俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第56話

 1対0になってからはスタメン組の攻撃がより激しいものになったが、残念ながら本気でDFをし始めた俺の守備を容易く超えよう者はいなかった。

 高瀬が中央でパスを受けようものなら俺は高瀬よりも高く飛び上り。

 マコ先輩や沢村先輩がミドルシュートを打とうものなら身を挺して防ぎ、足を生かしてパスコースを消したりと、縦横無尽の活躍をしたのだった。

 その度に敵味方から変な目で見られていたが、そんな事は一切気にすることなく続行。

 

 1点目は日比野のキャノンシュート。

 態度は兎も角、パスやファールの貰い方では世良を参考に。

 フリースローでは金選手のスローイングのような長距離を再現してみたり。

 全体的な動きでは佐伯を、DFの統率では飛鳥選手を参考に指示を出してみたものの、ついてこれなかった部分があったり。

 

 色々な選手の動きを取り入れ、全力でスタメン組の動きを阻害し続けにし続けた結果、前半は無失点で折り返すことに成功。

 ちなみに、こちら側は2得点を決めている。

 1点目は俺。2点目は荒木先輩のミドルシュートがゴール隅に綺麗に決まった。

 

「さすが不知火……あのフリーキックはやばかった」

「ああ。あれを真正面から受け止めようとしてた紅林も凄かったが……あの威力はなぁ」

 

 おや?

 何故か味方から白い目で見られているような気がするんだが、どうしてだろうか。全力で動き回ってるだけだろう! 俺は悪くなぁい!!

 

 後半も前半と変わらない布陣で展開。

 そもそも、スタメン組がこの布陣から1点くらいは奪ってくれないと話にならないという事か。なら俺が手を抜けば良い? 残念、そうはならない(暗黒微笑)

 ここでスタメン組の誰かが、普段以上の実力を発揮してくれることで、俺自身の実力の向上にも繋がると言うわけだ。

 

「さぁて後半も止めるぞぉ」

「アカン……向こうが可哀想になってきた」

「不知火がいるだけで鎌学よりもキツイ守備になってるのはどうしてなんですかねぇ」

「知らん」

 

 錦織先輩と三上先輩のキャラブレが激しい件について。

 こんなキャラだったかなぁ……まぁ、今の方が付き合いやすいからこのまま継続してどうぞ。

 

 何気に代表合宿で一緒になった島選手の合気道の動きを試してみようと思ってみたが、そもそも俺のフィジカルとスペックを思い返して、別段そんな事をする必要もないんじゃ? と思い至ってしまった。

 それだったら飛鳥選手みたいに指示を出して、組織的な動きをしてもらった方がやりやすいというもの。鳥瞰視点で全体を見渡せるからこその強みもある。

 これでオフサイドトラップも仕掛けやすくなったというもの。

 火野先輩と薫が何とか裏から抜け出そうと走り出すが、指示を聞いてくれる先輩方が良い動きをしてくれるもので、すぐにフラッグが上がり、笛が鳴る。

 

 それでも、俺が中央を守備していることを鑑みて、サイドからのドリブル突破。サイドチェンジからの攻撃の組み立てなど、向こうは向こうで組織だった攻撃をしてくる。

 残念ながらサイドから高瀬を狙うアーリークロスは、身長差なんてものともしない俺の跳躍力で全てを無に還す。残念だったな……ここは俺のテリトリー!

 ……なんて、心の中で考えるだけでも恥ずかしいんだが、そんな自分が馬鹿らし過ぎて笑えて来る。笑みが絶えない人生って良いよネ!!

 

 後半20分。

 流れるようなパス回しから攻撃の糸口を見つけようとしているスタメン組だったが、堅い守備に攻めあぐねている模様。

 じりじりと時間だけが過ぎていくことに焦ったのか、パス回しをしている最中、少し長めのパスになった所を荒木先輩がカット。

 慌ててボールを奪い返そうとするものの、荒木先輩のフェイントの交えたドリブルを簡単に止めることが出来ず、敵陣への進攻を許してしまう。

 嗚呼……また追加点か、と思った時だった。

 

「殺す殺す殺す殺すぅぅぅ!!」

「んなっ!?」

「よしっ!!」

 

