ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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86.Break through 突破者

 アキは視界が熱で埋め尽くされた所で、リモコンで電源を切ったテレビのように気を失っていしまった。

 

「くっ……皆……無事――」

 

 そして、再び熱と地面が焦げるような臭いが鼻を突き、意識の覚醒に至る。

 一体、どれくらい意識が無くなっていた……?

 頭を押さえながらいの一番に状況を把握する。まだ生きている所を見るとヒ・ロガの攻撃を受けた所で意識が途絶えていた様だ。意外にもダメージが少な――――

 

「! ライト君!」

 

 身体を起き上がらせようとすると、自分を庇う様に覆いかぶさったライトがダメージを受けていた。

 

「先生……無事……ですか……」

 

 アキの無事を確認したライトは、安堵の笑みを浮かべて気を失う。背は服ごと焼かれ、最低限のフォトンを残して酷い怪我を負っていた。

 

「今、治療を――」

 

 地面が揺れる。ヒ・ロガが降りて来たのだ。地中に潜っときに身に着けた鎧は無くなり、最初に相対した姿であった。

 

 距離が近い……

 

 近くに放ってしまっていた『アルバブラスター』を取り構えるが、銃身が熱で溶けて機能を失っている。

 

「残るのは――」

 

 『ガンスラッシュ』だけ。その時、近くの瓦礫が音を立てて崩れた。そこには、(すす)に咳き込むロッティの姿を確認できる。彼女はヒ・ロガの攻撃をヒ・エンに助けられたのだ。

 

「あ、ありがとうございます!」

〔気にするな〕〔あの攻撃は〕〔人の身では二度焼かれても耐えられない〕

 

 本来なら、こんな瓦礫では防ぎきれる威力では無い。地面に着弾せず、宙で炸裂したからこそまだ、我々は原形を保てているのだ。

 

〔何が〕〔ロガ様の攻撃を抑えたのだ?〕

「アキさん!」

「! ダメだ! ロッティ君! 君は逃げろ!!」

 

 ロッティは、倒れているライトを庇う様に『ガンスラッシュ』をヒ・ロガへ構えるアキへ声を上げる。

 

 作戦は失敗。私の意志に巻き込んだのだ。私が責任を取らなければ――

 

 そこで、アキはある事にきがつく。

 

「――――なに?」

 

 ヒ・ロガが見ているのはアキでもロッティ達でもなかった。

 

「糸が――」

〔オァァァァ!!〕

 

 火柱が上がる。ソレを躱してすれ違い様に角を切りつけるシガに、ヒ・ロガは狙いを定めているのだ。

 

「――――アキさん。まだ、終わってません」

 

 シガは“糸”を使って、ヒ・ロガの攻撃を周囲に拡散して威力を減らしていた。蜘蛛の巣のように周囲の壁から伸ばし、あの攻撃を、糸を伝わせて壁に流したのである。

 

 だが、まともに防御しなかったシガのダメージは相当なものとなっている。

 装備の一部が溶解し、戦闘サポートユニットは機能しておらず、『青のカタナ』の刃を維持するフォトンは明滅している。残っているのは左腕のフォトン変換機能のみだった。

 

 感覚を研ぎ澄ませ。僅かな可能性も見逃すな――

 

 この相対は、数瞬の誤りが死に直結する対戦。それをシガはたった一人で引きつける。その際にも本能は悟っている。

 

 目を閉じたくなるほどに焼けるような死。甲羅の中に籠りたくなるような本能を凌駕しろ――

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「防衛本能を“打破”する?」

 

 坑道を更に先に進むアザナミ達。彼女はフーリエと並んで歩く六道の背に聞き返した。

 

「うむ。打破するべき防衛本能があるのだ。例えば――」

 

 と、六道は空間を叩く。するとその際に乱れたフォトンの軌跡が必然とアザナミの視界を塞いだ。

 

「!?」

「咄嗟に“(まぶた)を閉じる”と言う行為。見たくない脅威をシャットアウトし、異物から眼球を護る為の、反射的な防衛本能だが――」

 

 塞がれた視界に対して、アザナミは視線を集中して隙間となる箇所を見出す。そして『カタナ』に手をかけ、いつでも攻撃できるように構えた。

 

