「おや?」
火山洞窟で収集作業をしていたヒューマンの女は、揺れる地面と爆発するような音に、その方向へ視線を向けた。
「ふむ。どうやら盛大に騒いでいる者達が要る様だね。やれやれ『オラクル』は何をしているのやら」
鉱石を採取していた彼女は眼鏡を一度整えて、必要な分の回収を終えたことを確認する。そして、端末を開くと、すぐに地図が表示され様々な区画に×の印がつけられていた。
「この辺りは終わりだね。次はあっちの区画で最後か」
本当は三日程度で戻るつもりだったのだが、アムドゥスキアはあまりにも魅力が多すぎるため、つい長居をしてしまった。中でも先住民でもある“龍族”の文化には眼から鱗が出っぱなしなのだ。
今回も最低限の環境収集を終えたらさっさと引き上げるつもりだったのだが、あれもこれもとやっている間に一週間も経っていた。
「それにしても……いや、結論を出すのは早計だな。まずは要素を固めねば」
鉱石採取を始めてから検出し始めた、アムドゥスキアを蝕む“ある要素”に彼女は懸念を抱く。
それでも、研究者である以上、きちんと検証してからの結論が彼女の納得できる流れであるのだ。今はデータ収集の段階。考えるのは次の段階だ。
「丁度、騒ぎのあった方角か」
「それで、貴様は何をしていたんだ?」
崩落が終わり、瓦礫となって塞がれた帰り道を見ているシガにクラリスクレイスは、ふふん、と偉そうにふんぞり返っていた。
「人捜し。クララちゃんも相変わらず
どう見ても生意気な少女にしか見えないが、こんな小柄な体格でも内包するフォトンは凄まじいモノである。向かい合っていても、感じ取れる溢れんばかりのフォントは、流石アークスの頂点とも言えるステータスだ。
「人捜し? ああ、行方不明者探索ってやつだな? そうだろ?」
腰に手を立ててシガを見上げる頭半分背の低い少女は六亡均衡の“五”――三代目クラリスクレイス。ちなみにシガは彼女とはオーラルの訓練でシガも面識があった。
必ずと言っても良いほどに、ヒューイと共に行動している為、知れずと邂逅する機会は多くなっていたのだ。
もちろん、訓練にも参加した事もあり、その時はヒューイと二人してフォイエで敵ごと吹っ飛ばされた記憶が新しい。
「よし、喜べ! わたしが手伝ってやろう」
「えー」
無い胸を叩いてクラリスクレイスは無い胸を張る。
最も人捜しに向かない性格を持つ彼女。恐らく、ヒューイの影響を強く受けているのだろう。ヒューイもヒューイで、クラリスクレイスの事は妹のように接しており、レギアスから彼女の指導を任されているとか。
「む、何か不満か? これほど頼もしい存在は他にはおるまい! 六亡均衡の五にして三英雄自らが手伝ってやるのだからな!」
「あ、もう手伝う方で話は決まってるのね」
面倒事が一つ追加されただけ、とシガは断ろうと思ったが、
“シガ、あれだ。うん。オレも常にクラリスクレイスに就いている訳じゃない。彼女も、自分の足で惑星に降りる事もある。もし遭遇したら気にかけてあげてくれ。うん。クラリスクレイスが起こした問題は、オレの責任になるんだ!! レギアスに殴られるんだ!!”
「……おお。頼もしいぞ、クララちゃん。手伝ってちょうだい」
「そうだろう、そうだろう!」
ここはヒューイの顔を立てて、彼女にはご同行願おう。それに一人にして、洞窟を爆破して崩されれば今度はもっとヤバイ事になるかもしれない。
精神的に未熟とは言え、彼女も能力的には間違いなく六亡均衡なのだ。その内に秘めるフォトンは普通のアークスとは比べ物にならないモノを保持している。
「それじゃ、レッツゴー」
「おー」
戦力的には頼もしい事は変わりないので、その力の使い方にちゃんと方向性を持たせてあげなくては。
「とりあえずどうする? こっちに行くか?」
スッ、と壁に向かって『灰錫クラリッサⅡ』を構える。
「ちょっと落ち着いて、オレに考えがあるから」
いきなり壁を破壊しようとしたよ。さっきの崩落は記憶から抜け落ちちゃったのかなぁ。その辺りもちゃんと教えてあげないと、やっぱりとんでもない事になるかもしれない。
「道を進もうか」
「
「また天井が崩れるかもしれないから、出来るだけ大きな衝撃は与えないようにしようね」
「そうか。ヒューイも言ってたぞ! 環境に適応する事が大事だってな!!」
そうかー、
ともかく、ヒューイにマナー関係の教授は無理なので、今回出来るだけオレの方で補填しておこう。
「とにかく、あまりどこもかしこも爆破しちゃダメだ」
「なんでだ?」
「色んな人に迷惑になるからだ」
