俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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第42話

 準決勝当日。

 本日は鎌倉学園との試合だと言うのに少し意気が低い江ノ高サッカー部。

 それもそのはず。今まで共にここまで勝ち進んできた部員のうち3人の部員が江ノ高サッカー部を辞めてしまったのだから。

 

 元SC対FCの対決で、前は拮抗したぶつかり合いをしていたのにいつの間にかできた差に絶望してしまったのか辞めてしまった先輩方がいるのだ。それを残念に思っているのか良く思ってないのか、俯きがちのキャプテンに織田先輩。

 まぁ、キャプテンとだけあってモチベーションの回復が早い沢村先輩であったが、未だに引きずっていそうな表情をしている織田先輩に、俺は何も言えないでいた。

 実際問題、織田先輩が考える事になった一因は俺にあるんだから。

 

 しかし、江ノ高サッカー部として活動してからずっと実力主義できてたのに変わりはないため、そこまで考える必要もないと考えている自分がいる。確かに短い期間ではあるが、それだけ俺はここで成果を残しているんだから。

 

 とは言え……このモチベーションのままで鎌学を相手にできるかどうか。

 それが、今の江ノ高の正念場の様な気がしてならなかった。

 

『さぁやって参りました! 本日は準決勝、江ノ島高校と鎌倉学園の試合です! 今大会を通してまだ1失点の鉄壁を誇る江ノ島高校。そして、U-19日本代表に選出され、日本を率いて活躍をしている鷹匠選手。決定的なまでの攻撃力を持ったトマホークが火を噴くかっ!!』

 

 コートの反対側で各々体を動かしている鎌学イレブンの様子に、こちらを格下だと侮って油断している感じはない。むしろ、気合十分という熱気がこっちにまで伝わってくる。

 ……江ノ高との意気の差にただただ歯痒い思いをするばかりだ。こうなってしまった原因のほぼほぼが俺のせいなんだから。

 前半はDFとして。後は様子を見てFWになる予定だ。

 今日は、面目躍如の活躍をしないと……罪滅ぼしってわけじゃないが、それぐらいしないと俺の気が済まない。

 

「不知火……あんま背負わなくても大丈夫だぞ?」

「荒木先輩……」

「ありゃお前のせいじゃねぇ。自分の実力もわからねぇ奴が進んで部活を辞めてったんだ」

「はい……あざッス」

 

 荒木先輩からのありがたいお言葉をいただいたところで一つ、頬を叩く。

 気合を入れ、前を向く。DFラインから見上げたところで目と目が合った選手が一人。例のFW鷹匠選手だ。

 

 じっとこちらを見つめてくる鷹匠選手。

 今までは観客席からずっと熱視線を送ってきていたが、まさかこうして同じピッチに立つことになるとは……困惑の部分がある。まさか俺がサッカーを、なんて気持ちが。

 いや、鷹匠先輩に気を取られていたが、少し視野を広げて全体を見渡してみたら、相手選手のほとんどが俺の事を見ていた。鎌倉中学の時に見かけたことのある佐伯もまた、駆じゃなく俺に視線をよこしていた。

 別に俺の事なんて気にしなくて良いから大人しく駆とお見合いでもしていてほしいところである。

 

 実際、この大会で一番シュートを決めてる俺が注目を集めないわけがない。それは前の試合からも分かっていたことだが、これから先、試合を勝ち進んでいくたびに江ノ高だけじゃなく、俺の存在が広まっていく……まさかここまで俺の知名度があがるなんてな。

 

 部員が減ってしまったのはしょうがないとして。

 実際に試合にでるメンバーに変更があったかと言うと、そういう問題は一切なかったりする。それこそ、ベンチ入りもできなかった先輩方が自主的に退部してしまったという話なだけで。

 補欠がいないのはチーム力としては痛い事だが、逆に部活としての活動資金の削減ができて良かったのではないだろうか(すっとぼけ)

 キャプテンや織田先輩には悪いが、部員として過ごした期間なんて大した日数も経ってなかったし。ただまぁ……ポジションをほいほい変えるのは正直どうにかならんものかと俺も思う。

 

 ――ピィィィ!!

