第10話
SCとの代表戦の次の日、高校公認のクラブとして公式の試合に出ることになるのかぁと考えていたところに、岩城監督から重大な知らせを聞かされた。
「今日をもって、FCは解散します」
「な……」
「な、なんでだよイワちゃん!」
マコ先輩と火野先輩が岩城監督に詰め寄っている。
それ以外の先輩方も納得がいってない様子で、あの二人が突撃していなかったら別の誰かが同じことをしていただろうぐらい。
かく言う俺も俺で納得はしていない。
付け焼刃の技術で何とか試合を終わらせた俺ではあるが、せっかく試合に勝ったっていうのに、まさかそのクラブが解散するとは夢にも思ってなかったし。まさか、FCの人数が少なすぎるからってのが原因でSCが優先されているのだろうか? それは無いと思いたいが……
「み、皆さん、落ち着いて聞いてください。確かに、FCが解散するというのは大きなことですが、話はまだあるんです」
「で、その話ってのはなんなんスか?」
マコ先輩が皆を代表して問いかける。
「実は、我々FCとSC、二つのクラブが一つに纏まることになったんです!」
「え……えぇっ!? マジっすか!?」
驚いた。
まさかと言った表情で皆が顔を見合っている。
確かに、少しは思ったことだ。同じ高校にいるのに何故二つもサッカークラブがあるのだろうかと。これは生徒の問題ではなく、完全にこのクラブを立ち上げた監督たちに問題があったのだろう。それが次第に部員たちの間での対立にまで発展してしまっていたのだろうが。
しかし、これでFCの欠点だった人数不足は一気に解消されることになるとともに、戦力の大幅強化にも繋がったわけだ。
「それでは、これから新生『江ノ島高校サッカー部』の顔合わせに行きますよ」
「おう!」
SCの方はすでにグラウンドに集まっているらしく、向こうはそこで近藤監督から話を聞いているらしい。負けたチームが最初に解散するという話を聞かされるというのは精神的に非常に悔しい思いを抱くことになるのだろうが、そこは敗者として一時の屈辱を味わっておくんだなとドS心満載の笑みで断罪してやろう。
「本日より私、岩城鉄平が江ノ島高校サッカー部監督を務めさせていただくことになりました」
さて、元SCと元FCメンバーの顔合わせもほどほどに、新生江ノ高サッカー部の新監督に就任した岩城監督からのお言葉。マコ先輩たちは嬉しそうな表情をしているが、織田先輩や沢村先輩と言った人たちは不安そうな思いを隠せずにいた。まぁ、今まで世話をしてくれた監督がいきなりいなくなるのは心情的に悲しいものがあるだろうが。
「なお、近藤先生には今後もサッカー部顧問として私ともども皆さんの指導に当たっていただけるようお願いしました」
ホッとしたような表情と、数人分の嘆息。
試合に負けたとは言えいきなりチームが解散したことと監督が変わることは、高校生諸君にとってはそれなりに負担があったらしい。それは岩城監督も理解していたらしく、その不満を解消するために二人監督での体制でやっていくのだろう。
まぁ……よくよく考えてみればこれで部員の数は60人を超えたわけだから、一人で全員をまとめて見るよりも数人で指導していくほうがより良いチーム作りをすることができるだろうし。
「キャプテンは3年生の沢村
「うす」
元々両チームのキャプテンだった先輩方がその立場に就任。
これはそれぞれのチームに所属していた選手の心情をより把握しているからと言うのも大きな要因だろう。俺としても良くしてもらってるマコ先輩が副キャプテンに選ばれて少なからずホッとしてるし。
そして、今までほぼスタメンとして試合に出ていたFCのメンバーは、人数が増えたことによってスタメンとして選ばれるかどうか微妙なことになってしまった。それも当然の事だからしょうがないのだが、元SCには
戦力増強と言えば聞こえは良いが、スタメンを奪い合うことになることを考えれば少々厳しいものになってくるだろう。
「……えー、では最後にもう一言だけ」
スタメンを一から見直していくと言ったところで沸き立っていた元SCのメンバーは、岩城監督の言葉で静かになる。誰かの喉が鳴る音が聞こえてきたが、岩城監督がそんな堅苦しいことをずっと言い続けられるわけがない。
「サッカーを、楽しみましょう!」
力強く言われた言葉。
監督の輝いた目に、元FCのメンバーはいつも通りの笑顔を、元SCのメンバーは戸惑っているのか、少しざわめきが起きている。まぁ、話を聞いた通りだと近藤先生の指導はかなり厳しいらしいから、今までとのギャップに驚いているに違いない。
「不知火君、少し良いですか?」
「え? あ、はい……なんですか?」
新生江ノ高サッカー部の誕生式も終わり、メンバー同士の自己紹介も終わって本日は解散かと思いきや、岩城監督が話かけてきた。
何だろう?
まさか、今になって人数が増えたから初心者の俺は不必要だとでも言いに来たのか。それとももっとサッカーの知識を増やせとルールブックでも持ってきたのか。不安だ。
「実は、不知火君には少しの間、このDVDを見ていただきたいんです」
「DVDですか?」
そう言う監督の手には一本のDVDが握られていた。
パッケージに商品名等は記載されておらず、どんな内容のDVDなのかは見た目で判断することはできないのだが、監督が俺に渡してくるということは、恐らくサッカー関係のDVDであろうことは予測できる。
「とても初心者のものとは思えないという話は前にしたことを覚えていますか?」
「はい、砂浜でサッカーをしたときでしたっけ?」
「そうです。今となっては正式なサッカー部の一員なので未経験者云々の話はしませんが、君の動きを見ていて、とても技術の吸収が早いと実感しまして、是非これを君に見てもらいたいと思ったわけです」
「はぁ……てことは、やっぱりサッカー関連ですよね?」
「そうです! 内容は見ていただければわかると思いますが、世界で活躍している選手の中でも同年代の選手……レオナルド・シルバ選手が活躍した試合が納められてます。いきなりプロの選手を見ろと言われても戸惑うだろうと思いまして、親近感がわく同年代の選手を選んでみました」
「なるほど」
ふむん?
同年代の選手で、世界で活躍している……ホンマもんの才能を持った凄い奴のDVDってことか。そういう選手はいつからサッカーをしているんだろうって思うんだが、同年代……3歳とか? 小さいころからボールに触れて成長してきましたって感じがプンプンしやがるぜぇ!
「わかりました……じゃあ、今日家に帰ってから早速見てみたいと思います」
「はい! そのDVDはしばらくの間お貸ししますので、見終わったら私の方に持ってきてください」
「了解です」
目の前で監督が凄い嬉しそうな表情をしていることもあるし、これは期待を裏切るわけにはいかないだろう。このDVDからどんな技術を学ぶことができるかわからないが……いや、一度見ただけじゃ実際に俺のものにすることは