 海王寺先輩がマークしてる間に、少し離れたところにいた堀川先輩が猛烈な勢いで走りこんでのスライディング。

 これがまた綺麗にボールに当てに行くのだから驚きだ。

 

 そのボールを織田先輩が足元に納め、そこからの攻勢は凄まじかった。

 俺のDF外にいるマコ先輩にパスしてからのミドルシュート。

 何とか前に弾いた李先輩であったが、サイドに零れてしまったボールは火野先輩が奪取。そのままダイレクトで蹴ったと思いきや、身体で守り切る三上先輩。

 そのままボールをクリアできず、サイドラインぎりぎりで八雲が足元に納め、沢村先輩にパスを出した。いつでも走り出せる準備だけはしておいたものの、ミドルシュートを狙わずサイドに展開。

 俺に対するケアだろう。

 普段の沢村先輩だったら間違いなくシュートを打ってたと思うが……単に慎重になっただろうか?

 

 そのまま高瀬のケアをしているものの、サイドからずっとゴールネットを狙っているのがありありと感じられる。が、ゴールエリアの外からは絶対に打ってこない。

 どのタイミングで狙ってくるだろうか……?

 じりじりと中央から逸れる動きをする高瀬に注意しつつ、全体に意識を張り巡らせる。

 

 ――しかしまぁ、正直言って1点くらいだったら奪われても良いとは思ってる。

 それでスタメン組の意識が向上してくれるんだったら。

 が、それはそれで上から目線だって話になるんで、そういう事はしない方向で。1点も取れなかった……と意気消沈しても、このチームだったらすぐ盛り返してくれるでしょうと。

 自分勝手だとは思っているが、そういった信頼があった。

 

「俺が……っ!」

「くっそ……!」

 

 ボールを受けた薫が、お得意のフェイントを生かしてドリブル突破。

 体格で優っている錦織先輩だったが、テクニックと俊敏差がここで出てしまったと言ったところか。

 いつでも高瀬のカバーでできる位置で、薫の動向に集中する。

 またぎフェイントをしようがボールを蹴り出すまで動かない。

 右、左、右……そのままシュートしようともヘッドでクリアしてやらんばかりの集中力。

 右でシュート体勢!

 そのまま打ってくるかと身構えたところでパスが飛んでいた。

 確かに逆サイドに火野先輩が飛び出してきてたのは分かっちゃいたが……! 走り出そうとした瞬間、高瀬が体を入れてきた。別に何とでもなるが、無理矢理突破しようとするとファールを取られるかもしれない。

 もう少しDF粘ってくれても良いんやで……!?

 

「いけやぁっ!!」

「くっ!」

 

 飛び上り、渾身のヘッドシュートがゴールネットに突き刺さった。

 李先輩も薫の動きに惑わされていたらしく、何とか伸ばそうとした左腕だったが、指先が少し触れただけだった。意地の守備も、虚しくゴールを奪われる形になってしまったのだった。

 

「よっしゃぁぁっ!!」

「やったなっ!」

 

 皆、そこら辺の高校から得点するより喜んでるんじゃないかこれ。

 先日試合をしたばかりの経政よりも。なぁにこれぇ? 俺のせいか? 完全に俺がラスボス的存在になってるような気がするんだが!?

 ちょっちキレちまったぜ……!

 

「では、これからはポジションチェンジしてもらいましょうか」

「え、っと……監督?」

「折角の機会なのでね。少々面白い事をしても良いでしょう。DFを錦織君と三上君の2人で。中村君と遠藤君のポジションを少し下げて、4人の守備的MFに。そして、荒木君と不知火君にMFを」

「は……?」

 

 思ってもなかった采配だった。

 が、中々に面白い采配だなとも思う。これで俺が中盤辺りで好き勝手に動けるような配置になったようなもの。

 確かに今までMFはやったことが無いポジションだが……

 

「まっさか、お前が俺の横に立つとはな」

「いやぁ、荒木先輩と一緒にできるなんて光栄ですなぁ(棒」

「かっこ棒ってなんだよ!? ったく、ほんっとうにてめぇはぁぁ……!!」

 

 後半25分。

 前半からの動きで、マコ先輩と織田先輩を観察することができたし、そろそろ圧倒的な攻勢というのも見せても良いかもしれない。例えそれが、一個人による動きだとしても。

 くぅぅ……面白くなってきた!


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