俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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もう、白目の度が過ぎて何も見えん。
ズサー!っとスライディング土下座をしつつ、ご愛読ありがとうございます!と叫びました(過去形)


第68話

 決勝戦当日。

 皆が皆、というわけじゃないが、全員がそれなりに緊張した面持ちで控え室にいた。これからついに決勝戦が始まるわけだが、その前に一声。いつも通りキャプテンの言葉と岩城監督の激励を受け、動き出した。

 

『――さぁっ! いよいよ出てまいりました我等が江ノ高イレブン! 今、決勝戦のスタジアムに足を踏み入れた!』

 

 大歓声。

 とてもじゃないが高校選手権予選の決勝の観客数じゃない。

 なんで予選で客席が満員になるってんだ。ざっと見ただけでも空席が見つからないんだが? 色でまとまってる所は他の高校の連中だろうけど、それ以外にもたくさんの人で埋まっている。

 

「的場くーんっ!」

「逢沢くーんっ!」

「不知火くーんっ!」

 

 江ノ高、じゃなくて個人の名前を叫んでるあたりファンでもできたか?

 まさか俺まで呼ばれることになるとは……いや、少し前に国際試合まで出たから、それで知りましたって人がいてもおかしくないのか。しかし、なんで俺がMVPに選出されたんだっけ。

 

「……いやぁ、すげぇなぁ」

「確かに……高校サッカーにファンでもできたのか」

「でも、まだ圧倒的に鎌学のサポーターの数が多そうだ」

 

 江ノ高への歓声もすごいが、それ以上に鎌学に対する応援が凄まじい。

 メガホンをもって全員が息を合わせて「鎌学っ! 鎌学っ!」と叫んでいる。鷹匠さんに佐伯、世良までいるんだ。前は俺たち江ノ高が試合を制したが、向こうの実力も相当高いからなぁ……

 それでも俺たちは勝つだけなんだが。

 中でも一番用心しなきゃならないのは、やはり鷹匠さんか。俺がDFとして動いている間はダイレクトだろうがヘッドだろうが、鷹匠さんの攻撃をシャットダウンするだけだ。

 もしFWになったら……国松さんが一番面倒だな。

 駆も相当実力が高くなってるが、それでも感覚で動いてそうな国松さんのことだ。駆が持ってる独特の嗅覚を感覚で止めてしまうかもしれない。まぁ、国松さんが直接DFしてくる前にミドルをぶちかましてやれば、何回かに1点は奪えるだろう。

 あまり難しく考えないで攻めに入ろう。

 

『さて、何といっても江ノ高選手の中で一番注目されているのは、間違いなく不知火選手でしょう! つい先日行われたアジアでの大会においてMVPに選出され、その名を世界に知らしめてきた選手です! 帰国前に怪我を負ったと話を聞いたのですが、今はどういう状態なのでしょうかっ!?』

 

 なんともまぁ……熱狂的な説明なこった。

 まさか俺が一番の注目選手ってのも納得したくない。

 どうせだったら鷹匠さんとか、荒木先輩でも注目しておいてくれた方が気楽にできる。まぁ、最初はどうせDFとして動くし、そこまで注目されるような動きにはならないと思うが。

 

「不知火。……やるぞ」

「はっ……紅林先輩、誰に言ってるんですか。俺は、誰であろうと止めるだけですよ」

 

 当面はDFとしての働きだな。

 向こうの戦術はトマホーク。直線的な動きで一気にシュートを決める動き。例え俺が鷹匠さんだけをマークしてれば良いってわけじゃない。前に試合をした時からどれだけ成長していることやら。

 それと、今日のGKスタメンは紅林先輩だ。

 李先輩は少し前に手首を怪我してしまったらしく、少しの間休養という事になっている。しかも、李先輩は今度の韓国代表の選手として選出されたらしく、そっちの方にも力を入れてるらしい。

 まぁ、このチームでゴールを守る守護神として活躍してるんだから当然だろうが。

 

 ――そして、ついに開戦。

 江ノ高のキックオフで始まった試合は、まず駆がボールを蹴って荒木先輩がボールを保持するという形に。そのまま前線まで上がれれば誰かにパスを出してシュートを狙う事もできるが……今回の相手、鎌学の選手がそう簡単に隙を見せてくれるとは思えない。

 さすがに、世界相手にするほどの選手が一堂に会してるわけじゃないだろうが、それにしても世界で戦えるような原石がたくさんいることには違いない。ね? だからスカウトの人も俺だけを観察にきてるわけじゃないと思うんだ。

 

 江ノ高は厳しいマークの中、しっかりとパスを繋いで前線にパスを出そうとしているが、それを最終ラインで鎌学DF陣がしっかりと裏への対策を取っていた。少しでも隙を見せれば荒木先輩から駆への縦パスを狙えるが、いかんせん、国松選手がしっかりと駆をマークしていた。

 しかも、今までの高校の選手と違って、裏に抜けようとしたときの動きを直感で感じ取っているような感じだ。

 駆自身、MFがパスを受ける前に動き出すから相手の不意を突いて裏に飛び出せていたものの、直感同士の対決となると……そりゃあ、経験の多い国松選手の方に分がある。

 問題は、いかにして国松選手の不意を突くことができるか、という所にあると思うが……っ!