「その行為が、“危険な状況”“敵の姿”“窮地を打破する情報”その全てを見逃してしまう」

 

 フォトンの目くらましがゆっくり晴れて行くと六道は腕を組んでアザナミを称賛する。彼女の本能に身を任せない意志に満足げにニッと笑う。

 

「それは命を片手に立ち回りを要求される状況に、おいて致命的となってしまう」

 

 アザナミは自らの警戒状態を解いた。そして、嘆息を吐きながら六道を見る。

 

「だからこそ“見る”のだ。身に沁みついた本能を打破し、勝利への、生き残るための“兆し”を――」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ヒ・ロガが頭を振り上げる。閉じた口の間から、口内に蓄えた炎が漏れ出しており、大きくシガに向かって()()()()()()()

 

「!!?」

 

 硬い岩盤のような地面を抉りながら迫る炎。しかし、速度はそれほど速くない。

 二度、ステップを踏み横へ躱す。シガの身体には常に“死の恐怖”がまとわりつき、少しでも心が“死”に怯えれば、身体の自由を奪われる。

 ただ集中する。超えろ。昨日のオレを。さっきまでのオレを。一秒前のオレを――

 

「『シュンカシュンラン』!!」

 

 横に躱した瞬間に逆に攻め行く。フォトンの流れを自発的に生み出し、『青のカタナ』を立てて高速で刺突する――

 

〔!?〕〔グガァァァァ!!〕

 

 『シュンカシュンラン』は、ヒ・ロガの頭部の角を傷つけ、大きく仰け反らせる。シガは踵を返すと追撃の二撃目を振い――

 

「――――」

 

 身体焼ける死の未来(ヴィジョン)が視えた。そこから踏み込む事が危険であると足を止める。

 すると、横から勢いがつけられた尻尾が襲い掛かってくる。もし、あのまま踏み込んでいれば、躱す事も出来ずに受けてしまっていただろう。

 

「『サクラエンド』ォ!!」

 

 一瞬で切り替え、抜刀から生み出された高速の斬撃を見舞う。向かって来る尻尾の先端――晶石に斬撃を刻む。

 

 固い……

 

 だが、刃の感触はいいものでは無かった。まるで岩でも切りつけた様な感触が柄を伝って返って来る。戦闘サポートユニットの補佐なしに、『青のカタナ』の刀身を維持するのは困難を極める。

 

「まだ、足りないか!」

 

 もっと、フォトンを収束させなければ。まだ……まだまだ足りない。

 集束は自分の手で最高峰のモノに()()()()()()()()()。ヒ・ロガは警戒する様に距離を取ったシガに対して間を置いている。大したダメージを負っていない。それどころか、まだまだ余力があるように見えた。

 

 フォトンアームが鳴動を始め、その出力を上げて行く。

 

「先輩!」

 

 そこへロッティが共に戦う意志を持ち、声を上げた。その手には『ガンスラッシュ』を持っている。

 

〔ロガ様は〕〔まだ本気じゃない〕〔ここからが正念場だ〕〔アークス〕

 

 ヒ・エンも自らの戦杖を持ち参戦してくれるようだった。

 

「状況的にも、消費的にも次に誰かが倒れれば勝ち目どころか生存も難しいだろう」

 

 アキは残った最後の武器――『ガンスラッシュ』を携えシガに並ぶ。

 

「ライト君は?」

「安全な所で休ませてある。だが、早く治療を受けさせた方が良い」

 

 時間もそう永くは使えない。皆ボロボロで状況はかなり厳しいだろう。

 

「諦めるつもりはないんですよね?」

「当然だよ。私は“龍族”に関する事で、二度と諦めるつもりはない」

 

 既に手札は使い切った。後は、結果を見るだけだ。

 

「行くぞ皆!」

 

 アキの声は、人の声。そして、この場で最も強く輝く“人の意志”。

 

 これが最後の戦い――

 ここに有る意志のどれが残るのか。

 “人”か“龍”か“ダーカー”か。ソレを知る事が出来るのは最後に立っている者だけだ。

 

 それが“結果”と言うものだろう。私が……私の研究で最も求めていたモノだ――

 

 

 そして、それは意図せずとも“彼”が求めている可能性でもある。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「どうも」

