ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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67.D-Arkers busters 六道武念とクーナ

 シガは人生の選択に立たされていた。

 部屋には彼女と二人きり。そして、酔わない程度とは言え、多少のアルコールを飲んでいる事もあり、理性のタガは緩くなっていた。

 

 「…………シガ?」

 

 不安そうでありながらも、どこか緊張したような声を出すマトイ。その頬を赤める様子が、シガの理性をガリガリと削り取っていた。

 

 「あ……マトイ――」

 

 くらくらする。さっきまでは平気だったのに……状況が変わっただけで、いつものように見えない――

 

 赤い瞳も、長い髪も、敏感に鼻孔を着く匂いも、五感全てが彼女の魅力をすべて的確に感じ取っていた。

 

 「――――」

 

 お互いの瞳には、お互いしか映っていない。そして、無意識にも顔が近づいていき――

 

 「…………ぶ」

 

 棚の上に置かれていた小麦粉が、シガの後頭部に落ちてきて中身を盛大にぶちまけた事で、一気に理性が引き戻った。

 

 シガは身体を起こして、真っ白な頭と顔で不機嫌な表情を作りながら、落ちて来た小麦粉の袋をつまみ上げる。そして、

 

 「けほっ……」

 

 渇いた咳を一つ吐く。

 

 「ぷっ……あははははは――」

 

 と、何かツボに入ったのか、マトイはそのシガを見て腹を抱えて笑い出した。シガとしては複雑な気持ちだが、幸せそうに薄く涙まで浮かべて笑う彼女を見て嘆息を吐く。

 

 そう言えば、こんなに感情的に笑う所を見た事がなかった。

 自然と口元が緩んでいた事に気がつき、

 

 「あ」

 「あはははは――はふ?」

 

 ポフッと、棚の上にあったもう一つの小麦粉がマトイの頭を直撃したのだった。

 

 

 

 

 

 惑星リリーパ、坑道――封印の奥地。

 六道は扉を抜けて、5人ほどが並んで歩けるほどの広い横幅の通路を歩いていた。

 

 「出迎えは別にいいんだが……毎度の事ながら、ただでは行かせてくれんか。のぅ、クー」

 「気づいてたんですか?」

 

 不意に横から姿を現すのは、ツインテールに縛った髪に、隠密仕様のスーツ――ゼルシウスを着た少女だった。肘部には専用武器の為に用意された装着具が存在し、常にスーツと一体化している。

 

 「あまり過信せんほうがええ。『マイ』はあくまで、全ての認識から外れるだけで、その場に居ないわけではない。実があるのなら、当然、足を踏み出した際に痕跡が残るし、不自然にフォトンの増減も出る。特にこういう場所ではな」

 

 六道に言われて、クーナは埃っぽい通路と、異様なフォトンで充満する様子から『マイ』の能力では相性の悪い場所であると悟る。

 

 「病み上がりじゃろう? 別に隅っこで休んでてええ」

 

 六道はクーナの頭に巻かれた包帯や顔の傷の事を考慮する。ハドレッドを直接()り合ったと聞いていた。

 

 「……オーラルに言われました。後に必ず必要になる、“六道武念”の戦いを見ておけ、と」

 「かっかっか。奴も過保護じゃのう。お前さんに全てを見せるつもりらしい」

 「それなら、直接教えていただければこんな手間は無かったと思いますが?」

 

 すると、通路の奥の闇から異様な気配を感じ取る。

 何かが向かって来る。それも……一体や二体では無い。まるで大軍が引きめし合い我先にと進んできている様だった。

 

 「ワシらは各々の情報を話すわけにはいかんのだ。尋問に備えた『アビス』に近い契約のようなモノでのぅ。隊の長が許可しない限り、他での『ブラックペーパー』の情報開示は極端に制限されている」

 「……それは、“奴”が関わっているからでしょうか?」

 「かっか、本当にいい女子(おなご)になったのぅ、クー。それだけ察しが良ければ解るじゃろう? 『ブラックペーパー』は秩序調停特務部隊。その秩序の安定には有事となれば【六亡均衡】もターゲットに含まれている」