 

『おぉっと!? 荒木選手から逢沢選手に出したパスを、鎌学のスイーパー国松選手がしっかりとマークしていたぁ! カットしたボールをすぐさまMFの佐伯選手に預け、今度は鎌学の攻撃とばかりに前線へとボールを運んでいくぅ!!』

「いくぞ……っ!」

 

 やはりと言うべきか。

 前回、鎌学と試合をしたとき以上に選手の厚みが増している。

 一番面倒なのが佐伯か。同じくMF――攻撃的な、なんて言葉は付くが――として動いている世良も確かに面倒だが、それよりも後方で全体の動きを見つつ、守備の動きをしたり攻撃に絡んだりするポジにいるのが面倒だ。

 

「世良と思わせて、佐伯。とかな」

 

 ――こうして鎌学と試合をするのは2回目だが、非常に厄介な相手だ。

 向こうにしてみればどう思ってるか分からないが、ここまで完成した布陣を築き上げた監督。そして監督の意図を汲み上げ、トマホークを完成させた選手たち。本当に……厄介な相手であることに違いはない。

 

「だからこそ、全力だ……っ!」

 

 ふと、脇腹に手を当ててしまう。

 違和感は感じない。ユニフォーム越しに感じる熱が、腹部に当てた手の平を通じて感じ取れた。佐伯が世良にパスを出し、難なくパスが通る。全体を見渡す仕草をする世良の様子を見て、前回やってくれたマリーシアを思い出した。

 ズル賢いなんて意味のマリーシアだが、国によっては意味が異なってくる。

 ……世良の働きは確かに大きい意味を持つだろうが、こっちにしてみればそんなのは関係ない。ただ世良が悪い奴として印象付けられ、鎌学のチームの印象も悪くなってしまったというのが江ノ高のメンバーとしての心情だ。

 

 そんな世良がボールを持っている。

 俺は鷹匠さんをマークしつつ、他の選手が上がってきてもすぐ対応できるような位置を取っている。そして、裏に抜けられないよう堀川先輩とDFラインの修正をしていた。いつパスを出してきても良いように、ラインを上げたり下げたり。

 これは、最終的にはサイドの審判の判断に任されてしまう所が大きいが……鷹匠さんほどの選手に裏に抜けられてしまうと、GKとの一対一という状況では決定力のある鷹匠さんの攻撃力だと決められてしまう確率が高い。うまい事オフサイドにするか、素早い戻りでDFしなければ。

 

『さぁ、今度は鎌学の攻撃だぁ! お馴染みトマホークが火を噴くことになるのか、江ノ高、どうやって対処するんだぁ!?』

 

 世良がゆっくりと上がっている。

 鷹匠さんだけに的を絞らせないよう、味方が上がるのを待っているのだろうが、逆に言えばその時間で江ノ高のDF陣も戻ることができる。まぁ、世良はミドルからもシュートを狙うだけの技術もあるし、どこか守備に(ほつ)れがないか探してるんだろう。

 が、時間をかければかけるほど戦況は混雑としてくる。

 俺が鷹匠さんをマークしてるってのもあるだろうが、堀川先輩も別のFWを見ているし、パスの出しどころが無いのだろう。トマホーク、ここに敗れたりぃ! みたいなことは大にして言わないが、最終的には鷹匠さんがシュートを決めるだろうから、どうしても一番集中するのは鷹匠さんだな。

 

 ――なんて考えていたら、早速世良がパスを出そうとしている。

 鷹匠さんがいち早く気づいて裏を取ろうと動き出した。もし、ここでDFしてるのが俺だけだったら簡単にラインを上げてオフサイドにすることはできるだろうが、さすがに堀川先輩が動きについてくることができない。

 故に、鷹匠さんの動きに合わせて動くしかない。

 

『パスだぁ! 裏に抜け出した鷹匠選手に合わせてボールを出したぁ! しかし、不知火選手がしっかりとマークしているぅ!』

「くっ!」

 

 一人突出した動きで抜け出そうとする鷹匠さんを何とかマーク。

 他にもFWが前に上がってきているが、織田先輩や堀川先輩も戻ってきている。このまましっかり鷹匠さんを、なんて考えてると……

 

「……っ!」

「なっ!?」

 

 鷹匠さんが急停止。

 飛んでくるボールに向かってジャンプした。そのままボールを受けるわけは無いだろうなと思っていたが……空中でボールをヘッドで受け、進みたい方向にボールを落とした。

 てか、体の使い方がうますぎる。空中戦が強いとか、これから鷹匠さんの事は心の中でリオレウスとでも呼んでやろう。うむ、空の帝王みたいでカッコいいだろ(適当)

 

 うまい事前にボールを出したリオレウスが腕を使って強引に突破しようとしてくるが、それを何とか抑えつつ、他のDFが上がってくるのを待つことに。……いやぁ、実際、声を荒げるときの鷹匠さんなんて口から火ぃ出てそうだ。

 

()ったぁぁっ!!」

「チッ!」

『危ない場面になりそうなところ、江ノ高のスナイパー堀川選手がしっかりとクリア! いやぁ、それにしても不知火選手、鷹匠選手を相手に全く力負けしてません!』

 

 いやぁ、危なかった危なかった。

 このまま鷹匠さんに突進されてたらミドルからでもシュートするからなぁ。今、紅林先輩がGKしてるけど、普通にシュートしても手弾くんじゃなかろうか。

 

 リオレウスだけに火の玉シュートってか、ワロエナイ。


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