ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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5.Voice of life 命の声

 「相棒? どうしたんだよ。ぼーっとして」

 

 シガとアフィンは、最初のウーダンを撃破後、数匹の原生生物と交戦したが、難なく撃退して、特に問題なく先へ進んでいた。

 近接で立ち回る前衛(シガ)が囮になっている間に、後衛(アフィン)が射撃で敵を沈める。思った以上に形にハマった戦略は、今の所は3匹同時に相手にしても互角以上の立ち回りが出来ている。

 

 「お、悪り。ちょっと寝不足でさ。ぼーっとしてた」

 

 シガは後ろ腰へ、近接しか出来ないガンスラッシュを戻して、ふぁー、と一度欠伸する。無論、考えていたのは昨日、出会ったシオンの事だ。

 とは言っても、あんな現象を信じてもらえるハズはないし、アークスかと思って端末で彼女の事を検索したが、何も出てこなかった。

 

 「結構余裕あるなぁ。ある意味、そう言う考えって羨ましいよ」

 

 アフィンは思った以上に疲弊している。シガと違って、確実に敵にトドメを刺さなければならない立場としては、後方でも相当なプレッシャーだろう。

 

 「そうでもないって。そっちが撃ってくれるから、安心して善戦出来るんだぜ? 良いレンジャーになるよ。お前は」

 「はは。称賛してくれるのは嬉しいけどな。おれは、別に戦う為にアークスになったわけじゃないんだ」

 「あらま」

 

 意外だった。アークスは適性のある者なら誰でもなれる。個人の目的は基本的に、未開の惑星に興味のある者や、戦いたがりや、金銭面での優遇があるなどの目的が多いと聞いている。しかし、(アフィン)は、そのどちらでも無いらしい。

 

 「相棒は、どうしてアークスになったんだ?」

 「オレか? オレは――――堂々と、露出の高い女性を拝めるからだ!」

 

 と、自分の欲望に忠実な回答には、流石にアフィンも目を丸くした。

 

 「けしからん尻! 胸! 腰! 脇! 絶対領域! それに、有名になれば一躍有名人だろ? 夢が膨らむじゃないか! フフフ」

 「……まぁ、人それぞれって言うしな。とりあえず応援しておくよ」

 「せっかくアークスになるんだ。なら、どうせなら目的は、でっかく行くぜ? ワハハ!! とりあえず、年下の美人妻が先だな。どっかに可愛い子は落ちてないかなぁ~?」

 「ハハ。相棒って面白いなぁ」

 

 原生生物を倒して、妙に殺気立っていた二人は他愛のない会話で、日常の雰囲気に戻っていた。

 

 “……助けて”

 

 道が二手に別れている広場のような場所に出ると、また、あの声が聞こえた。

 

 「――――」

 

 シガは、自然と足が止まる。この三週間前で時折聞こえるのが今の“声”だった。そして、ソレは今まで一番大きく、強く耳に響いてきた。同時に、抑えきれない程の頭痛に見舞われる。

 

 “ここ、わたしのお気に入りなの。静かで、きれいで……なぜか、すごく落ち着くから”

 

 嬉しそうに少女が話してくれる。誰だ……? これは……この惑星(ナベリウス)?

 

 「お、おい。相棒! 大丈夫か!?」

 

 アフィンは、不意に頭を押さえて苦しんでいるシガに慌てて駆け寄る。当人は、まるで割れんばかりの酷い激痛に耐えるしかなかった。

 

 「……どこだ? これは……まだ……まだ?」

 

 違う。何が言いたいのか……理解しろ。“まだ?” いや、そうじゃない。

 

 “また、護れないのか……?”

 

 その時、緊急用の回線から強制的に通信が入り込んできた。

 

 『管制より、ナベリウスに寄港中のアークス各員へ緊急連絡! 惑星ナベリウスにてコードD発令! フォトン係数が危険域に達しています!』

 「緊急連絡!? なんで、こんな時に!」

 

 多少頭痛は収まったが、連絡の確認はアフィンに任せていた。

 

 『繰り返します。惑星ナベリウスにてコードD発令! 空間浸蝕を観測、出現します!』

 「!?」

 

 そして、“奴ら”が現れた。

 

 

 

 

 

 アークスの基本的な役割は、未開惑星に降りて、その生態系や文明と共存し、相互の発展を繋ぐ架け橋となる事である。

 ならば、なぜ、フォトン適性のある者しかアークスに成れないのだろうか?

 惑星に既存している文明への使者や、調査ならばある程度の防衛能力があれば事足りる。しかし、その様な調査は全て、“アークス”でなくてはならない。

 

 その理由は、『新光歴』以前の暦――『光歴』まで遡る因縁。今日まで続く、果てしない闘争の果てがいくつもの世代を超えて今日に紡がれた結果であった。

 

 「お、おい相棒! あれ!」

 

 アフィンの視線の先には、黒い靄のような霧が地面に現れ、そこから不気味な四足動かして這い出てくる、一影があった。

 ソレは、前アークス共通の敵である『ダークファルス』の生み出した、尖兵である。

 

 『ダーカー出現! 空間許容限界を超えています!』

 

 中でも接触頻度の高い固体である、ダカンは本体を中心に伸びる四本の脚を動かし高速で移動する。

 

 「こいつらが……ダーカー? くそ! ナベリウスにはいないハズだろ!?」

 「言ってても消えてくれるわけじゃない! やるぞ、アフィン!」

 

 シガは、戦う意志を見せながらガンスラッシュを抜く。だが、その意気込みとは裏腹に、表情は辛そうだった。

 

 「って、大丈夫か? 相棒――」

 「言わせてもらうと、かなり辛い。だが、待ってくれる相手でもないしな」

 

 先ほどよりも波は退いたが、未だに頭痛はシガを脅かしている。だが、こっちの都合など、相手には関係ない。

 意志の疎通さえもできず、出会えばどちらかが全滅するまで終わらない。それが、アークスとダーカーの関係だ。

 

 「どの道、逃げても追って来る。ここで、いつも通りに立ち回る方が戦いやすい」

 「……解った。さっきと同じで行くぞ。無茶はするなよ」

 「年下美人妻と結婚するまで、絶対に死なねぇよ!」

 

 不敵に笑いながら、二人は戦闘態勢に入る。増援は望めない。この場で最も信頼できるのは、お互いに背中を護り合う相方だけだ。

 

 『全アークスへ通達! 最優先コードによるダーカーへの厳戒令が下されました!』

 

 その通信が戦いの火ぶたを切り落とす。 現れたダカン8体と、シガとアフィンは交戦を開始した。

 

 

 

 

 

 ソレは、捜していた。

 何を捜しているのか、何の目的で捜しているのか、理由(ソレ)が解る者は当人を除いて、誰も存在しない。

 顔を隠す、不気味な仮面を着けた黒衣の者は、今日のナベリウスに必ず居るであろう“彼女”を捜していた。

 もう……いくつもの場所を捜した。何度も、何度も……故に正確な位置など当の昔に忘れてしまった。

 輪の様に終わらない。終わりたくば、自らの手で幕を引くしかない。ソレだけは知っているから、彼は捜している。

 

 「どこにいる……」

 

 不気味に呟かれた言葉は、ナベリウスの自然に溶けて行く。

 

 全てが無意味だと、証明する為に――

 未来など、最初から存在しないと証明する為に――

 彼は、自らが修羅の道を歩く事を選んだ。狂った旅路。まだ、自らの終末には程遠い――




次は、ダーカーVSシガ、アフィンです。新装備のお披露目
次話タイトル『Photon arm 左腕』

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