俺氏、江ノ島高校にてサッカーを始める。   作:Sonnet

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今回は少し短いです。
前回のエリ騎士。先生強すぎィ!って感じで結構面白いですな。
あの編成で1部に上がれないんだからどんなメンツが1部にはいるというのか……


第23話

 辻堂学園を下し、決勝トーナメントに進んだ俺たち江ノ高メンバーは、次の試合まで3週間あるという事で、試合があった次の日は完全休養になっていた。つまるところ、試合が続いていた今まで行っていた朝練やら調整やらが無いという事で、ゆったりとした朝を迎えることができていた。

 

「康寛、今日は部活の練習は無いのか?」

 

 いつもより遅い時間に起床してリビングに向かうと、朝食を食べ終え新聞を読んでいる父さん――不知火友康(ともやす)。今年で37歳になる父さんは、白髪交じりになってきた髪をオールバックに決めている。温和そうな表情を浮かべているが、いかにも仕事ができそうな風格を漂わせている――が声をかけてきた。

 

「父さん……今日の朝練は無いよ。昨日試合があったから、今日は休みなんだ」

「そうなのか……いやぁ、家でゆっくり康寛の顔を見れるのも久しぶりだなぁ」

「なんだよいきなり。部活が終わった後とかはそれなりにゆっくりしてるだろ?」

「ああ、そうだったな」

 

 父のその言葉に俺は少し呆れ、父さんは一人苦笑していた。

 俺は、両親に転生者であることを打ち明けたことは無い。それどころか、誰にもこの件に関する話はしたことがなかった。

 

 他愛無い会話、他愛無い日常。

 ――俺が転生者だという真実を打ち明ける日は来るのだろうか。

 

「……言わなくても良いだろうか」

「ん? どうしたんだ?」

「いや、何でもない。学校行く準備でもしてくるよ」

「ああ」

 

 結局、今まで通り真実を胸に隠したまま、今日と言う一日を過ごす事にしてしまった。

 

 

 

 だからと言って特に何も起きないんだけどね。

 少し、シリアスに感じられるようなセリフを言ってみたくなってしまう事ってのは誰にでもあると思う。自らセンチメンタルになる。それこそ厨二病の元となっている温床なんだと思うが。

 まぁ、こうやってくだらないことをつらつらと頭の中で考えては消えていくこの過程も、一種の暇つぶしになっていると思えば悪い事ではない。

 

「貰ったぁ!」

「んあ?」

「んなぁっ!?」

 

 今は体育の時間。

 サッカー部の練習は無くても一日は過ぎていく。つまり、平日普通の日の今日も授業はあるわけで、今は体育の授業の一環としてサッカーをしているわけだ。

 何故かこのクラスには俺含め4人のサッカー部員がいるわけだが、それ以外は普通のクラスメート。気を抜いてても俺がボールを取られることは無い。

 

 ちなみにチーム分けは俺と駆。それと、中塚と高瀬の2人ずつに分かれての編成となっている。しかし、授業のサッカーでクラスメート相手にマジになるつもりもないし、適当に流していこうか。にしても皆結構普通に運動してるなぁ……俺の昔のクラスメートもここまで動いてたっけかなぁ。

 

「おらおらおらおらぁ!」

「はいはい、ボールは貰いましたよぉ」

「ちっくしょぉ!!」

 

 突撃してきた中塚からボールを奪う。

 足は速いがドリブルが雑すぎて簡単にボールを奪えてしまう。愚直な攻めは嫌いじゃないんだが、いかんせんもう少しドリブルが巧くならないとなぁ。レギュラーになるのは難しいだろう。せめて、もっと足が速けりゃな。

 

「ほぉら駆、パスだぞぉ」

「うん!」

 

 適当にパス。

 俺が体育の授業でガチになったら皆の体が宙を舞う事になってしまう。嘘でも冗談でも何でもなく、間違いなく大怪我を負わしてしまうだろう。いや、流石に人間の体もそこまで貧弱じゃないか? 俺は人間を辞めるぞ! ジョジョォ! とか叫んでおいた方が良いのかなぁ。

 

「いくよ、康寛!」

「……は?」

 

 適当にパスしたりカットしてたらいつの間にか奈々が参加してた。

 一体俺が何を言ってるか自分でもよくわからない。でも、確か女子は体育館でバレーボールをやってたと思うんだが。しかも、奈々が参加したことで人数も向こうの方が多い。とは言え、そこまでの戦力差にもならないんだが、さすがに奈々の参加はまずい。あいつ一人で何人力だよ。

 

 その他大勢と化してしまったクラスメートの男子の間をするすると通り抜け、すぐに俺と一対一のシチュエーション。何だこれ?

 

「なんで奈々が男子の方に参加してんだ!」

「だって、向こうでバレーしてるだけなんてつまらないんだもん!」

「もんって……お前ぇ」

「康寛もなんでここまで上手になったのよ!」

「部員として巧くなって何がいけないんだか」

「それでも! 認めたくないって思っちゃうんだよ!」

「何をだ!」

 

 会話しながらも続く奈々のドリブルにフェイント。

 最近だと結構夜に公園で一緒に練習してることもあり、奈々の癖ってのは大分わかってきてるし、どうやって抜こうとしてくるかも判断できるようになってきた。昔結構格ゲーやってたから、対人戦でどんな技をどういうタイミングで出してくるのか。それを感じ取れるようになったら、おめでとう、君も人間卒業だね!

 

「ここ!」

「甘いっ!」

「きゃっ!?」

 

 ウィッチターン。

 奈々の小さな体とテクニックを生かしたターン。

 だけど、その動きも予測済みでした。ボールを奪った俺はそのまま駆にパスを出す。

 しっかりとパスを受け取った駆はそのままドリブルで駆け上がっていき、前に飛び出してきたクラスメートを容赦なく新しく習得しつつある幻のフェイントやらで抜き去り1点を奪取した。

 

「いやぁ、クラスメートにも容赦のない奴ですなぁ」

「……それを言ったら康寛も結構容赦なかったけどね」

「奈々は対象には入らないだろうに」

「それでも!」

 

 イーッとあっかんべーしてくる奈々の姿がかなり幼く見える。

 なんだ、俺はロリコンになってしまうというのか……奈々が可愛く見えてしまうなんて。

 奈々からボールを奪った俺はクラスメート男子諸君から嫉妬交じりの視線を向けられ、ちびちびと絡まれてしまう。お? なんだ、俺のアイアンクローでも食らいたいとでもいうのかね? と指をワキワキさせたら急いで逃げて行ってしまった。解せぬ。

 

 そして奈々の周りには男子が集まり出してしまう。

 今は他の女子もいないから簡単に集まれるんだろう。普段は周りの女子に煙たがられる悲しい生き物(男子諸君)だからね。仕方ないね。

 

 ――しかし、さっきから気になってるんだが、学校の外からこっちに向かってカメラを構えてるあのおっさんは一体誰なんだ?


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