「……どうした?」

 

 オーラルは、一度資料を片付けに自室に帰った時、偶然クーナと遭遇した。彼女はどこか、不機嫌なオーラを漂わせており、オーラルは心当たりを探す。

 

「なんの通達も無しに消えたので、てっきり死んだものかと」

 

 そう言えば、自分がどこに居るかは六道以外には伝えていなかった。リリーパでハドレッドと交戦以降、中破状態で姿を暗ませた事も死んだと連想させる要因となってしまったらしい。

 

「事情が事情でな。色々と世話をかけた」

「別に気にしてはいません。ただ、貴方が死んでしまったら、ハドレッドの行方を知るのが困難になってしまいます」

「そうだな。次はお前も連れて行こう」

「え?」

 

 予想外の答えにクーナは思わず驚く。今回のようにオーラルが姿を暗ます時は少なからず、特殊部隊(ブラックペーパー)がらみで、必要以上に情報を貰う事が出来なかったからだ。

 

「……いいのですか? ソレは機密なのでしょう?」

「お前は口が堅いから別に気にしてはいない。それに遅すぎたくらいだ」

 

 少なくとも、クーナも一員の様なものだ。『ブラックペーパー』は完全な独立部隊。部隊目的は創設時より変わることはないが、それに至る方向性を変える事くらいなら問題ない。

 

「少し上がって行くか? 一時間ほどしたら【マザーシップ】に戻るが」

「……では、少しだけ」

 

 クーナは口に出しつつも彼の部屋には興味がある。未だ全容の明らかにならないオーラルについて何か知る事が出来るかもしれないからだ。

 

 音を立てて開いたオーラルの自室は、一般的な部屋というよりもかけ離れたものだった。

 一度に複数の画面を展開できる端末が部屋の真ん中で常に機能し、バーチャルの画面を部屋中に展開している。

 

「ここはモニター室だ。データ保管している資料を(オレ)の意志一つで展開できるようにしてある」

 

 オーラルが確認したいと判断した事柄を読み取って、記録されているデータから瞬時に表示してくれるのだ。

 

「凄いですね」

「ちょっとした技術の応用だ。特別な事をしているわけではない」

 

 ルーサーは端末など使わずとも、『オラクル』全ての情報を把握できている。それを普通の研究者でも出来るように応用しただけだ。

 

 その時、ポン、と音を立てて赤い枠に囲われた情報が強制的に開示された。必然とクーナはその情報へ目を向ける。

 

「これは……」

「なに?」

 

 どうやらオーラルにも予期しない情報だったらしい。別の資料を確認していた彼は、その作業を中断し不意に開示された情報へ近寄った。

 

 それは、“ある波長(バイタル)”を表示している。そして、別の波長が並列して表示され、二つの波長はほぼ同じ波を表していた。

 

「――――まさか」

「何か重要な試験でもしていたのですか?」

 

 この波長は……ウタの――

 

「…………」

 

 それほどに捨てられない意志があるのか? シガをのっとってまで――

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 マトイは給湯室で、食器を片付けていると持っていたカップに音を立ててヒビが入った事に驚いて落してしまった。

 

「マトイさん!? 大丈夫ですか?!」

 

 近くで同じように作業していたフィリアが慌てて近寄ってくる。

 

「大丈夫だよ」

 

 咄嗟に手を引っ込めたため、割れた破片で怪我はしなかった。その様子にフィリアは安堵すると、割れたカップを片付け始める。

 

「あら。これは」

 

 割れたカップの破片から、シガが入院していた時に使っていたモノだった。オーラルからの仕送り品で、全てマイルームに移動させたつもりだったが、これだけは見落としていたらしい。

 

「シガさんが入院した時に使っていたカップです。忘れてたのかなぁ」

「…………」

 

 マトイは、よぎった不安な未来を、頭を振って振り払った。

 大丈夫。いつものように彼は帰ってくる。彼は強いから――




 次でヒ・ロガ戦、最終決着です。の予定です。
 シガについては少しずつ成長させていく予定で考えています。本来のフォトンアームの攻撃能力は三つ。爪と撃と、あと一つありますが、糸ではありません。

次話タイトル『Distance the neighbor 言葉の届く距離』

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