 「――――いいのですか? その情報は……」

 「ん? ああ、部隊の方向性は別に話しても構わんのだよ。部隊の能力を把握されん限り、()()()()()()()からのぅ。元々、ソレが出来る人材が揃っていた事もある」

 

 六道の言葉をそのまま解釈するのなら、『ブラックペーパー』の部隊員は、皆が【六亡均衡】並の能力を持っていたことになる。今となっては、彼とオーラルの二人だけだが、部隊が全盛期の時は、もう一つの【六亡均衡】と噂された事もあったらしい。

 

 「と、雑談はここまで。どれ、“掃除”を始めるか」

 

 すると、通路の奥から闇が迫って来ていた。いや……違う。それは暗い色だからこそ、そう見えるだけで実際は通路を覆い尽くすほどのダーカーの大軍だ。

 ソレが視界に映る距離まで迫っている。

 

 四脚が特徴のダーカー、ダカン。

 羽を持ち飛行能力を持つ、ブリアーダ。

 素早く空中を移動する、エルアーダ。

 その他、見た事の無い形状をしたダーカーと言った、まるで魑魅魍魎の百鬼夜行を彷彿とさせる光景だ。

 

 思わず冷や汗が流れるクーナの横で、六道は着物の袖をまくってのんきな様子で逆に歩み出る。

 

 「クー、手伝ってくれるのはええが、初手は少し放れてた方がええ」

 

 濁流の様なソレに臆することなく六道は歩み出す。クーナは彼の警告を聞き入れ、『マイ』を発動して敵の向ける自身への認識を消す。結果、敵の全ては六道をロックオンしていた。

 

 「――――」

 

 一体どんなものか。クーナは純粋に、このダーカーの大軍に対して六道武念がどのように切り抜けるのか興味が出ていた。そして――

 

 「おっと、草履の紐が切れてるわい」

 

 草履を結び直そうと屈んだ六道をダーカーの群が呑み込んだ。生々しく、もみくちゃにされる音が響いて行く。

 

 「…………は?」

 

 あまりにもあっけない最期に、クーナの口からそんな声が出るまで呆れた所で、

 

 「やれやれ。準備運動には丁度ええか」

 

 百鬼夜行が内側から吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 闇が止まった。

 六道が呑み込まれた百鬼夜行が吹き飛び、バラバラになったダーカーの四肢(パーツ)が花火の残り香のように降り落ちてくる。

 不自然に穴の開いた百鬼夜行。六道はいかにしてやり過ごしたのかは不明だが現在は大量のダーカーに囲まれる状況になっていた。

 

 「丁度いい。ほれ、かかって来んか」

 

 通じているかは不明だが、ダーカーの群はまるで質量で押しつぶさんと言わんばかりに、六道へ殺到し――

 

 「DFでも居れば少しはマシな動きをするんだろうが……雑兵では数の暴力が限界か」

 

 ダーカーが次々に消滅していく。

 

 “なっ!?”

 

 クーナは驚愕に目を見開く。六道が、触れた端からダーカー共は、フォトンに洗い流されるように分解され消滅していくのだ。

 一体何をしているのか……状況を集中して認識の視野を広げると、六道からフォトンはほとんど感じられなかった。

 

 つまり、膨大なフォトンでダーカーを討ち滅ぼしているのではなく、何か別の用途で倒している――

 

 ふと、背後から襲い掛かって来たダカンに、六道は身を沈める様に躱すと踏込み、四脚の裏側に存在するコアに肘鉄を叩き込む。

 割れるわけでもなく、ほんの少しダカンは下がっただけだが、次の瞬間、悲鳴を上げて一定のフォトンとなって消滅した。

 

 “……今のは――ダーカーの因子がフォトンに反転した?”

