ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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友達のフルガさんにシガの絵を描いてもらいました!


6.Photon arm 左腕(★)

 呼吸が乱れる。思った以上に頭痛がひどい。

 

 ダカン……ダーカーの中でも、下の下に位置する雑兵であると言われていた。無論、実力のある者達なら、そうなのだろう。オーラルさんや、ヒューイからすれば何百匹と居ても涼しい顔して殲滅しそうだ。

 だが、オレ達はまだ駆け出しも良いところだ。武器もそんなに強いモノじゃない。それに、奴らと戦うのは初めてだった。

 

 「おいおい。考えてんのか? こいつら――」

 

 シガは5体のダカンに苦戦していた。原生生物と違い、奴らの体格には前進、後退時のタイムラグが無い。背後を取ったと思っても、直ぐに対応して攻撃してくる。

 

 「くそ!!」

 

 アフィンにも4体のダカンがあてがわれていた。奴らは、四本の脚を巧みに動かし、常に背後を取る様な位置取りで移動してくる。

 その為、アフィンにも敵が張り付いており、今までの立ち回りがまるで機能していなかった。

 

 「チッ!」

 

 5体の攻撃の時間差を利用して、何とか斬りつけるが、回避に動きを置く為、勢いがつかず浅い攻撃になってしまう。加えて、元々の攻撃力はアフィンに任せていたことから、現在は彼が追われている敵を全て倒すまで、耐えなければならない。

 

 「ハハ。笑えてくるな……」

 

 この状況は、どうすれば回避できたのだろうか……

 乗るキャンプシップを変えていれば?

 ここに来るまでに、もう少し時間をかけていれば?

 眼を覚ますのが一日遅れていれば?

 

 理由は数えきれないほどある。だが、その中で一つでも欠けていれば、(アフィン)とは出会う事も無かった。こうして、話し合う事も無かった。

 らしく生きようにも、元が……どんな人間だったのかも解らない。もしかすれば、記憶を失う前の自分も、こうやって何かを諦めたのではないのだろうか?

 

 アフィンは4体の内2体を倒している。後少し……だが、その“少し”は果ての様に遠い。

 頭痛がひどくなってきた。まるで強く頭を打ちつけた様な激痛が響き、動きが反射的に停止する。

 

 「相棒!」

 

 声が聞こえる。オレを心配してくれる友の声だ。一瞬の硬直は、ダカンの攻撃を紙一重で躱していた現状では致命的な隙だった。

 振り下ろされる、ダカンの脚。その先についている爪は、容易く身体を引き裂くモノ。その攻撃は避けられないシガに向けられた。

 

 

 

 

 

 「いいか。戦いにおいて、戦力は出し惜しみするな」

 

 一週間前の訓練時、オーラルに徹底的にボコボコにされたシガは、仰向けてヘタっていた。

 

 「でもさ、オーラルさん。何度も連戦がある時に、最初から全力だと後で息切れしちゃうでしょ?」

 

 そう、その為にも最初に接触した敵には、なるべく時間をかけて消耗を抑えるべきだと考える。

 

 「力を温存しつつ敵を圧倒できるなら、それに越したことはない。だが……奴らとの戦いでは、その判断は致命的な結果を生みやすい」

 

 ここで言う“奴ら”とはダーカーの事だ。午前の講習で習ったばかりなので新鮮な情報である。

 

 「奴らとの戦いは、常に全力で相対しなければ予測できない被害が生まれる。奴らと対峙する時は自分の知る常識は捨てろ。戦いの中で成長し続ける事が、唯一“奴ら”に対抗できる術だ」

 

 シガは立ち上がりながら、彼に貰った左腕を見た。もし、奴らと対峙した時に自分一人なら、真っ先に逃げよう。

 その時は、そう思った――――

 

 

 

 

 

 「まぁ、今は違うよな」

 

 フォトンが溢れ出した。着ている戦闘服(クローズクォーター)の左腕の袖が弾け飛ぶように、その左腕を外気に晒していた。

 ソレは武骨な腕だった。生身の身体とは、かけ離れた外装(ひふ)を持つ機械の腕。指は爪の様に、尖った攻撃性を表している。

 

