俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第76話

「あぁーー……眠い」

「また? 変なの見てるんじゃないよね?」

「バッカお前、さすがにこんな大っぴらにエロイもん見てるなんて言うわけないだろ。てか、そういう事聞いてくるって事はお前が昨日変なもん見てたんじゃないのかぁ?」

「ちょ!? そ、そんな事ないよ!」

 

 寝不足にはなってないが、眠い事には変わりない(矛盾)

 昨日監督から渡されたDVDを夜中まで見てしまったせいか、少しだけ眠い。いや、これは感覚的なものだろう。チートを得る前は普通の体だったからその時の感覚が強く出てしまっている。

 まぁ……悪い事ではないんだろうが。

 

 しっかし海外のサッカー……それも強豪クラブのぶつかり合い、それはもう凄いとしか言いようがない。お互いの意地と意地のぶつけ合い。今まで培ってきた技術、戦略のぶつけ合いは見ているだけでも熱くなれるものだった。

 いやぁ……こんな良いDVD見せてくれるとは流石監督! カッコいい! とか褒めてやっても良いだろう。熱くなりすぎて夜眠れなくなったと愚痴を零すのも良いかもな。

 

 小柄だけど持ち前のテクニックでドリブルをし、敵陣をガンガン前へ前へと切進んで行く姿に熱くなったし、逆サイドからのパスをダイレクトでシュートした姿はまさに圧巻。

 あれがレフト・ショットガンと言われている理由なのかと、実況を聞きながら納得してしまった。

 

 だがしかし、あれだけのモノを再現するとなると非常に厳しいなぁ。

 高校生にもなればある程度体が出来上がってくるわけだが、それでも肉体を全力行使してサッカーをするにはまだ足りない。いや、俺の肉体はチートのせいもあってか完成してるような気はするが。

 まだ成長の余地を残している皆、そして技術的にもまだまだ伸ばせる部分があるから、どんなサッカーをするにしても経験が足りてないのは紛れもない事実だった。

 

「あぁーー……俺もあんなサッカーしてみてぇなぁ」

「え? あんなサッカーって?」

 

 ボソッと呟いた言葉だったが、駆の耳に入ってしまったらしい。

 何気に、独り言ほど聞かれて恥ずかしいものはないが、何とか誤魔化すか。

 

「あ、いや、昨日サッカーの試合見てたんだけどな。それがまたすげぇ面白くて」

「へぇ、そんなに面白いんだったら僕も見てみたいな」

「ああ、じゃあ監督に言ってもう一日貸してもらえるよう頼んでみるか」

「え!? 岩城先生から借りてるの?」

「お、おう……見ると良いって言われてな」

 

 まさか駆がここまで食い気味に聞いてくるとは思ってなかったんだが。

 内容よりも岩城監督の方が上なのか? いや、監督がって部分に驚いているだけか。何気に、自分に対してはストイックそうには見えるが、逆に生徒やそれ以外の人には優しそうな人だからなぁ……相談すれば普通に貸してくれそうだけども。

 それは良いとして。

 今日一日の授業が終わって放課後、練習になったらできるだけの事をしてみよう。

 

 

 

 ――あまりにつまらない授業は少し寝てしまったが、何とか一日の授業をやり切ることが出来た。さすがに高校1年生程度の問題は問題にすらならない。化学なんて簡単すぎて寝てしまったが……スイヘーリーベーを呪文のように唱える授業で寝ないわけがない。無いったらない!

 一応、寝てた罰として質問はされたが、全部答えたから良しとしてくれ。

 ……それはそれで生意気な生徒だと思われてるかもしれないが。

 

 教室の掃除やら日直やらの仕事をこなして、さぁサッカーだ。

 昨日見たDVDの内容の中ですぐにできそうな事と言えば、ボール運びだろう。さすがにシュートの精度やらロングパスの精度の向上はもう少し練習を重ねなければどうしようもない。

 が、パスを受けた時のボールの出し位置……トラップの技術を高めることでファールがもらえるかどうかが変わってくるわけだ。

 

 例えば、足元にボールを収めた状態でスライディングされたとして、相手が相当巧い選手だったらしっかりとボールに足を当ててくるわけだ。これがどういう事かと言うと、ただ攻撃の芽を潰されただけでなく、ファールを奪えないどころかそのまま相手のカウンターに繋げられてしまうと言う事。

 逆に、相手の意表を突くように少し離れた所にボールを出すことでスライディングされたとしても足にひっかけ、ファールを奪う事が出来る。しかも、うまく妨害を避けた時には少し前に出したボールがちょうど良い所にあるのだから、そのままドリブルをすれば良い。

 利害を一挙両得したような感じの技術。

 かかってくるならかかってこい。カード覚悟でファールを取りに来るなら受けて立つと言わんばかりのドリブルには途轍もなく熱を感じたもんだ。あんな魅せるドリブルなんて中々見れないだろうし。

 ……いやぁ、俺もあんなドリブルしてみたいもんだ。

 もしや岩城監督は俺にあれぐらいのドリブルも出来るよね? っていう無言の圧力を掛けてきてるんじゃなかろうか。もしそうだとしたら監督、鬼畜! とでも叫んでいらぬ誤解を招いてやる。

 

「そ、そう言えばヤスって……す、好きな人っているの、かな」

「はぁ? ……え、好きな人?」

「う、うん」

 

 ――驚天動地是ここに極まれり。

 まさか駆から恋バナを振ってくるとは想像したことも夢に見たことも無い。奈々の相手で一杯一杯になってて周りの人の事はそこまで考えれないような状況に陥ってると思ったんだが……少しだけ、前進したのだろうか。

 しかし、好きな人ねぇ……

 改めて考えてみる。俺の身近にいる女子を思い返してみると、駆と親密な関係になっている奈々と、つい最近うちに襲撃しに来た群咲が一番仲が良いのか。それ以外の女子だと単なるクラスメートとか、それぐらいしか思い浮かばない。

 

「いや、好きって言うほどの人はいないなぁ」

「そ、そっか……そうなんだ」

「おいおい、俺に好きな人がいなかったらどうだって言うんだよぉ。じゃあ、駆の好きな人の事でも聞いて良いのかぁ?」

「ちょ、ちょ!? ぼ、僕の好きな人の事って……っ!」

「いやぁーー……さすがにその反応は無いわぁ。多分、結構な人が駆の想い人、分かってると思うぜ?」

「えぇぇぇぇっ!?」

 

 顔を真っ赤にして驚いている駆だが、今更である。

 そもそも思春期真っ盛りの高校生。恋バナには目敏いし、駆に至ってはボォッとしてると、自分でも分かってないのか良く奈々の事を目で追っている。それを周りの連中の誰かでも見ればすぐにわかるだろう。

 あ。まぁた美島の事見てるよ、と。

 お陰様でブラックコーヒーが甘くてしょうがないという事象は多発してるんじゃなかろうか。誰が、とは言わないが、近くにいると胸やけしそうになる。それだけ奈々の事を愛してるってことですな(ニッコリ)

 

「ほら、赤くなってないで行くぞ。学校近くまで来たってのに、好きな人の話をしてて遅刻なんて笑い話にしかならないからな」

「あ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 しっかし、本当に駆を弄るのは楽しくてしょうがない。

 ……よく荒木先輩が駆の事をからかってるのを見るが、これは確かに病みつきになっても可笑しくないと自覚してしまった朝だった。


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