それは生まれ持った“モノ”なのかもしれない。
小さく、細かい
果てしない労力。正しいと決まったわけでもなく、確実なものに辿り着く保証の無い。だが、彼女はソレを信じていた。
その先にある“解”。それを追いかけるのは彼女の資質だったからだ。
断片の隅々に見え隠れする“解”。
ソレを繋ぎ合わせ、偽りを読み解く才能。
疑わしきものには明らかな事実があり、明白なものには裏がある。
そして、彼女は
研究……と言うにはアムドゥスキアに対する彼女の過剰な執着。それは資質から成せるモノなのか、それとも何か別の要素があるのか。
ソレを知るのは本人以外に存在しない――
「相変わらずあっちぃーな。ここは……」
熱気のこもる火山洞窟。その地に再び足を着けたシガは、最初に出る言葉はいつもと同じだった。
相変わらず……暑い。いや、そもそもこの環境は人に適したモノでは無い。龍族と言う種族が適応している環境なのだから、人が適しているとは言えないのである。
本来なら対策も無しに踏み入れれば“暑い”で済むような場所ではないのだ。
『シガ君。龍族の姿はあるかい?』
「いえ。それどころか気配もしませんよ」
耳に取り付けた端末に通信が入って来る。現在はシガだけが先に降下し火山洞窟を先行していた。
惑星に転移する際にアキが特定の地区の探索をすると告げたので、その間の移動はシガが引き受けたのだ。
その地点に辿り着いたら『テレパイプ』を起動し、他のメンバーもそこから降下する予定である。
「っと」
数日前にクラリスクレイスが崩落させた場所は、上部の瓦礫が退かされ通れるようになっていた。恐らく龍族が処理したのだろう。
申し訳なく思いつつ通り抜け、更に先へ。“糸”を使って高低差のある崖を難なく降り、今まで足を踏み入れた事の無い地区へたどり着く。
『その辺りで『テレパイプ』を頼めるかい?』
「わかりました」
意識を集中しフォトンの濃度を視覚に映す。『テレパイプ』の起動に十分な様子を確認する。
全員が『テレパイプ』の転移を確認しながら、シガ葉は周囲を警戒していた。転移はアキ、ロッティ、ライトの順で現れる。
「すごい……」
初めて、実物のアムドゥスキアを目の当たりにしてロッティは軽く心に来るものがあった。彼女はここで初めて教諭の言っていた“自分の足で見る”という言葉の意味を理解している。
「…………」
その様をシガは微笑を浮かべながら見守る。自分も初めてアムドゥスキアに来たときは彼女と同じような気持ちになったと思い出した。
「それでは、今一度確認しよう。今回、私たちの目的は“龍族”の調査だ。ロッティ君以外は言わなくても解るだろう? さぁ、行こうではないか諸君! こうしている時間も惜しい。実に惜しいのだよ!」
ふははは! と既に“アムドゥスキア100%”状態になっているアキを見て、ロッティはキャンプシップでの知的な彼女と同一人物なのかを確かめる様にシガを見る。
「オレも最初はそうだったよ」
スタイルも合わせて知的な女性としては上位ランクなのだが……やっぱり変人なのは仕方のない事なのか? 綺麗なバラには棘があると言うが、うーむ納得いかん。
「すみません。ロクな説明もなしに」
そんなロッティとシガに謝りを入れて来たのは、ライトだった。彼はアキの助手を長年務めてきており、彼女の性格は諦めているらしい。
「今回は龍族の生態調査と接触も視野に入れているらしいです。ですから、戦力が必要でして」
「まぁ……数日前の出来事を考えれば妥当だよね」
寧ろ、あの時と比べてクラリスクレイスが居ない分戦力は下がっているとも言える。しかし、大勢でどかどか行っても警戒させてしまうだけなので、少人数での機動力を重視したと言う所か。
「正直な所、急ぎに降りる必要もあったらしく、その辺りは僕も説明を受けていません」
「そ、そうなんですか?」
急に不安そうにロッティが割り込む。まだ
「正直、前みたいな暴走が怖いです。シガさんは身を持って経験していると思います」
「あー」
ライトの言うのは数日前の“龍族”キル70オーバーの事を言っているのだ。いくら勝てる要素が揃っていたとはいえ、一歩間違えればあっさり人生に幕を下ろしていただろう。
ライトも何か苦い思い出があるのか、額に手を当てていた。
「…………」
そんな二人を、アークスって大変なんだな……、とロッティが眺めると言う、変な構図が出来上がっている。
「おっと、そうだった。言い忘れていたよ、シガ君」
アキに言葉を向けられて、シガは咄嗟に返事をして彼女を見る。
「今回はなるべくダーカーを殲滅して行ってくれないか?」
「ダーカーをですか?」
確かにそれはアークスの領分だが、龍族からも敵視されているこの状況でダーカーまで思考を割くのは危険な状況になる可能性が増す。
アキもソレは分かった上での進言なのだろうが……
「ああ。データ……というには曖昧だが、少しばかり気になっている要素でね。だが今回、前線を張り、手数を多く稼ぐのは君だ。だから、目的以外の戦闘行為は君の判断に一任したい」
ライトは後衛のクラス――フォースであり、アキは中距離のクラス――レンジャーである。ロッティはハンターとして登録されているが、訓練生である彼女を重要な戦力として考えるのは無理があるだろう。
結果、前線を管理するは近接のクラス――ブレイバーであるシガの役目だ。だからアキは必要以上の戦闘行為の有無をシガに任せると言っているのである。
「そうですね――――」
シガとしては、ブレイバーの能力を見せる意味としては依頼の達成を優先したい。だが、今回は
「なるべく殲滅して行きましょう。もちろん無理をしない範囲で、です」
ダーカーはなるべく倒していくつもりで立ち回ると告げた。
「…………シガは任務かぁ」
マトイはいつもの決まり事として、本日もロビーに姿を出していた。
椅子に座って、ロビー観察を始めてから一時間。何気なく端末でシガの情報を調べると、彼は任務に出ていた。
アムドゥスキア。それはシガの部屋の本でも見た、灼熱の火山洞窟のある惑星である。前に彼が話していたのだが、酷く暑くてあまり何度も足を運びたくないと言っていた。
“でも、ダイエットには丁度いいかもね”
「……そうだね」
冗談めいてそんな事を言っていたと思い出し、自然と口元が緩んだ。彼はいつだってそうなんだ。
どんなに辛い事でもなんでもないように話してくれる。だから、彼の傍に居るのが心地いい。
「…………」
今回、彼は一人で任務に出たわけではなかった。少なくとも四人で降下していたので、一人の時のような無茶はしない……と思うけど心配だ。
「……はっ!?」
その時、マトイは別の事に気がつく。こうやって彼の事を思って心配するのは、逆にうっとうしいと思われるのでは!?
“あ、マトイ。紹介するよ、オレのパートナーの××さん”
「うう……」
あまり考えたくない未来を想像して自己嫌悪に陥っている彼女に、近づく影があった。
その影はロビーを歩く姿は単なる一アークスにしか見えないが、『オラクル』の深部では多大な権力を持つ存在――
「どうした、マトイ。悩み事か?」
信頼できるその声にマトイは視線を上げると、そこにあったのは――
「なんだ? まるで幽霊でも見た様な表情だな」
「オーラル……?」
黒甲のキャスト――オーラルの帰還だった。
オーラル帰還。シガとは入れ違いになりました。
マトイさんの描写。すり込ってこんな感じだと思います。ヤンデレ化はしません。マトイさんはピュアなので。
次話タイトル『Onset expansion 狂龍族』