 

『さぁ、試合開始のホイッスルが鳴り響いたぁ! 決勝に進むのはどちらの高校になるのか!? この試合を制して全国大会に進出するのはどちらの高校になるのかぁっ!!』

 

 そう……

 解説の言う通り、この試合を勝ち進めば決勝に勝ち進むことができるだけでなく、全国大会への切符を手にすることができる。ただ漠然と試合をこなしてきたが、ここにきて少し緊張してきた気がする。

 ……気がするだけで、そこまで身体に影響がないだけましか。

 

 江ノ高からのキックオフから始まった試合。

 いつも通りDFの位置から相手の陣容を確認しつつ、江ノ高の攻めに対する対応を見極める。先頭、CFで敵陣に突っ込んでいる火野先輩。相手の裏をかこうと集中している駆。そしてサイドからの突破を狙っている薫。

 しかし、全員がしっかりと鎌学DF陣に阻まれ、パスの出しどころがない。珍しく荒木先輩がパスを出せずに足元にボールをとどめていた。そこに相手FW、MFがボールを奪いに行くが、さすがの足業で軽く避けていく。

 が、前にボールを出せない。

 中央付近、織田先輩、マコ先輩の辺りで回しているが、少しずつ防衛ラインを上げられている。

 

「くっ……」

「先輩!」

「っ、不知火!」

 

 自分から前に出てボールを貰いに。

 で、足元にボールが収まったものの、FWの鷹匠先輩がプレスをしかけてくる。あんな厳つい顔で迫られても困るんですが。

 しかし、俺がボールを持ち、鷹匠先輩が向かってきた瞬間から鎌学イレブンの視線が集中した。その一瞬を見はからったように飛び出した駆に合わせ、一気にボールを蹴り出した。

 

「なっ」

 

 鷹匠先輩の驚いたような声が聞こえてくるが、何も気にしない。

 確かに俺がいるところから駆の様子を確認するのは困難だが、俯瞰視点である程度判断することができる。

 トマホークが鎌学の中央ラインを真っ直ぐにボールを上げてくる攻撃システムなんだろうが、俺からしてみれば適当にFWにボールを出せるからな。そんな複雑に考えようとは思わない。

 そう、すべては俺が支配している(白目)

 

『おぉっとぉ! 前半開始から早速江ノ高チャンスだぁ! 不知火選手が大きく蹴り出したボールがそのまま逢沢選手の足元に収まった!』

「行かせねぇっ!」

 

 と、駆の前に出てきたのは鎌学でもトップの守備力を誇る国松選手。

 スイーパーとして活躍する彼は、駆のボールをクリアしようと牙をむく。

 すぐ近くまで近付いてきた国松選手を駆は回避できるのか!?

 ……なんて大げさに言ってみたものの、現実問題数値で見た実力でいえば国松選手の方がすべて上。基本的に何も無ければ数本に1回程度しかドリブルで超える事しかできない。

 

「ここで、決める!」

「う、ぉおっ!?」

 

 新技炸裂。

 ……前の試合で何気なく俺がさらしてしまったφトリックだが、駆がこれを使う機会があまり無かったため隠し技みたいな感じになっていた。

 が、そんなこちらの事情を知るわけもなく、駆がいきなり使ったφトリックに対応しきることができなかった国松選手は突破を許してしまう。

 周りの選手も、駆のフェイントに目を見張っている。

 残るは相手GKただ一人。俺に集中していた鎌学イレブンも、これを機に駆に少し目が行くことになるだろう。別に俺なんか見てなくても良いんだよ?

 

 てか、今更だが。

 DFラインから一気にFWまでボールをロングパスしてシュートまで行けるこの形。トマホークより強くないですかね?

 

 国松選手を置き去りにした駆はそのまま右足を振り上げ、シュート。

 少し精度の甘いシュートになったものの、一対一で蹴られたボールはGKの指先の少し先を通り過ぎ、ネットを揺らしたのだった。

 

『江ノ高、先制ぃ! この試合スタメンとして選出されている逢沢選手がいきなり魅せてくれました! あれは葉蔭戦で不知火選手が見せたフェイントのようにも見えましたがどうなんでしょうか!?』

 

 前半4分。

 先制点を挙げたのは江ノ高、駆。

 ――なのだが、何故か目の前にいる鷹匠先輩は俺の事を睨み付けてきていた。しかも無言で。

 

 ……俺、どうしたら良いんだぃ?


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