、不知火選手はそれを個人技でどんどん抜いていくぅ! もうすでにバイタルエリアへと侵入しようとしている!』

 

 近くにいたDFが2人がかりで俺に仕掛けてきたが、ボールタッチの回数を増やして2人のど真ん中を突っ切った。まさか真ん中を、という思考の隙間を縫うようにドリブル。どうにか伸ばしてきただけの足は簡単に抜き去った。

 最後は四日市の守護神、遠野ただ一人になるわけだが。本当にこいつと一対一で相手するのは面倒くさい。長身を生かした守りをするだけじゃなく、一般的な高校生よりも数段優れている判断能力と記憶力。

 駆はここぞとばかりに繰り出した新技で意表を突くことに成功し、そのままゴールをもぎ取ったが、一度隙を見せた男がそれを警戒しないわけがない。駆の新技を理解できたわけじゃないだろうからすぐに対応してくることは出来ないだろうが、だからと言ってこの男(遠野)が駆にやられっぱなしになるとは思えない。

 絶対、何かしら対応策は考え始めているだろう。

 

 ――だからこそ、俺はその隙を突く。

 

「くそがぁっ!」

『さぁ、早速四日市守護神遠野と江ノ高エース不知火の対戦がやってまいりました! お互いの距離は約5メートルだぁ!!』

 

 ループシュートを考慮して前進してきた遠野。

 ここからシュートを打ったとしても、ギリギリゴールから外れるか、それか遠野が指先で弾き飛ばせるぐらいの位置を取っているに違いない。そんな芸当が普通にできるんだから困ったもんだ。味方なら心強いが、今はまさに面倒な敵。

 

 さて、行くぞ!

 

「おぁっ!」

『さぁ、不知火選手がシュート体勢に入ったぁ! どこを狙ってくるのでしょうか!?』

「こいやぁ!!」

 

 遠野の動きに注意しながら足を大きく振り上げる。

 さすがにここでシュート体勢を取ってしまえば、無理に向こうから止めに来ようとはしないだろう。だが、もしここで俺がシュートフェイントを入れれば、遠野なら反応しきってしまう恐れがある。

 だからこそ、ここで俺が取る手段は――

 

「しゃぁっ!」

「なっ!?」

『な、何と言う事だ! これはミスシュートでしょうか!? ……い、いや、すぐ近くに逢沢選手だぁ!』

「ちっ……くしょぉがぁっ!!」

 

 前にもやったことがあるような気がするが、さすがにこのミスシュートに見せかけたパスを想定しておくことは出来なかったようだ。ふはは! ついさっき駆に暴れるぞと言ったばかりだからな。俺一人だけで全部こなそうなんて考えないさ!

 ……さすがに一回ぐらいは素直に一対一で直接やっても良いかもしれない。

 

『またしても逢沢選手の足元にボールが収まりました! これは後半開始から2点目となるんでしょうかぁ!!』

「させてたまるかぁ!!」

「……っ!」

 

 左サイド少し後方から上がっていた駆は、いつも通り相手DFの隙を縫うように飛び出していた。遅れて駆の存在に気付き、ついていこうとしている四日市DFの姿も見える。

 俯瞰視点で見ていたからこそできた芸当だな。

 慌てて駆の方に跳躍じみた動きで動き出す遠野。それを見て、俺も動く。もし駆が切り返すようなパスを出してきたときの事を考え、遠野とは逆の方向のポジションを確保する。生半可なパスだと遠野に止められる恐れもあるし、どうせだったらそのまま直接シュートを狙いに行ってほしい所だが。

 

「う、ぉおおぉっ!!」

「っらぁぁっ!!」

『逢沢選手、一旦足元に収めたボールをそのままシュートォ!』

 

 渾身の一撃とも言わんばかりの咆哮。

 振り上げた左足を叩き付けられたボールは凄い勢いでゴールに迫って飛んでいく。が、遠野もただで諦める男ではない。勢いに任せて放たれたシュートの精度は、前半で荒木先輩が見せた針の穴に糸を通すようなシュートほどではなかった。

 

「く……ぉあぁっ!」

『ま、まさか、遠野選手! 逢沢選手のシュートに飛びついたぁっ!! その指先が、触れた!?』

 

 第一関節くらいまでしか触れてないだろうが、それでも遠野は駆のシュートに食らいついた。そして、荒木先輩のシュートを止めた時のような、ギリギリの指先だけでの防御を見せようとしている。

 ボールが指先に触れた瞬間、指の腹全体を使うようにしてスナップを効かせる。それだけでは少ししかボールの軌道を修正することはできないが、遠野にとってはそれだけで十分だったらしい。

 軌道をずらされたボールはそのままゴールに向かって飛んでいき、しかしゴールポストに当たったボールは大きな音を立てた。そして、ボールはそのままゴールに吸い込まれることは無く、残念ながらゴールから逸れて飛んで行ってしまった。

 ……俺が言うのもなんだが、遠野もなんだかんだチート臭い男だよなぁと改めて実感させられるのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。