 

 クーナは不確かにも、六道が行っている事を目の当たりにして信じられないと思いつつ、今目の前で行われている事を事実として認識する。

 

 六道は、ダーカー因子を体内を介することなく無害なフォトンへと“反転”させている。

 

 それも、触れるだけでその箇所からダーカー因子を侵食しフォトンへ変換しているのだ。これは()()ではない。そして、狙って()()()()()()でも無い。

 

 六道の持つ『特異体質』であり、彼はダーカー因子に触れた際に、自らの特殊なフォトンを僅かながら打ち込む事によって、フォトンへ反転させる事が出来る。

 故に無手でも問題ない。敵がダーカーであり、ダーカー因子の塊である限り、彼に取ってすれはダカンもダークファルスも大差ない敵なのである。

 

 掌底打。足刀。前蹴り。裏拳。

 

 武器を持たず、拳打を、蹴打を叩き込んだダーカーは片っ端にフォトンへと散って行く。その様は、闇が少しずつフォトンに侵食されている様と錯覚するほどのモノだ。

 

 「どれ、そろそろ整ったかのぅ」

 

 その後ろから、一つ目のダーカーが、六道へ鉄塊のような腕を振り下ろした。

 

 「驚きです。まさか、キュクロナーダを容易く切り裂けるとは――」

 

 クーナは六道を援護する様に『マイ』を解除すると同時に牽制のつもりで切りつけた。その斬撃は怯ませる程度の目的で放ったモノだったが予想以上の切れ味を発揮し、鎧に身を包んだダーカーを鉄塊の腕ごと容易く切り裂いていた。

 

 「『マイ』が順応しやすいフォトンに調整しておいた。存分に舞えい」

 

 リリーパでのハドレッドとの戦いで、負傷したクーナは完調には程遠い。だが、周囲のダーカー因子の反転したフォトンは『マイ』が、より吸収しやすいモノとして確立されている。これならいつもと同じ通りに――いや、

 

 「『シンフォニックドライブ』!!」

 

 跳び上がり、溢れるフォトンが軌跡を尾引きながらダーカーの群へ流星のように蹴撃する。同時に爆発するような衝撃と共に着弾地点のダーカー達は粉々に砕け散っていた。

 

 「いつも以上に動ける――」

 

 着地したクーナへ残りのダーカーが群がる。だが、同時に『マイ』を発動し、認識を消す。そして、群の隙間をすり抜ける様に斬撃を加え、拓けた場所で姿を現す。

 同時にダーカーはフォトンに浄化され消滅していった。

 

 「身体が軽い。これなら残りも――」

 

 クーナは、六道によって分断されたダーカーの群の後ろ半分を引き受ける事にした。本来ならこの数は退却を考えての撤退戦と見るしかないが、今のこの状況では負ける気がしない。

 

 「ふむ、任せる」

 

 六道は背後をクーナに任せて正面を担当した。未だに奥の闇からから出てくる質量は終わりがないと錯覚するほどのモノだが、“六道武念”には関係ない。

 向かって来るダーカーを次々にフォトンへ反転させていると、

 

 「おう? ようやくか――」

 

 奥より、目的だったモノがやってきた。より、濃いダーカー因子によって創られた大型のダーカー。

 地響きが奥から響く。ソレだけで、かなりの重量を要する巨体であると理解できた。そして暗闇に浮かぶシルエットは、見上げる程の影。身体を支える脚とは別に二本の腕が存在し、頭部からは角が伸びている。

 

 「やれやれ」

 

 圧倒的な巨躯を前にしても六道は不敵に笑う。腕を回しながら意気揚々と踏み出す。周囲のフォトンが一点に集まり、煌々と闇を照らしていた。

 地が揺れるほどの踏込を持って放たれた拳は突進してくる影に正面から叩きつけられた。




 六道の能力を開示しました。チートです。彼の前にダーカーは等しくダカンです。
 ちなみに、六道にとってクーナは孫娘のようなもので、その成長を楽しみにしています。
 次はシガの方の続きです。

次話タイトル『Feelings that do not intersect 交錯する想い』

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