俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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とりあえず、第03話まで投稿。次からは週1ぐらいのペースになります。休みが欲しい(白目)


第03話

「よっと」

 

 着慣れない水着が尻に食い込むのが辛い。

 着替えをしてそれなりにストレッチをしていたらいつの間にか後半が始まる時間になっていたようだ。

 

「ヤス、よろしくね!」

「お? 俺は駆と同じチームなのか?」

「そうだよ!」

 

 それは心強い。

 何もできない状態で味方の中に心の味方もいなかったら泣ける。

 

「そうか……で、俺は何をすればいいんだ?」

「まあ、とりあえずボールが来たら誰かにパスしておけば大丈夫だよ」

「おぉ……あまり難しくなさそうでよかった」

「みんなヤスが未経験者だって聞いてるから、そこまで酷いことにはならないと思うよ」

 

 それから俺は軽く駆からルールとゴール位置を確認。

 俺のポジションはミッドフィルダーとかいう所になるらしい。

 ディフェンスした事は無いし、上手いことシュートできるかも分からない。恐らくそんなところだろう。が、基本的にこの練習はポジションを固定していないらしいから、自由に動き回っていいそうだ。

 だからと言って何をして良いのかわからないんだが。

 

 まぁ、前半で少し見取り(・・・)をしてたからある程度は動けると思うけど、最初はこの浜辺に慣れるのに専念しようかな。

 

「行ったぞ、ヤス!」

「おっと」

 

 火野先輩の声に反応すると同時に、容赦なく俺の足元に収まるボール。

 

「おらぁぁぁぁぁぁっ!」

「うおわっ!?」

 

 そこにおかっぱ頭の堀川先輩が勢いよく突っ込んできた。

 いきなりの洗礼に俺は混乱してしまったし、足元にあったボールも奪われてしまった。

 

 くそう……少しは手加減してくれても良いんじゃないか?

 とりあえず、堀川先輩が誰かに仕掛けるのを見て(・・)、避け方を学ぶとしよう。

 

 とりあえず、本当にこの砂浜に慣れさせてくれよぅ。

 

 それからしばらく砂に慣れながらボールの行方を目で追っていたが、初心者の俺に誰もマークにつかず、一人ボッチになってしまった。

 

「へいへーい、今だったら俺空いてるよぉ」

「ヤス!」

「ほいほいっと」

 

 唯一の三年生、三上先輩からボールが転がってくる。

 今はこっちが攻めだから……別にこっから蹴っても良いんだよな?(圧倒的フラグ感)

 

「っしゃぁあ!」

「な!?」

 

 勢いよく右足を振り下ろす。

 距離は開いてるが、まぁ、大丈夫だろうという感覚で足元のボールを蹴る!

 

「おぉ?」

 

 足を振り下ろした所で左足が砂に取られ、体勢を崩してしまった。

 そのせいでボールは思い描いた軌道とは全く違う、場外ホームランになってしまった。

 

 うーむ……ゴールに向かって蹴ったつもりだったんだが。

 

「……おいおい、なんて威力だよ」

「あんなん、流石に受け止めきれんかもな」

「そろそろ砂に慣れてきたんで、どんどんボール回してください」

「お、自信満々だな新人くん!」

 

 砂に足を取られた直後の言葉がこれである。(白目)

 とりあえず、先輩方の動き見ることはできたからそれなりの動きはできそうだ。

 

 またこっちのチームが攻勢になってすぐ、先輩が俺にボールを回してくれた。

 ボールが砂に取られ、不規則な動きをする。それを感じながらボールを蹴りだす。

 全体を見渡すと、またしても堀川先輩が俺に対してスライディングを仕掛けようとしてた。

 本来ディフェンスの人なんだが、今やってるサッカーのルールは特に決められたポジションはないらしい。だから他の人に守りを任せて――キーパーの紅林(くればやし)先輩だけは固定のポジション――突撃してこれるんだろう。

 それは、一種の信頼を形にしているようなものだと思う。練習だからっていうのもあるかもしれんが。

 

 俺は、ボールを浮かせることで堀川先輩のスライディングをかわしつつ、前へとボールを蹴りだした。

 

「なにぃ!?」

「火野先輩!」

「よし! ナイスだ!」

 

 前線へと走り出していた火野先輩にパスを出す。

 せっかくできたスペースを利用しない手はない。

 火野先輩はそのままドリブルでどんどん上がっていく。まるで無人の野を駆るように走っているが、これで砂浜を走っているんだから凄まじい。

 そんな先輩に二人のディフェンスが間隔を空けつつにじり寄る。

 さすがの火野先輩と言えど、砂浜で二人を抜くのは非常に難しいだろう。

 俺はパスをもらえる位置につくようにして先輩の後ろに近寄っていく。

 

「先輩!」

「しゃーないか!」

 

 当然、相手にパスカットされないように動いている。

 普通に近寄ってもパスを出すのは読めるからな。

 

「へ、初心者が俺ら二人の相手をすんのか?」

「そんな事しませんよっと!」

「ぱ、パスゥ!?」

 

 パスを足元に納めず、そのまま弧を描くようなパスを出す。

 半円を描く軌道は先輩方の頭上を越え、ディフェンスとキーパーのほぼ真ん中あたりに落ちようとしている。

 

「へっ! 狙いは良いが、誰もいないと意味はねぇぞ!」

「何言ってんすか……いるじゃないですか、最高の奴が」

「な!」

「いっけぇぇぇぇぇっ!!」

 

 空白の空間に走りこんでいた駆が宙に浮いたボールをダイレクトボレーを叩き込んだ。

 唸りを上げながら宙を駆るボールは、そのままゴールの柱の間を通り抜け、砂場に強烈なダイブをかました。

 いやぁ……転生特典を持て余してたが、運動の事になるとかなり優秀な部類になるなぁ。

 何気に今のラストパスも俯瞰視点で見れてたからこそのパスだったし。

 

 例えば今俺が一人称で見ている光景が普通の視点だとしてテレビで放映されてるとすると、俺の頭の中にもう一つのテレビがあるとする。そのテレビがサッカーの試合を放送してるテレビ画面、つまるところゲームみたいに天からコートを見ている感じを映してるみたいな?

 言ってしまえばチート(転生特典って時点で何かがおかしいのだが)。

 

「やった!」

「よくやったぞ逢沢ぁ!!」

「そ、そんな事ないです!」

 

 はっはっは。

 これで一点。ゲーム的に表現すれば俺はアシストってことになるのかな?

 他のルールは曖昧なんだが、今度適当にルールブックでも読んでおこうかな。

 

「いやいや! お前の最後のあのパスなんなんだ!? ホントに未経験者なのかよ!」

「え? まぁ、そうですね……今まで帰宅部でしたから」

「マジかよ……いや、なんにせよお前がうちに来てくれて凄え嬉しいぜ」

「ありがとうございます」

 

 いやぁ、少しずるをしてる感があるからなぁ。

 それでも喜んでくれてるんだったら良いか。

 

 その後、堀川先輩のスライディングを見た(・・)俺が守備でも貢献し始め、一気に3点を奪うことに成功したのだった。


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