とりあえず、良い事と悪い事と、考慮することを教えて行く。本当はオレの役割じゃないんだけどね。
「ふむ……迷惑になるのか……」
先ほどまでクラリスクレイスが纏っていた唯我独尊な雰囲気がしぼみ、悩むように腕を組んで考え始めた。
「ヒューイが言ってたんだ。困ってる人は絶対に助ける。だが、自分が“迷惑”になってはダメだって」
おお。ちゃんと必要な事は教えてるんだな。クララちゃんも理解してるみたいだし。
「なぁ、どんなことが“迷惑”になるんだ?」
「どこでも構わず爆破するのは“迷惑”になるし、地形によってはさっきみたいに二次被害が起きる」
つまり、彼女は何も知らないのだ。アークスとしては一級品の能力を持っていても、フィールドに出て生き残れるかどうかと言えば別の話である。
先ほども、シガが割り込まなければ、“龍族の襲撃”と“崩落”で彼女は二回死んでいるのだ。
「とりあえず、その辺りは後でヒューイにでも聞くといいさ。今は、出来るだけオレの指示に従ってくれないか」
「それで迷惑にならないなら、従ってやろう!」
「やはり、先ほどの衝撃は崩落だったか。ふむ、フォトンの反応がある。コレはテクニックのフォイエだね。だが練度は浅いモノだ」
それであっても、洞窟を破壊する程の威力となると、扱える者はアークスの中でも限られる。記憶してる限りでのこれほどの能力を持つ者は――
「“五”。三代目クラリスクレイスか。彼女が来たと言う事は……『オラクル』もアムドゥスキアを気にかけたと言う事なのだろうか」
と、そこまで考えてそれ以上は不毛な思考だと、横から入った情報を振り払う。今は当初の目的である採取を終わらせるのが先決だ。
“なぁ、どんなことが“迷惑”になるんだ?”
「おや?」
すると、少し突き当たった先から声が聞こえた。
「挨拶くらいはしておくかな」
「ん?」
「ふぐっ!?」
シガは先に進もうとしたところで、レーダーの反応が近づいてきている様子に、足を止めた。その彼の背にクラリスクレイスは激突して鼻を抑える。
「急に止まるな!」
「やー、ごめんごめん。いや、ほら人捜しで、その人の反応が凄く近いんだよね」
端末のレーダーを見せると、クラリスクレイスは、おお、と食い入るようにその情報を認識する。
「向こうから来てる」
「向こうから……」
ゴクリ、とクラリスクレイスは妙に緊張して邂逅する予定の通路を凝視する。
別に決闘じゃないんだけどね。と、シガもクラリスクレイスを習って、向こうが現れるまで構える事にした。
とりあえず、ライトくんの名前を出して握手して、テレパイプで帰還。よし、流れ的には完璧――
既に邂逅後の動きもスムーズに決めた所で“アキ”が現れた。
邪魔にならないように前髪を持ち上げて後ろに流し、反渕の眼鏡と理的に物事を見定める視線はいかにも学者的な印象を強く受ける。その知的な雰囲気はと容姿は一般的に美人に分類される端正な顔つきをしていた。動きやすい服装――タイガーピアスに身を包んだ“女性”(←ここ重要)だったのである。
「おや。やはり六亡均衡の五か。こんなところまでご苦労だね」
「…………」
「むぅ、貴様。名前を名乗る時は自分からなのだぞ!」
「おっとこれは済まない。私はアキという、しがいない研究者だ。ふむ、そっちの君は私の記憶にないな。少なくとも面識者ではないようだね」
「…………」
「おや? 何らかの感情が強く現れて言語機能に支障を来しているのかい?」
「えーっと……アキ博士?」
シガはようやく発せた言葉がソレだった。とにかく、この質疑応答ではっきりさせたかったのだ。
「自己紹介はしたつもりなのだがね。今度は忘れないでくれたまえよ? 私はアキで間違いない」
その言葉を聞いて、シガはガクッと片膝をついて項垂れる。
「ば……馬鹿な。もっとこう……予想の斜めを行くならキャストだってオチが一般的だろう!?」
「どうやら君は失礼な予想を現在進行形でしているようだね。本人を前に口に出せるとは、大者なのか単に愚者なのか。どちらにせよ、君の名前を知ってから判断しても遅くは無いのだが?」
「申し訳ありません」
次の瞬間に、シガは立ち上がると胸に手を当てて執事風にお辞儀をする。
「シガと言います。ご婦人。以後お見知りおきを」
「なんというか、初対面でも性格が解り易いな。君は」
ようやく、EP1-4のメインキャラクターであるアキとの邂逅です。オリ設定では、彼女はオーラルとかかわりのある研究者ということにしているので、今後ともあちらこちらでかかわってきます。
次話タイトル『Harvesting 灼岩収集』