 「頭痛いんでね。出し惜しみは無しだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ダカンの爪を防ぎつつ、シガは右手のガンスラッシュを先頭の一体に叩きつけた。

 

 「やっぱり、殆どダメージ通らねェな。まぁ、良いか。左腕(こっち)が本命だし」

 

 更に左腕(フォトンアーム)からフォトンが溢れ出る。周囲のフォトン粒子を吸収し、義手の姿そのものを戦いに適した姿――戦爪を持つ手甲に変化させていた。そして、

 

 「フォトン・エッジ」

 

 指部に吸収したフォトンを纏う事で、攻撃力と攻撃範囲を増幅。ソレは、先ほどから使っていたガンスラッシュとは比較にならない。

 

 「接撃(コンタクト)

 

 左から右へ。ただ爪を横なぎに振った。ソレだけで、ダカンは五つに分断され、その攻撃は背後の壁まで到達していた。敵は黒い粒子となって消え去る。

 

 「な……」

 

 その圧倒的な様子と、今まで見た事の無い武器にアフィンは思わず硬直した。その様子を対峙していたダカンは、すかさず彼の命を狙う。

 

 「おいおい、相棒! 気ぃ、抜くなよ?」

 

 アフィンに襲い掛かったダカン2体は、串刺しにされた様に宙に浮いていた。

 シガが離れた所から、二本の爪だけに出力を絞り、攻撃距離を増幅する事で瞬時に串刺しにしたのだ。爪に貫かれた2体は、偶然にもコアを貫かれた為、そのまま消滅する。

 

 「よし。とりあえず、現場の保全は完了だな!」

 

 シガは、ニッ、と笑って手甲状態の左腕を腰に当てながら、手を上げてアフィンに近づく。

 

 「相棒……その腕――」

 「ん? ああ、言わなかったっけ? オレ、左腕ないの。だから、義手(コレ)は代わり」

 「そ、そうなのか?」

 

 アフィンは未だに驚いている。それもそのはず。基本的にアークスに支給されるのは、自らがフォトンの適性を使って使用する武器なのだ。故に、戦い続ければフォトンの効率化につながり必然と武器の威力は上がっていく。

 

 しかし、シガの左腕は現在の状況からでも、極端な攻撃力を持っていた。これが、フォトンの扱いに熟達した場合は、どれほどの攻撃力を持つようになるのか想像もつかない。

 

 「悪いけどよ。義手(これ)は、お前が思ってるより、ヤバい物じゃないよ?」

 

 シガは、アフィンの表情から何を考えているのかを察して簡単に説明する。

 

 「基本的には、アークス自身のフォトン変換とは別枠なんだよ。この義手(ひだりうで)事態が変換器(アークス)であり、放出機(ウェポン)なんだ」

 

 シガは、オーラルからの説明を繰り返す様にアフィンへ話す。

 

 左腕――フォトンアームは、アークスのフォトン変換に依存している武器ではない。独自にフォトンを取り込み、使用者の僅かなフォトンに呼応して戦闘形態となる。そこからは、完全に独立した自己完結の性能を発揮するのだ。

 

 「出力は固定なんだ。つまり、0か100か、しか発揮できないわけ。だから100が通じない相手には逃げるしかないの。加えて――」

 

 シガは仰向けに崩れ落ちる様に倒れた。その様子にアフィンは心配して駆け寄る。

 

 「相棒!?」

 「無茶苦茶体力を使う。数分だけ休ませてくれ」

 

 フォトンアームを介して強制的に体内のフォトンを最大にし、出力を停止させれば最小になる為、解除後は身体に力は入らない。

 

 必然と、戦闘用に使用した後は、強制的な休息が必要になるのだった。




強い武器には欠点を。私がオリジナルで強い設定を作る時の心得です。
お次は、アイツが登場します。加えて彼女も登場します。更に加えて彼も登場します。
次話タイトル『Footstep 誰がために』

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